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月琴28号 なると (終)

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斗酒庵 10本も前の月琴をようやく修理する の巻2015.3~ 月琴28号 なると (終)

STEP6 重巡なるとの出港

  さて,糸倉の割れも直り,胴体の諸問題も片付き,半月も付きましたので,実際に弦を張ってみましょう。
  この楽器は当初から棹の傾きが足りないので,おそらく弦高は高めだろう,とは思っていたんですが----

  ちょっとここに,オリジナルのフレットを置いてみましょうかあ?
  あう……一番背の高いフレットでも,頭から弦までが3ミリも開いてら。
  弾けるかーい!こんなもん!

  ちなみに山口(トップナット)は国産月琴の平均的な高さで作ってあります。半月の高さから考えて,これより多少高いことはあっても,低いことはふつうありえません。
  国産月琴では,フレットが低めの楽器のほうがよい楽器とされていたようです。これは一つに,一般の日本人にはフレット楽器にあまり馴染みがなかったことが原因としてあげられましょう。三味線で慣れてると,弦が棹から離れた状態が不安なのかもしれません。

  庵主いつも言ってるように,この「フレットの高さ」は,原作者が思い描く「理想的な月琴」のセッティングを表しています。理想が高ければ高いほどフレットは低いわけですが,木工工作というものはザンコクなもので,そうそう思ったようにはいきません。すべての楽器を完全に「理想的」な状態で完成させることは不可能と言ってもいい。最初の珠玉の一本はそれでよかったとしても,次の一本がまったく同じであることはまずありえません。よってフレットの高さは「理想」,それに対する弦の高さは,それに対してつきつけられるオノレの技量と才覚の限界たる「現実」なわけです。(お,なんかテツガク的だねえ)

  でも,この楽器の場合,こりゃもはや「理想」なンてもんじゃないですね。
  ----「妄想」ですわ。

  原作者の果たせなかった「理想」を,方法があるなら少しでも「現実」に近づけるというのも,楽器の修理者の義務なのかもしれませんね。(w)

  弦高は胴体表板を水平基準面としたとき,トップナットのところで11ミリ,半月で9ミリ。高低差がわずか2ミリしかありません。

  この楽器の場合,棹の接合がやや特殊な工作となっているため,棹基部の調整によってより背側へ傾けるといった,いつもの方法がとれません。そこでまず,半月がわの弦高を下げるため,ゲタを噛ませます。
  ゲタの材料は煤竹。 糸すれを考えて,糸に触れるがわに皮面を向けて接着してあります。前記事で書いたように,これの半月のポケットはアーチ型にえぐられてますので,ゲタの接着面もそれに合わせて加工しました。いつもみたいに単純な細板状じゃないんで,ちょっと手間でしたね。

  これにより半月がわの弦高が3ミリくらい下がりました。
  高低差5ミリ,これだけあればなんとか8本のフレットをその高低差の中に押し込めます。弦高に高低差が少ないとフレットは全体に高くなります。フレットの高低差が少ないと運指に影響が出,またビビりの出やすい調整のしにくい楽器になってしまうのです----あんまり下げすぎると,ピックが面板をひっかいちゃいますんで,これが限界かな。
  これにより,フレットの高さも全体に低くなるとは思いますが,現在残っているオリジナルのフレットでは,それでもまだ理想が高すぎる(つまりフレットが低すぎるw)ので,やっぱり今回も,唐木で新しいフレットを作ってやらなきゃなりません。
  あ~あ,竹に比べるとカタくて加工が大変なので,正直やりたくないんだけどな~。(汗)

  材料は8本のうち1本をのぞいて縞黒檀の安いヤツです。
  まあ,もっとも。この材料自体,タダでもらってきた端材なのですが。(w)

  出来上がったところでスオウとオハグロで染めて,ラックニスで色止め。
  ローズの高級品か,マグロ黒檀って感じになりました。
  むかし,骨董屋なんかもやったテクですね。

  雑木を染めて黒檀や紫檀にみせかける,っていうのは,庵主,いつもやってますよね。しかしながら材料がホオやカツラの場合,見る人が見れば木の質感や木目の感じで「染め」だとバレちゃいます。けれど,白太(しろた,黒檀だけど黒くない部分)の混じった黒檀を染めたり,カリンなど似たタイプの硬木を染めた場合は,かなりの人でなければ,それが見かけどおりの材料でないとは,まず見抜けないでしょう。
  今回の工作も,その類ってわけです。

  オリジナルのフレット位置での音階は----

開放
4D-94E-354F-134G-74G#+465C-465C#+255E+49
4A-104B-435C-115D-215Eb+325F#+485G#+265B+23

  ここで少々問題発生!
  この楽器,棹と延長材の接合方法がふつうの月琴と異なっている,ということは上でもちょっと触れましたし,前にも書きましたよね。原作者のとったこの方法,木と木の接合の方法としては問題がないんですが,この「月琴」という楽器の構造としては大いに問題があったようです。

  糸を張った後,やたらと音が狂いやすいものですから,あちこちあらためて調べてみましたら,調弦しようと締めると棹がほんのわずかですが持ち上がるんですね。
  棹孔などとの噛合わせをかなり調整したのですが,それでも持ち上がる。
  そこでさらに調べてみたら----原因がなんと,その棹の接合工作だったんですね。

