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月琴44号/45号 (2)

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斗酒庵 松の一族にいどむ! の巻2015.10~ 月琴44号 松音斎/45号 松鶴斎 (2)

STEP2 松の葉くらべ

  「松の一族」…それは月琴界に咲いた可憐な花。
  明治のころのおはなしでございます.....(CV.岸田昨日子)

  さて,松音斎(45号)と松鶴斎(44号),同時修理の開始です。

  工作や技術の比較確認のため,めちゃくちゃ同時進行なんで,いろいろと紛らわしくなるかもしれませんが,いちおうタグつけて,画像にポインタを乗せれば,どっちの楽器のだか分かるようにはしておきますので,まずはご了承ください。

  45号は部品もだいたいそろっていて,見た感じ深刻な損傷もほとんどありませんでした。裏板の一部を剥がしての観察から,内部まできわめて良好な保存状態であったことも分かっています。 まあ現状,いちばんの 「損傷」 はと言えば,庵主がこの裏板ハガしちゃってることなんじゃないかと思う(w)

  対して44号,こちらも部品の欠損は少なく,この楽器の出物としては良いほうなのですが,保存の環境が極端に酷かったらしく,ほとんどの接着部でニカワが劣化しており,胴体も板も,触れるたびにバラバラ になってゆくというありさまであります。

  まずは45号,お飾り類をハガします----とたん 「さすがその1」 に出食わしました。

  お飾りもフレットも常態ではビクともしない,しっかりと接着されてますが,定法通り周囲にぬるま湯をふくませ,しばらく置くと,どれも手品のようにたやすくハガれてきます。
  接着面を見ると,ほとんどのお飾りやフレットは 「点づけ」----つまりニカワを全面に,ではなく,必要最小限のポイントに,筆で点を置くように挿し,軽く圧して接着しているのです。
  裏板をハガしたときの観察から,板や胴材の接合部の接着では,薄く全面に滲ませるタイプの強固な接着法がとられていたことがわかっています。 その技術もさることながら,こうしたものがメンテの時には邪魔になるということを,ちゃんと分かったうえで接着方法を変えているのですね。
  後で再接着されたと思われる,蓮頭・山口と何枚かのフレットは 「ベタづけ」 になってました----なるほど,補修箇所が分かりやすい。


  44号のほうもお飾り....どころかもう,ハガすまでもなく半月まですぽこーんとハズれちゃってます。
  各部の接着面には,劣化しきって白く黒く変色したニカワが残っていますので,まずはそれらを取り除きながら,この楽器を完全にバラバラにしてしまいましょう。


  ほとんどの箇所は濡らして接着をユルめるまでもなく,ペリペリとハガれてゆきました。 この白く変色したニカワは,水で濡らしてもほとんどべたつきがありません----完全に死んじゃってるんですね。この楽器で,内部に塗られたニカワがここまで劣化していた例は,いままで見たことがありませんよ。

  しかもやられているのはニカワだけ,木部のほうは劣化しているどころか,保存状態でいえば,むしろ 「極上」 といえるくらい良い状態ですね。
  この楽器の出元は北海道,冬場の乾燥,オソるべし。

  棹以外はほぼバラバラ。表板は3枚,裏板は6枚に分割されました。
  桐板の矧ぎ目がすべて劣化しているわけではないところから見て,おそらく劣化していたのは,乾燥による本体の収縮によって,早期に割れてしまっていた箇所だろうと推測されます。


  師弟対決,まず気付いたのが表裏面板の材質の違い。

  45号は木目の広い柔らかな板を表板に使い,裏板には目の詰んだ板や節目のあるやや固めの小板を矧いだものを使っています。 これに対して44号は表裏あまり質の変わらない柾目っぽい板を使用。表板のほうがじゃっかん目が詰んで固めのようです。

  ギターで表板に柔らかなスプルースを,側部と裏面に硬めのハカランダやローズが使われているのは,音を前に出すための工夫です。 表がやわらかく,裏が硬いと,弦から出た音は裏に当たってはねかえり,やわらかな楽器の前面から出ていきます。

