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月琴44号/45号 (2)

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斗酒庵 松の一族にいどむ! の巻2015.10~ 月琴44号 松音斎/45号 松鶴斎 (2)

STEP2 松の葉くらべ

  「松の一族」…それは月琴界に咲いた可憐な花。
  明治のころのおはなしでございます.....(CV.岸田昨日子)

  さて,松音斎(45号)と松鶴斎(44号),同時修理の開始です。

  工作や技術の比較確認のため,めちゃくちゃ同時進行なんで,いろいろと紛らわしくなるかもしれませんが,いちおうタグつけて,画像にポインタを乗せれば,どっちの楽器のだか分かるようにはしておきますので,まずはご了承ください。

  45号は部品もだいたいそろっていて,見た感じ深刻な損傷もほとんどありませんでした。裏板の一部を剥がしての観察から,内部まできわめて良好な保存状態であったことも分かっています。 まあ現状,いちばんの 「損傷」 はと言えば,庵主がこの裏板ハガしちゃってることなんじゃないかと思う(w)

  対して44号,こちらも部品の欠損は少なく,この楽器の出物としては良いほうなのですが,保存の環境が極端に酷かったらしく,ほとんどの接着部でニカワが劣化しており,胴体も板も,触れるたびにバラバラ になってゆくというありさまであります。

  まずは45号,お飾り類をハガします----とたん 「さすがその1」 に出食わしました。

  お飾りもフレットも常態ではビクともしない,しっかりと接着されてますが,定法通り周囲にぬるま湯をふくませ,しばらく置くと,どれも手品のようにたやすくハガれてきます。
  接着面を見ると,ほとんどのお飾りやフレットは 「点づけ」----つまりニカワを全面に,ではなく,必要最小限のポイントに,筆で点を置くように挿し,軽く圧して接着しているのです。
  裏板をハガしたときの観察から,板や胴材の接合部の接着では,薄く全面に滲ませるタイプの強固な接着法がとられていたことがわかっています。 その技術もさることながら,こうしたものがメンテの時には邪魔になるということを,ちゃんと分かったうえで接着方法を変えているのですね。
  後で再接着されたと思われる,蓮頭・山口と何枚かのフレットは 「ベタづけ」 になってました----なるほど,補修箇所が分かりやすい。


  44号のほうもお飾り....どころかもう,ハガすまでもなく半月まですぽこーんとハズれちゃってます。
  各部の接着面には,劣化しきって白く黒く変色したニカワが残っていますので,まずはそれらを取り除きながら,この楽器を完全にバラバラにしてしまいましょう。


  ほとんどの箇所は濡らして接着をユルめるまでもなく,ペリペリとハガれてゆきました。 この白く変色したニカワは,水で濡らしてもほとんどべたつきがありません----完全に死んじゃってるんですね。この楽器で,内部に塗られたニカワがここまで劣化していた例は,いままで見たことがありませんよ。

  しかもやられているのはニカワだけ,木部のほうは劣化しているどころか,保存状態でいえば,むしろ 「極上」 といえるくらい良い状態ですね。
  この楽器の出元は北海道,冬場の乾燥,オソるべし。

  棹以外はほぼバラバラ。表板は3枚,裏板は6枚に分割されました。
  桐板の矧ぎ目がすべて劣化しているわけではないところから見て,おそらく劣化していたのは,乾燥による本体の収縮によって,早期に割れてしまっていた箇所だろうと推測されます。


  師弟対決,まず気付いたのが表裏面板の材質の違い。

  45号は木目の広い柔らかな板を表板に使い,裏板には目の詰んだ板や節目のあるやや固めの小板を矧いだものを使っています。 これに対して44号は表裏あまり質の変わらない柾目っぽい板を使用。表板のほうがじゃっかん目が詰んで固めのようです。

  ギターで表板に柔らかなスプルースを,側部と裏面に硬めのハカランダやローズが使われているのは,音を前に出すための工夫です。 表がやわらかく,裏が硬いと,弦から出た音は裏に当たってはねかえり,やわらかな楽器の前面から出ていきます。

