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月琴49号 首なし2(2)

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斗酒庵 壊れ月琴の飽和攻撃に会う の巻2015.10~ 月琴49号 首なし2 (2)

STEP2  ほじくれ! その身の充填されるまで!


  例によって,単品での修理は経済的でないため,依頼修理の松琴斎もほかの楽器と並行修理でまいります。なにせこの年末になってまだ 「夏休みのしくだい」 がたんまり残ってますので,修理楽器には事欠きません。(w)
  自出し楽器からはこちら----首なしなうえに全身虫食いで穴だらけの月琴49号,修理開始しま~す。

  「夏休みのしくだい」のなかにはもう一面,首なしの47号がありますが,なぜこちらが先かというと,49号は主材がトチ,現在修理中の松琴斎と材質が同じだからですね。補修の材料とかで同じものが使えます。

  さて,首なしで虫食いだらけの物体を,いかにして「楽器」にまで戻すか……ですがまあ,ここまで壊れちゃってますと,じつは逆に気楽なもんで。
  なにせこうなるともう「原状」,すなわち製作当初の状態なんてぇもんは,お釈迦さんでもほとんどわかりませんからね----ちょっとやそっと違ってたって構わない(w),ときたもンだ。(www)

  まずは例によって,お飾り類をはずし,楽器をバラバラにしてゆきましょ。
  とはいえ,まあ調査の段階でもうほぼバラバラ状態になってしまってますので,表板にへっついてるものを除去するだけですね。

  ヨゴレてたせいもあって,くっついてた状態では分からなかったんですが,右がわのお飾りがバラバラになってました。
  けっこう複雑な割れかただなあ。かなり薄く繊細な彫り物なので,材の収縮でヒビや割れは入ったりもするでしょうが,これはそういう自然現象によるものではなく,人為による破壊ですね。
  乾燥で反りかえったかしたのを直そうと,指で圧したらバラバラになった,ってとこかな。

  あと,少しめくれてたバチ皮の下からは,案の定,縦横無尽の虫食いが登場。一部は半月の下にまでもぐりこんでました。
  しかしながら数は多いもののどの溝も浅く,広がりもなさそうなので,表面的に埋め込めばだいたい済みそうです。

  はずれていた響き線は木工ボンドでサビ落とし。
  修理作業では天敵のような存在ですが,サビ落しには重宝します。
  根元付近の腐食がひどく,2ミリほど切り落としましたが,ほかの部分はそれほどでもなく,Shinexで軽く擦って2度ほどサビ落としをしたら,だいたいの部分はキレイになりました。
  やや太目で,ややキツく焼きが入ってるようです。

  虫食い穴はまず最初に,木粉パテを注射器で注入。
  このパテは,木粉粘土をヤシャ液と水で,かなりユル溶いたものです。孔からあふれて逆流してくるまで,もしくは中でつながってるどっかほかの穴からむにゅ,っと顔を出すまで。何度もぎにゅ~っとおしこみ続けます。
  ゆるく溶いてるぶん痩せもありますので,あるていどおしこんだら少し間をおいてほかの個所を処置し,水分がとんだところでふたたびぎにゅ~。
  これで埋まるような穴はそれでいいんです。あと,この作業によって虫食いが表面近くまで来てるような箇所が分かります。

  すなわち,木粉粘土を押し込むと,その水分で「薄皮一枚」になってる個所は表面にシワが寄ったり色が変わったりするのです。そういう個所は見つけ次第ガンガンほじくり,乾かしてから木粉(トチの木の粉)をエポキで練ったパテで埋め込んでゆきます。
  ただしエポキのパテは硬化すれば強力で強固ですが,粘りもあり木粉粘土よりは固いので,大きな損傷個所では細かい凸凹までちゃんと埋まりきりません。胴材に空洞があったり,材質の硬さに部分的にあまり大きな差ができちゃうと,音にも影響が出そうなので,そうした個所では,まずふつうに練った木粉粘土を押し込んで,細かな凸凹をだいたいふさいでから,表面をエポキ&木粉のパテで埋めてゆきます。

  はいほー,はいほ。

  ほっては埋めて,埋めたらまたそのすぐ横やすぐ先に弱い箇所が見つかり,またほっては埋めて----なんか赤城山で埋蔵金を探してる気分になってきましたよ(w)
  ぜんぶほじくるのに,けっきょく足かけ4日ほどかかりました。(^_^;)

  側板表面は黒く塗られていました。うっすらと木地の木目が浮かんでいますが,隠蔽性は高く,擦ると赤紫色に薄れてから木地が出てきますので,おそらくはスオウで染めてから,黒ベンガラなどの顔料系塗料で薄く塗装してあるのだと考えられます。
  ということで,穴埋めの終わった胴材は,まずスオウ染めしておきます。樹脂で充填した部分も,木粉を混ぜてあるので,色合いは少し違っちゃいますが,けっこうちゃんと染まってくれます。

  古い月琴の塗装は,スオウやカテキューで木地を染めてから,柿渋・油・ロウあたりでナチュラルに仕上げたものが多いのですが,中級以下の楽器などではたまにこの手の塗装が使われていることがあります。今回の楽器の場合,主材自体はトチで裏側から見る限り質も悪くはありませんが,おそらくは「5枚継ぎ」という構造を隠したかったんではないかと考えます。
  同時修理中の松琴斎もトラ杢のトチで作られていますが,トチ材のいちばんの売りは木目です。素材イチオシの長所を,ベンガラ塗装で覆い隠してしまっているわけですから,これはその下が 「あまり見られたくない工作」 であったから,と考えたほうがいいでしょう,おそらく当初はふつうに4枚組みでやろうとしたんだと思いますが,組んでみたらどこかが長かったか短かったとか,あるいは素材とした木のカタチの関係で,4枚均等な板が切り出せなかったとか,あまった板を寄せ集めて作ったとか,そういった類の理由だったんじゃないかなあ。
  この楽器の作者はシロウトではありません。
  各部の工作は手熟れたものだし,内部構造も含め,きちんと分かったうえで「楽器として」製作をしています。楽器の工作としては失敗だったかもしれませんが,それも歩留まりにせず,工夫して商品として売り出せるレベルのモノとしたのでしょう。こういうのも,大流行期の一現象だったのかもしれません。

  けっきょく5枚ある側板のうち,天の側板と,表板がわからみたとき地の左がわになる一番短い板(第4板と仮称)の二枚が最も食われてました。天の側板の左右端と,第4板の左がわ接合部付近がもっとも被害が多く,ほぼ縦横無尽,スッカスカといっていい感じでしたねえ。
  こういう虫食いの状態からは,その楽器が置かれていた場所や体勢なんかが分かるものですが,今回はイマイチはっきりしませんねえ。

  たとえば上の食害も,天の側板と第4板の端っこは執拗に食われているのに,それと密着している隣の板の端っこはほとんど無傷,なんてふうにもなってます。そのあたりもフシギです。板自体に味の差(w)があった,と考えるよりは,そこに虫の好む物質が付着していた,と考えるほうが無難でしょうが----よく分かりませんねえ。

  埋めてはほじくりほじくり埋めて----なんといいますか,身体のパーツをだんだん機械の部品に換えてサイボーク作ってるみたいな感じもしますが,庵主にはめずらしく,短気を起こさず一つ一つ処理していったおかげで,それそこに強固な充填修理ができたと思いますよ。

(つづく)


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