  どこまで分かってやってたのかは不明ですが,そこから考えるとこの部分の工作は,松音斎のほうに理があるかと思われます。


  師弟対決,つぎは上桁と下桁の厚みです。

  45号は上桁がやや厚く下桁が薄い。 上桁は表裏カンナのかかったヒノキの板ですが,下桁にはおそらくマツと思われる粗板が使われています。



  44号も,素材と加工はだいたい同じですが,下桁のほうが厚い。 おまけにこの板……端のほうにでっかいフシがあって,なんかそこから 「くにゃっ」 と曲がっちゃってますよ!!
  なんてぇ板使いやがる----これもバラバラになった要因のひとつなのかなあ。

  上桁には棹のウケがあり,楽器の構造の保持のためにも必要な部品ですが,前に書いたように,唐物月琴の内桁は一枚だけです。国産月琴に二枚桁のものが多いのは,たぶん国民性というか嗜好の違いと言うか……構造物としての見た感じの安定感を求めた結果で,楽器の強度や音のために,特に必要な理由があってそうなったのだとは思えません。
  そのためもあってか,下桁と言う部品はこのように,工作も材質的にもけっこうテキトウなものであることが多く,国産月琴における 「盲腸的部品」,と庵主は考えています。

  ここから考えるとつまり,44号は盲腸を太くして,背骨を細くしているわけですね。
  しかも上桁のほうをそうする理由が考えつきません。
  このあたりの素材選びや工作も,常識的に考えて,松音斎のほうがマトモじゃないかと思いますよ。

  ちなみに上画像でご覧のとおり。内桁,とくに上桁は,師弟ともに斜めに取り付けられていますが,その傾きの方向が逆になっております。
  こうなってまいりますとブレーシング的な効果を狙ったものなのか,あるいは単に習慣なのか----じつに判断に迷うところでございます。(汗)

  44号,バラバラになった各部の接着面を清掃。
  ほかはもうハガすともなくハガれていったんですが,最後まで残ったのが,下桁の片方と蓮頭。
  古物の月琴では,蓮頭という部品はよくハズれちゃってることのほうが多いんですが,松鶴斎,ナニかここにコダわりがあったんでしょうか。 ちょっとニカワが多めなものの,この部分の加工と接着はなかなか丁寧にやっております。(w)

  モロモロになったニカワをこそぎおとし,まずは再生への第一歩。
  表板を矧ぎなおします。

  45号は裏板をとじる下準備。
  ハガさなかったほうの板は天地周縁と内桁にハガレがありましたので,これを再接着。
  また響き線は素晴らしく健全な状態ですが,これからのことを考えて表面にラックニスを軽く刷き,防錆処理をしておきます。
  このあたりはやっぱり板を一部でもハガしておかないと完璧にはできない作業である----と,みずからの行いを 「ケガさせた功名」 にしておきます。(w)

  あと左右のお飾りやバチ布の下から,虫食いが数箇所出てきましたので,これも埋めておきましょう。


  44号は表板が一枚になったところで,板の中心線を出して側板接着の用意----て,ありゃ? この天の側板の中心の目印,オリジナルのものなんですが----なんか片寄ってませんか?(上左画像参・クリックで拡大)
  つか,棹孔がずいぶんズレてあけられてるような…。
  あ,でも仮組してみると,板の中心と棹の中心線は合ってるし,オモテから見ても曲がってるようには見えない----

  うむ,とりあいずこのまま組むとしよう。(汗)

  天の側板からはじめて,左右,最後に地の側板。
  ここで誤差が出たら消化しようと思ってたんですが,最後の地の側板で左右端をわずか~に削ったていどで,ほぼぴったりと組み合わさりました。

  加工精度の良さはさすがに 「松の一族」。

  地の側板の中央付近に割レが入ってました。
  材質的な裂け割れか衝撃によるものか……おそらく前者だと思いますが,さて。
  接着前にニカワを染ませて固定し,木端口方向から竹クギを3本ばかり打って補強しておきます。


(つづく)


月琴41号/42号 (4)

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斗酒庵 ひさびさの平行作業 の巻2015.9~ 月琴41号 キリコさん/42号 蝉丸 (4)

