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月琴40号クギ子さん (1)
G040_01.txt
2015.5~ 月琴40号 クギ子さん (1)
STEP1 怪談釘ノ宮の恐怖
39号東谷がきて数週間ほど。
作者についての探索を日々深夜までくりひろげていたものの,さしたる手がかりもなく,
ゆきづまりのフンづまり
になっていた庵主がふとネオクをのぞくと。先に39号を出した出品者さんが,また一面,月琴を出してるじゃああーりませんか。
かなり状態が悪かったので,スタート額も前回のはんぶん。それでも
指板が山口の前で切れている
工作やお飾りの彫り,ヨゴレの具合などが,39号とよく似ていたもので,もしや!----と思い,入れてたら,サイワイにも落ちてくれました。
ほんとうに39号の作者探索,手がかりがないもので,まさにワラにもすがる…
いえ,壊れ月琴にもすがりつきたい感じでしたからねえ。
----で,届いたのがこれだッ!
うわあああああああ………。
クギが…クギが!……表裏面板のぐるりと。
ああ,半月にも…うわ,糸倉先端の飾り板になんか4本もぶッこんでありますですよ!
表板も裏板も,
矧ぎ目のところから割れてバラバラ
になってます。
板が割れてハガれてきたからクギを打ったのか,クギを打ってから板がバラバラになったのか…現時点では定かではありませんが。
むかしのシロウトさんは
壊れた木製品というと,なにかと
クギをぶッこみたがる
ものだったようで(現代のシロウトさんは白い悪魔-木工ボンド-をやたらと使います)。まあ逆によくもこれだけ打ったものだと
寒心,いえ感心
しちゃいそうです。こりゃあ…調べるにしても直すにしてもタイヘンそうだねえ。(汗)
とにかく古いものだとは思いますが,東谷の楽器かどうかは分かりません。
東谷のものなら,棹を抜けば墨書なりあるのじゃないかと思うのですが,
その棹がまた,棹孔のところで,表裏からクギ2本ぶッこまれてて抜けない
んですね。(泣)
ちなみに警告しておきますが!
桐板は柔らかいしスカスカなので,いくらクギぶッこんでも 「糠にクギ」。
ちゃんと止まるようなもんじゃありゃあせん----
ムダですからね!やめてぇ~っ!
修理はともかく,とりあえずこちらの目的を先に遂げておきましょう。
まずなにより,これが東谷の楽器かどうかの確認です。
棹が抜ければおそらく一発なんですが,先にも書いたように,
この棹を抜くためにはクギを抜かなければなりません。
クギは面板の上からぶッこんであります。まだ完全に調査が終わっていない状態ですし,後に続く修理のことを考えても,この段階では,あまり原状をイジりたくないところです。
サイワイ,面板は矧ぎ目からハガれてバラバラになってしまっていますので,まずは
裏面の胴体の中心部,棹の基部などにアクセスできるような部分
の板をハガし,中をのぞいてみたいと思います。
とはいえ板を止めてるクギ----こりゃどれも芯までサビて腐っちゃってますね。
釘抜かければ折れるし,ペンチでつまめば頭が砕けます
……やっかいだ,ああ,やっかいだ。それでも何本か抜いて,それベリベリベリ。
あ。
え~,結論から申あげしまして。
この楽器は
間違いなく,
小野東谷氏の作ではございません。
コレ,これですね。
「赤いヒヨコ月琴」,32号 「ぬるっとさん」 など,庵主の修理経験のなかでも 「問題作(w)」 な楽器を生み出してきた作者,「太清堂」の楽器です!
