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月琴49号 首なし2(3)

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斗酒庵 壊れ月琴の飽和攻撃に会う の巻2015.10~ 月琴49号 首なし2 (3)

STEP3  ウは板裏のウ


  さて,分解修理の場合,組立て時の基準となるのは表板です。
  ですので,表板はあらかじめきっちりと矧ぎなおし,表裏のキズやヘコミもなるべく丁寧に埋めておきます。

  この楽器でいちばん目立つとこですからね。ふつう,表板は木目もしっかり合わせて一枚の板に見えるようにいるんですが,この楽器の場合……てめぇ,その気もねぇだろう(w)
  薄いですね。板ウラには斜めに入ったノコギリ痕があちらからもこちらからも。それぞれの小板はけっこう目の詰まった割りといい材なんですが,まあなんという組み合わせ……幅もバラバラ,目もあっちゃこっちゃ,短冊状ではなく台形みたいになった小板も。さらに画像だと分かりにくいんですが,一枚だけ厚みの違う板まではさまっています。

  流行期の後半になると,月琴の表裏板は明らかに桐屋に注文して作らせたものが使われていることが多くなってくるんですが,初期のころにはすべて,作家がいちいち自分で矧いで作るのがふつうだったようです。おそらくは生産数も少なかったので,桐屋に注文するより,そのほうが安く済んだからだと思いますね。
  桐板と言うのは当時,いまのビニールや段ボールなみの一般的な梱包材でしたし,楽器屋なら三味線箱をはじめ,けっこう大きなサイズの桐板やその端材がふつうにあったことでしょう。そうした中からだいたい目の合いそうなものを選び,てきとうに矧ぎ合わせて面板に仕立てた----まあ言うなればリサイクル品ですね。

  板の裏側に見えるこの細い三角形の溝は,もとの桐板を作るとき,材料同士を固定するために打たれた竹クギの痕です。はじめから一枚の板として作られたものであるときは,当然となりの小板にも続きの痕跡があるわけですが…見えませんね。おそらくはいろんな厚みの板材をだいたいの大きさに矧ぎ合わせてから,必要な厚みに割り挽いたのじゃないかな。
  だいたいが,こういうことをするための縦挽き鋸ではなく,もっと薄くて目の細かい細工鋸の類で挽き割ってるあたり,間違いなく桐屋さんの仕事ではないんですが……しかも挽き痕があっちからもこっちからも入ってます。長寸の板挽き作業にあんまり慣れてないのが見え見えですねえ(w)

  もともと薄めのところに,部分的にさらに薄くなっているところがあるため,板全体が不安定で壊れやすい状態になってしまっています。割れてしまったところを矧ぎなおしたら,つぎはこの薄くなっているところに,裏側から板を足しておきます。
  なにせこのままでは,作業してるうちにまたバリっと割れちゃいそうな感じですし,側板や内桁との接着にも支障が出ちゃいますからね。


  前回も書いたように,側板が虫食い穴だらけになってる割りには,表裏の板は損傷が少なく,バチ皮の下と数箇所,矧ぎ目に沿って縦に食われているところがあるくらいです。

  矧ぎなおしと補強がうまくいったところで,これらの穴埋めに入ります。

  バチ皮の下は縦横無尽に食い荒らされていますが,どのミゾも浅く表面的で,板の中までもぐりこんでるような部分や広がりもあまりありません。しかしながら数が多いのと,ぐにょぐにょに曲がってるので,ここはパテ埋めにします。多少見栄えは悪くなりますが,そのほうが板への負担も少ないし,どうせバチ布の類でかくせるところですので問題ありますまい。


  ほか数箇所の虫食いは直線的なので,ほじくって埋め木で対処。
  上にも書いたとおり,あまり木目を気にして作られてない板なので,かえって目立たないのが,ケガの功名と言いますか何といいますか(w)

  板製造時の竹クギのミゾも,かなり深いので埋めておきますね。

  さてあしかけ四日ばかり,はいほーはいほと穴掘りにあけくれた側板は,スオウで下染め,ミョウバンで一次媒染,オハグロで黒染めにした後,黒ベンガラを柿渋で溶いたものを塗布。

  フラットな黒になりました。
  これを乾かして,上から柿渋を二三度塗って固着しておきます。
  ふだんの染め仕上げに比べると,なんか透明感のないのっぺろーっとした感じがして少々物足りない感じもしますが,これはこれで我が国に古くからある伝統的な塗装のひとつです。このあと油拭きすればツヤもでますし,組み立てや仕上げ作業で,またこすって落ちるところもあるでしょうし,使ってるうちにあちこち下地が出て味になると思いますから今はこれでいいです。

  表板の上で仮組みしてみたんですが----これがなんと,あんまり狂いがない。
  同時修理の松琴斎のほうがけっこう歪んでましたね。
  あれだけ虫食い孔をほじったり埋め込んだりしたにもかかわらずこの精度……表板の工作は少しナニでしたが,おそらくこの原作者,木取りの目----木の目を読むのはかなりの上手と見えます。同じトチで作られた松琴斎と比べると,こちらのほうが若干巧みですね。

  中心線は墨で引かれています。墨壺使った本式のやりかたですね。
  いちおう測り直して確認してみましたが,こちらも側板の中心線とぴったり重なり,まったく狂いはありません。

  これに従って天の側板から接着してゆきます。
  ふだんと違って5枚もあるんで,なんか変な感じです。

  ここで問題発生。
  このフェイズではあと,内桁を接着すればいいだけ。内桁は桐製で,棹孔のところに割れが入ってましたが,補修してそのままへっつけようとしたところ----あれ…なんか長さが足りないぞ?
  うむ,どうしたことでしょう。
  面板と胴側板との誤差は上にも書いたとおり小さく,左右で1ミリあるかどうかくらいなのですが,これ,5ミリは離れてますねえ。
  部材の収縮と捉えても少々納得のいかない誤差ですが,とにかくこれではどうしようもないので,手持ちの桐板で新しく作り直すこととしましょう。

  んで,接着-----うむ新しい材なのでまっちろで目立ちますね。
  もちろん幅はぴったりきっかり,左右端も胴内がわに合わせて削り,穴の位置や厚みなどもほぼ合わせましたが,それにしても,この内桁はなんか少し薄すぎる気がします。6ミリくらいしかないですからね。国産月琴の内桁の多くは,もう少し硬いヒノキやスギで作られており,棹の挿ささる上桁は8ミリ~1センチくらいあるのがふつうです。唐物月琴の内桁はこれと同じく桐製ですが,それでももうすこし厚みがありますねえ。

  接着はいい材なので,表裏板からハガれることはそうないと思いますが,接着面がせまいぶん左右胴材との接着に少々不安があるので,左右端に補強の小板を足しておきます。

  さて,これで胴体のほうは無事に直りそうです。
  虫食い穴だらけで,粉がポロポロ落ちてきたアノ物体が……と考えると,まあこの時点でもう感無量です。(w)

  何度か書いてるように,月琴てのは胴体さえ無事ならなんとかなるし,胴体の出来如何で音の良しあしが決まる楽器です。
  とはいえ,まあ胴体があっても,棹がなければ楽器としてどうにもならないのも事実。
  さいわいにも,以前実験のため作ったまま使わないでいたウサ琴の棹がまだあります。指板の寸法や基部の形状が少し違うので,そのへんをなんとかせにゃなりませんが。

  というわけで,次回はこの,棹の加工から----

(つづく)


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