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月琴49号 首なし2(終)

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斗酒庵 壊れ月琴の飽和攻撃に会う の巻2015.10~ 月琴49号 首なし2 (終)

STEP4  過程年代記

  さて首ナシ虫食い月琴49号,棹はこれを使います。

  以前,ウサ琴の次のシリーズのために作っといたやつですね。外見は33号松音斎の棹のコピーになってます。例によって3ピース,左右糸倉はカツラ,棹の中心材にメープル,指板にウェンジを使ってあります。
  ウサ琴の仕様に合わせて基部を削ってありますので,表板がわが少し低くなっています。まずはここにカツラの薄板(3ミリ)を接着したうえで,49号の棹孔に合うよう整形。

  ついで糸倉に軸孔をあけます。今回は古いタイプの楽器ですんで,糸巻に角度はあまりつけず,糸倉からほぼまっすぐつきでてるような感じにします。 例によって小径のドリルで下孔,リーマーで広げ,真っ赤に焼いた鉄棒を挿して焼き広げます。
  ちなみに,画像で挿してる糸巻は24号松琴斎のだったもの,あとでひとそろえちゃんと削ってあげますが,とりあえず糸張るとこまではこれでじゅうぶんかと。

  穴が通ったところでスオウ染め。
  棹も胴材と同じくベンガラで塗りこめてしまいますが,下地をちゃんと染めておくと,使用によって塗装が擦れてハガれても美しいですからね。

  延長材には米ツガを継ぎました。
  できた棹を抜き差ししながら,角度や位置を調整しますが,イチから作ったものでない他人の楽器の胴体に,よその棹を正確に挿すってのはやっぱり難しいもので(汗)----いつものように基部がスペーサーまみれでやんす。

  錆を落とし,防錆処理も済ませた響き線を,もとの位置にもどします。
  根元が数ミリ朽ち果てて短くなっちゃってますが,簡単な角度の調整でだいたい元通りにおさまりました。オリジナルでは固定のため,鉄の線の基部にニカワをこってり盛ったためそうなったわけですから,今回の接着はエポキ,現代カガクの力を借りましょう。

  調整に多少苦労しましたが,なんとか棹もおさまり。響き線の基部のエポキもしっかりと固まったところで,裏板をとじます。オープン修理の利点は,こういう内部構造をいぢくる作業が精確にできるところですね。何度も書いてるように,楽器の修理は外見より内部構造のほうが問題です。いくらガワがおキレイでも,バスパー1本はずれてブラブラしてたら,鳴る楽器も鳴りません。
  部材の収縮のつじつまを合わせるため,中ほどから2枚に分割して,間にスキマをあけておき,あとでスペーサを入れます。こうすると板の左右に1~2ミリの余裕ができるので,キレイに直せますからね。

  胴側の接合部は裏から和紙で補強してあります。あれだけ虫食いとかあったにもかかわらず,この楽器の接合部は擦り合せの加工がしっかりしていて,ほとんどスキマができません。それでも部材の収縮で表面がわがわずかに開いている箇所もありますので,そういうところには削ったツキ板を挿し,わずかな段差なども軽く均しておきましょう。

  うん,もうちゃんと楽器のカタチですね。


  スペーサを入れる作業中に,裏板にも虫食いが2箇所ほど発見されました。なぜか表板のと違い,少々蛇行した虫食い溝だったのと,あんまり目立たない面なので,パテ埋めで処置。

  各部穴埋め箇所の整形が済んだところで,Shinexに重曹水で表裏の清掃をします。
  さほどヒドいヨゴレもなく,ほぼ一度で済みました。
  裏板に捺されていたハンコも,下地がキレイになってよりハッキリ浮かんできましたが……ううん,やっぱり読めません。ざんねん。


  一日二日乾かして,半月を接着します。
  半月は前縁部の小カケを補修。スオウで染め直し,油拭きまでしてあります。
  オリジナルの痕跡と,修理前の資料を参考に位置決めをし,接着面をペーパーで少し荒らしてから,ニカワでがっちりとへっつけます。