そういや前回の39号の記事で,こやつのこれ(響き線)について,少し触れましたっけね……ううむ,ここでもまた
「楽器が楽器を呼んで」
いましたか。(^_^;)
東谷の楽器ではなくて,ちょっと残念でしたが,まあこちらのほうは作者も分かってしまいましたので,とりあえずの目的は果たせたかと(w)。
棹を止めていたクギは,面板を止めていたものに比べると,太く長いものでしたが,これもまた完全に腐ってしまっているので,
どうやっても引き抜くことが出来ません。
温めるとかオキシドールを垂らすとか,まあイロイロやってはみたんですが,ここまで腐食している場合には,
どのウラ技もほとんど効果がありません
ね。 クギから染み出した鉄分で,どのクギのまわりも,木部が黒く変色してしまっています。
仕方がないので今回は,小径のドリルでもってクギの左右に穴をあけ,ペンチで周辺の木ごとエグり出すことにしました。
けっこう苦戦して,ようやクギをはずし,棹を取りのぞいて,はずれて内桁にささってた延長材も取り出すことができました----
上から下まで同じ幅,同じ厚み
のこのぶッ太い棹茎,これも太清堂の楽器の特徴の一つですね。
現れた墨書の数字は「十二」。
「赤いヒヨコ」が「五」,「ぬるっとさん」が「十五」でしたから,これがシリアルなら製作年代は,「赤いヒヨコ」より後,「ぬるっとさん」より前,ってことでしょうか。
穴の中に残った部分も,再びドリルをかけ,
クギごとホジくり出しました。
この楽器の場合,幸いにも胴材が厚めなので,
多少穴ポコだらけになっても
強度上の問題はさほど出ないでしょう。なにより腐った鉄は,
木が吸い込んだ水分と反応して内部で膨張
し,割れの原因となって楽器の寿命を縮めますので,なるべくキレイに排除しておいてやりたいところ。
さて,それでは基本の計測採寸から。
採寸
全長:640(蓮頭を含む)
胴 縦:356 横:355
厚:38(表裏板厚:5)
棹 長:272(蓮頭を含まず)
糸倉部分:155,最大幅:30(先端)
指板長:130,
最大幅:29(基部),最小幅:24(ふくらの下)
最太:36>最細:28
推定される有効弦長:420
39号同様,この楽器も指板が山口の前で切れているタイプ。
指板の上端を基点として,各フレット痕,および残っているフレットの下端までの距離は----
1
2
3
4
5
6
7
8
48
80
110
不明
135(推)
170
212
235
260
第4フレットの痕跡は,
前修理(?)者の釘打ち行為
によって,正確な位置が分からなくなってしまっています。表にある数値は,周囲に残った接着痕などから推測したものになります。
各部簡看
蓮頭 は形状や材質から,おそらく
後補部品
と思われます。
75×45×厚8,
針葉樹の板で作られており,裏面から間木(?)を固定するための釘が2本,表面から糸倉の先端に固定するため,釘が4本打たれています。
この蓮頭の釘のせいで,糸倉の先端が少し裂け割れしています。
素材が粘りのあるカヤであるおかげで,欠けたり崩壊したりはしていませんが,なんとも無茶な工作です。
棹の材質はおそらく カヤ。
糸倉の左右の厚みが1ミリほども違っていますね。
楽器に向かって左がわが8ミリ,右がわが7ミリ。
相変わらずなんというか,雑な工作です。左側の糸倉一番下の軸孔のところに少しエグレがあるほかは,使用の支障となるような割れや損傷はありません。
うなじはなだらかですが
やや長め,
棹背は船底型で意外と太く,胴体がわの基部で
36ミリ
もあります。アールはややきつめですが,基の部分が太いので,それほど目立ちません。32号では最大32>最小19でしたが,この楽器のは
36>28
です。
指板は
厚さ約2ミリ。
おそらく
カリン
の板を染めたものではないかと。
フレット接着痕のほか,先端から2センチほどのところに,加工痕があります。このあたりにフレットが立ってた例はないんですが……何でしょう?
楽器向かって左がわが,かなり広範囲にわたってハガれている模様。要補修箇所です。
すでに画像をあげた延長材は
材質不明
----クリかクルミかな? 一般的なV字切れ込みによる接合で,損傷はまったくなく,おそらくクギ打たれたときにはすでにはずれて胴体内に取り残されていたのだと思われます。
糸巻きは四本とも残っていました。おそらく棹と同じカヤ材。
長:115,径26>7。
資料を見ても楽器により三本溝だったり一本溝だったり,本器と同じ無溝六角だったりと,この人の楽器の糸巻きの形状には,どうも落ち着かないところ(w)があるのですが,状態や材質から見て,おそらくオリジナルで間違いないでしょう。
太清堂の工作の特徴の一つとして,軸孔が楽器職がよくやる焼きぬきではなく,ツボギリの類によるふつうの
彫り抜き
であけられていることがあげられます。月琴と言う楽器の場合,糸のテンションもさほど強いものではなく,材質も割れやすい唐木より雑木のことが多いので,焼きぬき法にこだわる理由はさほどないのですが,軸孔の強度は熱で焼き締めた焼きぬき法にくらべると弱く,使用によって
広がりやすくなっています。
そのせいもあって,すべての糸巻きで
糸孔が,握りがわのほうへもう一つあけなおされて
います。使用によって軸の先端が細り,糸孔が糸倉の中に隠れてしまうようになったんですね。ただ,ふつうこうやって糸孔をあけなおす場合,前の糸孔はつまようじや竹串などの細い棒材を押し込んで埋めてしまうのが常例なんですが,今回の場合はぜんぶあきっぱなしですね。さて,どうしたことやら。(w)
上に書いたよう,作者の工作のせいでここの楽器の軸孔の耐久性は,ほかの作家の楽器にくらべると多少劣るものとは思われるので,軸が通常よりも深く刺さっていたとしても,どのていどの使用でそうなるのか,比較は難しいところなんですが,そのへんをさッぴいても,この糸巻きの状態や使用痕から考え,これは実際にかなり使い込まれた楽器であったろうと考えられます。
クギをぶっこんだことによる穴や割れはあるものの,棹全体としては意外なほど,深刻な損傷はない様子です-----材質のおかげでしょうね。
(つづく)
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