胡琴譜の読み方 (2)
![]() STEP2 西皮は西瓜の皮ではない。 ![]() 月琴の場合,ほとんどの曲は 「上/合(六)」,すなわち 「上=ド」 としたとき 「ド/ソ」 にあたる調弦で弾かれますが,一部の曲に 「尺合調」,すなわち 「レ/ソ」 で弾くことになっているものがあります。 清楽の胡琴も,前回解説した「二凡調(にはんちょう)」,すなわち「合/尺(ソ/レ)」の調弦のものがほとんどなんですが,そのほかに 「西皮調(せいぴちょう)」 もしくは 「四工調(すいこんちょう)」 という調弦で弾かれるものが何曲かあります。 「四」 は 「ラ」,「工 」は 「ミ 」ですから,「二凡調」を 「ソ・レ」 とすると,一音づつあげて 「ラ・ミ」 のチューニングで弾かれるわけですね。 「四工調」では工尺符号の 「四・五(ラ)」 は同じ低音開放弦で弾かれ,オクターブ上の 「ラ」 には 「伍」 もしくは 「伵」 とニンベンが付けられます。 「合・六(ソ)」 はどちらも高音弦,楽器の構造上この音のオクターブ上はありません。 そしてこれが「四工調」の譜読み,最大の特徴なんですが,同じ 「ミ」 を,「工」 とあったら低音弦で 「仜」 とあったら高音弦で弾きます。 通常の工尺譜において 「仜」 は,「工」 のオクターブ上の音を表しますが,ここでは「高音開放弦」を指示する記号であるわけですね。 「二凡調」では曲の流れで,「仩(高いド)」 がオクターブ下の 「上」 に書き換わったりしますが,「西皮調」ではその手のことはありません。「上(ド)」 のオクターブ上はふつうに 「仩」 ですが,明笛を基準とした音符の並びと違うところは,「仩」 が 「仜」(本当なら工(ミ)の1オクターブ上) や 「伍」(本当なら五(ラ)の1オクターブ上で,四の2オクターブ上) の後になることですかね。 すべての曲に「二凡調」とか「西皮調」と書いてあればいいのですが,そうでないとき,その胡琴譜がどっちの調弦なのか,どう見分けるかといいますと。庵主所有の『清風雅譜』17年版で言えば,後付で 「合・四/六・五」 にニンベンの付いてるのが「二凡調」,「四(五)」 と 「工」 に付いてるのが「西皮調」ということになります。 清楽曲に「西皮」もしくは「西皮調」と題される曲があって,タイトル通りこれは西皮調で弾かれます。ちょっと長い曲ですが,まずは『清風雅譜』17年版の原譜を。 (楽譜画像はクリックで拡大) ![]() ![]() ![]() これを1文字=1拍,4/4拍子の近世譜に直すと以下のようになります。黒い文字の部分から読み解かれる,月琴や明笛による標準的な曲調(一部にテキストクリティーク上の変更アリ)は左,同じ楽譜を,前所有者の朱字書き込みから,これを胡琴譜に組みなおしたのが右です。
前回と同じく,赤文字は装飾符。後半に2箇所ただの 「工(低いミ)」 がオレンジになってるところがあります。原書ではここにニンベンはついてないんですが,前2回同じフレーズで 「仜」 になっていることから,ここはニンベン付けるのを省略したものと考えます。まあ,上にも書いたとおり,「四工調」で 「工・仜」 は同じ音の低音弦で弾くものと,開放弦で弾くという運指,すなわち指遣い上の違いでしかありませんから,基本的にはどっちで弾いても構わない(w)のですが。 ちなみに『清風雅譜』内の曲で(調弦法の)「西皮調」を使って演奏されたことが分かっているのは,この「西皮調」のほか「三五七(尼姑思還)」,「銀鈕糸」「金線花」の4曲だけで,あとはみんな「二凡調」です。 前回同様,このチューニングにおける三つの楽器の実音と符号の関係を表にするなら----
と,なります。 前回も書いたとおり,あくまで 「上=4C」 とした場合の表で,古い明笛に合わせた実際の清楽の演奏では,これより長音2度ほど高かったと思われます。 ![]() まあ,実際,庵主はMIDIの上では何度も組んで実験してますが,こちらの調弦で,現実(リアル)な楽器を使い,胡琴と合奏してみたことはいまのところありませんねえ。 無段階楽器とはいうものの,胡琴は短いだけに音域がせまく,「二凡調」でも「西皮調」でも,「工」のオクターブ上(上の表で言うとあとマス2つ先)くらいまでが,なんとか安定した音の出せる高音の限界のようです----そういやまだ見たことはありませんが,四工調の場合,その音を表すときは「工」にギョウニンベンを付けることになるんだろうな~,とは思います。 庵主,自分では弾けないので~(w)まだ実験と文献の擦りあわせが多少足りてないところもございます。 SOS団・胡琴弾き諸君の健闘と成長を祈る! *(曲の)「西皮調」のメロディなどについては こちら でどうぞ。 (つづく)
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