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月琴28号 なると (4)

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斗酒庵 10本も前の月琴をようやく修理する の巻2015.3~ 月琴28号 なると (4)

STEP4 ほっぺにナルトつけてどこ行くの?


  28号の修理,棹の補修と糸巻き削りが,まあメインなのではありますが。

  そのほかに当初から,タイヘンだろうなあ~(泣)という予想のありましたのが,この 胴体の補修。
  糸倉の割れ継ぎにしても糸巻き削りにしても,サイズや原作者の工作は違えども,基本的にはある意味今までやってきたことのくりかえし,ルーチンワーク,ってとこなんですが----

  通常の月琴では考えられないほどのぶ厚い胴に,わけのわからん内部構造。
  さて,表板をハガしたはいいが,神はこれで我に何をどうしろと言うのか?
  原作者にゲンノウぶつけてドタマかち割りたい気分の修理者なのであります。(w)


  まずはまだへっついてる裏板のほうからいきましょうか。

  表板の剥離作業の際に,地の側板の中央付近に連邦の白い悪魔----木工ボンドによる再接着箇所が見つかりましたので,まずはこれを取除きます。
  裏板の,ちょうど板の矧ぎ目から割れの入っているところを中心に左右数センチ。板が剥がれたところに,木口方向から木工ボンドをヘラでなすりつけたもよう。ありがたいことに作業は雑で,ボンドは胴材のほんの周縁部にしかついてませんでした。もし厚さ3センチもある胴材の接着面全面にベットリ,とかやられてたらエラいことでしたね。
  だいたいは刃物で,細かいところはすこし粗めの耐水ペーパーを板と胴材の間に入れ,はさみこんでしごくようにして,なんとかキレイに取除けました。

  割れてハガレた時の損傷でしょうか,板接着面の木口あたりがエグレてガタガタになってしまってましたので,再接着の際,木粉粘土と砥粉を練ったいつものパテをそこに盛ってクランプで圧着。

  この地の側板と左右の側板との接合部は,どちらも接着がトンでしまっていますので,ここも再接着しておきます。
  楽器向かって右下の接合部には少しスキマができてしまってますので,ここにはツキ板を削いで詰め込みます。段差も少しできていたので,濡らしてからクランプではさんで矯正してるんですが,通常の3倍近い厚み………まあ,効果はさほどないでしょうねえ。


  さて,この楽器胴体の 「ナゾの工作」 の一つが,この右下の接合部裏だけにへっついていた小板。
  おそらくは,好意的(w)に考えれば----これは原作段階でどうもうまくいかなかった右下の 「接合部を補強するために取付けられたもの」 とするのが妥当でしょうが。調査報告でも書いたようにこの小板,接合部の裏にノリをつけ,ただぺっ,と接着しただけのシロモノで,実際には何の役にも立っていません。

  でもまあ,原作者のしたかった事は分かりますので,このくらいは代わりにちゃんとしておいてあげましょうか。


  桐板の端材を,それぞれの接合部の裏の段差に合わせ,ピッタリはまるように削り,二つの材を渡るようなカタチにして接着します。

  補強材がくっついたところで,上から和紙を重ね貼りして,柿渋を刷いておきましょう。 胴体が箱になっちゃいますと,これもおいそれとは直せませんから,せめてポロリしないよう補強を重ねておくわけです。


  裏板のハガレも直しましたし,接合部の再接着と補強も済みました。

  次に問題となりますのが 「内桁をどうするか?」 です。
  ----ほんと,「角材」でよねえ,コレ。
  内桁自体に損傷はなく,ちょっとサビの浮いてた響き線も,すでに磨いて防錆処理を施してあります。
  これを戻すわけですが,さて----これをそのままもとのままに戻すのか,あるいはふつうの月琴と同じように,これを板や側板と接着してしまうのか。

  わけのわからん工作ではあるものの,へっつけてなかったものはへっつけてなかったものとして,元の通り,そのまま何もせず胴体に入れ込むのが,修理の本筋だとは思いますが。
  庵主,この工作に関しては,完全にデメリットしか思い浮かびません。
  また調査報告で書いたように,この楽器の胴体における故障・損傷の最大の原因は,おそらくこの内桁の取付け工作にあると思われます。これがどこにも接着されず,ただハメこまれていただけであったために,構造として基本フリーになった左右側板が縮み,その力をモロに受けた表裏の板が左右に割れた,と庵主は考えます。
  まあこれだけ分厚い部品,へっつけたらへっつけたで,また今度は何か違う故障や障害が生じそうでもあるのですが,とりあえず現状,オリジナルの工作にはメリットがないどころか,しでに故障の原因,すなわちデメリットとなっているのですから,せめてこれを解消しておくのが後世のツトメかと。

