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天華斎/バラバラ鶴寿堂 (4)
KN_04.txt
2015.9~ 天華斎/バラバラ鶴寿堂 (4)
STEP4 再生の未来
さて,
本体部分の修理も順調ですので,ここらで糸巻を作っておきましょう。
第1回で触れたように,現在この楽器についている糸巻は,後補の
三味線風に削られたもの
で,楽器に合っていません。いや,ヴィジュアル的なおはなし(w)ではなくて,ちゃんと
「月琴の糸巻」 になってない
んですね。
こないだ修理した38号は保存が良く,糸巻もおそらくオリジナルと思われるものが4本そろっていました。庵主の手元にある資料でも,
天華斎のオリジナル部品
と思われる糸巻はだいたい同じ形をしています。
国産月琴の糸巻は,
角が立った六角軸
で,各面に1本もしくは3本の溝が刻まれている形のものが多く,その溝もあまり太くなく深くもありません。
一方,唐物月琴の糸巻も基本は六角軸ですが(まれに八角形もあり),
各面の角は丸く,溝が深く広く
なっています。 国産月琴の一般的な糸巻よりは,薩摩とか筑前琵琶の糸巻に近いカタチかもしれません。
現代中国月琴の糸巻も,溝が多く握りのふくらんだ円軸が多いのですが,百年前の中国月琴も,これに近くほとんど円軸なんですね。 国産月琴の糸巻が角の立った六角軸なのは,おそらく作りなれた
三味線の糸巻の影響
でもありましょう。
今回の楽器はかなり使い込まれているせいか,
左右で穴の大きさがかなり異なっている
のに,糸巻のほうはほぼ同寸同径で作られているものですから,なおさら一部の糸巻がユルユルになっちゃってるんですね。
それぞれの穴に合わせて,きっちり削った糸巻を作ります。
材料は例によって¥100均の麺棒----ううむ,さすがに使い慣れてきましたよ。
材質は庵主が前から使ってきた丸棒と同じ,スダジイだと思われます。
1本が36センチ,糸巻1本の長さが12センチですから,3本とれます。
この2面のあと,5面以上の自出し月琴たちの修理も控えてますので,ちょいと削りまくりましょう。
えっさかほいさ,ギーコギコ!
丸棒の4面をピラニア鋸で斜めに切り落とし,ヤスリで六角形にそろえます。
……一週間で,15本も削りました。
もうしばらく糸巻の顔もお尻も見たくないきょうこのごろ(w)です。
六角形の素体の山から,デキの良さげなあたりを4本取り出し,まずは先端のフィッティング。上に述べたように一つ一つの穴が微妙に違う寸法になっちゃってますので,それぞれに合うよう,
実際に挿入して回してみながら削ってゆきます。
ぴったりになったところで,ミゾを刻み,ヤスリで広げて完成。
天華斎の糸巻はお尻の部分があんまり尖っていません。
また,国産月琴では側面が軸尻に向かってなだらかに,ラッパや朝顔のように広がってゆくカタチになっていることが多いのですが,天華斎の
側面はだいたいまっすぐ。
このへんもおさえて削ってゆきます。
カタチができたら,磨いて染めて。
今回は
ヤシャブシに少しスオウ
を混ぜ,ツゲに近い黄金色に。
亜麻仁油と柿渋で仕上げてあります。完全に乾燥・硬化するまでには何か月かかかりますが,その間も使えますし,
使ってるうちに古色が出てくる
でしょう。
今度はほぼぴったしに作ってるんで,操作の時のヘンなガタつきもありません。
補作部品その2は 「バチ皮」。
もとついてたこれが製作当時からのオリジナルかどうかはちょっと不明ですが,オリジナルじゃなかったとしても,かなり古いものですね。
ヘビのバチ皮はよくめくれたりハガれたりするので,そのたびに破けたり切ったりしたんでしょう。縮んだんじゃなく,
かなり小さくなっちゃってます。
オーナーさんのご希望により,ひさしぶりにヘビのバチ皮を作ります。
材料はまえに弦子(中国三味線)の張替えで使った皮の残り。柄もちょうどいいところが残ってるんで,これでイキます。
まずはヘビ皮を水に漬け,一晩ほど。
柔らかくなったとこで裏の白い部分をこそいで薄くし,
和紙を重ね張り
して裏打ちします。
オリジナルは直貼りでした。
生皮なんで,水に濡らすと裏面にニカワ分が出て,それだけでも貼りつくんですが,古い楽器の面板に新しい皮を直接貼ると,