  図をご覧ください。
  上が一般的な月琴の棹と延長材の接合方法,下が28号のです。
  通常,棹の延長材には棹本体より軽軟な針葉樹材が用いられます。
  一般的な接合方法ですと,棹にかかる弦の張力の負担は<字になっている部分の面が受け止め,衝撃や張力に負けた場合はこの面のいづれか,あるいは両方の接着がとびます。
  これに対し28号の方法では,張力に対する負担は真ん中の,一番長い辺になっている面が受け止めます。この工作だと延長材の一端をL字型に切り除けばよいだけで工作も簡単。接着もラクです。しかしこの構造では,実際に糸を張ると,両端の短辺部分の硬い部材が,軽軟な延長材に食い込むカタチになってしまうのです。
  部材同士の硬さの違いが顕著であるため,この短辺部分はいくら擦り合わせを精緻にしても接着しなおしても,力がかかればすぐ割れて,少しづつスキマを広げてゆきます。つまりはこのままだと,使えば使うほど音合わせはしにくく,音は狂いやすくなってしまうでしょう----なんてこった!

  ううむ…内桁の接着と一部改造に続き,ここでもオリジナルの工作にリビジョンを加えなければならなくなりましたねえ。
  オリジナルの工作は尊重してあげたいのですが,内桁のときと同じように,メリットよりデメリットしかなく,しかもその問題がすでに顕在化しているのであれば,修整してやらなければ,せっかく作ってくれたモノが,楽器として成立しない,ただの飾り物になっちゃいかねません。この楽器の場合,材料だけ考えたってもったいないったらありゃしない。

  まずは表板がわ短辺の接合部分に,両側から斜めに刻みを入れて切り取り,そこにカツラを削ったV型の材を埋め込みます。直角だった接合部を斜めにして,棹の本体部分が,延長材に食い込まないようにするわけです。補材が接着されたところで整形して,棹基部と面一にし,さらに補強のため,基部の表板がわをローズの薄板で覆いました。
  この補強で棹の取付けはかなり頑丈となり,糸を張ってもあまり持ち上がらないようになりました。
  ふう…ほんとなんてこッた! ですわい。



  最後の最後までオリジナルの工作にふりまわされ,悩まされましたが。
  4月20日,ちょっと問題アリ,な最重量級月琴28号なると。
  修理完了いたしました!

  オリジナルでは左右目摂のほか,丸い凍石の飾りが二つついていましたが,どちらもあまり趣味が良くないので,これはもどさず。

  ふつうの月琴によくある,扇飾りと中央円飾りを作ってあげることにしました。
  扇飾りはコウモリ。第6フレットがかなり長めなんで,楽器としての大きさもほぼ等しい不識の月琴などについてる大き目のやつを参考に,ちょっとオリジナルのデザインで彫ってみました。

  円飾りは最初,左の紅葉とトンボの図柄のものをホオ板で彫ってつけてみたんですが。


  28号,全体のデザインはシンプルですが,実際の重さと同じく(w)どこか重々しい雰囲気があります。さらにフレットもほかの飾りも黒なため,中央飾りまで黒だと,どうにも重苦しくなってキモチが悪い。
  そこで白っぽい凍石で,小さめの円飾り(もとここについてた太極マークとほぼ同じ大きさ)を作ってみました----図柄はよくある鳳凰。これがなかなか大当たりで。
  こんな小さなものですが,中央に白い飾りがあるだけで重々しさも消え,なにかさっぱりとした感じになりましたね。



  さて,音ですが。
  思った通りの「激鳴り楽器」(w)ですね。

  くっきりとした大きな音,はっきりとした長い余韻。
  弦楽器の音としてはすばらしいし,それなりに良い音とは思うのですが……こりゃ「月琴の音」かなあ? って感じが多少(w)。
  月琴の音としてはすこし大きすぎて,雅味に欠けたところもありましょうか。
  琵琶の音にかなり近いと思いますね。


  あと,なにより,重い重い重い重い!!

  ふつうの月琴の3倍くらいはありますからねえ----まあ「楽器」としては軽いものなほうでしょうが,ふつうの月琴で慣れてる脆弱な身(w)には,持ち運ぶときがちょとタイヘンです。
  あと,月琴は軽い楽器ですので,たいていの場合,ふだんは鴨居に吊るして置いておくんですが,この楽器,胴体があまりにも重すぎて,そういうふつうの方法だと,棹や糸倉に変な負担がかかって危ないです(糸倉が割れてた原因はあんがいコレかもしれません)。琵琶で使うような掛け台に置いておくのが良いと思いますね。

  オリジナルの改変が何箇所もあるので,古物としては価値を失ってしまいましたが,今回の場合,そこを直さないと「マトモな楽器として成立しない」っくらいの選択でしたので,「楽器としての再生」を修理の主目的としている庵主にとってはしょうがないところ(汗)。



  また,いちおう補強はしましたが,それでも首がちょっと弱いのと,糸倉に直しがあるぶん,そうそうヒドい無茶はできない,という欠点もそのままですが,楽器としては材料ぶんの価値はある,それなりに良いものに仕上がっていると思います。

  さてさて,どんな人が弾いてくれることになるのかな?
  まずまず,これをふつうの月琴みたいに,軽々と持ち上げられる大力の持ち主じゃあないとねえ。(w)

(おわり)


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