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月琴41号/42号 (3)

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斗酒庵 ひさびさの平行作業 の巻2015.9~ 月琴41号 キリコさん/42号 蝉丸 (3)

STEP3 ある秋の午後の謎

  さてさて,全身総桐造りの超軽量月琴・41号キリコさん。
  修理第二シークエンス。

  棹の先までぜんぶ桐,という強度面ではさすがに不安が残るものの,接着がよく虫にも強い材質であることもあり,工作の良いこともあり。 さいわいなことに,楽器本体,とくに胴体にはさしたる損傷もありません。

  基本的にはお掃除して足りない部品をたしてあげれば,もとの状態には戻るものと考えられます。

  ま,「さしたる損傷もなく」とは書きましたがあくまで外見上のことで,実は胴体右横にでっかい虫食いがありまして,これホジったらけっこうな大物でありました。 しかしながら庵主,過去にSAN値がマイナスになるくらいもっとヒドい例をいっぱい見てるので,これくらいだと最近はハナクソ。(^_^;)
  そもそも桐は接着がいいので,最悪食われてる小板をまるごと切除・交換してあげればけっこうキレイに直りますしねえ。

  とにかくは,食われてる部分をホジくれるだけほじって埋め木をしましょう。

  ホジった痕がけっこう大きくなったのと,場所がちょうど響き線の根元でしたので,楽器の内部構造が,かなり分かるようになりました。


  内桁は2枚はやはり,上下ともに桐ではなく針葉樹材,おそらくはスギではないかと思われます。
  上桁には中央に棹のウケと左右にふたつづつ,直径7ミリほどの丸孔が穿たれています。下桁はさすがに全体が見えないので不明な点が多いのですが,上桁と同じような丸孔が3つほどあけられているようです。

  響き線の基部には,胴体や棹と同じ桐の木片が使われています。
  響き線自体は国産月琴にしてはけっこう太め,唐物月琴などと同じくらいですね。基本形は深めの弧線ですが,根元近くで一段折り返してあります。
  36号などいくつかの楽器でも同様の工作を見たことがありますが,この折り返し部分でバネ的な効果を強めていて,かなり「効き」のいい構造であることが分かっています。線がかなり太目なのに,けっこう胴鳴りしてるのもこのおかげでしょうね。

  あらかたの調べも済んだところで,28号の修理で出た古板を刻んで埋め込みます。


  表裏板の接着のハガれているところを,再接着します。
  この楽器の構造上の問題と,木目の関係で,この天地の部分がハガれていることが多いですね。

  四方の接合部の接着は健全ですが,材が痩せたせいか,表面がわにわずかなスキマができてしまっています。
  ここにはツキ板を削って埋め込んでおきましょう。

  ついで表裏板の補修。どちらも真ん中あたりにヒビ割れがあります。
  長いのですがごくせまいものなので,埋め木ではなくニカワを垂らしながらおがくずと木粉粘土を埋め込んでゆきました。
  どちらも多少トンネル状になっていました。それほど広がりもなかったので,ホジくりかえしまではしませんでしたが,ここらも途中まで虫に食われてたみたいですねえ。



STEP3  あきかぜになびくあさぢのすへごとに

  だんだんと分かってきたんですが。
  42号蝉丸----この作者さん,腕はけして悪いほうじゃありません。
  ただどうやら,実力を度外視して背伸びをした工作に挑むのがお好きなようで。


  この接合部なんかも,木口同士の単純な擦り合せ接着にしておけばいいのに,より高度な凸凹接ぎに挑んでいます。
  それほどまあ,ヘタクソとまでは言えませんし,出来た当初はぴったりハマってたと思いますよ----でもこういうのは百年もたつと,腕の差のぶん馬脚が露われるもので。
  41号の場合はスキマがあっても,内がわではしっかりとくっついてたんですが,こちらは内がわがもともとスキマだらけ。それが経年の収縮や部材の歪みとともに,オモテにまで現れてきたわけです。 ごくあたりまえのことですが,ここにスキマがあると,楽器はあまり鳴りません。共鳴箱である胴体の継ぎ目がスカスカじゃあ,「音」という振動がちゃんと伝わるわけもない----当然ですよね。

  そこでオモテからはツキ板を挿し,ウラからはワリバシの先を平に削った長いヘラで木粉粘土を押し込み,四方四か所,なんとかだいたい埋めこみました。
  さらに上から和紙でも貼っておきたいとこではありましたが,今回は完全なオープン修理じゃないんで,確実に出来る範囲で,無理のない補修作業としておきます。

  原作者の背伸びを叱っといて,自分が背伸びするわけにもいきませんでしょ。(w)

  仮組して糸を張ってみたところ,半月の位置がわずかに右よりになっていることが分かりました。
  このままでも使えなくはありませんが,細い高音糸がわがややせまくなってしまうので,少々使いにくい楽器になってしまいます。
  ズラす幅といっても糸のコース一本ぶんかそこらなんですが,演奏者としてはどうしても気になりますので,ちょいと手間食いますが,半月をはずし,より適当な位置につけなおそうと思います。

  けっこうな量のニカワでがっちり付けられてました。
  圧もかなり強くかけたようで,片側がすこしへこんで痕になってましたねえ。

  ニカワの量が多いから強固であるわけではありません。ぎゅうぎゅう押し付けたからと言って強力にへっつくわけでもありません。 何度も書いてるとおり,ニカワによる接着は薄く・軽い圧が基本かつ最強。ニカワを厚盛りすれば材と材の間に「ニカワの層」が出来て,そこから劣化がはじまります。むやみにしめつければ木の繊維がつぶれてニカワが滲みこまなくなり,接着力はかえって弱まるのです。

  こやつ,両方やっちょる,0点。

  まあ半月がついてないほうが,板の清掃とかはやりやすいのでいいのですが……

  材は間違いなく,カリンを染めて紫檀っぽくしたものですね。
  濡らすととくにニオイが違うのでよく分かるんです。
  裏まで丁寧に,よく染めてありますが,こりゃどやってもカリンのニオイですわ。


  前回書いたように,この楽器は棹と胴体の接合方式の変更と改造,という大きな 「構造改革」 をやらかしてるものですから,棹の工作やその取り付けのため,裏板の中央をあけたままにしておいたのですが,棹の調整もあらかた終わりましたので,ここでこれを閉じてしまいます。
  面白い構造であり,その理由もまた面白いものではありましたが,いつまでこうしててもしょうがない。(w)

  もともとヒビのあった部分から切り割ったのですが,そんなにおおきなヒビでもなかったので,木端口に木粉粘土を塗ってハメこみ,すこし開いた部分には,あとでオガクズや薄くそいだ木っ端を埋め込みました。

(つづく)


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