月琴46/47/48/49号 (1)
2015.10~ 月琴46号 青汁1/47号 青汁2(首なし1)/ 月琴48号 菊芳(?)/49号 首なし2 STEP1 月琴界からの飽和攻撃 夏前に入手した43号にもまだ手ェつけてないンですが,この10~11月の間,まあまあスサまじき月琴ラッシュでございまして。 とりあえずの基礎情報でもあげておかないと,次にも進みにくいので,ここらでイッキにかたづけてしまいましょう。 たまりにたまってしまったんで,ほとんど外面からの観察だけ。 詳しい計測・調査の報告はいずれ,それぞれの修理のおりにまた。 自出し月琴46号と47号は2面同時の出品でした。 首のあるほうを46号,首なしのほうを47号といたします。 2面ともに作者名等の手掛かりはなく,テレビショッピングの箱に入ってきたところから 「青汁1号・2号」 と仮称いたします。(w) 46号はかなり凝った高級月琴。 お飾り類はなくなってしまっていますが,唐木の棹に側面貼りまわしの胴体。 表裏の板も目の詰まった,かなり良い質のものが使われています。 胴の側面に唐木の薄板を貼りまわしているので,四方の接合部は見えません。またふつうは図右のようになってることが多いのですが,この楽器は左の形式。古いタイプの中国月琴 (いわゆる清楽の「唐物月琴」にはアラズ-参照 「月琴の起源について その5」)などにはよく見られる工作ですが,国産月琴では珍しいものです。 棹と延長材の接合形式が,28号と同じになっています。28号の場合は,延長材が柔らかな針葉樹材であったため,糸を張ると首がもちあがる不具合が発生しましたが(参照 月琴28号なると(終)),この楽器はサクラかカヤと思われるかなりカタくて丈夫そうな材を継いでいます。これならたぶん大丈夫でしょう。 糸巻は4本ありますが2本づつ違っています。 糸倉の噛合せや加工などから見るに,おそらくは紫檀で出来てる細身のほうがオリジナルでしょう。 三本溝のこの2本は名古屋の鶴寿堂の楽器についてたものじゃないかな? 横から見た棹背のラインなど,確かに鶴寿堂の楽器を思わせるところがないでもありませんが,加工の手が違ってるように感じられます。 47号は胴体のみの首なしさんです。 現状はアレですが,材質といい工作といい,こちらもそこそこ上等の楽器だったとは思いますよ。 表板の真ん中に木目の 「山」 になってるとこを持ってくるのは,それこそ鶴寿堂なんかが好んでやるところですが……同時出品のもう一面のほうに鶴寿堂のと思われる糸巻がついてたあたりもふくめて,さて。 接合部は凸凹継ぎ。ですが,ただの凸凹ではなく左右に角度をつけたより強固な 「蟻継ぎ」 になってます----繊細で丁寧な工作ですね。 胴内にすっぽぬけた延長材が残ってましたが……うむ,接合部がV字じゃない,へんなカタチしてますね。 おそらくは右図のような接合形式だったのだと思われます。 かなり古いハナシですが,2号月琴がちょうどこんなような加工になってました。 先端にかなり大きなスペーサーが貼り付けてありますが,これはオリジナルかあとでの加工か…… 表裏の板がはがれかけたらしく,鉄クギや竹クギでとめてありました。 「直す」 という感じではなく 「とりあえずカタチにしておく」 ていどの目的で軽く打たれたものらしく,数も少なくて簡単に抜けましたので,そのついでに板をひっぺがしてみますと。 わぁお………オモシロ構造が出てまいりましたよ!! 響き線はグルグルの渦巻線。 線は地の側板に直接挿してあります。 その根元に,線をとめるため打たれてるクギはまあいいとして。そのほか根元にもう1本,さらに渦巻を支えるかのように2本。 ここだけで合計4本もの四角いクギが打たれております。 渦巻のところにあるクギは,おそらく線の動きを制限するためのものでしょうが……ううむ,この手の加工は正直,ノイズの原因にしかならないんだけどなあ。 さらには上下の桁の左右端にも斜めに1本づつクギが……なんですか,丑の刻参りかなんかですかこりゃ。 まあ,内桁の固定の補強のため,なんでしょうが。 さてこれらもオリジナルの加工か,それとも表板を「修理」した者のシワザか。いまのところ分かりませんが,こりゃできれば引っこ抜いておいてあげたいところ。 ともあれ,処置するにもちゃんと調べなきゃですね。 48号は,今回の4面のなかではいちばんマトモな楽器かと。(w) やや太目だけどクセのない棹のライン,やや厚めの胴体。 丁寧でしっかりとした加工・工作の楽器です。 これもまたラベルなど作者につながるものは残ってなかったんですが,このちょっと凝った蓮頭のコウモリのデザインと彫りに,何か見オボエがありまして,資料画像をいろいろと調べてみましたら----あった,これですね! 