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月琴38号 (1)

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斗酒庵 出自に悩む の巻2015.3~ 月琴38号 (1)

STEP1 月はどッちだ?



  はいはい----ひさしぶりに落札しました。これが自腹切って購入した38本目の月琴となります。

  最後にドン!と入れられたもので,ちょいと高くついてしまいましたが,とりあえず気になったもので----まあ高い本を買ったと思えば惜しくないですし,実物は本よりもっと情報をくれることがありますから。(とはいえ泣w)

  かなり使い込まれた楽器のようで,表面板なんか満身創痍。左右目摂をはじめ蓮頭以外のお飾りはぜんぶトンでしまってますが,棹や糸倉のフォルム,絶壁のうなじ……見た感じ,古い中国製の楽器,いわゆる「唐物月琴」ですね。

  まずまず,なにはともあれ採寸からまいりましょうか。


採寸


  全長:671(蓮頭を含む)
  胴径:356(縦横ほぼ同じ)
  胴厚:36(うち表裏板:各4.5)
  棹:287(蓮頭を除く)
    糸倉部分:172,最大幅:34(先端)
    指板相当部分:135,幅:32
    最太:32>最細:27
  推定される有効弦長:413

  山口の下縁部を基点にしたとき,各フレット下端までの距離は----

4377104135156206228258


各部簡看


  かなりヨゴれてはいますが,棹や胴体の主材はタガヤサン(鉄刀木)のようです。

  まず蓮頭 (86x58x最大厚14>最小8)。 意匠はコウモリ(蝙蝠)ですね。

  透かし彫りのスキマにゴミがわっさり詰まってて,これじゃ意味ないなとほじくったんですが,いつまでほじくっても透かし彫りがなぜか「透け」ないと思ったら,裏に板が貼ってありました。(w)

  この裏板,材質は不明ですが,たぶん桐じゃないかなあ。(厚3ミリほど)

  唐木で作った蓮頭は,接着が難しいのではずれやすく,その対策としてこうした加工がなされることが多かったようです。そういえば,14号玉華斎の龍の蓮頭も,左画像のように,当初は裏に同じような板が貼ってありましたよ。


  唐物月琴にしては糸倉が長めで,山口のところから18センチ(蓮頭含む)ほどもあります。ふつう唐物月琴の糸倉は,日本の国産月琴のそれと比べるとデザイン的にはゴツい感じがしますが,寸法的にはコンパクトで,13~15センチくらいのことが多いのですがね,さて。
  左右の厚みは8ミリ,先端の間木がやや大きめになっているので,わずかに先広がりとなっています。(幅32<34)


  この「間木」の工作については多少疑問がありますねえ。 棹背がわはピッタリなんですが,楽器前面に向いてるほうが2ミリほど足りなくて,この部分だけへっこんでいます。工作の巧拙は多少あるものの,けっこう目立つ箇所なので,ここがこんなふうに派手にへっこんでる例はあまり見たことがありません。
  材質的には,棹と同じタガヤサンに見えますが,もしかすると後で補修されたものなのかもしれません。向かって左がわにヒビ割レが見え,棹背がわのほうにも続いてるようなので,要修理でしょう。

  糸倉のうなじの右がわにもヒビが見えます。長いもので,たどってゆくと棹背の途中まで切れぎれに続いてるみたいですが,うなじの部分のはすでにウルシで補修済みのようです。衝撃などによる故障や損傷の結果ではなく,材質的に内部から生じたものですね。
  これ以上広がる様子はなく,糸倉や棹孔にも影響していませんので,使用上の問題はないようです。うなじの補修も「壊れたから」というよりは,「なんか心配なので」 という予防的なものであったかと思われます。

  何度も書いているようにこのタガヤサンという材は,硬さでは唐木最強ですが,狂いが出やすく,こういう内部からのいまわしい割れなんかも生じやすい,ちょっと厄介なところがあります----ある意味,「最強」で「最狂」で「最凶」…どっかのラスボスみたいな感じですねえ(w)。