  オリジナルの工作は無視して,接着してしまうこととします。


  ここで,さらに追加してやっておきたいことが一つあります。
  それがこれ,表板がわの 内桁の両端をななめに削ぎ落としておく ことです。

  この加工,月琴を修理してたびたびお目にかかったものの,庵主が何年もその理由が分からずにいたものです。その「理由」ですが,まあ文章だけだとちょっと分かりにくいかもしれないので,図もつけて説明しましょう----


  月琴の胴の組み立ては,裏板と部材の接着から行われたものと推測されます。
  このときは,板それ自体と各部材の接着面が平坦なら,多少凸凹があっても問題はありません。板と部材にニカワを塗って,表裏から圧をかければ,部材と板は密着して見事にへっつきます。
  しかし,表板を接着するときにはそうはいきません。
  理想としては図1のように,すべての部材が面一で加工されていれば何の問題も,基本的にはありません。しかし材料が木で,加工するのがニンゲンである以上,材料にはかならず狂いが生じ,部材加工にはかならず誤差が発生します。なかでも問題になるのが,周縁部材と内桁の間の高さの違いです。

  桐板は柔らかいので,少しばかりの段差ならそのままでも板はへっつきます。
  ただし図の右がわの例のように,板は全体にたわんで,その接着にはムラができ,接着できたとしても,板全体の反発力が段差になっている部分に集中し,ハガれやすくなってしまいます。
  これに対し,図左がわのように,内桁の左右端を削ぎ落として周縁部材との間に故意に空間を作ると,この空隙が板にかかる負担を分散させる「余裕」となることから,板のたわみは部分的なものとなり,板をより自然な形で部材に密着させることが出来るのですね。

  オリジナルにはこの加工がされてませんでした。

  このことからも,この楽器の原作者は,「月琴」と言うものの外見はよく知っているものの。その内部構造や加工の意味などについては,聞きかじりのうろおぼえ程度であったのではないかとも推測されます。

  正直,オリジナルの工作や加工に手を加えるという行為は,修理の本筋からははずれる行いなので,なるべくならしたくはないのですが,今回の場合は,原作者が本来やるべきことをきちんとやっておらず,このモノが,きちんと使える楽器として成立するためにはやっておく必要のある処置なのでしようがありません。

  内桁がしっかりとへっつくまでの間に,表板を処理しておきましょう。
  表板には大きなヒビ割れがありました。断続的な割れで,板も厚いことから,割れ目にニカワを垂らして左右から圧をかければ,おそらくもとどおりにくっつくとは思います。

  しかし,今回の場合,このぶ厚い周縁部材が内部構造の不良のためにわずかながら変形し,それが3ミリもの誤差になって板が割れてるわけですから,このハガした板を元通りにへっつけたとしても,ぴったりくっつくことはありません。左右幅が3ミリほど足りなくなっているわけですから。
  またヒビ割れた箇所は,もともと板として弱かった部分でもあります。くっつけてもまた負担がかかれば,この部分から割れてしまうかもしれません。そこでまずは,この部分を切り除き,新しい板を足して矧ぎ直すこととします。
  ただ,この楽器の表板は厚さが5ミリもあります。さらに中央付近なので長さも必要,手持ちの古板には合うものがありませんので,新しい板をはさみこむこととなります。板が尋常なくぶ厚いぶん,矧ぎ面の調整なんかはいつもよりラクでしたが,新しい板なんでまっしろですねえ,あとで補彩するのがタイヘンそうです。(汗)

  矧ぎ面をよく擦り合わせて,いつものように角材やらクランプやらを総動員した,即席の板矧ぎ装置で接着します。


  一晩置いてへっついたところで,板裏の損傷箇所や板を作る時に打たれた竹釘の痕などを,各所木粉パテで埋めておきます。
  とくにこうした周縁部分は,この楽器の場合,接着面がハンパなく広いので,小さなエグレなどでも,ちょっと神経質に処理しておかないと,どういう影響が出るかわかりませんからね。

(つづく)


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