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月琴40号クギ子さん (5)

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斗酒庵 またまたアイツに出会う(W) の巻2015.5~ 月琴40号 クギ子さん (5)

STEP5 歌え!クギ子さん!

  つい半月くらい前まで,クギだらけでバラバラだった月琴40号・クギ子さん。
  全身に打ち込まれたクギ穴の補修をしつつ,部品を組み合わせ接ぎあわせ,とうとう楽器のカタチになりました。

  何度も書いてるように,経年変化によって部材に「狂い」が生じてますので,胴体は箱には戻ったものの,あッちが凸りこッちが凹りしています。組む時になるべく段差が大きくならないようにはしましたが,クギ打ちの影響と保存状態の悪さも重なって,けっこうなものです。

  さいわい,この楽器の胴材はやや厚めなので,多少ランボーな整形をしても,楽器の強度や性能にあまり影響は出ないと考えられます。段差が最大でも1ミリないくらいで済んだのも不幸中のサイワイ。ここまでこの,真っ黒でキチャなくなった板や胴材表面のヨゴレをほとんど放置してきたのも,この凸凹といっしょにこそげおとしてくれよう----と思えばこそ。

  さあ仕上げの時来たり!
  まずは端材にペーパーを貼って,胴側をコスりまくります。
  いつもですと出っ張った板だけ削ることのほうが多いのですが,今回は胴体のほうが出っ張っているところもあるので,ペーパーの幅は胴厚いっぱい。胴材と板の小口が面一になるよう,へんなアールとかついちゃわないよう,やや厚めの端材を使って,垂直を出しながらコシってゆきましょう。

  けっこうな量の粉が出ました。
  新しい木肌が出て側面は一見新品同様ですが,ところどころに真っ黒いスジやシミが浮かんでいます。これはすべてクギの痕,正確にはささってたクギの鉄分がしみこんで変色した箇所ですね。

  側部の整形が終わったところで,ようやく表裏の板の清掃です。
  庵主,いつもだと新品同様のまッちろにしちゃうところなのですが,今回は全身の補修痕を目立たせないためにも,ヨゴレを 「取り去る」 というよりは 「散らす」 という方向でまいります。

  重曹水をふくませた Shinex #400 で板の真っ黒なところをコシり,浮いてきた真っ茶色の汁を,修理箇所や側部表面に広げてなすりつけます。
  全体がなんとなく均一になったところで作業終了。
  ふだんよりは多少薄黒いものの,そこそこ見られる様子にはなりましたかな。
  修理痕は近づくとも~いろいろ見えちゃいますが,遠めにはまあなんとか分からない……かもしれない,ていど?(^_^;)


  表板が乾いたところで,半月の接着。
  オリジナルより黒っぽく染め直して,唐木の粉で埋めた大きなクギ穴の補修箇所を目立たなくしてあります。

  庵主,今回の修理で,いちばんしくじりをやらかしたのがこの作業………なんと3回も貼りなおすこととなりました。(汗)

  この楽器の作者「太清堂」は,工作こそ雑ですが,唐物と同じように,楽器に,音に必要な箇所のツボをハズすことはあまりありません。楽器の工作としてはやや無茶なところもあるものの,基本的には月琴としてまっすぐであるべきところはまっすぐ,平らなところは平らになっていることが多い----同時に修理してた39号東谷が,材料や木材加工の腕前からいえばはるかに上なのに,月琴という楽器にはとって,いささか 「?」 のつく工作が目に付くのと対照的なんですね。


  なもので一回目,庵主は原作者の,オリジナルの指示線を信じて,というより,何のギモンも持たず 「元の場所」 に貼り付けたのですが----忘れてました。そういや棹も面板も,この庵主というヘボ野郎が,調整しなおし貼り直したんだということを。(W)
  修理の影響で,楽器の中心線がズレてたんですね。
  一晩たってクランプはずしてながめてみたら,そりゃもうエラいズレてました。
  ここはこの楽器の中でもいちばん力のかかる箇所ですので,接着はかなり強固にやってます。あわあわで一日かけて,せっかくへっつけた半月をへっぺがしました。

  二回目はあらためて楽器を計りなおし,新しい中心線と半月の位置を探り決め,付け直したんですが----

  一晩たって,糸を張ってみたらなンかおかしい。
  楽器の中心線に沿って半月を配置したはずなのに,糸がやたらと左に寄ってるんですね。
  そこでも一度,精査してみますと。胴体の中心線と棹の中心線がわずかばかりズレてたことが判明。オリジナルからそうだったのか,庵主が棹を背側に傾けようとやった調整作業のせいだったのかは判然としませんが,棹がやや左に傾いていたようです。

  そのままでも弾けなくはなさそうだったものの,せっかく苦労してここまで直した楽器です。できる限りのことはしてあげたいもの。


  泣いて二度目のひっぺがし。
  今度こそわ! と意気込んで,半月の取り付け位置を2ミリ右にズラし,糸のコースが左右バランスよくなるようにしたのですが………棹が左に傾いていた,ということは楽器としての中心線も,中心から見て左方向に傾いてるわけですよね。
  そうすると,その傾きに対して垂直でなければならない半月の上辺,まっすぐな部分も傾けなきゃならんハズ----この時はそれを忘れてしまっていました。そのため,一晩たってクランプをはずしたら楽器が,「フッ…」って感じのニヒルな片笑い状態に。(W)

