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月琴39号 東谷 (3)

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斗酒庵 小野東谷に出会う の巻2015.4~ 月琴39号 東谷 (3)

STEP3 すべてのヨゴレは拭い去るためにある

  さて,平行して作者の素性調べも続行中なれど,いまだ有力な手がかりもなき月琴39号小野東谷。

  修理に入ります。
  作業はまず,蓮頭から指板にかけて付着している黒いヨゴレを取り去るところからはじめました。この付着物のせいで,その下の状態がまったく分かりませんからね。

  かなり固くなっていて,ふつうに布で拭う程度ではまったく歯が立たなかったので,仕上げ用の Shinex にぬるま湯と中性洗剤をふくませて擦りました。いつもの重曹だと,漆塗りなどが施されている場合,塗膜を傷めてしまうおそれがありますので。
  けっこうキレイになりました。
  細かいこと言えばまだ少し残っている状態なのですが,古色も兼ねてそのままにしておきましょう。

  今回も裏板をはがしてのオープン修理ですが,これは内部構造の確認が主。ほかに例のないフシギ構造は確認・記録したし,調査の結果,深刻な損傷はありませんでした。響き線のサビ落しと防錆加工が済めば,いつでも戻せる状態です。
  その裏板再接着の準備として,板と側板の接着面をキレイにしておきます。
  胴体と板の接着面をぬるま湯で濡らして,柔らかくなったニカワをこそげとるわけですが----それにしてもスゴいニカワの量です。(汗)

  何度も書いてますが,このニカワって接着剤は,だっぷりつけりゃいいってもんではないんです----とくに「楽器」に関しては。そのあたりを分かってないところ,楽器の製作にやはりなんか慣れていないという感じがしますね。


  ついで表板上の構造物をぜんぶハガします。
  いつものようにお飾りやフレットの周囲に筆でお湯を刷き,水を含ませた脱脂綿で囲って10分から30分。乾燥防止策として全体にラップをかけておきます。

  第5~8フレットまではオリジナルと思われるニカワによる接着でしたが,第4フレットだけは接着部から白い悪魔(木工ボンド)が現れました----これは最近の修理ですね。

  今回はヒビがその下を通っているのと,あちこち接着がハガれて浮いているようなので,半月もハガしてしまいます。

  半月の下からも白い悪魔………と大きなエグレが出てきました。

  きゃあああ……白い悪魔はともかく,このエグレはけっこうひどいなあ。
  画像右に見える大きなエグレのほかに,左右に板の表面がメクレちゃってるところがあります。ムリに糸を張って,半月がメリメリ…ボン!っとぶッとんだ,って感じですね。
  なるほど,半月があちこち浮いてたのは,もともとトレちゃってたのを,とりあえずへっつけて誤魔化してたせいだったんですね。



  はずした半月も,本体とお飾りに分離。本体だけ見るとちょっといびつなのが分かります? 半月のお飾りはツゲ,左右目摂と扇飾りは染めではなく本物の唐木でした。お飾りだけ見ると,やはり細かい木工の腕は確かですね。

  中央のゾウさんだけが,最後まで残っちゃいました。

  表板のヒビ割れはこのゾウさんの真下も通っているので,ハガさないわけにいかないのですが,とにかくガンコで……二日ばかり周囲を湿らせ,ようやくハガしました。なにか耐水性のある強力な接着剤で止められていたようですね。

  最初の記事でも書きましたが,ここからも,やはりこれは当初部品ではない可能性が高いですね。

  この作業のせいで,かなり板に水をふくませてしまい,二日ばかり次の作業ができませんでしたよ。ほんとボンドはやめて~!


  本体作業ができない間,糸巻きを削ることにましょう。

  糸巻きは3本欠損。角の丸い六角形深溝のカタチは,38号天華斎に付いていたのと同じ型。国産月琴の古いものにも良く見られます。
  中国月琴の糸巻きはドライバーの柄のような,溝の多い丸軸が多いのですが,国産月琴の糸巻きは,角ばった六角形で,浅く細い一本溝のものがいちばん多い。庵主は,これにはもしかすると天華斎の楽器の影響があるのじゃないかと思っています。天華斎の楽器は当時,清楽家の間ではちょっとしたブランドものでしたからね。
  天華斎の楽器でよく使われる六角深溝のデザインをベースに,三味線の糸巻きに慣れた日本人に使いやすく,角をたたせていったのが国産月琴でよく見る,六角一本溝の形式なのではないかというわけです。


  今回の材料は¥100均の麺棒(おそらくスダジイ)。
  前回の28号の場合,最大直径が3センチ近くあったので,太いすりこぎを使うしかなかったのですが,39号の軸は最大直径が25,長122。¥100均の麺棒(大)1本から2本とれますので,麺棒2本で1面ぶんの材料がカクホできるというわけです。

  晴れた日の公園で,四方を斜めに落とし,一日かけて3本を削り終えました。
  庵主が作ると,どうしても少し角張った感じになってしまいますが,まあ結構。

  できた糸巻きは,磨いて染めて。
  下染めはスオウ,媒染と黒染めにオハグロ,握りのところだけニスを塗ります。


  古物の月琴の糸巻きってのは,なくなってることが多いので,うちの記事見て削ってみよう,ってえかたもいるかと思いますが。

  この手の丸棒から六角軸を削り出す時,木目は右図左のようにとったほうが良いです。
  糸孔もこれの縦線方向にあけます。右のように木取りして削った場合は,折れやすい軸になってしまいますので,注意。

(つづく)


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