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月琴38号 (4)

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斗酒庵 出自に悩む の巻2015.3~ 月琴38号 (4)

STEP4 荒物礼賛


  庵主はべつだん,貴重だから,骨董品的価値が高いから,みたいな理由だけで,古渡の月琴を褒めたたえるようなことはしませんが。いままで修理した唐物月琴月琴はどれも,国産月琴に比べ,その作りが雑なわりには,音は確かに好かった。
  中国の職人さんの工作はおおまかで荒っぽさが目に付くのですが,楽器としてのツボは,けっしてハズしていません----つまり 「ココとココさえおさえておけば,月琴は好く鳴る」 みたいなことがしッかりと体得されてるんですね。
  これに対して,日本の職人さんの工作は緻密で優雅ですが,往々にして 「気持ちは分かるが余計なこと」(同時進行の28号の記事などをご覧くださいw)を仕出かしてることがあります。 本質的なこと大事なことを見失って,どうでもいいことに血道をあげている---そのせいで楽器が外見のわりに音は大したことのないモノ,見掛け倒しのモノになっちゃってたりするんですね。

  ひとつには,たびたび言ってる日中職人の嗜好の違い,みたいなところが根っこのところの原因としてあるんでしょうが,この楽器がもともと日本のものでなく,さらにその奏でる音楽も自国のものでなかった,というあたりに原因があったかもしれません。楽器が音楽を奏でる道具である以上,作るほうのがわからしても,その音楽の「ツボ」がちゃんと分かってなければ,どこをどういう風に追求すればよいのか,分からなかったでしょうからね。

  38号(推定)天華斎,修理を開始いたします。


  現状,表板がわがかなりキチャないほかは,欠損部品も少なく。ヒビを埋め,板の一部を再接着して清掃すれば,なんとか使えないこともない,というほどではありますが。

  今回は,修理に際してあらかじめ考えておかなければならないことがあります----それはこの楽器を 「どこまで直すか」

  調査報告でも触れたように,この楽器は長い年月の間,いくつかの段階を経て現状に到っています。

  いちばんめ,最後に使われていた段階に戻す,とすれば。
  上にも書いたように,全体を補修・清掃して足りなくなった部品を補作する程度で済みます。
  しかし,何度か書いたように,この楽器を最後に使っていたのは三味線弾き。
  その扱いは月琴という楽器が本来受けるべきものではありませんでした。
  ですので,この段階における演奏痕や,山口の改造などの行為は修理されるべき「損傷」と見なしてもよいかもしれませんが,これはこれで楽器の歴史をあらわす「時代の証拠」であるという考え方もできなくはありません。

  つぎに,前修理者によって修理された段階に戻す場合。
  この時すでに,この楽器からお飾りの類は,蓮頭をのぞいてほとんど失われてしまっていたと推測されます。
  現在確認できる前修理者の修理箇所は,表裏ヒビ割れ補修,天地の側板の剥離再接着(部分),側板接合部の再接着およびウルシによるスキマ充填,棹基部の調整および棹孔の補修,フレットの補作などと思われます。あと,もしかすると側面四方についていた薄板の飾りの残欠を取り除き,取付け孔を埋めたかもしれません。
  工作のやりかたなどから推して,この修理者はおそらく本職の楽器屋だと思われます。腕前はかなりのもので,もしかしたら実際,自分でも月琴を作っていた人かもしれません。

  ただ,この前修理者の作業は楽器を「実際に弾けるようにする」ことに主眼が置かれており,蓮頭がとれないよう裏に桐板を貼ったほかは,お飾り類には手を出していないようです。軽く清掃はしたみたいですが,飾りの接着痕などもそのままの状態だったと思われます。


  さいごが,この楽器の製造当初の姿に戻す,というもの。
  完全にはもちろん不可能ですが,ある程度データがありますので,「だいたいこんな感じ」くらいまでは再現可能だろうと考えます。ただこの場合,前修理者の修理箇所をいったんリセットしなきゃならないところも出てくるでしょう。またこの楽器の歴史を語るものである演奏痕などもすべて消さなければなりません。

