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月琴28号 なると (1)

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斗酒庵 10本も前の月琴をようやく修理する の巻2015.3~ 月琴28号 なると (1)

STEP1 いいわけよう


  さて,今回修理する楽器は,自出し月琴28号。

  「自出し」,すなわち研究用に自費で買い入れた楽器の28面め,というわけで,こないだ買い入れた楽器が「38号」なので,10本も前の楽器となりますね。 写真の記録によれば,この楽器が工房にとどいたのが2012年の4月だから…ひのふの…まあだいたいまるッと3年ばかり放置していたわけですな。

  この楽器の修理を躊躇していた理由は,その破損箇所と材質にあります。


  ごらんのように,糸倉が割れてます。

  庵主の技術的には,これを修理してそのまま使うことも,新しく棹を複製して取り替えることも出来ます。ですが,こういう状態になっちゃった楽器を修理して使う場合には,どんなに頑丈に直したとしても,やはりその後に一抹の不安が残っちゃうんですよね。過去に大怪我すると,その傷口が何年たっても気になるのと同じようなもので,その楽器を使って思いっきり演奏できなくなっちゃいます。「だいじょうぶ,直ってる」と分かっててもです。

  ですので庵主は,こういう場合,最近は棹を複製して作り直すことが多くなっています。「思いっきり弾けない楽器」というのは,元がどんなにいいものであったとしても,その道具としての意味や価値が半減してしまうような気がするんです。「調査」の上ではともかく,「修理」する限りにおいては,多少オリジナルを損ねたとしても,なるべくその楽器の道具としてのスペックやパーフォーマンスを十二分に発揮できるような状態にして,送り出してあげたいんですよ。


  ギターやマンドリンと違い,月琴は三味線と同じ「スパイク・リュート」。
  棹が胴体と一体ではないので,基本,交換可能な構造になっています。
  ただ今回の場合……この棹 「カヤ」 で出来てるんですね。

  いままで修理したなかにも,5号や12号照葉,22号など,このカヤで作られた月琴はいくつかありましたが,いづれも通常普及版の月琴に比べると,重く,高級感のある楽器でした。
  こういう楽器では,いつものようなカツラやホオの複製棹では失礼にあたります(w)。
  それでまあ,カヤ材の良いのが手に入ったら修理しよう----と,思ってたんですが。ちょうどいい材料がなかなか見つからないまま,こんなに間が空いてしまったという次第。

  今回,38号月琴の購入を機会に,ちょうど10本前のこの放置月琴。
  とりあえず修理してみて,ダメそうなら,あらためてカヤ材を探すなりすればヨイと思い切りまして,同時進行,平行調査ということになりました。

  さて,どうなることやら?

  まずは観察,計測からまいりましょう。


  全長:666(蓮頭を含む)
  胴体:横361,縦362,厚35(板厚:表5,裏3)
  棹:287(蓮頭を除く)
    うち糸倉135,指板相当部分152,最大幅30
  推定される有効弦長:438

  推定される山口の下縁部を基点にしたとき,各フレット下端までの距離は----

4283107140170212234265


棹部分


  すでに紹介したように,糸倉の左がわには軸孔を貫通する大きな割レがあります。内側まで貫通,パックリ割れていて,ヒビはうなじのあたりにまで達しています。おそらくは衝撃による故障で,割れ目から見るに,横ざまに倒れたか,何かにぶつけたかぶつかったかで,軸尻のあたりにうなじ方向へ,強く,瞬間的な力が加わったのだと考えられます。
  後で述べますが,オリジナルの糸巻きが1本折れてしまってます。その先端の割れ方折れ方は,ちょうどこの糸倉の割レの状況に一致しますんで,もしかするともともとそれは,ここについていた糸巻きだったのかもしれません。
  糸倉の右がわ基部のあたりにもヒビが見えますが,こちらはおそらく材料にもともとあったキズから生じたもの,ヒビ自体は表面的なようなので,現状,使用上の支障はないものと考えられます。