STEP4  古代的な純愛の詩


  41号キリコさん,修理もラストスパート。
  まずは表裏板の清掃。ヨゴレはそれほどでもなく,だいたい一回でキレイになりました。

  つづいて,欠損部品の補充とまいります。
  なくなってるのは蓮頭と糸巻が3本,あとフレットが2枚----ですが。

  ハナからなかった蓮頭はまあいいとして,まず糸巻です……うむ,これなんと桐で出来てますね。材質的な不安があるのと,一回目に書いたように糸倉の孔を焼き入れ強化した関係で合わなくなっていますので,これは一組,新しくこさえましょう。

  材料は例によって百均の麺棒(36cm),やや太目短めの六角一溝。オリジナルは黒軸ですが,全体の色取りを考え,ヤシャ液とスオウで染めた黄金色っぽい黄色軸にします。

  つぎにフレットと山口。
  まずオリジナルの山口は取付け部とのサイズが全然合わないので使えません。おそらくは後補部品だと思われます。フレットももともと付いてたやつは,高さがまったく合わないので,これも一揃え作ることにします。

  山口はツゲで。楽器が比較的古い月琴の形を残しているので,唐物などに多い富士山型の,やや背の高いのにしました。


  フレットは今回,牛骨にチャレンジ。材料の骨は,だいたいの下処理までしてあるのが,ペットショップなどで一本¥500くらいで買えます。
  象牙と違ってややモロく,完全に乾燥した状態で加工するとけっこう派手にヒビが入ってしまうので,板状にするところまでは水に漬けた状態でやるとよいようです。ボーンカービングなどでは使われる素材ですが,こういうのを作るときの工具や工程についての資料が意外となくて,手探りでの挑戦でした。
  一揃い8枚,出来上がったところでヤシャ液に数時間漬け,乾かしてから油拭きします。染まりは象牙よりずっと良いので,あんまり長くつけとくと真っ黒になっちゃうみたいですね----ハジメテなもんで,庵主もちょっとやりすぎちゃいましたね。
  手前のオリジナルより古っぽくなっちゃいました(w)

  開放を4C/4Gとした時の,オリジナル位置での音階は以下の通り----

開放
4C4D-204E-404F4G-404A-455C-385D-445E-48
4G4A-204B-495C-25D-305E-Eb5G-465A-446C-48

  かなり波瀾に富んでるというか,全体にやたら低いというか。
  ここまでくると,ほかの清楽楽器には合わせられませんね,たぶん。
  ただし,ついてた山口とフレットには後補の疑いがあるので,その位置から推測したこれらの結果は,信頼性の面ではすこし問題があります。まあ,参考データ,程度でしょうねえ。

  蓮頭は波乗りウサギの香箱座り。

  この楽器の糸倉はやや末広がりになっていて,少しゴツいので,ふつうのサイズの蓮頭だといまひとつしっくりきません。
  そこで少し縦に広い,やや大きめのデザインにして作ってみました----うむ,まあこれならよかろう。
  左右お飾りのうち,左のものは裏面が虫に食われているうえにシッポの部分が欠けています。裏の虫食いは木粉粘土で埋め,ホオの端材でシッポを作って接着。

  中央飾りはザクロにします。
  オリジナルも残ってはいるんですが……さすがにこれは,庵主のビイシキの限界を超えていますので,取替えさせていただきます(w)
  左右が仏手柑,蓮頭の波乗りウサギはフォルムが桃の実です。
  これであとザクロがあれば,吉祥紋の 「三多(仏手柑・桃・柘榴)」 になりますからね。

  最後にバチ布を選んで,2015年10月19日,
  総桐の月琴41号,修理完了!


