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天華斎/バラバラ鶴寿堂 (2)

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斗酒庵 南からの修理依頼 の巻2015.9~ 天華斎/バラバラ鶴寿堂 (2)

STEP2 未来のために破壊せよ/天華斎


  それでは修理開始とまいります----今回はこの2面のあとに5面も調査・修理待ちがひかえてますからね,ちゃっちゃと終わらせたいとこではありますが。 めったにお目にかかれない,現在も使用中の古渡り月琴,しかも天下の 「天華斎」 です。
  楽しみなところも,多分にありまくりですなあ。

  胴側部に穴があいちゃってるほかは,外見的にはなくなってるものもそんなにないし,見てわかるような故障もさしては見当たらないのですが,内桁がかなりの範囲でハガれてしまっているようで,板をタップしてもまともな響きが返ってきません。

  前回も書いたように,響き線の状態も多少心配なので,オープン修理とします。

  裏板に二箇所ばかりヒビ割れがあるので,ここから板を切り離し,左右順番にあけてゆこうと思います。

  内桁は1枚,材質は桐。真ん中に棹のウケがあるごか響き線を通す穴が片方にあるだけ。この楽器の側部は,厚さが最大でも5ミリくらいなんですが,そこにわずかなミゾを彫りこんで,がっちり噛み合わせています。
  国産月琴では,この内桁の接着固定がしっかりとされていないことがよくありますが,唐物月琴ではここがいちばんがっちりと接着されています。案の定,表板がわが過去に補修されたひび割れのところから左右,かなりの範囲でハガれて,すこし浮いていました。

  響き線は1本。唐物典型の長い鋼の弧線。国産のものと比べるとやや太めですね。
  一度脱落したことがあるらしく,根元に竹串か何かの先が埋め込まれてました。国産月琴では響き線の根元に鉄クギやこうした竹クギを挿して止めるのがふつうですが,唐物月琴では胴に直挿し,しかもこういう「止め」は打たれていないこと多いのですね。すなわちこれは付け直しである可能性が高いわけです。
  根元がかなり腐食しているようで,ピンセットの先でこそぐと,ボロボロとくずれてゆきます。接着固定に用いたニカワが湿り気を呼んでこうなったのでしょう。
  つぎに大きな衝撃でもかかったらポッキリ逝きそうな状態です。

  とりあえずは引っこ抜いて手当しておきましょう。

  腐食の激しい部分を切除,木工ボンドでサビ落とし,Shinexで磨いてラックニスを軽く刷き,防錆加工を施します。ただのハリガネですが,この楽器の 「命」 ですからね。


  さて,今回の山場,接合部の穴埋め。
  まずは片方。こちらはカケラがありません。
  基本,板から欠けてるぶんを切り出してはめ込むわけですが,まずはその材料の選択が問題。本来ならば,オリジナルの胴体部分と同じタガヤサンのカタマリから,木目が合うように部材を切り出し,削ってあてはめるのが最上策です。そんなに大きな部品でもないので,それくらいならうちの端材でも間に合います。

  しかしながら,このブログでも何度か書いたように。 「タガヤサン(鉄刀木)」という木材は 「最強にして最凶」 。 細かい細工,そして修復に使う材料には向きません。その時はぴったりはまっても,やがては狂って割れるか,オリジナルの歪みについてゆけずに結局裂けるか。

  いろいろと考えたすえに,色合いの近い紫檀の薄板に,さらに薄い黒檀の板を木目を交叉させて接着し,合板を作りました。唐木の類は単一の素材だと,硬くはあれどモロいのですが,こうして合板にすると,少し素材に粘りが出て,細工がしやすくなります。
  割れ目に合わせて部品の端を削り,唐木の粉をエポキで練ったもので充填接着。
  硬化後に表裏から整形します。
  壊れていないほかの接合部もことごとく接着がとんでスキマってますので,あとで再接着と補強をしなくちゃですが。まずは原状復帰ということで----接合部,きちんと取り外し可能にしておきます。

  片方がうまくいったので,もう片がわにもとりかかりましょう。

  こちらはカケラが残っていますが,カケラ自体がさらに割れてたりしてるので,まずはこれを継ぎ,2つのピースにしてもどします。接着はエポキ,割れ目の関係で,裏からじゃないとうまくハメこめませんが,ピッタリおさまるので骨材は入れず,そのまま接着します。
  再接着の作業前に前の修理者のつかったボンドを除去したんですが----これゴム系のボンドっぽいですね。割れ目の細かいところに入っちゃってるのなんか,ピンバイスに針をつけてかき出しました。ぜんぶ除去するのにけっこう骨が折れましたよ。


  両方の接合部がうまく埋まったところで,接合部の補強にとりかかります。
  今回の破損による衝撃もあったようですが,部材の収縮による狂いもあり,充填補修した2箇所をふくめ,すべての接合部で接着がとび,スキマができてしまっています。
  接合部が離開していると,とうぜん伝導も悪くなりますから,音はぜんぜん響きません。 まずは各接合部のスキマに,薄く溶いたニカワと,唐木の粉をニカワで練ったパテを塗りこめ,ゴムをかけまわして胴材を締めこみます。
  余ったパテとニカワがにじゅる,と出てきたのを拭いとったら,つぎに接合部の裏がわに同じパテを盛ってヘコミを埋め,乾いたところで整形し,胴体内側のアールに合わせて曲げといた桐の薄板を接着,和紙で覆って柿渋を刷いてできあがり。

