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月琴41号/42号 (2)

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斗酒庵 ひさびさの平行作業 の巻2015.9~ 月琴41号 キリコさん/42号 蝉丸 (2)

STEP2  メタフィジカルな風景

  この世には2タイプのニンゲンがいる。
  「夏休みのしくだい」 を夏休みちゅうに仕上げられる奴と,夏休みが終わっても,まだやっている奴だ。

  夏前に買い込んだ壊れ月琴は4面,その後3面ばかり増えて。
  一時期,四畳半一間のわが工房に,手持ちの楽器含めて11面もの月琴がみっちり詰まってたりもしてました。前にも書きましたが,まン丸の目玉オバケみたいなこの楽器に,360°囲まれて生活するのは,なにやら 精神衛生上あまりヨロしくはない 気がいたします(w)ので,一刻も早く,一面でも片づけてまいりたき所存。

  依頼修理の2面,ヨソさまの楽器がはけたので,夏前の自出し月琴を,まずは順番通りに直していきましょう。

  41号は作者不明。
  棹から胴体まで,ほぼ 「総桐造り」 という,ちょっと変わり種の月琴です。

  まずはお飾りハガしから。
  胴体左のお飾りは,縦横むざんに食われておりました。食害は下の桐板だけでなくお飾りの裏面にもおよんでいます。
  こりゃなかなかタイヘン。

  山口とフレットは象牙ではなく牛骨のようです。
  山口は上下逆さに取り付けられてましたし,あらためて棹に当ててみると,幅もぜんぜん合ってないので,もしかするとどちらも後補の部品なのかもしれません。

  棹は「染め」ではなく「塗り」ですね。
  ----おそらくはベンガラかと。
  かなりヨゴれてたんで拭いたら,けっこうハゲちゃいました。

  現在,この楽器の棹は表板がわにかなり傾いてますので,これをちゃんと楽器の背がわに向けるため,棹基部から延長材をハズします。
  なんせこの棹,桐ですからねえ----柔らかいもんで弦のテンションとかに負けちゃったのでしょう。下手すると延長材のスギの木のほうがカタそうです。(w)
  長く使えるようにするには,やはりなんらかの補強が必要でしょうね。

  接合部の補強策は後で考えるとして,まずは棹がちゃんとした角度で,きちんと収まるように調整しておきましょう。延長材をはずし,胴体との接合面をちょっと削ります。
  オリジナルだと水平に近いので,もう少し傾けときますね。

  延長材の差し込み部分も,新しい設定でちゃんと胴体におさまるような角度に削り直します。

  この桐の棹の,もう一点不安なところは,糸倉です----弦楽器の中でいちばん力のかかるところのひとつ。
  前回書いたとおり,月琴の弦圧は絹弦張ってる限りたかがしれているので,強度的には問題はないものの,耐久性の面ではやはり不安が残りますね。

  とくに不安なのが糸巻周辺。
  糸を張るのに,楽器の音を合わせるのに,けっこうギリギリ回しちゃいますし,しょちゅうぐいぐいネジこんじゃいます。
  さらにこの楽器の糸巻の穴は,楽器職がよくやる焼きぬきではなく,ツボギリの類でただあけただけのものです。ただ使うだけなら当座は問題ないでしょうが,やはりこのままだと,使ってるうちにコスれて削れてどんどん広がっちゃいそうですんで,まずはここを補強しておきましょう。

  ふだんウサ琴の製作で使っている焼棒で,糸巻の穴を焦がして,内壁を焼き締めます。そこに柿渋をしみこませ,乾いたらまた焼き入れ……と何度かくりかえし,穴を強化しました。

  強度的に前よりはマシになってるはずです。(w)



STEP2  しるもしらぬもあふさかのせき


  42号も修理開始。

  ----とはいえ,まず問題なのは,このナゾな構造をどうするか,ですね。
  「修理」 の本筋から言えば,もともとこういう構造だったんだから,この構造のまま使用可能な状態に戻す,というのがふつうなのですが----庵主,どうもナットクがいきません。

  まずは 「なぜこんなふうにしたか?」 が知りたいですね。

  安物の量産月琴で,加工の手間を省くため,というのなら理解はゆくのですが,主材はカヤ,もとはお飾りも満艦飾だったでしょうし,材料も工作・加工も,廉価品のそれではありません。

  そこであらためてこの棹を詳しく調べてみることにしました。

  中途半端な長さに切られたなかご部分と,それを支えるため裏板に接着された木片は,おそらくもとは一本につながっていたのだと思われます。
  木片は現在の棹なかごより5ミリほど厚いのですが,これは加工途中に切断されたと考えれば問題はありません。実際,棹のほうにある部分の側面の線を延長してゆくと,枕木になっている木片の側面のラインにばっちりつながりました。

  これをもとに,もとあった棹なかごの長さを推定すると160プラマイ2ミリとなりそして,もしこれを現在の棹の角度でこの楽器に組み込んだとすると,棹なかごと表板の間隔は,上桁のところで3ミリくらいしかなくなります。

