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月琴45号 松音斎 (1)

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斗酒庵 月琴の飽和攻撃にさらされる! の巻2015.9~ 月琴45号 エリンギ(1)

STEP1  松の血族


  もしかすると庵主は現在,この世のどこかにある月琴界から,「壊れ月琴による飽和攻撃」 を受けてるのかもしれません。(w)

  夏前に4面,相次いで入手できたのもけっこうキセキだったんですが。
  帰京してからのこの二か月ほどで,さらに5面………ごくり。

   ヤバい…ヤバいよ…このペースはなんかヤバい。

  現在,庵主が調べてるあたりの項目にとっては,そりゃ願ったりかなったりの状況ではありますが。依頼修理も終わり,ようやく 「夏のしくだい」 に手を出したばかり。


  直った楽器はつぎからつぎへなんとか掃かしてるとはいえ,このままの状況では,どんどん部屋が狭くなって 「そこはあたしの寝床です…くすんくすん」 と普段の生活もママならなくなってゆきますよぉ。
  ----分かってはいますが,好奇心はタヌキをも殺す。
  楽器は何より貴重なデータのつまった実物資料。

  民俗学の方法が重出立証である以上,より多くの楽器のデータとその比較はもっとも重要ですが,そのためにも,まずはそれぞれの楽器の基本的なデータが紹介されてなければなりません----たまっちゃった数が増えるとそれもなかなか,たちまち滞って溜まってしまうものですねえ。

  ただ,調査と並行で,つねにほかの楽器の修理もやっている関係上,アタマが回りきっておらず,現在いろんな部分がぞんざいになってます。 特にそれぞれの楽器の作業名なんかどんどん変名になっていきますが,どんな変名も,楽器そのものの実際とは関係がないことを,あらかじめご了承くださいませ。(w)



月琴45号 エリンギ

  全長:635(蓮頭欠損のため糸倉先端まで)
  胴:φ349,厚・40(表裏板 4.5)
  有効弦長:413

  名前の由来は----いやもう,エリンギの箱に入ってきましたモんで。(w)

  月琴45号,出品者さんは作者を 「松琴斎」 としていましたが----惜しい。

  この楽器の作者は 「松音斎」 です。
  この二人の作品はよく似ています,ラベルの文字はもう「松」だけしか見えませんが,その外枠のデザインがちょいとだけ違うのがミソ。

  松音斎は月琴界のグランド・マイスター。

  二千番を超えるシリアルの付されている楽器があるくらいで,作った数もさることながら,その工作も素晴らしく,いかにも 「月琴らしい」 いい音のする楽器を作っています。
  いままで扱った数面の楽器は,いづれも見事な出来栄えでした。外見的にはどちらかというとトラディッショナルで,一見してわかるような特徴も派手さもないのですが,木の選び方といい,加工の緻密さといい,ちょっと真似のできない高度なレベルの作家さんです。

  また出会えて光栄。前回の楽器はこちら


  現在修理作業進行中の41・42号の次は,夏に落とした44号とこの45号の同時調査・修理を行おうと考えています。
  44号の作者は 「松鶴斎」。
  ほかにこの名の付いた楽器を見たことのない未知の作者さんではありますが,その名前やラベルのカタチ,また楽器の工作の特徴などから,まず間違いなく,松音斎や松琴斎と同じ系統に属する作家さんだと思われます。

  とりあえず庵主はこの「松一派」の師系を, 松音斎>松琴斎>松鶴斎 という順じゃないかと推測してるんですが。 さて,その「大師匠」と考えられる松音斎の楽器と松鶴斎の楽器の比較から,どんなことが分かるやら。

  ひさびさに,この後の作業が楽しみでしょうがありません。


  まずは棹を抜いてみましょうか。
  全体は糸倉がやや厚く,棹も太めで棹背もほぼまっすぐ。スタイルとしてはごくトラディッショナルな作りなんですが。ううむ……この細く美しい棹茎はどうよ。
  唐物だと,棹さしこみの基部は指板部分と同じ幅で,このように胴体の接合部に段差をつけるのは,国産月琴の職人さんたちの創案と思われますが,なんか日本刀のなかごみたいな感じもしますね。

