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月琴40号クギ子さん (3)

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斗酒庵 またまたアイツに出会う(W) の巻2015.5~ 月琴40号 クギ子さん (3)

STEP3 ここほれわんわん

  さて,こちらも修理開始。

  工房到着時のヒサンな状態は,前回までの調査報告およびフィールドノートなど,ご参照アレ。

  ま~ふつうは,こういう弦楽器にこれだけクギがぶッこまれてる,ていう時点でアウト。修理するよりはイチから作ってしまったほうが早い----ってところですねえ。

  しかしながら,ギターやバイオリンと比べると,月琴は単純な楽器です。
  庵主,いつも言っております。バラバラにされた上にブルトーザーで二回轢かれたとかいう状態でないかぎり,かならず直して見せる,と。 これも構造が単純で,ミリ単位の狂いがあたりまえなぐらい雑な楽器(w)ならでは,部品がある程度そろっているなら,不可能はありません。
  もっとも通常の修理作業と異なり,あまり状態がヒドいと「原状復元」は不可能。ゆえに作業は「再生加工」に近くなりますが,そのぶん精神的な負担は減りますし(モトがヒドかったんだからしょうがないよ~),修理者としましては,ここまでやられてますとナンか逆に萌ゆる,ってとこもありますねえ。(w)

  フィールドノートを採って,工房到着時の状態と寸法等を記録したところで。

  楽器を完全にバラバラにいたします。

  ええ,もう「オープン修理」とかいうレベルではございません。
  「オーバーホール」ですね。 まあもちろん,一度きにバラバラに破壊するわけではなく(w),各部の接合や工作のチェックなどしながら,順を追って分解してゆきます。

  まずは裏板がわ。
  クギの頭をペンチで砕きニッパーでチョン切って,板をはがしてゆきます。
  もとの接着の残ってるところはほとんどありませんね。
  板はクギ頭がなくなったとこから,すっぽりと抜けてきました。

  クギは内桁には打ち付けられていなかったらしく,内桁は持ち上げたらカンタンに抜けてきました。左右端は胴材の溝にハメこんでいただけで,まったく接着されていなかったようですが,板のほうには濡らしたような痕がついているので,接着されてはいたと思うのですが,ニカワが薄かったのか,板がバラけるさいにハガれたのかまったく着いてませんでした。

  板裏周縁と胴材の数箇所に,虫食い痕があります。
  これも後で埋めとかなきゃなりませんね。
  虫食いのウネウネはどこもさほど深くはありませんが,桐板だけでなく,カヤ材の胴体のほうもここまで食われてたのは,ハジメテな気がします。

  調査報告の中でも述べたように,打ち付けられているクギはことごとく芯まで朽ちており,クギから滲みだした鉄分で,周辺の木部が黒く変色してしまっている状態です----頭をつまめば頭が砕け,本体をつまめばポッキリ折れてしまう,引き抜こうたってぬけるもんじゃありません。
  そこで,頭をとってわずかに顔を出しているクギのすぐ横に,2~3ミリのドリルで孔を二つあけ,ラジオペンチの先をつっこんで,変色している木部ごと釘をむしりとることにしました。ふつうならまず出来ない野蛮そのものの作業ですが,この楽器の場合,さいわいに釘が打たれている側板部分が,一般的な月琴より若干厚めなので,後で穴埋めさえしっかりとしておけば,さほどの問題は生じないものと考えます。

  裏板に打ち込まれていたクギは,細く短いガラス釘(窓釘/障子釘)のようなものから,3センチ近くある長いものまでさまざま。工作も粗く,斜めに入っていたり途中で曲がってしまったのをそのまま叩きつけていたりしています。

  前も書いたように,サビた鉄は水分を吸って膨張し,木部を内部から破壊してしまいます。じっさい板の端のほうギリギリに打たれた部分には,胴材にヒビが入ってしまっていますね。

  ラジオペンチでむしりとる方法だと,長い釘の場合,最初の作業でぜんぶは取りきれないこともあるのですが,その場合はもう一度穴にドリルをつっこみ,ガリガリっと残ったクギごと木部を削ってホジくり出しました。作業した穴は大きく,深くなってしまいますが,せっかく修理してまた使おうというのですから,将来の危険の芽はキッチリと摘んでおきたいもの----とはいえ,まあ…なんとアナだらけなことか………これで片面,この作業をもう一面やるわけですか。

  なんかF1の軽量化作業みたいになってきましたねえ(汗)

  作業の終わった面の穴ぽこに,木粉をエポキで練ったパテを詰め込みます。
  練ってすぐは流動性がありかえって作業がしづらいので,固まる直前,すこし柔らかめのプラ粘土みたいな状態になったところで丸めて穴に押し込み,奥までぎゅっと詰め込みます。ついでに同じ材で,胴材の虫食い部分も処理しておきましょう。