  音,なんですが----これが,
  意外と,思ってたより,ずっと好いのですね!
  材が材ですので,もっと軽い,パサパサしたような音かと思ってたんですが,たしかに重々しさや派手さはないものの,けっこう深みのある,甘やかな音がします。

  考えてみますと,お箏なんかは桐で出来てますもんね。
  楽器にして悪い音のはずはない。
  ギター作りの人から,桐は低音がよく響く,みたいな話を聞いたことがありますが,たしかに音量等ではかなわないものの,低音部の深みは唐木製の重たい楽器なみにあるかもしれません。響き線が太めなのも,その低音部の響きに一役かってるかも。

  欠点と言えば,楽器がきわめて軽いので,演奏時の保持に多少問題があるというところでしょうか。
  とくに立奏でレモロなんかすると,楽器が腕から逃げちゃいそうになりますね。
  もちろん,座奏だとあまり問題はありません。
  試奏の様子は以下よりどうぞ。

試奏1:音階試奏2:九連環試奏3:Moon River



STEP4 これやこのゆくくもかへるもわかれつゝ

  42号も最終章。
  最大の懸案だった棹取付け構造の変更も無事完了,その後の調整も順調。胴体は箱に戻りましたし,わずかにズレてた半月もひっぺがしました。

  表板の左に当初からのヒビ割れがあります。
  板を清掃するまえにこれを埋めておきましょう。

  このヒビは楽器下端から左のお飾りの下を通ってほぼ貫通していますが,上端あたりではかなり薄くなって,ほとんど見えません。あらかじめこれをカッターで広げて,充填修理しやすくしておきます。
  「直すために壊す」ですね。

  そして板の清掃。今回は楽器の保存状態がいいのであまり汚れていません。
  ほとんど修理個所を目立たなくするための作業ってとこでしょうか。
  重曹を溶かしたぬるま湯で板をこすると,変色したヤシャ液が浮いてきます,それを布で拭い去るんですが,そのとき修理作業で表面をこそいだ部分にその汁をまわし,しばらくしませるようにすると,うまい具合に染まって補彩になるのです。

  一日置いて,半月の接着。
  棹を挿して新しい中心線と,半月の位置を決めて接着します。
  半月は力のかかるところなので,接着の養生と用心のため,さらに一日そのままにして,いよいよフレッティングです。
  こちらはいつもの竹フレット。出来たら古竹っぽい風合いに染め上げましょう。
  開放を4C/4Gとした時の,オリジナル位置での音階は以下の通り----

開放
4C4D+84Eb+414F+14G-94G#+485C5D+55F+35
4G4A+44Bb+355C-55D-175Eb+235G-155A-116C+18

  めずらしくも高音域3本がだいたい合ってますね。
  低音域も清楽の音階としてはかなり正確なほうかと思われます。第5フレットだけが少々疑問ですねえ----付け直しの痕跡もなかったので,もともとフレット1本ぶんくらい間違ってたんじゃないかな?

  こちらは立派な蓮頭が残っており,お飾り類で無いものは扇飾りだけです。また,柱間飾りは一部が残ってましたが,どれも破損していて,まともなものはありませんでした。

  ----さて,毎度のことながら,ここらで少し遊ばせてもらいましょうか。

  お嫁入り先(予定)からのご提案で----今回のお飾りは「キツネ」さんです,こんこん!
  柱間飾りは白い凍石。 石とはいえ,かなり柔らかくてモロいので,保護のため,表面にはラックニスを塗り,裏面にはエポキを塗って薄い和紙を接着しておきます。

  扇飾りは飯綱大権現さま(下だけw)。
  フレットもけっこううまく染まりました

  続いて糸巻。
  こちらも1本だけ,オリジナルのが残ってたんですが,イマイチ噛合せが良くないのでまたまた4本削ります。
  スオウで赤染め,重曹でアルカリ媒染,オハグロかけて黒紫色に染め上げます。
  仕上がった部品をぜんぶ組み付け,弦を張って。

  2015年,10月24日。
  「おキツネさま月琴」 となって,42号再生復活!