  延長材の表板がわ,あと胴体の棹孔のところにエンピツで 「三本線」 が引かれています。
  そんなに長くもない流行期に2千面以上作ってるヒトですんで,さすがにこれが生涯の「3面め」の楽器だ,なんてことはないでしょう。 おそらく一度きに何本も同時進行で作ってたと思いますので,これもその時の「3号機」ってとこですかねえ。

  蓮頭が半分ぶッとんでるうえに,上下逆さに取付けられています。
  山口も向きが逆。

  とはいうものの,ほかに目立つのはフレットが2枚(第2・4)なくなっているのと,裏板の大きなひび割れくらいなもの。
  糸巻も4本そろってますし,欠損部品少なく損傷も深刻なものはなし。全体に保存状態は良好です。


  左右のお飾りは仏手柑。デザインは普通ですが,薄く,彫りが丁寧です。
  木工にくわしい人なら,このお飾り見ただけでこの作家の腕前のほどが分かるでしょう----これだけ薄い板で,彫りもごく浅いのに,陰影がしっかり出ています。 何度も書いてますが,こういうモノは,深彫りするヒトほどヘタクソなんですよ。(w)

  扇飾りは一般的な万帯唐草。さして特徴はなし。
  ヘビのバチ皮に,半月はこれも典型的な蓮座文様。
  もう少し上の楽器だと,半月が透かし彫りになってたりしてますから,松音斎の楽器としては,普及品のレベルのもののようですね。
  ヘビ皮は薄く削って,きちんと和紙で裏打ちされています。
  少し前の依頼修理でも書きましたが,生皮の直付けは楽器を傷めてしまいます。
  松音斎はそこを分かってて,ちゃんと一手間加えてる----こういう細かな心配りが「さすが」の作家さんなのです。

  内部の確認のため,裏板を半分,中央にある割れ目からハガしました。
  響き線は1本。 棹孔の横に基部を置いて,上桁の孔をとおり,胴をほぼ半周する長い弧線。唐物月琴のものと同じ形状です(ただし唐物月琴の響き線は,もう少し太くて胴に直挿し)。
  状態は非常に良好。
  サビひとつ浮いておらず,松音斎が焼き入れした時そのままの鈍青色でキラキラと輝いております。ひさしぶりに見た,キセキのような保存状態ですね。

  内桁は2枚。 どちらも斜めに,すこし傾けて取り付けられています。
  この工作は,ちょい前に紹介した44号松鶴斎もそうでしたし,松琴斎なんかも同じで,この一派の特徴的な工作のひとつ。 おそらくギターのブレーシング的な効果を狙ったものだったんじゃないか,とは思ってるんですが……同派の楽器では,斜めになってるとこまでは同じなものの,どうも傾きの方向が一定してるわけじゃない(^_^;) らしいので。 さて,ほかに理由があるのかもしれません。
  上桁には楽器に向かって右がわに響き線を通す四角い切り貫きと,中央に棹孔。下桁は一見ただの板ですが,よく見ると左右にひとつづつ,直径2ミリほどの小さな孔が穿たれています。ふつうの四方錐であけた穴のようで,工作は粗く錐の先が板裏に出たくらいしかエグられてません。なもので天の側板がわから見ると,孔があいてるとは分からないくらいです。

  ……ハガしてみて,あらためて分かったのですが,ニカワの扱いもさすがですねえ。
  なみの作家だと接着部にこれでもかと厚盛りして,板の端に乾いたニカワがハミ出てる部分があったりするとこですが,この楽器の内部には,そういうモノがほとんどありません。
  でも濡らした接着面を触ると,ちゃんとベタつく……百年を越してニカワが活きている。これはニカワづけの技術だけでなく,部材の擦り合せがカンペキで,ニカワが劣化する原因になるようなスキマがなかった,ということを意味しています。

  いまのところ,ただただもう感心するばかり。(w)
  文句のつけようがありません。

  というあたりで,今回のフィールドノートです。
  詳しい数値などはこちらでどうぞ~。
  (クリックで別窓拡大)


(つづく)


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