  裏板がわの作業がすべておわったところで,表板がわ。
  内部構造の確認と棹をはずす作業のため,中央の小板と半月はすでにはがしてありますが,まずは半月からいきましょうか。

  ヒドいでしょう……カリンか紫檀といったけっこう硬い素材で出来てるのですが,容赦なく二本刺し(w)ですよ。
  釘先が板をつきぬけて,下の響き線のとこに出てました。

  クギは裏からぶったたいてペンチひっぱり出しました。
  あ~あ…こんな大穴あいちゃいましたよ。
  面板に打たれているものよりずっと太いヤツだったので,さすがに芯までは腐ってませんでしたが,それでもかなりボロボロになってましたね。
  木部の状態の割にはクギの劣化が激しすぎる気がします。もともと打たれたクギ自体が,錆びクギだったのではないかと----おそらくは,こんな感じだったんでしょうねえ。

  1)なンか納屋や蔵の奥から楽器みたいのが出てきたーーーっ。
  2)弾いてみようと思ったけどあちこちハガれてるみたいだ。
  3)土間のあちこちに古釘が落ちてるんで,これで打ち付けておこう。
  4)だいたいカタチになったけど,やッぱ弾けねーや(www)

  (怒)がっで~むッ!(怒)

  釘をブチつけたせいで,裏面には大きなエグレも出来ちゃってます。唐木の粉をエポキで練ったパテを裏面から充填し,表のクギ穴からニュッと顔を出すまで,たっぷりと押し込みました。
  一晩おいて完全に硬化したところで整形。
  半月自体が褪色してしまっているせいで少し目立ちますが,あとで染め直してしまいましょう。


  月琴の胴体は,4枚の側板を表裏の板でサンドイッチすることによって形作られています。つまりこの板をハガすと,もうバラバラってわけですね。完全にバラバラにする前に,板や部材にテープを貼って,元の位置や方向を書いておきましょう。

  釘打ちの作業は,表板がわのほうが少していねい----まあ楽器にクギぶちこむ時点で丁寧もクソもねぇ,とは思うのですが(w)----といいますか,使われているクギもだいたい一定,まっすぐに打ち込まれているものが多かったですね。
  クギ除去作業の後は,こちらも木粉&エポキで穴と虫食い痕を埋めこみます。

  これにてこの楽器,ほば完全にバラバラとなりました。


  胴体部分のつぎは棹へとまいりましょう。

  まず棹なかごの基部の部分,真ん中に表裏からぶッさされたクギ穴があいてるのと,表板がわの左端が,もう一本の打たれたクギのせいで割れてしまっています。

  小さな割れですがここはキチンと処理しておきたいところですね。
  クリアフォルダを切って作った極薄のヘラに接着剤をとって,割れ目にエポキを塗りこみ,固定して完了。


  こちらも見るだにカワイそうな箇所ですよね……糸倉先端,蓮頭のつもりと思われる板切れが,4本ものクギでブチつけられております。(泣)

  まんなかの2本は,半月に打たれていたのと同じ類でしょうか。
  かなり太くて長いヤツです。
  木口がわから木の繊維の方向にこんなもんぶッさしたわけですから,とうぜん割れてしまっていますが,カヤ材は粘りがあるので,割れてはいるものの欠け落ちてはいません。

  ここのクギだけは,ペンチでなんとか引き抜けました。
  抜いた痕は例によって鉄サビが滲みてしまっているので,クギ穴より少し大きめのドリルで,周囲の木部もエグり出します。ガサガサ,ザラザラといった感触で,やっぱ木じゃないみたいな感じになっちゃってますよ。

  クギ打ちで出来たヒビ割れが,少し開いてしまっています。
  まずはこの割れ目を閉じてしまいましょう。やりかたは棹基部と同じ,クリアフォルダ製のヘラを割れ目に何度も差し込んでエポキを塗りこみ,クランプではさんで一晩固定。 場所がせまいので,片ほうづつしかできず,けっきょくこれだけのことで2晩もかかりました。
  割れ目が完全にふさがったところで,クギ穴にパテをねじこみ,硬化後整形して,ここの修理は完了です。


  糸倉先端の処理が終了したところで,オリジナルの蓮頭とともになくなってしまっている間木を,端材を削って作成,接着しておきます。
  糸倉という部分は,これがはまっていないとなんとも不安定で壊れてやすい。ちょっと横から圧がかかっただけで割れちゃったりするのです。転ばぬ先のツエ----ここがアブないままだと,後々の作業にも支障が出ます。 さッさと処置してしまいましょう。

  指板もハガれかけているので,接着部に薄めたニカワを流し込んで,ついでに再接着しておきましょう。

  さてさて,バラバラになった月琴40号クギ子さん。
  よみがえることは,ほんとにできるのでしょうか?

(つづく)


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