  名前の由来となった,中央の蝉(?)のお飾りはそのまま。
  バチ布は黄金色の叢雲模様の裂を,オリジナルと同じ形に抜いてはりつけました。
  空の見える丸窓みたいで悪くないですね。

  オリジナルの音階調査のおり,単弦で音出しした時には,やたらと硬くてそっけない音がしたもので。
  しょうじき 「ああ~,こりゃあやっぱりしょせん "お飾り楽器" かなぁ」 と,すこし暗澹たるキモチになったんですが。
  組み立てて,複弦にしたら,なんと 思いッきり 「化け」 ました----キツネのお飾りなんかつけたせいかもしれません。(w)

  冴え冴えとした月の光のような,クリスタル・ガラスのような,透明感のある響きをもった楽器です。
  「月琴」という名前から,日本人が思い浮かべる音って,まさにこんな感じなんじゃないかなあ。

  音量もけっこう出てますし,深みもそこそこあります。
  ただ42号,製作時の失敗のためお飾りとなり,完成以降,楽器として弾かれたことなどほとんどないモノと思われます。 その意味では出来立ての若い楽器と変わりがないので,まだ楽器自体が音の出しかたに慣れてないといいますが,古いもののくせに,音にじゃっかんの「荒さ」があります----もっとも,このあたり,音色については,いろんな月琴をあつかってきた庵主ならではの感覚。
  楽器としてのバランスは良く,良い材質をふんだんに使ったほどよい重さもあって,弾きにくさはあまりありません。胴にも厚みがあるので,これで板が完全に乾き,各部が振動に慣れてきたら,かなりの激鳴り楽器になるのじゃないかと思いますよ。

  一本造りの棹にこだわった原作者の意向を無視して改造したあたり,修理者としてちょっと心に残っている部分もありますが,百年以上も前の,これだけ贅沢な材料を使って作られたものを,「失敗作」のままにしておくのは,あまりにももったいない。

  これからの百年を,「楽器として」育っていってくれることを,
   心底祈っております----ぼん・ぼやーじ。

  試奏は以下より,こちらは音声だけ。
試奏1:音階試奏2:九連環試奏3:合糸上詠嘆調

(おわり)


月琴41号/42号 (3)

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斗酒庵 ひさびさの平行作業 の巻2015.9~ 月琴41号 キリコさん/42号 蝉丸 (3)

STEP3 ある秋の午後の謎

  さてさて,全身総桐造りの超軽量月琴・41号キリコさん。
  修理第二シークエンス。

  棹の先までぜんぶ桐,という強度面ではさすがに不安が残るものの,接着がよく虫にも強い材質であることもあり,工作の良いこともあり。 さいわいなことに,楽器本体,とくに胴体にはさしたる損傷もありません。

  基本的にはお掃除して足りない部品をたしてあげれば,もとの状態には戻るものと考えられます。

  ま,「さしたる損傷もなく」とは書きましたがあくまで外見上のことで,実は胴体右横にでっかい虫食いがありまして,これホジったらけっこうな大物でありました。 しかしながら庵主,過去にSAN値がマイナスになるくらいもっとヒドい例をいっぱい見てるので,これくらいだと最近はハナクソ。(^_^;)
  そもそも桐は接着がいいので,最悪食われてる小板をまるごと切除・交換してあげればけっこうキレイに直りますしねえ。

  とにかくは,食われてる部分をホジくれるだけほじって埋め木をしましょう。

  ホジった痕がけっこう大きくなったのと,場所がちょうど響き線の根元でしたので,楽器の内部構造が,かなり分かるようになりました。


  内桁は2枚はやはり,上下ともに桐ではなく針葉樹材,おそらくはスギではないかと思われます。
  上桁には中央に棹のウケと左右にふたつづつ,直径7ミリほどの丸孔が穿たれています。下桁はさすがに全体が見えないので不明な点が多いのですが,上桁と同じような丸孔が3つほどあけられているようです。

  響き線の基部には,胴体や棹と同じ桐の木片が使われています。
  響き線自体は国産月琴にしてはけっこう太め,唐物月琴などと同じくらいですね。基本形は深めの弧線ですが,根元近くで一段折り返してあります。
  36号などいくつかの楽器でも同様の工作を見たことがありますが,この折り返し部分でバネ的な効果を強めていて,かなり「効き」のいい構造であることが分かっています。線がかなり太目なのに,けっこう胴鳴りしてるのもこのおかげでしょうね。

