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トラトラ松琴斎 (1)

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斗酒庵 月琴の呼ぶ声を聞く! の巻2015.11~ トラトラ松琴斎(1)

STEP1  松の呼び声

  44号・45号の同時修理も終盤にさしかかり,さてまた次のやりのこした「夏のしくだい」に手を出そうとした矢先,修理依頼が一本とびこんできました。
  ふむ,どんな月琴やら,と,なにげなく添付画像を見てビックリ-----こりゃまたなんと奇遇な! 松の一族の楽器じゃあーりませんか!

  修理中の二面が呼んだのでしょうか?

  しかもそれは,今回の調査で欠けていたビックピース 「松琴斎」 の楽器。

  伊杉堂・松琴斎こと杉村菊松は,現在分かっている松の一族の月琴作者・三人の中で,唯一あるていどのことが分かっている作者です(月琴の製作者について(2) 参照)。 現在までのところ,庵主は「松音斎」を「師匠」とし,ほかの二人を「弟子」と考えていますが,これは文献的な裏付けがあってのことではなく,楽器の実見と木やその工作の比較からの推測にすぎません----まあ,当てずっぽうですね。

  それにしても,この楽器にかかわって以来,こういうふうに,ふと縁や偶然の重なることがけっこう多くなってる気がします。 まあ月琴だけに限定すればせまい世界ですから,不思議もないと割り切ることもできますが,数多いる作者のうち,同系と思われる三人の楽器が一堂に会する,なんてことは,ありそうでも滅多に起こりえないような事態なのですよ。

  実物は文献と同じぐらいの情報を与えてくれます。
  前回まで,松琴斎の楽器ついては,過去の修理の資料と記憶を呼び起こしながら考えてただけですが,こんどは実物の楽器が目の前にあります。

  記憶との比較だけでは気付けなかったようなことが,どれだけ分かることでしょうか。

  まずは外からの計測と観察----


全長:654
胴径:350,厚:38(表裏板4)
有効弦長:413



  汚れで分かりにくくなっていますが,棹と胴側部がトラ杢のトチで作られています。
  たぶんもとはけっこうな上級品だったんだと思いますよ。

  あちこちにボンドのハミ出た痕が見えますねえ。 うん,一目で 「前の人が何もしないでくれてれば,もっと修理がラクなのに。」 という類の楽器(w)であることが分かります。

  フレットは竹のが二種類。 白竹のものと煤竹のものが混在しています。
  ほか第4フレットのところに材不明な木片で作られたもの。第7と第8フレットの中間,ふつうはフレットのない位置に,おそらくお箸の先端ではないかと思われる木片がへっつけられています。
  後の2つはまあ置いといて,竹製のものは間違いなく月琴のフレットとして作られたものですが,現状,どちらがオリジナルかは分かりません。加工が丁寧なのは煤竹のほうですが,過去に扱った松琴斎のフレットは左右端がこんなに角度つけて切られてませんでした。その辺から考えると白竹のほうが近い気はしますが,取付け状況や楽器の主材の上等さから考えると,両方ともいまいちそぐわない----もしかすると両方とも後補かもせん。


  山口は後補だと思われます。松琴斎の山口はもう少し薄い----色合い的に考えて,これはたぶん煤竹のフレットといっしょにほかの楽器から移植されたものではないでしょうか。
  蓮頭は線刻の宝珠。松派でこの類の蓮頭をつけた楽器は見たことがありません。
  この線刻の宝珠は作者によって模様が異なりますので,資料画像を見まくり,この楽器についているものとほぼ同じものは見つかったんですが,作者不明で手掛かりなし。ただ,松派の蓮頭はもう少し薄手ですし,裏面接着部にボンドの痕,そしていまついている糸倉よりやや大き目の接着痕も見えますので,移植物であるかもしれません。


  蓮頭のすぐ下,糸倉先端の表面がわと間木に割れ継ぎが見られます----ここも接着はボンドのようですね。
  間木がハズれたのを,糸倉左右からクギを打ってとめようとしたようですが,そのせいで糸倉が割れちゃったんでしょう。刺さってるクギは細い鉄釘で,糸倉先端の左に2本,右に一本確認できます。よくあるガラス釘などではなく,小物の製作や補修で使われる細工釘の類だと思われます。頭が小さく細く,あまり強度はありませんが,組み合わせた接合部の補強や,板を接着するときの仮止めなどに使われるものですね。
  DIYなどでもふつうに売ってはいますが,あまり一般的なものではないですねえ----楽器職じゃないけど,なにかのプロかな?

  あと同じく蓮頭の下,糸倉の表がわにけっこうなネズ齧があります。
  右のほうがヒドく,表板がわがガタガタになっちゃってます。

  棹を外してみますと,まず棹側の接合面にべったりボンドを塗りたくった痕が。
  そして胴の棹口のところに割レが見つかりました。

  いちおう継いであるみたいですがこれも……ボンドですね。
  割れてカポカポしてたのをテープでとめてあったらしく,横に二箇所ほどその痕がついて残っています。


  表板には上下にヒビ割レ。
  中央やや右,上からのものは,おそらく棹口が割れた時の衝撃によるものでしょう。割れ目が妙に黒ずんでますが,おそらくはボンドによる補修のためと思われます。 左下からのものは裂け割レになっています。おそらく主材の歪みなどに起因するものでしょう。
  というのもちょうどこの裏がわ,裏板にも同じような割レが走っていて,ほぼ表面がわと同じに,下端が2ミリ近く開き,上部が断続的な裂け割れになっています。材の狂いで胴下部が横にふくらんだためだと推測されます。
  表板上端からのヒビはあと表板の左縁に数箇所ネズ齧,中央付近のはかなり深くエグられてます。

  半月は低音弦がわの前縁部に小カケがあり,後縁部が少し浮いています。
  前回までの2面と違い,板状の半月です。
  松音斎・松琴斎ともに曲面タイプのほうが多く,また糸孔の配置や寸法に多少疑問があったため,当初はこれも移植品かと思ってたのですが,以前修理した松音斎の楽器に,材質は異なるものの,これとそっくりな半月の付いているものがありました(右画像)。国産月琴では糸孔の配置が 「ヘ」の字になってるタイプは珍らしいんで,おそらくは同系のこれを真似たオリジナルだと思われます。
  後縁部のふちに沿って板上に濡らしたような痕があるので,ここも再接着されてるのかもしれません。

  このほか地の側板もハガれかけたらしく,左右端のほうに板とのスキマに,ボンドをなすりつけた痕が見られます。

  んで最後----胴左がわのお飾りは後補ですね。
  「がんばった」とまでは褒めてあげます(w)

  さてさて……正直,のどから手が出るほどデータの欲しかった松琴斎ですが。
   今回の修理はなんかタイヘンそうですなあ(泣)


  まずまず,細かいところはフィールドノートをどうぞ。(クリックで別窓拡大)

(つづく)


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