右画像のコウモリのついてた楽器は,日本橋馬喰町四丁目,菊屋こと菊芳・福島芳之助の作。細部は異なるものの,全体的なデザインとか彫りの手なんかはかなり近いかと。 ただ,どうも棹やうなじなどの工作の特徴が,庵主の記憶にある菊芳の楽器のそれと食い違うんですよねえ……なもので,現状その作者名をさだかには申せません。楽器本体の全体的な特徴は,本郷海保あたりの手に近い気もするんですが,さて。 損傷はお飾りだけで,楽器本体にはほとんどなく,保存状態は上々。 フレットを4枚足してあげれば,すぐにも弾けそうな感じです。 ともあれ,この楽器は 「後の楽しみ」 としてちょいととっておきたいとこで。 さいご,49号は,これまた首なし胴体だけでございます。 なんかピザの箱みたいなのに入ってきましたので,作業名 「ピザ」 と命名。(w) で,その箱から出しましたところ…………うわあああああああああぁっ! 粉が!茶色い粉がポロポロとっ! うへぇえええ……あなが,あなが,あなぽこが。 ぽこぽこぽこと,ぽこぽこと。 全身虫に食われてますですぅ。 さすがにピザと命名されるだけあって,よほど美味しかったのでしょう。(^_^;) 虫食いは表裏の板より側面がヒドいですねえ。 その側板,ふつうは天地左右の4枚ですが,この楽器の胴体は5枚の板で構成されています----これは珍しい。 裏面中央になにか篆字の印のラベルが貼られており,左のほうにこれとは違う四角い印が板に直接捺されてますが,現状では作者名なのかなど不明。 工作の感じやフレットの位置からして,国産月琴としてはかなり古いタイプの楽器ではと思われます。 あっちもこっちも虫食いに接着ハガレで,バラバラになりかけてましたんで,いっそそりゃあっ!----と,裏板を胴材ごとひっぺがしました。 内桁は真ん中一枚で,表裏板と同じ桐で出来ているところなんかも,やはり唐物と同じ。 古い形式の楽器の特徴ですね。 これもまた,内部に延長材が残ってました。 棹角度の調整でもしたのか,先端が加工されており何か字の書かれた紙が巻かれております。 ハガしてみますとこんな(下画像)----「折紙」 をちぎったものですねえ。 いや「オリガミ」っつっても,ツルとかカブトのことじゃないですよ。真ん中から折って半分にした紙に文を書いてゆき,端までいったらひっくりかえして反対から書き足してゆきます。昔の公文書とか契約書なんかでよく使われた文書の形式ですが,そういう紙の端っこのほうでしょう。 庵主,この手の文書の解読は不得手なのでよくわかりませんが,「小出新平」 さんの田んぼについて何かとりかわした部分のようです。ふむふむ…興味深い。 楽器自体の工作形式もふくめ,こういう古めかしい文書がついてたことも考え合わせますと,少なくとも明治初めごろの楽器なのではないかと思われます。 響き線は47号に似た形式ですが,もっと巻きのゆるい渦巻線。直挿しで止めの釘などは打たれていなかった模様----このあたりも古めの工作です。かなりサビがヒドく,根元が腐って折れ,ハズれてしまっています。その根元のあたりがみょうに盛り上がってるので,おそらくは線の固定のためと思い,ここにニカワをこんもり盛ってしまったのでしょう。(ニカワは湿気を吸うので鉄の接着には不適) 側板の材は白っぽく,比較的軽かったので,はじめは41号と同じく「桐」かと思っていたのですが,桐ほど柔らかくはなく,よく見ると特徴的な杢があることから,おそらくはトチと思われます。 トチは腐りやすく狂いやすいというのはよく聞きますが,こんなにも 「虫に食われやすい」 というようなハナシはあんまり聞いたことがないなあ。なんせ下に向けてトントン叩くと,どこからともなく茶色い粉が,際限なくサラサラこぼれてまいります。 さりとてさすがに,持てばクシャっとつぶれるほど食い荒らされている感じでもありませんし,楽器内部にはさほどのヨゴレもなく,貫通したような穴も見られませんので,被害は大きいものの,その多くは表層的な虫害であるようです。 未修理の5面の中でいちばんの重症患者ですねえ。 虫食いの状態によりますがさて,直るかどうか-----でもじつは庵主,こういうのがけっこう好きなのです。修理者として萌ゆる。(www) いささか間がトンじゃいますが,45号に続く自出し月琴の修理は,この虫食い首なしの49号・ピザさんからといたしましょ~う。 というわけで,今回はこの楽器だけフィールド・ノートがございます。 虫食い穴の分布など,ご覧になっていろいろとご想像ください。 40号クギ子さんでもそうでしたが。 これもし直ったら,拍手キボンヌ。(w) (つづく)
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