月琴47号 首なし1(3)
2015.9~ 月琴47号 首なし1(3)
STEP3 ホネホネロック この楽器の作者の木工の腕前はそこそこです。 外がわから見るかぎりにおいては,接合部にスキマはないし,表面の加工も丁寧で美しい----のですが,その接合部の内がわはこんなんですし,内桁には固定のためのクギがぶッこまれてたりと,かなり荒っぽいこときわまりません。 たしかに,こういう曲面での凸凹接ぎってのは難しいんですよねえ。 宮大工さんとか指物とかしっかりやってた人だとなんなくやっちゃうんでしょうが,3Dでぴったりきっかりハマるような工作を,ニワカ楽器職の多かった月琴の匠がみんなやれてたとはとても思えません。(w) まあ表がわから見てスキマがないだけ,この人はまだ上手,と言えましょう。しかしながら何度も書いているように,楽器は外づらより内面です。外がわから見ていくらキレイな楽器でもバスパー一本,魂柱ひとつズレてたら,それだけでクズみたいに鳴りません。 原作者も接合部内がわにニカワをこってり盛り,さらに小板などをはさんでそのスキマを埋めようとしてますが,まだまだ雑ですね。 原作者の補修が中途半端なのは,おそらくあるていど組み立てた状態でこれを行ったためだと思われます。単純な木口同士の接着ならそれでもなんとかなったと思うのですが,複雑な接ぎにすればするほど,埋めなきゃならない箇所は多くなるし,細かく小さくなって面倒くさい。すでにどちらかの板が貼りついてたような状態では,まあこれが限界でしょうか。 月琴の音色の良しあしは胴体の工作で決まります。 なかでも側板四方のこうした接合部や内桁が,どれだけしっかりと密着しているかというところは,それを左右する要素としてかなりの割合をしめていると思われます。 単純な構造の楽器ではありますが,それだけに,振動がどれだけちゃんと楽器全体に伝わっているか,それ如何で楽器の鳴りがぜんぜん変わってきちゃうわけですね。 この部分の工作不良は,楽器全体の構造が不安定になるだけではなく,音色上もいちばんの問題点となるわけですから,補修はちっと徹底的にやらかしましょう。 板をぜんぶハガします----表も,裏もです。 はだかにした胴体構造は,グラグラゆらゆらしていて,いまにもバラバラになりそう。凸凹継ぎなのでなんとかひっかかってカタチになってる,って感じですね。 まずは楽器四方の接合部と内桁の接合部にゆるめに溶いたニカワを垂らし,よく揉みこんでおきます。 ついでこれを型枠にのせ,周縁にゴムをかけ回して接合部をがっちりと密着させ,さらにカタチが歪まないように,表裏からしめつけて固定します。 ふだんはコレ,表裏の板を接着するときに使う道具ですんで,こんなスケスケした状態のものをハサみこんでると,なんか可笑しな感じがします。 この状態で接合部裏のスキマをパテ埋め,ここにはエポキでなく木粉をニカワで練ったものを使います。この部分は密着していてくれないと困りますが,いざ楽器に衝撃がかかったときには割れて壊れてくれないと,それはそれで困る----何度も書いているように,壊れたときに壊れるべきところから壊れたものは,何度でも修理ができますが,そういう部分を壊れないようにされてしまうと,次に壊れたときそのモノはゴミにしかならないからです。 伝統的な工法による修理と言うものは 「二度と壊れない」 ようにするためではなく,次も壊れるべき時には壊れるべきところから壊れるようにするのが目的であり本筋なのです。それでも予想できなかったようなところ,また本来の使用によっては壊れようのない箇所から壊れた場合に,庵主はカガクの力を借りることにしています。 ほれそこで強力接着剤持って画面見てるアナタ,目からウロコが落ちたなら,まずはそれ置いて,おデコにこの五寸クギをぶッさしなさい。 ちなみに,この作業で板をハガすため側板を濡らした時に分かったんですが,この月琴の胴体,クスノキで出来てますね。以前にも部分的に使われていた例はあったんですが,胴体の主材として使われているのはハジメテ見ました。 細工物のほか,太鼓などにも使われるものですから,弦楽器の胴体として使われていてもまあ不思議はありません。比較的軽軟で加工は容易,防虫剤であるショウノウの材料ですからムシもつきにくい----今回もこれが判った原因は,濡らした時のニオイでした。 もともと白っぽい木ですが,表面を茶色く染めているのはスオウではなくカテキュー(阿仙薬)のようです。板をハガした木端口の部分の染みに重曹を垂らしても反応しません。スオウならムラサキ色に発色しますし,ヤシャブシの色合いとも若干異なります。 側板を固定しているあいだに,響き線の手入れも済ませておきましょう。 サビとりのため,線に木工ボンドを塗りつけてハガします。こういう複雑な形の線の場合には薄い紙を一枚むこうに置いて,紙を線に貼り付けてしまう感じでやるといいみたいですね。ハガすときも紙といっしょなので,どこまでやったか分かりやすいですし。 仕上げに軽く磨いて,ラックニスを刷きます。サビは全体に回ってましたが,さほどに進行もしておらず,ごく表面的でした。現状でも振動に対する反応はかなり良いほうですし,線が太めなので余計な方向に触れず,面板や胴体との接触によって発生する線鳴りもあまり起きそうにありません。 線を固定しているクギ,また,あまり現実的な意味はなさそうですが,線の動きを制限するために打たれた2本と,内桁を固定しているクギにも,同様の防錆処理をしておきます。 接合部のほうは,パテが乾いたところで裏がわをざッと整形し,薄くて丈夫な和紙を交差貼り,柿渋とニスを塗って保護します。 こういう補強のために和紙をニカワで貼りつけるときには,ニカワを塗りつけるのとはべつに,毛の粗いやや固めの筆を一本用意してください。薄く溶いたニカワを塗って貼りつけた後,そういう筆で表面を軽く叩くように撫でるようにしてなじませますと,接着面が多少凸凹していてもしっかり密着してくれますよ。 接合部の補強の終わった胴体構造。 一見,補修前とあんまり変わらない感じですが,もう持ち上げてもこのカタチのままビクともしません。 (つづく)
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