  半月がついたところで,フレッティング。
  欠損している山口と棹部のフレットは,松琴斎に使ったのと同じ漂白ツゲで作りました。

  5本残ってるオリジナルのフレットはそのまま使いたいところですが----さて,高さは…だいじょうぶみたいですね。では位置----今回は胴体以外の原位置が不明なので,オリジナル位置での音の確認はできません。はじめから西洋音階でたててゆきます。
  いちおう第4フレットから半月までの距離から,指板の長さを推測して138ミリとしたんですが,これで合ってるかどうか。第4フレットの位置がオリジナルどおりなら,ビンゴォ! ってとこです。

  ……おおぅ,キセキだ(w)

  何度も書いてるように,ギターと違い月琴のフレットには高さがあるため,フレット位置の計算が3Dとなり,ちょとメンドくさいのです。高さのぶんを無視して,平面的なスケールとして推測することもできますが,まずもってぴったり合ってることはありません。
  さらに庵主はさんすうがだいのニガテなのです。(^_^;)
  だいじなことなので,もう一度書きます----

  ……おおぅ,キセキだ(w)

  ここまでほかの楽器の糸巻を使ってましたが,ちゃんと削ってやります。
  材料はいつものとおり¥100均のめん棒。六角軸ですが,今回は古式の国産月琴によくある溝の入ってないカタチにします。
  スオウとオハグロで黒染め。かなりうまくいきました。

  蓮頭りはこれ。
  国産月琴の一般的なものより,縦方向に5ミリほど長くなってます。41号キリコさんもそうでしたが,こういう古いタイプの月琴にはやや大ぶりな蓮頭が似合いますね。
  この意匠にちなんで,作業名「ピザ(仮)」を返上,銘を 「蛙鳴(あめい)」 としました。

  最後に残りのお飾りをそのまま,もとの位置にもどして,
  2015年12月24日 クリスマス・イブのその日,
  首ナシ・虫食いだらけだった月琴49号,
  楽器として再生!


  修理前がおきれいな状態だった楽器は,直ってみると意外に大したことなかったりするんですが, 「死線をさまよった」 てくらいヒドいことになってた楽器は,直ってみると存外に鳴ることが多いですね。
  使い込まれた楽器のほうが音が良い,ってのもありましょうが,今回の49号,使用 痕から言えば,それほどばっちり使い込まれた感じはありません。

  もとの状態が状態でしたし,たんに修理者が苦労したぶん,そう思えるってあたり無きにしもあらずでしょうし,修理前のアノ状態を考えると,ちゃんと鳴るだけで感動,てなとこもありましょうが。

  そのへんさっぴぃても,悪くはない音です。

  音量はさほど出ませんが,室内弾きにはじゅんぶんなくらい,これはこの楽器の,というよりは初期の月琴に共通した特徴です。流行最盛期と違って,大人数で大合奏,てなことがなく,独りで楽しむか,少人数で合わせるのがふつうだったからですね。
  渦巻状になった響き線は,スプリング・リバーブみたいな余韻が特徴ですが,この楽器のものは線がやや太目で,巻きもユルいので,一般的な渦巻線に比べると効果はおとなしめです。ただそのおかげで渦巻線の欠点,演奏中のノイズはあまり出ません。また線の揺れと弦音がうまいぐあいに重なったときには,ちょっと夢のような効果がかかります。
  36号すみれちゃんでも経験したことがあるんですが,これを庵主は 「天使の余韻」 と呼んでいます。演奏してる自分のあたまの上,右斜め45度,距離40センチくらいのところから音が返ってくる----そんな感じの響きですね。

  自作の棹とのキセキ的なフィッティングで,楽器のバランスも上々。
  横に立てて自立します----うむ,狙ってやったわけじゃないので,これもキセキじゃ(w)
  松派の棹は実用本位で使いやすいデザインになってます,やや太目なところも,小ぶりな胴と相まって,いい感じに安定した操作性を生んで,使いやすい楽器に仕上がっています。他人に聞かせる楽器じゃなく,独楽お稽古用としてはじゅうぶんで,ちょと余りますね。

  試奏は以下より。
  聖夜に復活した楽器の音をお楽しみください。

1)音階 2)試奏 3)試奏

(おわり)


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