  山口(32.5×10xh.10) は唐木製,おそらく胴体や棹と同じ材料で,オリジナルだとは思うんですが,後に加工が加えられたようで,上面の糸をのせる部分 (台形になっているため幅24ミリ) が平らに削られています。

  棹上のフレットは3本残。 材質は竹だとは思うのですが,ヨゴレがひどく判別できません。もしかするといくつかは木製かもしれません。糸ののる上面が濃い色をしてますが,これも煤竹の皮部分をそのまま使ったものか,何か色を塗ったものか分かりません。
  形状としては現在の中国月琴などと同じく,側面から見て幅のせまい台形。唐物月琴のオリジナルでよく見られるスタイルとなってますが,上記のとおりヨゴレがキツくて,現状,これがオリジナルの部品なのか,後で真似をして作ったものなのか,今はまだ判断しかねますね。


  棹本体の基部は長55。棹茎(なかご)全体の長さは209,基部は上下に9ミリづつ切り下げて厚14,左右幅は指板部分と同じく32。

  棹茎基部にV字の切れ目を入れて針葉樹の延長材を継いであります。延長材の材質は不明ですが,針葉樹……ヒノキやスギではないようで,ヒバとかツガみたいな感じがします。
  国産月琴では棹茎基部の左右に1~2ミリのわずかな余裕を作り,これを上面から見たとき 「凸」 の形になるようにしていることが多いのですが,この棹茎が棹と同じ幅のままぶすッっと胴体にささるあたり(左右への傾き,とかまったく気にしてない感じ ww)も,唐物月琴特有の味ですねえ。

  
  棹の傾きは山口のところで約3ミリ。

  マトモな作りの月琴としてはだいたい平均的なところですね。この棹背への傾きは唐物月琴の場合,国産月琴に比べるとややキツく,5ミリ近くなっていることもありますが,これは演奏姿勢の等からくる操作上の差異や,唐物月琴のほうが少数民族のダンス楽器であった原初のスタイルを残しているためだと,庵主は考えています。


  さて----

  この棹なんですが,どうも工作の各所に 「大陸の人っぽくない」 ところが見受けられます。
  いえ,糸倉が少し長いことをのぞけば,絶壁になったうなじといい,棹背の刃物で削ったまんまの凸凹感といい,ちゃんと唐物の形状であり,工作ではあるのですが。

  そこに…なんといいますか……「大陸的なおおらかさ」というか「雑味」が感じられません。加工といい仕上げといい,そして何より----

  棹の取付が,みょうにキッチリ。

  抜いてもハメても,ぴったりきっかりスルピタ………名人芸ですね。
  いえね,もちろん当時の中国にだって日本の職人なみに神経質な人がいて,こうじゃないと満足できない!っていうくらい精密な仕事をやっていたとは思いますよ。
  しかしながら,過去何本か唐物月琴を扱いましたが,いままで一本も,こんなふうに棹と胴体がきっちり噛合わされていたような例はありませんでした。
  玉華斎も清音斎もここはユルユル,清音斎なんておまけに棹孔自体が中心線から3ミリもズレたりしてました。現代中国月琴もユルユルなことのほうが多く,中国の職人さんたちにとっては今も昔も,ここは弦を張れば勝手に安定する----と,さほど問題にされない箇所(^_^;)だったようなのです。


  あと,細かいところを言うと,棹と胴体に書かれてるこの 「四十」 という数字ですね。 唐物月琴ではこうしたところには主に漢数字ではなく 「マーツ」 という符号(下画像参照,14号玉華斎)が書かれていることのほうが多く(例外はあり)----このあたりも気になりますね。

  ではこれは大陸の楽器をまるッと真似して,日本で作られた 「倣製月琴」,まあ言うなれば「コピー商品」,要するに「ニセモノ」か,と言うと………じつは単純に,そうと言い切れない点も,いくつかあるのですね。

  この楽器は真正の唐物か,それとも唐物を真似て日本で作られた倣製月琴か。
  今回はこれに迷うこととなりそうです。


(つづく)


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