  山口:欠損。フレット:5本残。

  山口のところには,かわりなのか唐木製のフレットが立てられていました。(w)
  これも含め棹上に5本のフレット(通常は3~4本)が残っていたわけですが,いちばん上とその次の2本は,前修理者による後補部品と思われ,唐木ではあるもののほかの3本と材質,加工が少しく異なっています。
  一番上のフレットに糸をかけたような痕跡は見えませんので,少なくともこの修理から先には,これが「楽器として」使用されたことはなかったものと推測されます。


  蓮頭:80x50x厚12。

  この楽器の糸倉には,通常その頂点にあって弦池(ペグボックスの内側部分)を閉じるている 「間木」 がありません。この蓮頭の裏に2本のホゾが切られており,糸倉左右の先端を凸に刻んで,そこへ直接ハメこんでいます。

  これはこの楽器の工作としては,けっこう珍しい部類ですね。

  蓮頭の意匠は不明。唐草の一種かな? 蓮頭が間木もかねてるためもあってか,本器の蓮頭は一般的な国産月琴のそれよりやや分厚くなっています。一般的に蓮頭は上面を少し丸めて,手前にくるにしたがって薄くなるような形にされていることが多いのですが,本器のものは厚みが均等で,まあ角を丸めたただの板ですね。材は胴体や棹本体と同じくカヤのようです。


  棹基部:44x23x厚6。 延長材を含めた長さ:196。

  工房到着時には棹茎と延長材の接着がはずれており,延長材が胴体内に残った状態となっていました。ペンチでつまんで引っぱり出したら簡単に出てきましたが,この棹茎延長材と棹本体基部との接合方法も,いままでに見たことのない形式です。
  通常は棹基部にV字の切れ込みを入れて,そこに延長材をはめむことのほうが多いです。三味線とかの棹基部の接合にも似ていますが,さて。
  構造上はこれでも問題ありませんし,部材に傷みはなく,工作もそこそこに緻密,正確ですので,修理としては,ひっぱりだした延長材を再接着するだけでよさそうです。


  軸長:133,最大太:30φ(最小7φ)。

  軸は4本ささっていましたが,このうち1本は,おそらくほかの楽器に使われていた糸巻きを加工したもので,オリジナルではありません(上左画像のいちばん右がわの1本)。
  のこり3本はオリジナルの軸と思われますが,うち1本は,先端が折れたものを修理してありました。
  オリジナルと思われる3本の軸尻の中央には,骨か象牙のポッチのようなものが挿してありあます。

  どれも一般的な月琴の糸巻きに比べると,かなり長めで,先端が細身。
  格好は悪くないんですが,使い勝手と強度にはすこし不安がありますね。
  後補の軸1本は,途中で切って何か別材を噛ませ,長さを合わせたもののようで,その部分にはコッテリとパテ状のものが盛ってあり,まず実際に使用することは出来ないと思われます。
  オリジナルの軸のほうは,しっかりした修理がしてあるようで,使用可能だと思われますが,やはり細く長いので強度上の不安があり,修理ではこれらに替えて,新しい糸巻きを2本作ろうと思います。


胴体


  胴側部:カヤ,棹孔のところで厚さ約3センチ。

  この楽器,「月琴」としては「異常」なほどに重い……宅急便のお兄ちゃんが持ってきた時,いつものつもりで受け取ったら,ちょと腰抜かしそうになりましたよ(w)----イヤ,ホント。ふつうの月琴の3~4本ぶんくらいあるんじゃないでしょか。
  その最大の原因がコレ,胴体部材の異常な厚さです。
  ホオやカツラ,サクラなどで作られている一般的な月琴では,胴体側部の部材は厚くても2センチていど,だいたいは最大で1~1.5センチほどが普通です,高級月琴や唐物月琴等には,重たい黒檀や紫檀で作られたものもありますが,貴重な材料を無駄なく使うためか,こうした楽器では逆に,極限まで薄く切り出したものも見受けられ,材料の割りにびっくりするほど軽いものにもしばしば出会うことがあります。

