« 月琴39号 東谷 (4) | トップページ | 月琴40号クギ子さん (5) »

月琴40号クギ子さん (4)

G040_04.txt
斗酒庵 またまたアイツに出会う(W) の巻2015.5~ 月琴40号 クギ子さん (4)

STEP4 一分のカケラにもゴミみたいな命がいとおしい


  ほとんど虫に食われてスカスカの板もあります。変なカタチに切り取られた板もあれば,1センチに満たない破片もあります。

  一見ゴミ,に見え----何度見てもやっぱりゴミなのですが,これは過去の修理で出た古い面板の破片,言ってしまえばやっぱりゴミです。こういうものをさも大事そうにとっておくような爺ィは,ボケたら間違いなくゴミ屋敷を作るようになりますから注意してください。(W)

  胴体も棹もバラバラなら,表裏の板もバラバラ。完全バラバラのムッシュバラバラな40号クギ子さん。懸案のクギ抜き作業は,クギのカケラと鉄サビの滲みた木屑で軽く一山ぶんの犠牲は出したもののなんとか終了。

  半月と棹や側板,堅い木の部分にあいたクギ穴はすべて埋め込みましたが,柔らかいところ,表裏面板のクギ穴がまだ残っています。

  面板は,オモテもウラも完全バラバラ,穴だらけ。
  正直新しい板で張り替えたほうがラクなんですが,このクギ穴,この楽器のアイデンティティであり歴史である,とも言えなくはありません。もちろん,そのまま残すつもりはありませんが,この圧政者による不当な扱いを後世に伝え,万国の労働者を奮い立たせるためにも,なんとなく残しておきたいと,庵主は胸に思うわけです(意味不明.W)

  まずはクギ穴を埋めます。----この板の場合 「クギの穴」 というよりは,ペンチやニッパ-で釘の頭をホジくりだしたときについた 「作業痕」 ですね----サビ釘の入っていた穴の周囲にできたそういうヘコミを,アートナイフで不定形にホジくります。
  そこを薄く削った面板の破片で覆ったり,木粉パテをつめこんで充填----これを表裏すべての小板のすべての釘穴ひとつひとつに順繰り施してゆきます。表板だけで20箇所くらいあります。そのほかに板裏や矧ぎ面の虫食いや,損傷によるヘコミ,割れ欠けなんかも埋めましたからね~,けっこうな作業量です。

  補修でできたハミ出しや表面の凸凹を整形し,小板を矧ぎ直して,丸い一枚の板にもどします----まずは表板から。
  作業は2段階に分けて,慎重にやっていきます。
  割れたまま何年も放置していたもので,虫食いのほかにも板の収縮による狂いが出てるところもあります。矧ぎ継ぎ面の調整を少ししてから,まずは左右端の2枚をのぞく真ん中の部分を再接着----左右を直線にしておくと圧がかけやすいので,こんな薄い板でも,よりしっかり接着できますからね。
  一晩おいて問題がないのが分かったところで,残しておいた左右端2枚を接着。

  再生した表板に,側板を接着します。
  これも順繰り,まずは天地の側板。
  板はあらためて計りなおし,中心線とか四方接合部に目印を付けてあります。
  板も側板もわずかですが変形してしまっているので,もとの位置にはおさまりません。組み合わせた時に,それぞれの部材をもっとも整形しなくて済むような位置や角度を微妙に探りながらの作業です。

  結果,表板に合わせた場合,天地の側板は左右端が0.5ミリほどでっぱり,楽器に向かって右下の接合部に,3ミリほどのスキマができてしまいました。前にも書きましたが,この楽器は構造上,上下方向への支えになるものがほとんどないので,使っていれば弦のテンションによって,天地の側板が広がり,左右の側板はわずかに縮むわけですね。

  まあ,百年で3ミリなのですから,これはこれである意味たいしたものなのかもしれません。(w)

  この後の作業はしばらくこの,裏板のないオープン状態で行うことになります。

  オープン状態じゃなきゃできない作業その1。
  まずは胴体四方の接合部の補強。太清堂の楽器「赤いヒヨコ」「ぬるっとさん」には,どちらも接合部の裏面に補強の小板が接着してありました。

  接合部の裏面に黒く接着痕が残ってますから,この楽器でも同じ工作がされていたのは間違いないのですが,オリジナルの補強板はすべてなくなってしまっています。
  接合部の大きなスキマをツキ板などで埋めてから,桐板の端材を削り。接合部のデコボコに合わせて接着します。オリジナルの工作はここまでではなく,単に四角く切った小板を渡して接着した程度だったようですが,もちろんこちらのほうが,より強固な補強になります。
  さらにここは後で,上から和紙を貼り柿渋で補強しておきましょう。胴材が密着しているかいないかで,この楽器の響きは大きく変わります。また,手の届かない内部の部品ですから,かんたんにハズれてもらっちゃあ困りますもんね。ちょっとしつこいようですが,転ばぬ先の善後策を講じさせてもらいます。


