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月琴31号 唐木屋3(特別編)

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斗酒庵 唐木屋の本気に出会う の巻2015.3 月琴31号 唐木屋3(特別編)

STEP0 閑話休題


  「よく」と言うほどではないものの----
  庵主のところには,過去修理した月琴が帰ってくることがあります。
  まあ,いままで修理した楽器のうち,自分で買い入れた「自出し月琴」だけでも38本。直ったソバから,友人やらそのツテで出来た知り合いやらといった周囲の人に押し付けまくってるわけですから,フレットがなくなっただの蓮頭がとれたのといった軽症から,板が割れたの棹ぶッこわしちゃったとやらまで。こッちの勝手で押し付けちゃってるぶん,もちろんめんどう見ないわけにもまいりません。(w)

  28号と38号の修理に取り掛かったその矢先,31号と33号が帰ってきました。


  なぜかはしりませんが,修理と言うものはかならず重なりやがるもので(w)。

  33号松音斎は裏板の割レの再発。
  この故障は修理当初から予測されてたもの,一年ちょっと経って板が乾き,ようやく出てきたんですね。むしろ遅かったくらい。もともと板の材質的なところから発生した故障だったので,板があるていどなりたいようになってくれてからじゃないと,処置できなかったわけです。

  一度埋めたところをもう一度埋めなおして完成。
  これでもうあんまり出ないかと思います。


  もう一本31号,こちらはつい最近直した「ぼたんちゃん」と同じメーカー。
  石町の唐木屋さんの楽器です。
  うちのブログにもこれ合わせて3面あるくらいで,当時としては大手の一つですね。
  31号は胴側に玉杢の薄板を貼りまわした,唐木屋の高級月琴。材質も工作も,別格と言えましょう----という,けっこう素晴らしい楽器だったんですが,お飾りの類がぜんぶトンでしまってたもので,庵主,前回の修理ではちょいと遊んでしまいまして(^_^;)

  蓮頭はスベスベマンジュウガニ,扇飾りはミスジウミウシ,胴中央の円飾りは海松丸にエビ,そして左右目摂はなんとクリオネ!
  ----という世にも珍しい 「クリオネ月琴」 にしてしまいました。

  まあ正直,庵主も 「やりすぎたかな~」 とか思っとたんですが,今回,そのトンデモお飾りの蓮頭とフレットが一本欠損,ということで帰って来ちゃいました。
  天国の唐木屋さんが怒ったのかもせんですね~(汗)
  ということで,これを期に,ちょいと装飾をリテイクすることといたします----しかも,現所有者の承諾一切ナシで(w)。

  まあ,カニの蓮頭はなくなっちゃってるんで当然作り直すとして,前回の装飾のうち,中央円飾りの「海松丸にエビ」とバチ布の荒磯はまあ,どちらも伝統意匠ですので問題ありますまい。

  主眼は左右目摂と扇飾りですね。
  残す装飾からしても前回同様 「海しばり」 ってとこはハズせません。海産物の伝統的な絵柄というものもいろいろあるんですが(もちろん「クリオネ」ってのはない w),中央飾りとバチ布に「海草」と「エビ」と「サカナ」を使っちゃってますんで,これらが重なるのはあまり面白くないですねえ----さて,どうしましょう。

  こうしました。


  左右目摂と蓮頭は伝統意匠の「波乗りウサギ」
  蓮頭の香箱座りのは家紋なんかで使われるデザインですね。

  左の目摂のウサギはお皿やてぬぐいなんかでよく使われるデザインの応用で,これで左右対称ってのでも良かったんですが,それでは面白くないので(彫る時,オレが,w)右のウサギはフォルムだけもらって,上下を逆転させてみました。

  まあ 「ウサギ陰陽」,ってとこでしょうかね。


  扇飾りは「海上楼閣」。
  いわゆる 「蜃気楼」 を図案化したもので,月琴でも半月の装飾や蓮頭の意匠として時折見かけます。 細かいですが,左すみっこに口をあけたハマグリを置いて,そこから楼閣を幻出させてます。


  さて,こちらの画像はある月琴の半月のところ。下縁部に広がる波の中から龍が顔を出し,何かケムリのようなものを吐いてます。宮殿の基礎のところは雲になっており,これが空に浮かんでいることを示唆しているわけです。「蜃気楼」を生み出す「蜃」という動物については,これを「大ハマグリ」とする説と「龍の一種」とする二つの説があります。庵主のは前者の,この月琴のは後者の絵柄なわけですね。

  「月」に関連する宮殿といえば,かの「西王母」や,旦那のクスリを盗み飲みして月にのぼっちゃったという「嫦娥」さんの住むという 「水晶宮」 があげられるんですが。なぜ「月の宮殿」ではなくなぜ「海上楼閣」が付けられてるんでしょうね?

  これは「月の宮殿」と「海上楼閣」の意匠が極めて近いところからきた混同だと思います。「月の宮殿」は月面にあるはずですが,意匠ではこれが天空にあるものであることを表すため,宮殿の下部に雲が描かれます。つまり「海上楼閣」の楼閣と同じような図柄になってしまうんですね。
  わたしもしちゃいますが,こういう装飾の意匠というものは,だいたい使いまわしされるものです。
  使いまわされているうちに,より意味のないデザイン的なものになったり,類似の意匠と混じって中間的なものになったりもします。
  ほんらい関係のない「海上楼閣」の意匠ですが,ここではこれはむしろ一般的な「宮殿」の意匠として用いられているものでしょう。まあつけた本人にしてみれば 「"月琴" についているのだから,これは "月の宮殿" ,細かいことは気にするな!」 と,いう感じなのかもしれませんが。(w)

  まあ中国のハナシはおいといて,バチ布に荒磯,左右目摂に波乗りウサギ,中央飾りはエビ……庵主の場合は「海上楼閣」じゃないと困りますねえ。(w)

  彫りあがったお飾りは,いつものように染めてラックニスを少し染ませ,仕上げに木灰まぶして磨きます。塗ったみたいにテッカテカじゃなく,染め特有のフラットな質感を前面に出したいですからねえ。

  ほい,出来上がり。
  今回は黒染めがバッチリうまくいったので,一見マグロ黒檀のように仕上がりました…「マグロ」か,これも海つながりだわな。(w)

  海上に映った月のうえ。
   はねるウサギに躍るは魚,下に潜ればエビがいて,波間遠くに蜃気楼
    -----すべては泡の夢模様。



  こんどは壊さないよう,なくさないように使ってくださいね。

(おわり)


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