  庵主,XとYだけのまっすぐな棒線グラフは読めるんですが,Z座標が加わるともうダメです。カンベンしてください。

  もうナミダも枯れ果てた三回目。
  取付け位置を右に2ミリ,左方向に1.5度傾けて,三度目の正直。

  この半月がつけば,もう修理完了!----ってくらいだったのですが,貼っちゃあハガしをくりかえした影響,とくに板への負担を考えて,三日ほど次の作業に入れませんでした。

  すべてワタシが悪ぅございました。(泣)


  ……後悔とザンゲの日々を過ぎ,さあラストスパートです!
  全身クギまみれにされてはいましたが,月琴40号,古物の月琴としては欠損部品の少ないほうで,なくなっていたものは蓮頭(もともとついていたのはオリジナルにあらず),山口(トップナット),フレットに扇飾り。どれもたいしたものではありません。

  蓮頭はだいぶん以前に,自作楽器・ウサ琴シリーズの予備として作ったものをとりつけました。
  ただ染めて塗っただけの雲形板ですが,資料を見ると,この作者の楽器の蓮頭は,同じような無地の板が多かったようです。全体に地味なデザインの楽器でもありますから,今回はあえて凝らない方向でまいります。

  山口はカリンで。指板が取付け部手前で切れている形式ですので,指板の厚さぶん高めに作ります。

  調査報告の中でも紹介しましたが,扇飾りにはこういう(左画像参照)感じのものが付いていたと思われます。 たぶん鳳凰か龍をとことん簡略化したものじゃないかとは思われますが,なんかぬるっとした邪神様か寄生生物のよう。さすがにこれをそのまま彫ると,庵主のSAN値が直撃されそうなので,フォルムだけいただいて,楽器ですし 「弁天さま(=ヘビ)と宝珠」 という,比較的分かりやすい意匠に変えさせていただきました。

  右の目摂のシッポが欠けてますので,左のお飾りから型をとり,ホオ板の端材で補いました。
  続いて,この部品の裏がわには,おそらく東谷のゾウさんについてたのと同じ,耐水性のある強力な接着剤が全面に塗られていましたので,両面テープで角材に貼り付け,擦り板で削り落とします。なんせこのままだとニカワも滲みてくれません。
  この菊のお飾り,どうやらクスノキの板で出来てるようですね。
  裏を削っていたら,嗅ぎ覚えのある独特のニオイが……打楽器や細工物には使われる材ですが,月琴で使われてるのを見たのはハジメテですね。

  フレットは前回28号の修理で実験的に作ってみたもの。
  今までにない染め方で古色をつけ,けっこういい感じのアメ色になったのですが,けっきょく使わなかったのですね。
  ちょうど1セットぶんあるし,サイズ的にもさほど違いはありません。染めのほうは例によって,(庵主の脳内範囲での)人智を超えたカガクハンノウのたまものですので,もう二度と再現できないかもしれません(W)が,まあせっかく作ったモノなので使ってしまいましょう。

  オリジナルの位置にフレットを置いたときの音階は----

開放
低4C4D-34Eb+314F-214G-164A-495C-265D-425F-33
高4G4A-64Bb+385C-125D-215Eb+385G-335G#-5A6C-48

  この楽器の音階としては,比較的そろっているほうだと思います。第4フレットは釘打ちの影響で正確な位置が分かりませんでしたが,だいたい面板の端のほうにあったようなので,32号の記録等も参照し,山口から135に位置するものとしました。


  音階を記録し,フレットを西洋音階の位置に,手入れしたお飾り類を貼り付けたら。

  月琴40号クギ子さん,修理完了です!


  この人の楽器を修理すると,だいたいいつも思うことなんですが。
  口惜しいほど音がイイんですよね。
  修理していると,工作の粗さやデザインのテキトウさが目について 「このやろ~」 とか思うんですが,仕上がってみると,きちんとマジメに,ていねいに美しく,精緻に作られた楽器より,はるかに音がいい。
  ----なんなんでしょうね,これは。

  伸びのある音,大きくはないけれど美しい余韻。
  内部構造,とくに響き線なんかは大きく異なりますが,音色はやはり唐物に近い感じがします。
  前作32号に比べると,胴体にカヤ材を贅沢に使っているためずっと重たいのですが,バランスは悪くない。そしてその分厚い胴体のおかげでしょう,低音の響きが素晴らしい。
  棹を傾けたため低音域のフレットは高く,高音域はかなり低くなっています。加えて調整もうまくゆき,ほぼフェザータッチで音の出る,この楽器の操作性としては理想的な状態になっています。

  あーもったいない,ほんとにもったいない。
  こんな好い楽器をクギだらけにしよるとわ…


  欠点といえば,その補修痕がまあ,どうしてもそこそこ目立っちゃうというところと。使い込まれて糸巻きがかなり減ってること,あとはお飾りなどが多少地味なところでしょうか (赤いヒヨコとか32号のぬるっとした「コウモリ」なんか考えますと,個人的には,この楽器のお飾りは,このヒトの彫ったモノとしては,かなりマトモな部類だと思うのですが www)

  ぱッと見にはさしたる特色もなく,中級普及品くらいって感じですが,音色は確かにホンモノ----それどころか月琴という楽器の,「音」を追求した実用本位の一品としてはかなりの上物です。

  クギ打ちの暴挙から復活して,ようやく「楽器」に戻れたクギ子さん。
  できるならこの後は,「楽器」としてシアワセになってもらいたいものです。

  試奏はこの曲で。
  同時修理の39号でも同じ曲を演ってますので,音色の違いなど聴き比べてみてください。



(いちおう,おわり)


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