  ----まあとりあえず。手をつけたばかりで,仕上がるのはまだまだ先のことですから,まずは演奏可能な状態にまで戻すのを目標とし,あとはおいおい考えることといたしましょう。
  修理の結果によって,また変わってくるところもありましょうしね。

  まずは棹と胴体のフレットを除去。
  材質は----はっきりは分かりませんがやっぱり木ですね,竹じゃない。

  今となっては,ちょっと不思議な感じもするんですが,明治のころの国産月琴ではけっこう低級な楽器でも,フレットに象牙が使われてたりするんですね。晩期の量産楽器だと,骨だったり練り物だったりもしますが。これに対して唐物月琴だと,特注品みたいな超高級な楽器以外はまずですね。ほかにツゲとか唐木の類が使われることもありますが,この楽器に付いてたのは唐木でもツゲでもないです。

  胴上についてた3本はそこそこに硬い広葉樹材ですが,棹上の3本は,どうも針葉樹っぽいですね,ヒノキじゃないかな。

  なんにせえ,いづれも材質・工作の両面から,オリジナルの部品には思えません。
  棹上のフレットには使用痕があって,上面の片がわが少しエグれています。
  月琴の通常の演奏で,こんなふうにエグれることはあまりありませんので,これはラスト・バタリアン,最後の所有者たる三味線弾きのシワザでありましょう。

  また,この棹上のフレットと山口上面の削りについては,加工・工作が粗く,前修理者の仕事に見えません。これも三味線のバチで弾くには弦高が高すぎたため,弾き易いように自分で削ったのではないかと考えています。


  あと,ヒビ割れが半月の下を貫通してますので,半月もはずしてしまいます。
  ご覧ください----
  国産月琴ではこの,半月のポケットになって隠れてるところに小孔があいてることが多いんですが,唐物月琴にはありません。これもまた唐物月琴を判別するときの,特徴的な指標の一つですね。
  現代の中国月琴にももちろんあいていません。おそらく日本の職人さんは琵琶の陰月の真似してあけたんでしょうが,大陸と日本の気候の違い,あと工作の違いから,日本の月琴ではそれが空気孔の役割を果たしてており,楽器の保全に少し役に立ってるようです。意図してのことではない,とは考えてますが。(w)

  ついで蓮頭も取外し,さらにその裏につけてある桐板もはがしてしまいましょう。

  裏板をハガしたら,ずいぶん薄くなっちゃいましたけど…玉華斎のなんかはもうちょい厚かったかなあ。同じ作者のものと思われる類似楽器の例と比べてみましが,どうやらこれがデフォルトのようですね。先っぽは薄いんですが,お尻のほうは厚みもそれそこあります。
  この作業するまで,透かし彫りの間にはホコリが詰まってるし,ヨゴレて真っ黒だったので,何で出来てるのかも正直分かりませんでしたが,キレイに洗ったら黄色い木肌が……ツゲですね。 これならまあこの薄さでも,強度的な問題はさしてありますまい(ちなみに類似楽器のは胴・棹と同じタガヤサンだったようです)。

  黒っぽいタガヤの棹に黄色いツゲの蓮頭。これもラベルの違う「天華斎」の楽器に類例がありますのでおかしくはありませんが,なかなかに洒落た楽器だったようですね。


  蓮頭の清掃をしてたら,詰まってたゴミの中からお米のモミを発見しました。

  納屋にでも置かれてたんでしょうか,いやいや,旧時,楽器などの緩衝材としてワラや,梱包材として俵やムシロなんかが使われたりしてましたから,そういうところから落ちてついたのかもしれません………ふむ,なるほど。「余計なところに血道をあげる」か……庵主もじゅうぶんに日本人だったようですね。(w)

(つづく)


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