皮が強すぎて板を破壊しかねません
ので,緩衝材として和紙を貼るわけです。これだと縮んだ皮が直接引っ張るのは和紙なので,ハガれるときも下の板への影響は少なくて済みます。
数日板に貼り付けて伸ばし,乾いたところでこんどは
表がわから柿渋をしませます。
柿渋のタンニンには皮をなめす----つまり柔らかくする効果があります。また時間とともに古めかしく変色するので,古色付にもなるわけですね。
さらにこの後,表がわからもこそいで,徹底的にダメージを与えます。
とにかくすこしでも弱らせておかないと,心配なものですから。
正直なところ庵主としましては,これだけ傷んだ古い楽器にヘビ皮は貼ってほしくありません。
できれば錦か古裂に替えてもらいたいところです。
唐物月琴において,この皮は完全にオリジナルな状態で残っているものが少ないので,正直どういうふうにカットされていたのか分かりませんが。とりあえず今回は,楽器の姿に合わせて,
両角を丸く切ったカタチ
にしてみました。
接着はヤマト糊。
端がメクれたりハガれてきたような時には,筆で皮のそのあたりを濡らしてしばらく置き,柔らかくなったところで裏面にまたヤマト糊を塗り,手のごいでもかぶせた上からから本か何かたいらなもので重しをかけ,しばらく(1時間ぐらい)おいてやってください。何度でも平らになるし,何度でもくっつきます。
ここに関しては再接着の際には,ボンドはもちろん,ニカワのご使用もかたくお控えください。
STEP4 トラはよみがえる
バラバラ鶴寿堂は裏板のスペーサーの埋め込みから。
28号についてた裏板の一部を使いましょう。いくら科学が発達しても,百年前の板はそうそう作り出せません。過去の修理で出たこうした古材は,やっぱり
お宝
ですよね~。
ちょうどよくハマるように削った板に,
ニカワを混ぜて少しユルめに練った木粉粘土
をまぶして押し込みます。一晩おいて整形。
すこしよれたように曲がってる割れ目だったんですが,けっこうきれいに埋まりました。
28号の裏板は目が詰んでいて丈夫なうえ,かなり厚めなので,合わせの作業もしやすかったですね。
整形で出たこのカンナ屑も,
袋に入れて大切にとってあります。小さなヒビ割れなどを埋めるときに使えますからね。
裏板がきっちり胴体を覆うよう,スペーサを入れて左右幅を広げたわけですから,板の左右端は胴体から少しつきでてるわけですな。
つぎはこれを削り落とします。
そのほか経年の変化により,天地の板がわずかに広がって,左右の端が最大で 0.5ミリほど板からハミだしてしまっていますから,左右端の板といっしょにこの部分もこぞぎ落とし,胴体を面板ぴったりのまン丸にいたしましょう。
ついでに側部全体をちょいと磨けば-----
ほ~れほれ!
見事なまでの虎杢が浮かんできましたよ~っ!!
なんてうつくしひ…………
つづいて棹と胴体のマッチングにとりかかります。
さすが鶴寿堂----まいど問題になる棹の傾き角度なんかはバッチリ理想的。
でも,少しだけガタつきがありますねえ----と棹口を見てみたら。
原作者でしょうか,前の所有者の仕事でしょうか。
棹口の内側に薄いスペーサが貼り付けてあったんですが,これが
一部欠けて
しまっていたようです----ガタつきの原因は,コレですね。
棹基部のほうに,欠けてるぶんにあたるツキ板を貼り付けて調整します。そのほか,使用上は問題ないと思うんですが,左右にもわずかにガタつきがありますのでそのぶんの修正もしておきましょう。
ここの調整ひとつで楽器の操作性が格段にかわりますんで,棹と胴体のマッチングは,月琴に限らず三味線でもギターやバイオリンでもいちばん繊細な部分です。
庵主なんて言うてもシロウトですからね。
ここの調整にはヘタすると,あーでもないこーでもないで三日ぐらいかかることもあるんですが,
今回はブナのツキ板2枚をへっつけただけ,
ほんの2時間ていどで済みました。
これも原作者の工作がエラいおかげです!
あのバラバラだったのが…こんなにもリッパな楽器に(泣)
(つづく)
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