  本格的な板と側面の均しは,胴体が箱になってからやりますが,接合部の補強も終わり,胴体構造が安定したところで,この後の作業のため,棹口のところだけ先に少しキレイに整形しておきましょう。

  修理前の全景画像など見ていただけると分かるんですが,工房にきた段階でこの楽器の棹は,表面板がわに傾いていました。一つには延長材が抜けて,棹がクギ打ちされてたせいもあるんですが,棹基部を調べた結果,もともとの設定でもよくて胴水平面と面一,もしかすると,これと同じくわずかに表面板がわに傾いてたらしいことが分かってきました。
  このブログで何回も書いてるとおり,月琴の棹は山口のあたりで,胴体水平面から背側に3~5ミリ傾いているのが,本当は理想です。

  今回の場合,さいわいにも延長材がすッぽ抜けて,いかにも 「やってくれ」 と言わんばかりの状況になっております。棹の基部,胴体に触れている部分と延長材の接合部分を削って,棹の傾きがちょうどいい角度になるように調整してあげようと思います。


  まずは棹基部を斜めに削って,棹を挿したときに理想の傾きで固定されるようにします。(画像左) ほんの1ミリ,削るか削らないかですが,棹全体としては大きな動きになるので,ちょっとづつ,丁寧にやっていきます。
  それが終わったところで延長材の調整。棹本体の接合部にさしこむ部分を削って,延長材が内桁のウケにきっちり入るように角度を調整します。(画像中) 胴体が箱になってる状態だと,あとどんくらい削れば,延長材がウケに入るようになるか,分からないですからね。この作業もオープン状態じゃないとうまく出来ません。

  調整の結果,棹と延長材があさく「への字」になり,(画像右参照)棹を挿すときに少しコツが要る(w)ようになりましたが,棹孔や内桁のウケに工作上の余裕(テキトウ,とも言う)が若干あったおかげで,これ以上の加工をしなくて済みました。テキトウばんざい!


  内桁も接着しておきましょう。
  やはりこれ,材はクリのようですね。
  接着の準備作業で分かったんですが,この木,水はけが良すぎて,ニカワがなかなか表面まであがってきてくれません。 まあその耐水性のよさを買われて,家の根太なんかに良く使われる材ですから,とうぜんつっちゃあとうぜん。
  面板裏面に作業した痕跡はあるのにニカワが残っていないのも,おそらくこれのせいでしょう----ふつう使われるヒノキとかスギみたいな感じで,おざなりにペッっと塗ったぐらいじゃ,間違いなくニカワ不足でハガれちゃうでしょうね。先人の轍を踏まぬよう,20分ぐらいかけて筆で水分とニカワを馴染ませ,材の表層が飽和状態になり,浮いてきたニカワで表面がちょいとベタつくようになったところで,これを同様によく濡らして薄く溶いたニカワをしませておいた面板に置き,重石をかけて圧着します。

  内桁の表板がわの両端は,例によってほんの少し斜めに落としてあります。
  何度か書きましたが,表板と内桁をより確実に密着させるための小技ですね。

  これで裏板を矧ぎ直してへっつければ,胴体は箱に戻るわけですが,ここでまた一工夫。
  すでに書いたように,わずかではあるものの狂いの出てる胴体に真ん丸い板をもとのとおり貼り付けるのは不可能です。表板のほうは部材を「板に合わせて」組んだので,板との段差は最小で済ませることが出来ましたが,裏板はそうはいきません。 裏板にはスペーサーを組み込んで横幅を少し広げ,整形による板や胴体への負担を最小限におさえる工夫をしましょう。


  裏板はぜんぶで8枚の小板によって構成されていますが,真ん中に近い右から3番目と4番目の板の間に幅3ミリほどのスペーサーを後で入れることとし,まずはこの左右の小板をそれぞれ継ぎ接ぎ,真ん中は接着しないでおきます。
  いつもですと,だいたいの幅のスペーサーを入れて矧ぎ直し,横にハミ出たぶんの板を削って仕上げるのですが,今回は板が傷物です。ハミ出させるとちょうどそのキズを補填した箇所にあたりいろいろ厄介。胴体が横方向に広がってることは間違いないので,板を二つに分け,左右をなるべくぴったりに貼りなおし,広がったぶんをきっちり埋めてゆこう,という作戦なのですね

  さて,ここで問題が一つ。 左から3番目のせまい小板だけが厚みが違ってます(0.3ミリほど薄い)ので,このまま戻すとここだけうまくへっついてくれません。
  桐板の端材を切って削って薄いパッチを作り,周縁と内桁に触れる部分に接着。面一に整形します。うーむ,なんでこんな板継いだものかな………もとから裏板には表板より質の劣る板が使われるものですが,それにしてもヒドいな~(汗)
  裏板にはこのほかにも大きなエグレのある小板などもありました。このエグレは桐板を作る時に打った竹釘の痕なのですが,これと隣り合う小板にこの延長にあたる痕跡がないところから,この板自体が古板を継ぎなおしたリサイクル品(w)なのではないかという疑いも出てきましたね。

(つづく)


« 月琴39号 東谷 (4) | トップページ | 月琴40号クギ子さん (5) »