  さらに現在胴体に挿しこまれている部分が不自然な長さであり,通常の月琴でよくあるように延長材を挿すような加工もされていないことなどから考えますに,まず----

 1) 作者は棹を "一木削り出し" で作ろうと考えた。

 2) しかし,なかご部分の設定を間違ったか,工作をしくじって,そのままではなかごが表板にぶつかってしまうこと,組み込めないことに,加工の途中で気が付いた。

  ----と,推測されます。
  棹の角度の調整工作はけっこう微妙なものですので,実際組み込んでさらにちょっとでも角度がついてしまったら,間違いなく棹なかごの先端が表板から突き出す(w) 事態となりましょう。また,うまく推定される「3ミリ」残した範囲に仕上げられたとしても,内桁は柔らかい針葉樹でできてますので,それでは強度に不安が出ます(泣) そこで----

 3) 表板にぶつからない範囲でなかごを切断し,胴体にはまるように加工。

 4) 短いなかごだと弦のテンションに耐えられるか心配だったので,棹背がわに先端部を接着,傾き防止のブロックとした。

  ----ってとこでしょうかね。
  もし,知識と経験のある作者さんなら,ここで一木造りをあきらめて,延長材を挿すふつうの構造に変更すると思うのですが,おそらく原作者は一木造りにやたらとこだわりがあったのか…いいえ,工作から見る限り,たぶん単純にほかの構造を知らなかったんでしょうねえ……それでこんなヘンテコな工作をして,とりあえず完成させた,ってとこでしょうか。

  完成はしたものの,ほとんど演奏痕がない状態から考えて,お店のカンバンにでもしてたんじゃないでしょうか。満艦飾になってたのもそのためかもしれません。(類似例:「N氏の月琴」

  接合部にニカワがやたら大量に使われてたり,枕木の加工があまりにも雑だったりしているとこからすると,かなりパニくってたか,あるいはヤケになってたのかもしれませんね。ほかの部分の加工の精緻さから見るに,もっと落ち着いてじっくり一息入れてれば,この人ならもう少しマシな工作を思いついたかもしれないのですが。 あわててやった仕事はロクな結果にならない----というのは今も昔も変わりがないようですな。ものつくりの場合,その最悪の結果のひとつが,後世,そういう 「やっつけ仕事」 をこうやってアバかれ,書きたてられたりすることでしょうよ。

  庵主も,ふかくムネに刻んでおくことといたしましょう。(汗)

  さてこれを 「原作者の失敗」 と処断したからには,「修理」 とはいえ,わざわざその 「失敗した結果に戻す」 という必要はありますまい。

  もっとも,以下の作業は 「修理の本筋」 からははずれた 「改造」 にあたる行為となりますが。 まずは原作者が失敗したところまでたち戻り,そこから彼が本来やるべきだったベストの工作を,百ン十年後の庵主が,彼に代わってやることとします。
  何度も書いてるように,庵主の修理はあくまで 「楽器の再生」 のためであって,「古物をもとの姿に戻す」 ためではないからですね。

  そのままだと多少長すぎるので,まずは棹なかごをすこし短くし,V字の刻みを入れます。

  米栂材で延長材を作り,本来原作者が目指していたはずの角度で内桁に挿さるように,角度を調整して接着。
  つづいて,延長材のウケになる部品を切り出し。

  上桁の穴にハメこんで接着。 かなりがっちりとはまりましたが,接着しただけでは多少不安なので,ニカワが乾いたあと,左右に穴を通して竹クギを打ち込んでおきます。

  これで棹は胴体にばッちりと挿さりました----しかも 「ふつうの」「よくある」 形式で。

  棹を胴体に直接固定せず,穴をあけてただ挿しこむという,このスパイク・リュートの三味線形式は,それはそれで欠点がないわけでもありませんが,最大の利点の一つは 「棹が壊れても(もしくは胴体が割れても)交換することができる」 という点です。

  ウサ琴による製作実験や過去の修理から分かったよう,この楽器の棹はきわめて短いために,その材質や工作は,三味線やギターほど楽器の音色に影響がありません。 この楽器の音の良しあしは,ほとんどその胴体の構造と工作によって左右されます。 また胴体が円形で,衝撃などにあるていど耐性があるのにくらべ,棹の部分はそこから目立って突き出ているだけに,この楽器でもっとも弱く,かつ壊れやすい部分にもなっています。 それでこのスパイク・リュートの構造上の利点を,わざわざ捨て去るのはあまりにももったいなく,かつ意味がありません。

  ましてや,その変更の理由が 「音の追及のため」 とかならまだしも,明らかに 「失敗の結果」 であるならば,修理前と多少音色に違いが生じたとしても,庵主は今回のような行為に走っちゃうでしょうね。

  とはいえこんなこと,修理者としてあえてやりたいものではけっしてありませぬ。
  もー!もー! かんべんしちくり~ッ!!

(つづく)


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