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トラトラ松琴斎 (終)

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斗酒庵 月琴の呼ぶ声を聞く! の巻2015.11~ トラトラ松琴斎(終)

STEP5  音・鶴・琴の物語

  棹と胴とのフィッティングを終えたところで,裏板をとじます。


  表板同様,部材の収縮のつじつま合わせをするため,ちょうど真ん中あたりにあった割れ目から板を2つに分割して,スキマをあけてへっつけ,あとで間にスペーサを埋め込みます。
  ちょうどラベルの右横あたりになりました。
  ど真ん中だと目立つしスペーサが長くなって大変なので,このくらいがちょうどいいかな?

  胴体が箱になったところで,板の周縁部と側板の接合部をキレイに整形します。


  表裏の板を清掃します。

  ここまでくると,もうなんか安心(w)って感じがしますね。

  これで放置されたことと,前修理者の中途半端な作業でついたヨゴレなどはだたたい落ちましたが,けっこう使い込まれた楽器なので,表板にはかなりのバチ痕,擦りキズが残ってます----でもまあ,これはこれでこの楽器の勲章みたいなものなので,なるべく残しておきましょう。

  板の整形や清掃,接合部の細かな修正などが終わったところで,側板のお手入れ。こちらは柿渋を数回刷いて,合間に#400~1000くらいまで番手をあげて磨いてから,軽く油拭き,ロウ仕上げ。
  どです?-----このトラトラトラ杢!

  半月をもどします。
  天の板の歪みがけっこうあったし,棹もねじくれてたし,接合部もけっこういじっちゃってるんで,いちおう棹先からの中心線を確認し直し,位置決めをきちんとやりました。うん,さすが松派,もとの位置からほとんど動いてませんね。
  半月下にあった虫食いや,おそらく一度ハガれたときについたと思われる浅いエグレ,板の矧ぎ目にあった段差などは,あらかじめパテ埋めで処理してあります。

  欠損部品は少ないので,新しく補作するものはそれほどありません。
  今回の山口とフレットはコレ。

  一見,象牙のようですがこれ,ツゲなんです。
  漂白して白くするとこんな感じになります。むかし象牙細工のニセモノ作るときに同じようなことをしたそうですが,たしかにこれで表面磨けば,木目がまた牙の目に似てるので,かなり似た感じになります。
  利点は加工のしやすさ,欠点は漂白処理と乾燥作業のメンドさでしょうか。フレットの形にしてからあとの処理で,乾燥させながら反りを矯正してゆくのですが,象牙や骨に比べると,加工中はかなりモロい状態になってます。はじめての工法だったので知らずにガンガンやって,途中で2枚ばかり割ってしまいました。
  ニセモノ作りの技法の応用ではありますが,できあがりの見た目や指触りは,まずまずほかの高級材と比べても遜色はないと思いますし,木とは言っても,国産のツゲ材を使ってるので,もしかすると,いつも使ってる象牙の端材よりコストかかってるかもしれません。(w)

  並びは長崎あたりの明清楽音階,こないだ修理した天華斎の音階に合わせます。
  上=Cとしたとき尺(D)が11~12%,工(E)が20%くらい低く,1~3フレットがほぼ等間隔のように並びます。明笛の音階に合わせたわけでもないらしいし,ふだん西洋音階に合わせた楽器で弾いてるもので,これで弾くとしょうじき少々キモチ悪いですね~。

  で,あとはお飾りをいくつか。
  まずはいちばん目立つ,胴左右のお飾りですね。左のお飾りが前修理者か古物屋さんによる補作になってます。もとはこんなのがついてました----

  まあ,がんばったね,とまでは言ってあげれますが----厚みも材質も違うし,なんにゃらオイルステイン状の塗装も,近くで見るとあまり美しくありません。
  さすがにこれを戻すのはナニなので,右のものを参考に,オリジナルと同じホオ材で作り直します。

  見よ----「真似る」とは,ここまでやってから先を申すのじゃ。(wwエラそう)


  あとは扇飾り。これは同じ松琴斎でも,普及品の24号に付いてたもの(上左画像)をコピーしました。もしかするともう少し凝ったのがついてたかもしれませんが,日焼け痕もほとんど消えちゃってるので分かりません。

  最後にバチ布を貼って----梅唐草の裂地にしました。
  庵主,カラーリングのセンスが皆無なので,もう一枚色違いのを付けておきます。
  気に入らなかった貼り換えてやってください。
  ここはヤマト糊塗ってへっつけてるだけなんで,濡らせばすぐハガれます。

  2015年12月23日。
  松派の縁で舞い込んだ,依頼修理の松琴斎,修理完了です!



  棹も側板も,清掃して色付けに柿渋を塗り,亜麻仁油とカルナバ蝋で磨き上げてあります。
  うむ,木目も浮き出て,ツルッツルのトラットラ。

  前回報告したとおり,棹先が少しねじくれてるので,真正面から見ると,糸倉や蓮頭がすこし歪んで見えますが,これがデフォルトです。
  材質から推測される楽器の等級のわりには,お飾りが質素な感じもしますが,松派の楽器にはもともと,満艦飾になってるようなのがありません。

  これと同じようにトラ杢の材で出来た松派の楽器に,庵主はもう過去一度出会っております----33号ですね。(記事は こちら) それにも下画像のようにごく基本的なお飾りしかついていませんでした。
  たぶんもともとこんな感じ,これに加えるとすれば,中心の円飾りていどだったと思いますよ。(まあその素材がトラトラでじゅうぶん派手なので,これ以上飾る必要もないかと)

  これも偶然ではありますが,その33号と松琴斎のこの楽器は,胴左右のお飾りの意匠も,半月が単純な板状のものであるところも同じです。もしかすると,この楽器の原型だったのかもしれませんね。

  いままで扱った松琴斎の楽器に比べるといくぶん棹が太めで,胴材が軽いせいもあり,少しヘッドヘビーになっちゃってますが,立奏以外ではさほどの問題はないかと思われます。座奏でのふりまわしは悪くないですね。フレットも低めにそろっており,運指に対する反応も上々。

  明るくあたたかな音質で,よく響きます。このクラスの楽器としてはじゅうぶんな音色だと思います。ただし,松音斎などからするとやや響き線の効きが甘く,余韻にちょっと「腰」がない。胴体の工作からするともう少し響いても良い気がしますが,おそらくは,松音斎・松鶴斎と線の「焼き入れ」に違いがあるのだと----ほか二人のほうが,焼きがわずかにキツかったみたいですね。
  線が柔らかい影響か,ほかとくらべると多少線鳴りがしやすくなっています。
  演奏姿勢でかなり緩和できますので,いろいろと試してみてください。


  重厚な姿のわりには意外と軽めの音ですが,庵主,この手の音,キライじゃないです。ヘンなクセがないので,いろんな音楽に使えそうですからね。

  何度も書いているとおり 「前の修理者が何もしないでくれてたらもっとラク」 に直ったと思いますが(w),そのぶんじっくり修理できたおかげで,松派の工作についてさらに深く知ることが出来ました。ありがたや,ありがたや。

  それにしても,まさに縁とは異なもの。
  44号 松鶴斎・45号 松音斎,そしてこの松琴斎。
  明治浪華の月琴師三人の楽器を,存分に堪能できた数か月でございました。

(おわり)


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