  あらかたの調べも済んだところで,28号の修理で出た古板を刻んで埋め込みます。


  表裏板の接着のハガれているところを,再接着します。
  この楽器の構造上の問題と,木目の関係で,この天地の部分がハガれていることが多いですね。

  四方の接合部の接着は健全ですが,材が痩せたせいか,表面がわにわずかなスキマができてしまっています。
  ここにはツキ板を削って埋め込んでおきましょう。

  ついで表裏板の補修。どちらも真ん中あたりにヒビ割れがあります。
  長いのですがごくせまいものなので,埋め木ではなくニカワを垂らしながらおがくずと木粉粘土を埋め込んでゆきました。
  どちらも多少トンネル状になっていました。それほど広がりもなかったので,ホジくりかえしまではしませんでしたが,ここらも途中まで虫に食われてたみたいですねえ。



STEP3  あきかぜになびくあさぢのすへごとに

  だんだんと分かってきたんですが。
  42号蝉丸----この作者さん,腕はけして悪いほうじゃありません。
  ただどうやら,実力を度外視して背伸びをした工作に挑むのがお好きなようで。


  この接合部なんかも,木口同士の単純な擦り合せ接着にしておけばいいのに,より高度な凸凹接ぎに挑んでいます。
  それほどまあ,ヘタクソとまでは言えませんし,出来た当初はぴったりハマってたと思いますよ----でもこういうのは百年もたつと,腕の差のぶん馬脚が露われるもので。
  41号の場合はスキマがあっても,内がわではしっかりとくっついてたんですが,こちらは内がわがもともとスキマだらけ。それが経年の収縮や部材の歪みとともに,オモテにまで現れてきたわけです。 ごくあたりまえのことですが,ここにスキマがあると,楽器はあまり鳴りません。共鳴箱である胴体の継ぎ目がスカスカじゃあ,「音」という振動がちゃんと伝わるわけもない----当然ですよね。

  そこでオモテからはツキ板を挿し,ウラからはワリバシの先を平に削った長いヘラで木粉粘土を押し込み,四方四か所,なんとかだいたい埋めこみました。
  さらに上から和紙でも貼っておきたいとこではありましたが,今回は完全なオープン修理じゃないんで,確実に出来る範囲で,無理のない補修作業としておきます。

  原作者の背伸びを叱っといて,自分が背伸びするわけにもいきませんでしょ。(w)

  仮組して糸を張ってみたところ,半月の位置がわずかに右よりになっていることが分かりました。
  このままでも使えなくはありませんが,細い高音糸がわがややせまくなってしまうので,少々使いにくい楽器になってしまいます。
  ズラす幅といっても糸のコース一本ぶんかそこらなんですが,演奏者としてはどうしても気になりますので,ちょいと手間食いますが,半月をはずし,より適当な位置につけなおそうと思います。

  けっこうな量のニカワでがっちり付けられてました。
  圧もかなり強くかけたようで,片側がすこしへこんで痕になってましたねえ。

  ニカワの量が多いから強固であるわけではありません。ぎゅうぎゅう押し付けたからと言って強力にへっつくわけでもありません。 何度も書いてるとおり,ニカワによる接着は薄く・軽い圧が基本かつ最強。ニカワを厚盛りすれば材と材の間に「ニカワの層」が出来て,そこから劣化がはじまります。むやみにしめつければ木の繊維がつぶれてニカワが滲みこまなくなり,接着力はかえって弱まるのです。

  こやつ,両方やっちょる,0点。

  まあ半月がついてないほうが,板の清掃とかはやりやすいのでいいのですが……

  材は間違いなく,カリンを染めて紫檀っぽくしたものですね。
  濡らすととくにニオイが違うのでよく分かるんです。
  裏まで丁寧に,よく染めてありますが,こりゃどやってもカリンのニオイですわ。


  前回書いたように,この楽器は棹と胴体の接合方式の変更と改造,という大きな 「構造改革」 をやらかしてるものですから,棹の工作やその取り付けのため,裏板の中央をあけたままにしておいたのですが,棹の調整もあらかた終わりましたので,ここでこれを閉じてしまいます。
  面白い構造であり,その理由もまた面白いものではありましたが,いつまでこうしててもしょうがない。(w)

  もともとヒビのあった部分から切り割ったのですが,そんなにおおきなヒビでもなかったので,木端口に木粉粘土を塗ってハメこみ,すこし開いた部分には,あとでオガクズや薄くそいだ木っ端を埋め込みました。

