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月琴39号 東谷 (2)

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斗酒庵 小野東谷に出会う の巻2015.4~ 月琴39号 東谷 (2)

STEP2 東の谷のフシギちゃん


  小野東谷----と,作者名はわかったものの。

  けっこう手を尽くし,調べてみたんですが,まずまず何も分かりません。
  唯一,国会図書館の検索で明治33年の『美術画報』に「草花篏入香匣」の作者として同名の人物があがってきましたが,詳細は不明。
  もしこの「草花篏入香匣」の作者と同一人物なら,楽器商ではなく工芸家なわけですが,画家だった鏑木渓菴が自身も楽器を作って販売していたくらいですから,工芸家が月琴を作ったとしても,べつだんそれほどの不思議はありません。

  そもそもこの記事を書いてる庵主だってアナタ,本業は物書きですからね。(けして楽器屋でも修理屋でもありません。W)

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  またこれだと,前回も触れたように,この楽器の各部に漂う 「良く出来てはいるが,本職でない人が作った感」 の理由も納得できましょう。

  このへんの追求はいづれまた。

  月琴39号,調査を続け,外側から見える限りでの寸法や状態の把握は終わりました。
  糸巻きが3本,および山口と棹上フレットが欠損しているほかは,糸倉や棹本体は健全,胴体部分も見る限りにおいてはさしたる損傷もなく,蓮頭から指板にかけて,黒い付着物があるほかは,ヒビ3箇所,板のハガレ3箇所,ヨゴレも軽微。
  保存状態としてはまあまあ良いほうではないかと思われます。


  あとは内部構造ですね。

  楽器は外見的な部分よりも内部に生じた損傷や劣化のほうが深刻で,音への直接的な影響も大きいものです。まず前回も触れたとおり,棹なかご接合部の接着がトンでますのでこれは直さなくてはなりますまい。
  さらに----13号や28号なんかもそうでしたが, 「月琴を作りなれていない人の作った月琴」 は,外見的にはふつうでも,内部構造がおかしなことになっている例が多く,注意が必要です。

  例によって棹を抜き,棹孔から胴体内部を観察しました。
  ここからのぞいたのと,裏板のヒビ割れのスキマから,内桁は2枚入っていることが分かりました。棹孔の外部周縁を基点として上桁が120,下桁が244のところに位置しています。どちらの桁にも,丁寧に四角く貫かれた音孔が左右にあけられています。

  問題は,響き線です。

  このブログで何度も書いているように,響き線は月琴の音のイノチ。
  いちばん大事な部品のひとつなんですが……これがいったいどんなカタチをしているのかが,一向に分からない。棹孔のところからも,部分的には見えてるんですが,何度のぞいても,いったいどんな構造になっているのかがまったく分かりません。

  そもそもこの楽器の響き線には,到着当初から違和感がありました。
  まず入っているのは確かなんですが,揺らしたり振ったりしてもあんまり音が鳴らないのです。
  ふつうは大きく揺らすとガラガラ鳴るもんなんですが,けっこうゆすっても「チン」くらいしか響きません。

  棹孔からの観察では直線が2本見えていました。
  直線の響き線は,曲線のそれに比べれば,あまり胴鳴りの激しくないのが特徴ですが,それにしても鳴りが小さすぎる気がします。

  線がどこかに引っかかっているとか,その固定に何らかの故障が生じているのかもしれません。また,観察からけっこうサビが浮いているようでもありましたので,今回は本格的な修理作業に先立ち,内部構造の確認と,響き線の手入れのため,裏板の一部を剥がしてのオープン修理とイキたいと存じます。

  裏板には上下から斜めに大きなヒビが入っています。この部分を中心に右がわ,板全体の2/3くらいをハガしてしまいましょう。
  まずはまっすぐな下のヒビをカッターで切り延ばし,上の割れにつなげて,これを一本にしてしまいます。
  つぎに上下ヒビ割れの端の,板の剥がれてるところから板をハガしとります。あ,それでは失礼してベリベリベリと………


  桁の配置とか接着加工,四方接合部の工作などは,ほかの国産月琴とくらべてもさほどヘンなところはありません。どちらかというと少し丁寧すぎるくらい,と言った感じですが。


  ----なんですか,コレは?

  メインの響き線はかなり細い鋼線。その上にもう一本,こちらはかなり太目のハリガネが平行して伸びています。先端が曲がって小さな輪になっており,その輪の中を,細いほうの線の先端がくぐっている。
  見てすぐ思い出したのは,「赤いヒヨコ月琴」や「ぬるっとさん」でお馴染み「太清堂」のコイルと直線を組み合わせた特殊構造でしたが,太清堂の構造と違って,この太いほうの線は響き線としてはまったく機能していません。先っちょの輪も,ただくるっと輪にしただけで,バネ的な巻きではありませんし,楽器の振動に合わせて多少は震えてますが,そもそも焼きがさして入っていないようで,その動きにも周期性は見られず,音に効果や影響を与えるようなものにはなっていません。どちらかといえば細いほうの線の支え,というか「拘束具」「制限器」みたいなもののようです。


  同じような意図で設けられたと思われる構造は,13号月琴でも見たことがあります。
  この楽器は西久保石村が幕末のころに作ったものですが,これの響き線は細くて四角い鋼線。おそらくは薄い鉄板から切り出し鍛えたものと思われます。
  ハリガネで作ったものに比べると,いかにも華奢であるこの線を保護するためか,この楽器の作者は線の先端部分に竹で囲みを作り,その運動を制限しています。

  おそらくは39号のこの構造も,意図するところは同じと思われます。
  細い線が胴の内部で激しく動いて,折れたり曲がったりするのを防止するため,その運動に制限を与えようとしたものでしょう。
  なぜでは,そんな 「勝手に揺れたら壊れてしまいそうなほど細い線」 を使ったのかと言えば,彼らはおそらく一様に,これを 「弦音に共鳴して動く構造」 考え,線を細くすることによって,その効果を繊細な音にも反応出来るようにしようしたのだと思われます。

  しかしながら----
  月琴の余韻は響き線の自由運動がもたらす効果です。実際のところこの構造は,弦音に「共鳴して」反応しているのではなく,演奏者が楽器を操作することによって生じる動きによって勝手に揺れているのに過ぎません。弦を弾こうが弾くまいが,弦音が大きかろうが小さかろうが。線が勝手に揺れている,そこに弦の音が勝手に入ってきて,勝手に効果がつく----そういう単純なものなのです。
  この構造では,そもそも線の揺れ幅の大きいもののほうが,効果が大きいわけですから,その振動に制限を与えるという考え方がすでに間違っております。本来の働きから言うならば,線を細くすることを考えるよりは,大きく振動しても壊れないくらいの線で,限界いっぱいの大きな振れ幅で,胴鳴りをなるべく起こさない方向に揺れるように,というようなことを考えるのが正しいかと思われます。

  もちろん「月琴」というものがもともと日本の楽器ではなく,今よりはるかに情報も調べる方法も少ない中。多くの職人がその製作工程や内部構造までは熟知しない状況で製作していたわけですから,どんなヘンテコな造りしていても当時の職人さんを一方的に責められるものではありませんが。38号天華斎と28号なるとの同時修理でも何度か感じた,日本の職人さんに多い傾向と言うか病気のようなもの----「余計なことに血道をあげて本質を見失っている」がここにも現れているような気はしますねえ。


  さて,ひとしきり文句も垂れたところで,内部構造を加えての今回のフィールド・ノートをどうぞ。
  (画像はクリックで拡大)

(つづく)


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