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天華斎/バラバラ鶴寿堂 (3)
KN_03.txt
2015.9~ 天華斎/バラバラ鶴寿堂 (3)
STEP3 天の求めるままもどせ
接合部の補強はうまくいきました。
内側に貼った桐板はたかだか厚さ2ミリほどですが,これはあくまでも
補修部分の保護
が目的,あとは接合部に加わる様々なチカラを分散させる,
緩衝材的なハタラキ
に期待。
ここで響き線を戻しておきましょう。
過去の修理で線を固定するためニカワを使ったせいで,根元がサビて破断しかけていたのですね。
この細い線の根元に,
盛り上がるくらいのニカワが,真っ黒に変色して
こびりついてました。
ニカワは外気に触れている状態では,自由に水分を吸ったり吐いたりします。
水気たっぷりのスライム
でいつも包まれてるようなものですから,腐食も進んだのでしょう。使うなら空気の入らない,密封・密着したとこで使わなきゃなりません。再接着するなら38号のように,ニカワの代わりにウルシを使う,というのも手だったでしょうね。
庵主は現代人なので(w)エポキを使うことといたします。
腐食部分を切除して曲げ直した基部にちょっと塗って,もといたアナにもどすだけですが,硬化するまで線の下に
当て木
を置いて,理想的な角度で固まるようにしておきましょう。
根元がカッチリ固まったところで,線の角度や曲りを微調整します。
基本的には,演奏姿勢に構えたときに,線が
完全片持ちフローティング
な状態----胴の中で,どこにもぶつからず,ただぷらぷら揺れてる----になるのが理想です。ただ,演奏者がいつも完全な演奏姿勢をとれるわけじゃありませんから,このくらいまでは傾いても大丈夫,このくらいまでは前かがみになっても大丈夫,と,
あるていどの幅
ももたせなきゃなりません。
国産月琴によくある直線や,曲りの浅い弧線の場合は,調整つても大したものじゃありませんが,こういう長い曲線になると,これが
なかなかに大変です。
根元での少しの変化が,先端では大きな動きになってしまいます。あっちを押し,こっちを戻して,けっこうまあ時間もかかるし,神経もすり減りますね。
なにせ,この部品は月琴の音のイノチ。さらにそんなに重要な部品でありながら,胴体を箱にもどしてしまうと,基本的にはもうアクセス不可能な部分ですので,慎重にも丁寧にもなりますよ。
ずっと言っているように,
この楽器の主材であるタガヤサンというのは,唐木
最強にして最凶
な木材です。この木の怖いところは,木の質により気まぐれにより,
とつぜん裂けたり割れたり
するところです。硬くて丈夫な木ですが,よほどの幸運がないかぎりまっとうに使える大きなカタマリには出会えません。よしんばそういうカタマリがあったとしても,それがどこから,いつ裂けたり割れたりするのか…
なかなかにロシアンルーレットな材料
なのですね。
この楽器の棹もそういう,内部から裂け割れるたちのある,カタマリだったようです。
従前の調査でも触れたように,糸倉の右横から指板部分を斜めに貫通するように,大きなヒビが見受けられ,原作段階で補修がなされたらしく木糞漆と思われる硬くて丈夫な充填材が,割れに沿って埋め込まれています。
もともと割れやすい性質をもっている材ですので,その補修済みの個所のほかにも,棹のあちこちに
小さなカケ
や,
細かなヒビ割レ
が入っており,いくつかは,いまにもハガれそうになってます。
こうしたキズは小さなものでも,指がひっかかったり,服の袖がひっかかったりといったことから,いづれ
ボロリとでっかく割れちゃう原因
とならないでもないので,先手を打って,一つ一つ丁寧に埋めては整形してしまいました。
思い出のある楽器なので,キズは残しておきたいというご希望でしたが,主に人的由来のキズではないので,ここは楽器の寿命と操作性の向上のため,手を入れさせていただきます。
STEP3 鳥の求めるままもどせ
さて,鶴寿堂のほうは表板がわの再組立てが完了しました。
板の割れ目がほぼもとからの矧ぎ目に沿ったものだったのと,バラバラだったもののその後の保存が良かったため,
ある意味ただ組み立てただけ
ですが,ほとんど痕も目立ちません。
棹も挿してみましたが,ほぼ無調整でスルピタ----何の問題もありません。
これも原作者の木取りと工作がいいので,中心線がほとんど狂ってなかったおかげですね。
これよりハガした
裏板の矧ぎなおし
にとりかかります。
裏板はぜんぶで4つの部品に分かれています。
あとでハガした左右端の2枚と,もとからハガれてた真ん中の2枚。
まずはこれを継いで,左右2枚の板といたしましょう。
板自体の収縮と,胴体が目当てのつけにくい円形であるせいもあり,この楽器の表裏板はもとの位置に正確にもどそうとしても,そのままではどうしてもうまくいきません。ですので貼り直すときには,
中心近くにスペーサー
を入れて左右幅を広げ,胴体を完全にカバーできるだけのわずかな余裕を作ります。
左右の割れは矧ぎ目からのものですが,中央の割れは人為的にへし割った類のもの。やや斜めに蛇行していますが,今回はここをスペーサーを入れる場所としてあけておきましょう。
矧ぎなおしといっしょに,もともとあった板のアラやら,剥離の作業等でついた周縁のエグレやキズは,丁寧に埋めておきます。裏板に向かって左がわ,中央の板の下端に
板の節目由来の大きなエグレ
があり,ここだけ厚みが半分以下になってました。この楽器の裏板は,表板よりは劣った材料の使われることが多いんですが,それから考えてもかなりギリギリな板だったかと。またこの真ん中の板は,
木目が混んでいてかなり暴れやすい仕様
になっています。できればいっそ,取り替えちゃったほうが良かったかもしれません。
板を胴体に戻す前に,
ラベル
を剥がしておきましょう。
ふたつに割れちゃってますが,ここにちょうどスペーサーが入りますので,作業のジャマになりますし,ちょっと傷んではいますが,この楽器の由来を示す,なにより貴重な資料でありますから。
糊付けしてあるだけなので,ちょっと濡らすとカンタンにハガれてきます。薄い和紙で裏打ちしておいて,スペーサーを入れてから戻すこととしますね。
こうして準備のできた裏板を,
左右周縁が胴体から少しだけハミ出ているカタチ
で再接着します。
さてこれで,バラバラだった胴体が,一つの箱の形にもどりましたね。
あと一息です。
(つづく)
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