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トラトラ松琴斎 (4)

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斗酒庵 月琴の呼ぶ声を聞く! の巻2015.11~ トラトラ松琴斎(4)

STEP4  松はゆがんでた


  補修の終わった表板に,胴材を貼り付けてゆきます。

  部材の収縮でピッタリ元通りになることはないので,けっきょくどちらかを少し削らなきゃなりません。まあギターやバイオリンと違って,月琴の構成部材はぶ厚く,工作もそれほど緻密ではありませんので,どこが多少削れてもまあだいじょうぶ。ではありますが----部材同士の兼ね合いも見ながら,板と側板,もっとも被害が少なくて済むような角度や位置を,微妙に探りながらの作業です。

  作業は天の板(棹口のある板)から,つぎに左右。最後に楽器のお尻にあたる地の側板で辻褄を合わせます。今回はほぼぴったり。地の側板の左右端を接合面の調整のため,わずかに削ったていどで済みました。

  側板がつくと胴体は 「桶(おけ)」 の状態になります。
  今回の楽器の四方接合部は,木口同士の単純な擦り合せ接着です。それほどひどいスキマもありませんが,水が漏れる桶が役に立たないように,接合部がしっかりしてないと振動の伝わりが悪くなって,ちゃんと鳴る楽器になりませんので,補強しておきましょう。

  小さく切った桐の薄板を煮立てて柔らかくし,接合部の内側に押し当て,一~二晩ほど放置し,型をつけます。乾いたところでいったんはずし,スキマにはツキ板をはさみ,細かい凹みに木粉粘土や木くずをニカワで練ったものを軽く盛って。桐板をそれぞれの接合部にもどして接着します。

  オリジナルの工作精度から言うと,和紙を重ね貼った程度でも良いかもしれないのですが,この楽器の主材であるトチは,多少狂いやすい性質のある木ですので,少し強力な補強法にしました。
  乾いたところで,補強板の浮きなどをチェック。軽く表面にペーパーをかけ,角を落としたら,薄い和紙で覆います。目を交差させて二枚重ね,さらに柿渋を刷いておきましょう。

  接合部の補強が終わり,胴体が水も漏らさぬ桶となったところで(ほんとに入れたりはしてませんよw)内桁を接着します。何度も書いてますが,この部材と表裏の板がしっかりくっついてないと,楽器はちゃんと鳴りません。変なビビリが出たり胴体構造が歪んだりしますので,接着の作業はけっこう慎重です。
  ほんとうならまあいろんなクランプやら道具を駆使するところなんでしょうが,庵主はこうしてゴム輪と厚板で表裏からはさみこむ方法でやっています。ちょうどいい長さの角材があれば,それではさみこんでもいいでしょうね。ニカワによる接着のコツは 1)接着面を擦り合せをよくして密着させる 2)よく湿らせ,ニカワをふくませる 3)必要以上に圧をかけない です。板材の桐はもともと接着の良い木ですし,こんくらいの工作がかえっていいのかもしれません。

  上桁がついたら下桁。
  左右端がちょうど接合部の補強板のところにかかるので,少し削って接着します。
  桁左右端の,表板がわの角が軽く落としてあります。
  表板との接着をより強固にするための工作ですね。このあたりちゃんと分かって,しっかりやってるところは,さすがに松派ですわい。


  内桁がついたら,まずは棹口のあたりの板の飛び出しを削り落として整形。
  棹を挿して具合を見ます。
  胴体との接合に問題はなかったんですが……うん,歪んでますね,棹が。
  表板の水平面と指板にあたる部分の端っこは,ほぼぴったり面一になってるのですが,これが糸倉方向にむかうにつれて左方向にわずかにねじれています。

  庵主はこのねじれがあまりにも複雑だったり,大きかったりしてますと,古いもンだし,もうこういうものだ,とアキらめて(w),山口やフレットの高さを変えて対処しちゃうことにしてるんですが,今回は削ればなんとかなるような範囲ですので,ざざっとやってしまいましょう。

  指板を擦り板の上に軽くのせて,削るというよりは「砥ぐ」感じで平らにしてゆきます。松琴斎の棹は,松音斎のものに比べると若干細いことが多いのですが,この楽器の棹は松音斎とほぼ同じ,しっかりと太めなので,このくらいなら問題ないでしょう。

  トラ杢のトチなんか使ってるくらいですから,これが彼の製作楽器の中でも高級品の部類に属するものであることは間違いありませんが,それに加えて,この棹や半月の形状もふくめ,この楽器の工作には 「松音斎」 の楽器へのオマージュといいますか,想いといいますか,そういうものが見え隠れしている気がします。細かな工作や内部構造などに,時代の変化は現れていますが,それを知らなければ 「松音斎の楽器のフルコピー」 といっていいくらいの出来だと思いますよ。

  平らになった表面をキレイに磨いて----おおぅ,真っ黒な汚れの下から見事なトラ杢があらわれてきましたねぇ!

  棹の取付けに多少ガタつきが出てますので,胴体との接合面を少し削ったり,基部や延長材にツキ板を貼って,スルピタのきっちりピッタリに調整します。作業としては細かく書きようがないので,これだけの記述になっちゃいますが……この楽器の修理では,このじみーな作業が実はけっこう大切で大変でして。今回も足かけで三日ぐらいかかってます,ちかれたびぃ(汗)

(つづく)


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