  弦楽器の構造としては,あまり分厚いのよりはほどほどに薄いほうが,音ヌケが良いとは思うのですがね。さて,この作者はナニを狙ってこのような工作にしたのやら。
  材料がふんだんにあるっつーことを後世に自慢したかったんでしょうかね。(w)


  表面板中央やや左よりにヒビ割れ。下縁部より半月の左を通り棹孔のすぐ横あたりまで,上縁部近くで断続的なものとなるが,ほぼ貫通。最大幅3ミリほど。


  棹孔を中心とした左右と,地の側板に板のハガレ,再接着痕あり。ほぼ部材の全縁。前修理者により再接着されたか。板と側板の間に段差ができている。

  どの割レも,見た感じ,単純な板の矧ぎ目からの剥離とかいうのじゃなさそうです。
  いわゆる 「裂け割レ」。部材の収縮によって,板が材質的に弱いところから裂けたもので,どの割れ目もまっすぐではなく,斜めに入っています。どちらかというと厄介な壊れ方ですね。


  左右目摂の意匠は竹。
  楽器中央に凍石製の太極,5・6フレット間にも凍石の装飾。

  これと似た模様の目摂はほかでも何例かありましたから,月琴のお飾りとしては比較的ポピュラーなデザインであったと考えられます。
  棹上およびほかの各フレット間にも,お飾りの接着痕がうっすら見て取れますので,元は満艦飾の楽器であったろうと推測されますが,製作原初からそうだったのか,あるいは後に追加された装飾であったのかはいまのところ不明です。



  胴上フレット:4本残。

  最大の第6フレットで長7センチ。不識の月琴などとだいたい同じですね。棹上の3本と同じ材質で,材質や加工も同様であることから,いづれもオリジナルと思われます。 材質も工作も悪くはないのですが,多少低すぎるかな?
  このまま使えるかどうかは,ちゃんと修理して糸を張ってみないとなんとも。


  半月は 95x42xh.10。外弦間30,内弦間20。

  バチ布にはなにやら高級そうな緑色の錦が使われています。

  外弦の孔が内弦のより下にあり,全体が「ヘ」の字の構成になっているのは,国産月琴ではやや珍しいタイプ。中国月琴や唐物ではしばしば見かけますね。
  とはいえ,どちらでも使用上さほどの差異はあまりありません。


  裏板中央部に割レ。下縁部より上縁へまっすぐ,ほぼ貫通。

  こちらの割レは,表板のものとは異なり,板の矧ぎ目からのよくあるもののようです。割れ目がまっすぐですものね。
  残念ながら原作者につながるラベルの破片やその痕跡は見当たりません。

  表裏面板ともに割れてお飾りも一部トンではいますが,状態としてはかなりキレイなほうで,ホコリやゴミの類の堆積も,付着しているような経年のヨゴレもありません。
  そもそも楽器としては,それほど使用されなかったのじゃないかな。バチ布周辺にも目立った演奏痕は見当たりませんしね。


  この楽器の特徴的な工作の一つが,胴体の表裏面板の厚さの違いです。

  表板は5ミリ近くあるのに,裏板は3ミリ程度しかありません。
  弦楽器における常識的な知識から考えますと,この反対なら意味があると思うんですが……音の伝導のいいがわを,聴衆ではなく演者の身体のほうにわざわざ向けるという工作についての納得のゆく理由は,どうもあまり良いのが考えつきません。

  ぱっと見にはどこと言って,そんなにヘンなところもなさそうな感じなんですが,いざこうして調べてみますと,糸倉の構造と言い,この表裏板の厚みの違いと言い,この楽器の工作には,何やら腑に落ちないところがちょこちょこと見受けられますねえ。

  次号は,内部調査とまいりましょう。
  さて,なにが出るかなでるかな。

(つづく)


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