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月琴44号/45号 (3)

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斗酒庵 松の一族にいどむ! の巻2015.10~ 月琴44号 松音斎/45号 松鶴斎 (3)

STEP3 松のかたむき

  45号のほうは庵主がひっぺがした裏板の再接着のほか,正直あまり作業はありませんので,バラバラの44号のほうを先に進めてゆきましょう。

  矧ぎなおした表板に合わせて,側板を接着してゆきます。
  材の読みや加工工作もよかったためか,側板自体の変形や歪みは小さく,ほとんど問題なく元通りに組み合わさり,「風呂桶」の状態となりました。
  この時点ではまだ四方の接合部は接着しておらず,胴体構造の保持に不安がありますので,クランプをかけて仮固定してあります。
  この状態で仮組して,棹を挿してみて曲がっていないかなど様子を見ます。確認したところで,上桁だけささえに残したまま(まだ接着はしてません),四方の接合部にニカワを含ませ,側板にゴムをかけ回して圧着します。
  ついで接合部内がわに薄い和紙を重ね貼りして補強,これが乾いたところで内桁を接着してゆきます。まずは上桁,この部品は楽器の背骨みたいなものですので,前後左右とくにしっかり接着されてなければなりません。松派特有の工作で取付けが斜めになってますので,もとの接着痕を確認しながら,角度を合わせて位置を決めます。

  つづいて下桁----材質的にはちょっと問題がある板なのですが,すでに変形しきってるようですので,これはこれとしてそのまま接着しましょう。
  こちらは胴体の中心線に対してほぼ直角,左右端はちょうど接合部の上になります。


  最後が響き線なんですが----
  悩むとこですねえ。(w)
  上桁に片方だけあいている穴は,あきらかに響き線を通すためのものと思われます。線の形状からしても唐物月琴や45号と同じく,肩口に基部のあるタイプであっておかしくないんですが,その肩口あたりにそういう痕跡はなく,該当する接着痕は,国産月琴でよくある上桁の下にしか見られません。

  そうすると,この上桁の穴は何のためにあけられたのやら----はてさて,どう考えればよいものか?

  響き線を45号と同じ位置にした場合どうなるかというあたり,興味がなくもないのですが,さすがにそれだけではオリジナルの構造を変える理由にもならないので,今回は素直にオリジナルの位置にもどし,そのあたりはいづれウサ琴で実験してみることとしましょう。

  この横向きの深い弧線は,同系の松琴斎,そして関東の唐木屋の楽器などに見られまが,もしかするとこの響き線は,国産月琴が唐物月琴の影響から一歩脱却して,独自の方向へとむかおうとした時の,まさにその一形なのかもしれません。すなわち,唐物と同じ形状の線を,左回りにほぼ90度傾けたわけですね。

  どうしてこうなったのか,推測される理由は2つあります。
  ひとつはメンテナンス上の問題です----線の基部が肩口にある場合,響き線に何か支障が生じると,最悪表裏どちらかの板をほぼ全面剥がさなければなりませんが,左右にあれば最少一部で済みます。

  ふたつめは演奏スタイルの変化----中国では月琴は,椅子に座ってギターのようにやや横向きに構えて演奏されますが,畳の上で正座して演奏する場合は,琵琶のように若干立てたほうが操作がしやすい。 響き線は楽器を演奏位置に構えたときにもっともその効果を発揮するような状態,完全な片持ちフロートの状態になるように取付けられます。すなわち唐物の響き線は,中国での演奏スタイルのときにもっとも効きが良いのであり,線が胴内に触れて出るノイズ,「線鳴り」も少なくないわけです。
  古い楽譜の口絵なぞ見ると,清楽初期のころは中国風に椅子に座っての演奏もされていたようですが,明治の流行期にはほとんどなくなって,三味線などと同じに畳の上で正座して弾くようほうが多くなっていたようです。そうなると楽器の構えかたも上述のように自然と変化しますので,それにつれて楽器の構造,響き線の取付けも,縦に構えたときもっとも効くような角度に変わっていったのではないでしょうか。

  そうすると,この44号の上桁の穴は,国産月琴が唐物の模倣から脱却した,まさにその転換の一瞬間を,化石のように残したもの,と言えるのかもしれませんね(w)。


  裏板を接着します。
  バラバラになった板は一枚に矧ぎなおさず,中央付近からわけて,わざと二枚の板にしています。この真ん中を少しあけ,部材の経年変化ぶんの辻褄を合わせるためです。
  スペーサーは幅約2ミリ----百年で約2ミリ。
  変化の読みの難しい広葉樹材でこのの狂い程度なら,たいしたものと言えましょう。

  裏板がつき,胴体が箱になったところで,表裏を清掃します。
  粘りとかはないものの,けっこうしつこい黒ずみヨゴレで,日を置いて二度ほど行いました。
  たぶん物置小屋とかに置かれてたんじゃないのかなあ。
  北海道の物置小屋にはむかし,よく石炭が入れられたりしてました。石炭には炭素だけじゃなく微量の金属成分なんかも含まれてます。月琴の板を染めるのに使われるヤシャブシという染料は,鉄などの成分に反応して変色してしまいますので,そういうところの粉塵を長いこと吸ってたら,たしかにこんなふうに変色してしまうと思いますね。

  板が乾いたら半月を接着。
  ここまではとんとん拍子で進んでおります。



  さてこちらは45号松音斎。

  内部確認のためいったんハガした裏板をもどします。
  スペーサーは2ミリ。もともとあった割れ目のスキマよりは若干広がりましたが,いたしかたなし。


  胴体が箱になったところでこちらも表裏清掃。
  裏板のほうが若干汚れてましたが,だいたい一度でキレイになりました。
  大事にされてはいたようですが,けっこう歴戦の勇者でもあったようですね。
  濡らしたら,バチ皮のところの左右に無数の擦痕が----
  だいたい正当な辺りに集中しているので,弾いていたのは清楽の方だと思われます。

  このほか,棹口に若干のガタつきなどがあったため,その調整などの小作業が若干ありましたが,45号本体の修理はこれにてだいたい完了。
  44号とともに,次回は庵主のお楽しみ,小物の王国とまいります。

(つづく)


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