« 月琴28号 なると (4) | トップページ | 月琴28号 なると (5) »

月琴38号 (5)

G038_05.txt
斗酒庵 出自に悩む の巻2015.3~ 月琴38号 (5)

STEP5 荒神は細部に宿る

  月琴38号,前回も書いたように,ヨゴレがけっこうヒドいものの,楽器として必要な部分にはさしたる損傷はなく,ヒビ割れや面板のハガレを処理して,欠損部品を補充すれば,比較的たやすく復活するものと思われます。

  修理工程として早いうちに直しておかなければならない箇所も特にないため,修理はまずまず細かいところからはじまりました。
  蓮頭,軸,棹の鼠害箇所にパテ盛り。
  蓮頭は周縁部とコウモリの羽根の先っぽに数箇所。糸巻きは1本の握りの根元のあたり。棹は第1フレットあたりの右がわ。蓮頭と棹のはほんのちょびッと,糸巻きのものも目立ちはしますが使用上支障がないほどの表面的なものでした。
  蓮頭にはツゲの粉を,糸巻きと棹には唐木の粉をエポキで練って盛りつけます。あと糸倉の先端,蓮頭がついていたところの角,これは鼠害ではなくカケがありますので,ここもついでに盛っておきましょう。

  硬化後に整形。こういう場合のエポキは,さほど強度も要らないので¥100均で買える10分硬化のでも構いません。


  続いて山口を作ります。
  オリジナルのものが残っていますが,最後の所有者(三味線弾き)が手を加えてしまったらしく,頭の部分が平らに削られ,低くなっています。
  唐物の山口は,国産月琴のと比べると背がかなり高く,13~14ミリがふつうです。
  材質はオリジナルと同じタガヤサン。形状も唐物月琴に多い富士山型にします。この楽器の棹はちょっとふつうより幅広なので,底部がだいたい長30ミリ,頂上が24ミリってとこでしょうか。

  糸倉のパテ盛りも固まったので整形。つぎに間木の割レの処置をします。この間木,材質は棹と同じタガヤサンなんですが,材質的原因で生じたヒビが入っています。

  何度も書いてますが,タガヤサン(鉄刀木)という材は,唐木最強と言われるほど硬いのですが,けっこう厄介な木で,暴れて変形したり,こんなふうに内部から割れたりすることがままあります。
  糸巻きを動かすと,このヒビが広がったりとじたりするせいで,糸倉が少しグラグラしています。このままだと調弦に悪い影響が出たり,糸倉自体の損傷の原因ともなりかねません。
  この部品,調査の時にも書きましたが,多少寸足らずなので,本当にオリジナルかどうかは分かりません。いッそとりはずして交換してしまおうかとも考えたのですが,かなりしっかり接着されてしまっているので,このままの状態で修理することとしました。
  クリアファイルの端っこを切り取って極薄のヘラとし,これにエポキをつけて,ヒビ割れに何度も挿しこみ,クランプで圧着します。ここはしっかりついててくれないと困るところなので,DIYなんかで売ってる8時間硬化のエポキを使っています。


  仕上がった蓮頭や取外して掃除した半月,あと棹を亜麻仁油で拭き磨きます。
  唐木の類はかつては割れないよう油に漬け込んで運んだくらいで,硬いわりにモロいので,乾性油をしませるのは部材の延命にもなります(あたりまえのことながら,やりすぎは逆効果ですが w)。とくにタガヤサンは油を染ませると変身しますね。
  材を贅沢に使っているだけに,油拭きでタガヤサン独特の深いワインレッドが復活するとやっぱり迫力があります。



  さて,それではいよいよ胴体の修理にとりかかりましょう。


  まず表板。上下にヒビがそれぞれ1本づつ走っています。上からのヒビはほぼまっすぐにパックリと割れていますが,下からのものは断続的な裂け割れで,途中までは割れ目が,板に対して斜めに入っています。

  上からのヒビはそのままでもいいんですが,下からのヒビはそのままだと処置しにくいので,カッターの刃を差し込んで,断絶している箇所をつなげ,一本の割レにしてしまいます。
  先に間木の処置で使ったクリアフォルダの極薄ヘラに,溶いたニカワを塗っては割れ目に差込み,割れ目の両岸にニカワをまんべんなく塗りたくり,薄く削いだ桐板を差し込みます。斜めに入った割れ目が,半月のあたりで少し段差になってしまってますので,接着時に当て木を噛ませ,上から圧をかけて矯正しながらの接着です。
  埋め木がじゅうぶんに入ったら,周辺に木粉パテをまぶして,とりあえずできあがり。

  裏板のほうは表板と逆で,上からのヒビは斜めに入り,下からのヒビがほぼまっすぐのパックリ割れになっています。表裏のヒビは,位置的にもほぼ同じあたりにありますから,これは胴体が,この上下のヒビ割れを結ぶ対角線を中心に前後方向,斜めにねじれるような方向に変形したということを表しているのだと思われます。
  ま,それはともかく。この裏板の上からの割レは,斜めも斜め,かなりの鋭角で「割れた」というよりは裂けて「ハガれた」って感じです。こちらには埋め木は入れず,周辺を濡らして板をやわらかくしてから,スキマにニカワを垂らし,ラップをかけて当て木を噛ませ上からゴムで圧をかけ,そのままへっつけてしまいましょう。ラップをかけるのは,湿ったままでいる時間を長くして,板の矯正もいっしょにやってしまおうという魂胆ですね。
  下からのヒビはふつうに埋め木で処置しましたが,こちらも少し段差になってしまっているので,当て木とクランプでおさえつけながらの接着です

(つづく)


« 月琴28号 なると (4) | トップページ | 月琴28号 なると (5) »