  スキマは埋め補強はしましたが,使った材はすべて胴材よりは柔らかく,弾力のある素材です。次に同じような衝撃がかかった時には,この部分はふたたび前と同じように割れてハズれちゃうでしょう----上にも触れたよう,タガヤサンは 「最強で最凶の唐木」 ----これより硬い木はあまりありません。ですので,補強にはガッチリした硬い素材より,むしろ部材の収縮に対応できる,ある程度の粘りや弾力のある材を使ったほうが,何度でも修理できるぶん長持ちしましょう。





STEP2 未来のために破壊せよ/鶴寿堂


  職人さんの世界では,トートロジィ的な言い回しがよく使われます。
  ちょっと矛盾してるように聞こえるんですが,実際に作業してみると,その意味と間違いのなさというのがよく分かります。わたしが指物屋の親父さんからよく聞いたのは----

  大きなものは小さくして作れ (大きなものは一つの大きなカタマリからではなく,いくつもに分解したのを組み合わせて作ったほうが丈夫で精確)

  小さなものは大きくして作れ (小さなものは小さな材料からではなく,大きな材から削りだし,最後に要る分だけ切り離せばよい,はじめから小さいものはより大きな当て木や木型に固定してから作業したほうが工作が精確)

  壊れないものを作ろうとするな。(壊れないものは壊れたらゴミにしかならないが,壊れるべきところから壊れたものは何度でも再生できる)

なんてのがありました。そのほか----

  直すために壊せ

----とも言われましたね。鶴寿堂,今回はこれに当たります。

  「楽器の修理」がほかの器物の修理と違うところは,外見的に直っているかどうかもさることながら----いえ,それ以上に----「楽器としてマトモな音が出るように直っているか? 」 ということが肝要なところにつきます。
  たとえ外見的に「もとどおり」であったとしても,音が出なければそれは「楽器を修理した」とは言えません。外見上キズ一つない状態だったとしても,内部構造に故障があり,マトモな音が出なければ,それは「もと月琴だったモノ」あるいは「月琴の形をしたモノ」でしかありません。古物屋さんはそれでいいんでしょうが,楽器屋さんはそういうわけにはイカんでしょう?----ましてそれが 「まだ弾ける」 可能性のある物体だったなら。(w)

  本当の意味で「直す」ために,その「キズ一つない」外見にあえてキズをつける必要がある----「壊さ」なきゃならないことも,あるわけですね。

  バラバラ鶴寿堂のピースを見てゆきますと,左右の側板は表裏の板の端がついたまま,「ふたの空いた箱」みたいな状態になっています。
  ただ組み立てるだけならこの状態でも出来ますが,たとえば響き線,たとえば内桁の再接着,たとえば接合部の補強----これらは胴体が箱になっている状態ではマトモな修理ができません。修理をするには表裏いづれかの板を,ぜんぶハガす必要があります。

  と,いうわけで裏板ですね。
  左右の側板にへっついていた裏板の端をメリっとハガします。
  いくら「音が優先,見栄えは二の次」とはいえ,やっぱり表板だと,あとあと始末がタイヘンですからねえ。

  では,部材を組上げ,まずは表板がわを直してゆきましょう。
  矧ぎ目分かれ目にニカワを引いて,三つに分離した部品を作業台に並べ,左右から圧をかけます。台はよく面板の再接着などで使ってるウサ琴の外枠。真ん中がまるく抜かれているため,半月やらフレットやら,表板についたままになっている構造物も,ちょうどそのなかにおさまります。なんかあつらえたような治具になっちゃいましたね~。

  表板が一枚になったところで,天の側板を接着,ついでに表板と側板の接着の浮いている箇所をひとつづつ丁寧に接着し直しておきます。

  原作者の材料選びと,もとの工作が良いのですね。
  作られてから百年以上たってますが,部材の狂いはわずかしか出ていません。

  後で削らなきゃならなくなるような部分を最小限にして配置した場合,下部接合部の片方に1ミリ程度のスキマができるほかは,天地の板で左右端が面板から 0.3~5ミリほどハミ出るていどです。
  この楽器の場合部材がぶ厚いので,それくらいの削りなら何の問題もありません。

  ここで四方の接合部を補強。
  上で書いたスキマには端材を削って薄板を埋め込み,裏がわに小板を貼ります。
  側板と同じ高さで2センチほどの幅に切った桐の小板を,それぞれの接合部の凹凸に合わせて削り,しっかりと接着します----工作はもうちょっとテキトウですが,太清堂なんかはデフォルトで同じようなことやってますね。
  小板が付いたら上から薄い和紙を重ね貼りしてカバー,柿渋を刷いて仕上げます。

  ここまでやって,胴体の構造がしっかりとなったとところで,内桁をつけます。

  左右端をすこし調整し,表板に接触する面をとくにじっくりと濡らしてニカワをしませ,重しをかけて,しっかりがっちりと接着します----ここ,この楽器の音の要ですからね。ちょいと慎重にゆきましょうか----固定したまま,二日ばかりおきます。


(つづく)


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