(つづく)


月琴45号 松音斎 (1)

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斗酒庵 月琴の飽和攻撃にさらされる! の巻2015.9~ 月琴45号 エリンギ(1)

STEP1  松の血族


  もしかすると庵主は現在,この世のどこかにある月琴界から,「壊れ月琴による飽和攻撃」 を受けてるのかもしれません。(w)

  夏前に4面,相次いで入手できたのもけっこうキセキだったんですが。
  帰京してからのこの二か月ほどで,さらに5面………ごくり。

   ヤバい…ヤバいよ…このペースはなんかヤバい。

  現在,庵主が調べてるあたりの項目にとっては,そりゃ願ったりかなったりの状況ではありますが。依頼修理も終わり,ようやく 「夏のしくだい」 に手を出したばかり。


  直った楽器はつぎからつぎへなんとか掃かしてるとはいえ,このままの状況では,どんどん部屋が狭くなって 「そこはあたしの寝床です…くすんくすん」 と普段の生活もママならなくなってゆきますよぉ。
  ----分かってはいますが,好奇心はタヌキをも殺す。
  楽器は何より貴重なデータのつまった実物資料。

  民俗学の方法が重出立証である以上,より多くの楽器のデータとその比較はもっとも重要ですが,そのためにも,まずはそれぞれの楽器の基本的なデータが紹介されてなければなりません----たまっちゃった数が増えるとそれもなかなか,たちまち滞って溜まってしまうものですねえ。

  ただ,調査と並行で,つねにほかの楽器の修理もやっている関係上,アタマが回りきっておらず,現在いろんな部分がぞんざいになってます。 特にそれぞれの楽器の作業名なんかどんどん変名になっていきますが,どんな変名も,楽器そのものの実際とは関係がないことを,あらかじめご了承くださいませ。(w)



月琴45号 エリンギ

  全長:635(蓮頭欠損のため糸倉先端まで)
  胴:φ349,厚・40(表裏板 4.5)
  有効弦長:413

  名前の由来は----いやもう,エリンギの箱に入ってきましたモんで。(w)

  月琴45号,出品者さんは作者を 「松琴斎」 としていましたが----惜しい。

  この楽器の作者は 「松音斎」 です。
  この二人の作品はよく似ています,ラベルの文字はもう「松」だけしか見えませんが,その外枠のデザインがちょいとだけ違うのがミソ。

  松音斎は月琴界のグランド・マイスター。

  二千番を超えるシリアルの付されている楽器があるくらいで,作った数もさることながら,その工作も素晴らしく,いかにも 「月琴らしい」 いい音のする楽器を作っています。
  いままで扱った数面の楽器は,いづれも見事な出来栄えでした。外見的にはどちらかというとトラディッショナルで,一見してわかるような特徴も派手さもないのですが,木の選び方といい,加工の緻密さといい,ちょっと真似のできない高度なレベルの作家さんです。

  また出会えて光栄。前回の楽器はこちら


  現在修理作業進行中の41・42号の次は,夏に落とした44号とこの45号の同時調査・修理を行おうと考えています。
  44号の作者は 「松鶴斎」。
  ほかにこの名の付いた楽器を見たことのない未知の作者さんではありますが,その名前やラベルのカタチ,また楽器の工作の特徴などから,まず間違いなく,松音斎や松琴斎と同じ系統に属する作家さんだと思われます。

  とりあえず庵主はこの「松一派」の師系を, 松音斎>松琴斎>松鶴斎 という順じゃないかと推測してるんですが。 さて,その「大師匠」と考えられる松音斎の楽器と松鶴斎の楽器の比較から,どんなことが分かるやら。

  ひさびさに,この後の作業が楽しみでしょうがありません。


  まずは棹を抜いてみましょうか。
  全体は糸倉がやや厚く,棹も太めで棹背もほぼまっすぐ。スタイルとしてはごくトラディッショナルな作りなんですが。ううむ……この細く美しい棹茎はどうよ。
  唐物だと,棹さしこみの基部は指板部分と同じ幅で,このように胴体の接合部に段差をつけるのは,国産月琴の職人さんたちの創案と思われますが,なんか日本刀のなかごみたいな感じもしますね。

