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月琴28号 なると (5)

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斗酒庵 10本も前の月琴をようやく修理する の巻2015.3~ 月琴28号 なると (5)

STEP5 ナルトは帰るラーメンの中へ


  新しく継いだ板は幅2.5センチ。

  ヒビが裂け割れで不定形だったため,けっこうな範囲で切り取りました。本格的な補彩は清掃後にするんですが,組立前にもとりあえず軽く下染めしておきましょう。

  さて,この下ごしらえをした板を胴体に戻すわけですが,これがなかなか一筋縄ではいかない。

  寸法を計り直し,新しい中心線を定めて,胴体のもともとの中心線と合わせます。
  桐板は柔らかいから直接書くわけにもいかないんで,ご覧のようにマスキングテープまみれでございます(w)。
  継ぎ板をはさんだため,左右幅はもとより5ミリばかり広がってるわけですね。それを左右バランスよく,あとで削り取る部分がなるべく少なくなるように配置しなければなりませんが,さらにこの板,左右には5ミリ広がってるものの,上下の幅は前と変わりません。そのため板がちょっとでもズレると,寸法的にギリギリである上下の周縁部に段差が出来ちゃいます----かなり微妙な作業となりました。


  接合部の補強はうまくゆきました。
  再接着の際,この桐板と和紙が二枚の厚板をがっちりとひきつけ密着させてくれたおかげで,前よりも木口同志の接合がしっかりとしています。もうカミソリの刃も入りませんね~。

  表板をもどしてしまうと,このフシギ構造も見納めです。
  あいかわらず,何度見ても,なんでこんなことやったのか分からない部分の多い,内部構造でした。

  前回,板のほうのエグレやキズは補修してしまいましたが,胴体部材の方の小さなエグレやヘコミも,丁寧に埋めて整形しておきましょう。
  ニカワによる接着は,面と面が密着していればいるほど強固になりますから。

  んで,接着。
  例によって,ウサ琴の胴体外枠改造のクランプにはさんで一晩。
  厚めの合板4枚に穴あけて,長いボルトと蝶ナットつけただけのシロモノですが,ほんとずいぶんいろんな用途で活躍してくれています。

  きちんとへっついてるのを確認したら,ハミ出た板を削り落とし,側板表面と面一にします。

  1ミリ以上のでっぱりはヤスリで,そこから先は例によって角材に板厚ぶんの紙ヤスリを貼ったものでコシコシと少しづつ。今回の楽器は側板の材質がカヤ。ふだん良く見るホオとかカツラと比べると,染めの工程がないぶんキズつけちゃった場合も回復の方法が簡単ですし,そもそもこンなにぶ厚いので----多少ガリガリっと削っちゃってもイイヤ!----くらいのキモチではありますが(w)なんにせえ余計なケガさせるのもなんなもの……けっこう時間もかかるし,神経も遣う作業ですね。

  さて,これで胴体は箱に戻りました。
  オリジナルと違い,今回は内桁を表裏の板にがっちり接着しているんですが,そのためでしょうか。
  -----胴体の響きがハンパねぇです。(汗)
  コンコン,と軽く叩いただけで,ぐわわわわ~ん,というニブイ内部からの余韻がいつまでも聞こえています。修理前はどちらかというとぽこぽこした音と,ただガラガラ鳴るだけ-----問題にならないですね。

  これは激鳴り楽器になりますよ。


  表板を清掃し棹を挿して,半月の接着のため,新たな中心線を探ります。
  山口のところと棹基部のところに二箇所中心の印をつけ,それを延長させて胴体に数箇所。糸倉から糸を張って,中心線と左右のバランスを見ながら半月の位置を確定し,接着します。

  この楽器の半月はふつうの板状なのと,半月の位置がかなり下付なんでFクランプがかけやすく,作業は比較的ラクでしたね。

  ちなみに左画像は,再接着の前に撮っておいた半月の裏側。
  うちにある石村近江作の13号をはじめ,このポケットを凹でなくアーチ型に彫りこんだ例はほかにもありますが…キレイなノミ目ですねえ。あと,分かりましょうか。糸孔のところに,前方に向けて刻みが彫ってあります。ここからこの原作者は,月琴の事はあまりよく分かっていないかもしれないが,弦楽器のこと,とくにその使用法の基本は,あるていど知っているのじゃないか,と考えることが出来ます。

  半月の糸孔を斜めにあける,穴裏に刻みを彫る,小さな加工ですが,これはどちらも糸の交換の際,半月のポケットから糸尻を出しやすくするための工夫です----が。
  実際にいろいろ修理したり作ってきたケーケンから言いますと,残念ながらこれらの加工,月琴と言う楽器においてはほとんどと言っていいほど益がありません。(w) 糸孔がまっすぐあいていようが,孔裏に刻みを彫りこんであろうが,出しやすい楽器は出しやすく,出しにくい楽器は出しにくいですねえ。
  もちろん,ポケットの端に近いほうの糸孔は,少しななめになっててくれたほうが出し易いんですが,そうすると裏側の孔がかなり半月の端ギリギリになるため,強度の方がちょとシンパイになります。こんな小さな「工夫」より,孔自体を多少大きめにあけてくれてるほうが,孔に入れた糸尻をコントロールしやすくてラクですね。


  普及品の月琴では糸孔の直径は,まあ糸がふつうに通るていど。1.5~2ミリ程度といったところですが,唐物では3ミリ前後,より高級な月琴だと糸孔のところにφ5~7ミリの大きな穴を開けて,そこに円環状の象牙の小板をうめこんだりしています。
  埋め込む板自体は1ミリ程度の厚さで,穴は裏側に向けてやや広がったカタチになっていることが多いのですが,この類などは糸の太さギリギリの小さな孔より,糸を自由に動かせるので,糸尻を引っ張り出すのがラクです。

  唐物月琴の上物は,孔を大きくあけるため,糸孔自体がやや奥まったところにあけられています。(上画像参照)奥になれば出しにくい,と思いがちですが,実はこのほうが小さな糸孔を木端口近くにあけるより,使用上も強度の上からも用の要を得ており,合理的だと言えます。
  小さなことにも気がつき,思いやる。その工夫とキモチは分かるのですが……これもまた月琴作りにおける日本の職人さんの,「余計なことに血道をあげて本質を見失った」 例のひとつなのかもしれませんね。

(つづく)


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