  どこまで分かってやってたのかは不明ですが,そこから考えるとこの部分の工作は,松音斎のほうに理があるかと思われます。


  師弟対決,つぎは上桁と下桁の厚みです。

  45号は上桁がやや厚く下桁が薄い。 上桁は表裏カンナのかかったヒノキの板ですが,下桁にはおそらくマツと思われる粗板が使われています。



  44号も,素材と加工はだいたい同じですが,下桁のほうが厚い。 おまけにこの板……端のほうにでっかいフシがあって,なんかそこから 「くにゃっ」 と曲がっちゃってますよ!!
  なんてぇ板使いやがる----これもバラバラになった要因のひとつなのかなあ。

  上桁には棹のウケがあり,楽器の構造の保持のためにも必要な部品ですが,前に書いたように,唐物月琴の内桁は一枚だけです。国産月琴に二枚桁のものが多いのは,たぶん国民性というか嗜好の違いと言うか……構造物としての見た感じの安定感を求めた結果で,楽器の強度や音のために,特に必要な理由があってそうなったのだとは思えません。
  そのためもあってか,下桁と言う部品はこのように,工作も材質的にもけっこうテキトウなものであることが多く,国産月琴における 「盲腸的部品」,と庵主は考えています。

  ここから考えるとつまり,44号は盲腸を太くして,背骨を細くしているわけですね。
  しかも上桁のほうをそうする理由が考えつきません。
  このあたりの素材選びや工作も,常識的に考えて,松音斎のほうがマトモじゃないかと思いますよ。

  ちなみに上画像でご覧のとおり。内桁,とくに上桁は,師弟ともに斜めに取り付けられていますが,その傾きの方向が逆になっております。
  こうなってまいりますとブレーシング的な効果を狙ったものなのか,あるいは単に習慣なのか----じつに判断に迷うところでございます。(汗)

  44号,バラバラになった各部の接着面を清掃。
  ほかはもうハガすともなくハガれていったんですが,最後まで残ったのが,下桁の片方と蓮頭。
  古物の月琴では,蓮頭という部品はよくハズれちゃってることのほうが多いんですが,松鶴斎,ナニかここにコダわりがあったんでしょうか。 ちょっとニカワが多めなものの,この部分の加工と接着はなかなか丁寧にやっております。(w)

  モロモロになったニカワをこそぎおとし,まずは再生への第一歩。
  表板を矧ぎなおします。

  45号は裏板をとじる下準備。
  ハガさなかったほうの板は天地周縁と内桁にハガレがありましたので,これを再接着。
  また響き線は素晴らしく健全な状態ですが,これからのことを考えて表面にラックニスを軽く刷き,防錆処理をしておきます。
  このあたりはやっぱり板を一部でもハガしておかないと完璧にはできない作業である----と,みずからの行いを 「ケガさせた功名」 にしておきます。(w)

  あと左右のお飾りやバチ布の下から,虫食いが数箇所出てきましたので,これも埋めておきましょう。


  44号は表板が一枚になったところで,板の中心線を出して側板接着の用意----て,ありゃ? この天の側板の中心の目印,オリジナルのものなんですが----なんか片寄ってませんか?(上左画像参・クリックで拡大)
  つか,棹孔がずいぶんズレてあけられてるような…。
  あ,でも仮組してみると,板の中心と棹の中心線は合ってるし,オモテから見ても曲がってるようには見えない----

  うむ,とりあいずこのまま組むとしよう。(汗)

  天の側板からはじめて,左右,最後に地の側板。
  ここで誤差が出たら消化しようと思ってたんですが,最後の地の側板で左右端をわずか~に削ったていどで,ほぼぴったりと組み合わさりました。

  加工精度の良さはさすがに 「松の一族」。

  地の側板の中央付近に割レが入ってました。
  材質的な裂け割れか衝撃によるものか……おそらく前者だと思いますが,さて。
  接着前にニカワを染ませて固定し,木端口方向から竹クギを3本ばかり打って補強しておきます。


(つづく)


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