  延長材の表板がわ,あと胴体の棹孔のところにエンピツで 「三本線」 が引かれています。
  そんなに長くもない流行期に2千面以上作ってるヒトですんで,さすがにこれが生涯の「3面め」の楽器だ,なんてことはないでしょう。 おそらく一度きに何本も同時進行で作ってたと思いますので,これもその時の「3号機」ってとこですかねえ。

  蓮頭が半分ぶッとんでるうえに,上下逆さに取付けられています。
  山口も向きが逆。

  とはいうものの,ほかに目立つのはフレットが2枚(第2・4)なくなっているのと,裏板の大きなひび割れくらいなもの。
  糸巻も4本そろってますし,欠損部品少なく損傷も深刻なものはなし。全体に保存状態は良好です。


  左右のお飾りは仏手柑。デザインは普通ですが,薄く,彫りが丁寧です。
  木工にくわしい人なら,このお飾り見ただけでこの作家の腕前のほどが分かるでしょう----これだけ薄い板で,彫りもごく浅いのに,陰影がしっかり出ています。 何度も書いてますが,こういうモノは,深彫りするヒトほどヘタクソなんですよ。(w)

  扇飾りは一般的な万帯唐草。さして特徴はなし。
  ヘビのバチ皮に,半月はこれも典型的な蓮座文様。
  もう少し上の楽器だと,半月が透かし彫りになってたりしてますから,松音斎の楽器としては,普及品のレベルのもののようですね。
  ヘビ皮は薄く削って,きちんと和紙で裏打ちされています。
  少し前の依頼修理でも書きましたが,生皮の直付けは楽器を傷めてしまいます。
  松音斎はそこを分かってて,ちゃんと一手間加えてる----こういう細かな心配りが「さすが」の作家さんなのです。

  内部の確認のため,裏板を半分,中央にある割れ目からハガしました。
  響き線は1本。 棹孔の横に基部を置いて,上桁の孔をとおり,胴をほぼ半周する長い弧線。唐物月琴のものと同じ形状です(ただし唐物月琴の響き線は,もう少し太くて胴に直挿し)。
  状態は非常に良好。
  サビひとつ浮いておらず,松音斎が焼き入れした時そのままの鈍青色でキラキラと輝いております。ひさしぶりに見た,キセキのような保存状態ですね。

  内桁は2枚。 どちらも斜めに,すこし傾けて取り付けられています。
  この工作は,ちょい前に紹介した44号松鶴斎もそうでしたし,松琴斎なんかも同じで,この一派の特徴的な工作のひとつ。 おそらくギターのブレーシング的な効果を狙ったものだったんじゃないか,とは思ってるんですが……同派の楽器では,斜めになってるとこまでは同じなものの,どうも傾きの方向が一定してるわけじゃない(^_^;) らしいので。 さて,ほかに理由があるのかもしれません。
  上桁には楽器に向かって右がわに響き線を通す四角い切り貫きと,中央に棹孔。下桁は一見ただの板ですが,よく見ると左右にひとつづつ,直径2ミリほどの小さな孔が穿たれています。ふつうの四方錐であけた穴のようで,工作は粗く錐の先が板裏に出たくらいしかエグられてません。なもので天の側板がわから見ると,孔があいてるとは分からないくらいです。

  ……ハガしてみて,あらためて分かったのですが,ニカワの扱いもさすがですねえ。
  なみの作家だと接着部にこれでもかと厚盛りして,板の端に乾いたニカワがハミ出てる部分があったりするとこですが,この楽器の内部には,そういうモノがほとんどありません。
  でも濡らした接着面を触ると,ちゃんとベタつく……百年を越してニカワが活きている。これはニカワづけの技術だけでなく,部材の擦り合せがカンペキで,ニカワが劣化する原因になるようなスキマがなかった,ということを意味しています。

  いまのところ,ただただもう感心するばかり。(w)
  文句のつけようがありません。

  というあたりで,今回のフィールドノートです。
  詳しい数値などはこちらでどうぞ~。
  (クリックで別窓拡大)


(つづく)


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