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月琴47号 首なし1(2)

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斗酒庵 またまたの並行作業 の巻2015.9~ 月琴47号 首なし1(2)

STEP2 なつのしくだい その2のつづき


  43号と並行作業となったのは,先に修理の終わった46号と同時に買い入れた胴体だけの楽器,首なしの 「青汁2号」 です。

  表裏板はあちこちハガれて,フレットは全損,飾り類もかなりなくなっちゃってますが,同じ首ナシでも,年末にやった49号 とくらべると,状態は 「かなり良い」 と言えますねえ。(w)

  何度も書いているとおり,月琴と言う楽器は棹が短いので,棹の部分が楽器の音色に与える影響は,ほかのリュート系楽器にくらべるとそれほどありません。ギターやマンドリンと違って,棹が胴体に完全に固定されていないスパイク・リュートの構造であることも,その理由のひとつかもしれません。微妙な長短,細い太い,棹背の形状などにより操作性に若干の違いはありますが,これもまあ個々の手による「好き嫌い」のレベルですね。

  各部分の寸法などの詳細は,以下のフィールドノートにてどうぞ(画像クリックで別窓拡大)。

  ぶっちゃけたハナシ----この楽器は胴体さえしっかり残っていれば,何度でも蘇えるわけです。
  棹は胴体にささっているだけですから,だいたいの寸法があった棹を作ってさしこめば,ナニゴトもなかったかのように復活します。ヘッドショットが効かない,という意味ではそこらのゾンビよりよっぽど強敵ですよね~。

  んじゃあまずまず,そのドタマの製作からまいりましょうか。
  「だいたいの寸法があっていればいい」 とは言うものの,あんまりに違うものを作ると,フレットなどがもとの部品の日焼け痕の位置からズレて,けっこう見苦しい状態になってしまったりしますので,いちおう,元ついていた棹の長さを推測します。

  この楽器の第4フレットは胴体の際に位置しており,糸のかかっていた半月上端までの距離は298ミリ。過去のデータを検索して,第4フレットから半月までの間隔が近いものをとりだし,その楽器の棹の寸法を参考にします。有効弦長と指板部分の長さが同じくらいなら,フレットの間隔もだいたい同じような感じになるはず,というわけです----資料を参照してハジきだした結果は,だいたい150プラスマイナス2ミリといったところ。初期の楽器だともっと短いものが多いので,ここからも,これはおそらく明治後期に作られた楽器だろうと考えられます。また,日焼け痕から見てもとは満艦飾だったようですし,残っている左右のお飾りや,7・8フレット間に一つだけ残っていた柱間飾りの細工,また半月の紫檀の材質から見ても,それそこに高級な部類に入る楽器だったろうということも想像に難くありません。

  49号にも使ったウサ琴の棹の素体も,まだ2本くらい残ってはいるのですが,指板長150ミリとなると寸法的にやや足りないので,今回はイチから作ることとしましょう。

  いつもの3P棹とまいります。
  材料箱を漁って中心材にちょうどいいサクラの板を見つけました。カツラの板ではさんで接着。棹のカタチに削ってゆきます。そういや棹づくりはずいぶんひさしぶりだなあ……34号かカメ2以来じゃないかな?

  各部材の接着はニカワでもよかったんですが,このへんはまったくの新作部品,割り切ってしまえばあまり気にしなくてもいいあたりなので,エポキでへっつけることにしました。34号の時にも書きましたが,エポキは強力ではあるものの,ニカワと違って木地への浸透性はほとんどありません。ヘタに厚盛りしますと接着剤の層ができて完成時に見苦しいし,ニカワと同じくそこから壊れやすくもなってしまいます。接着面平面はよく擦って均し,密着するように加工しますが,最後にその表面を粗めのペーパーで軽くこすって,エポキが入り込みやすいようにしておきましょう。んで,接着剤は薄く,均等に,これはニカワでもなんでも同じですよ。

  四角い棒になったものに黒檀の指板を貼り付けます。今回は端材じゃなく,何年か前にハンズで買った板ですねこりゃ。けっこういい黒檀だったと思います。

  できあがった素体を,棹の形に削ってゆきます。
  今回は棹背を同時購入の46号のを参考にしてなだらかなアールをつけ,糸倉もかなり細めにして,スマートな感じで仕上げたいと思います。

  この作業,じつはけっこう好きなんですよねえ。
  削っては握り,指先で撫でて確かめまた削り-----手によって最も手に合うものを作り上げてゆく,まさに「手作業」って感じですか。うなじのところや棹背の峰なんか,いつまでも削っていたい(w)気がしますよ。

  できあがった棹の基部を刻んで,胴体の棹孔に入るように加工します。
  どうせハナからぴったりなんてのは無理ですので,この時点ではとりあえず入ればヨイというていでヨイ。

  つぎは糸倉に,糸巻の孔をあけます。
  作業を三段階ぐらいにして,角度や太さをなるべく間違えないようにはしてるんですが,けっこうよく間違えてしまいます。国産月琴の糸巻は,二本づつやや左右に広がるように,かつ楽器正面方向にわずかにすぼまるようなカタチにとりつけられるので,さまざま3Dで考えなきゃならず,さんすうに弱い庵主は,いつも混乱してしまうのです(泣)
  被害を最小限にとどめるため,孔の中心にまずキリでくぼみをつけ,2ミリのドリル>5ミリのドリル>リーマー,というふうにあなを広げてゆきます,小孔の段階で気が付けば大したことにはなりませんからね。

  じつは今回も,孔ひとつ,あやうくへんな角度に彫りぬいちゃうとこでした。
  2ミリの段階でとどまったんで,被害は最小限ですみましたよ。(^_^;)

  リーマーであるていどまで広げたら,最後に真っ赤に熱した鉄の焼き棒をつっこんで焼き広げてゆきます。こうするとただ工具で広げた場合と違って,軸孔の壁が焼しめられ,よりじょうぶに…………ぱきゅん。

   あら,割れた。

  今回は糸倉をかなり細身に作ったため,材料強度ギリギリだったのを忘れてました~。ついいつもの調子で焼き棒押し込んだら,いちばん下の軸孔のところに,見事に割れが入ってしまいました。
  以前の庵主なら,泣きながら新しい棹をこさえるところですが,最近はズ太くなってきたもので(w)このくらいではめげません。むしろ製作段階で壊れてくれたということは,壊れやすい弱いところを,壊れないようにあらかじめ補強しておける。使ってるうちに突然壊れるのにくらべりゃラッキーじゃん,とか考えますね。

  とはいえ,こっちは新作なのに同時作業の43号と同じような「修理」をするハメになるとは………これもやっぱアレっすか? 「楽器が呼び合ってる」 とかいうようなことなのかなあ。

  割れ目をエポキで継ぎ,孔の左右を彫りこんで,チギリを埋めこみます。

  こちらのチギリはニューギニアウォルナット(ダオ)製,作ったときの木粉を混ぜたエポキをまぶし,ギュっと押し込みます。場所が場所だけにギリギリで,チギリが飛び出してるようなカタチになってますが,割れ目がちゃんと止まるように渡ってますので,これで問題ありません。

  固まったところでこれを整形----ふむ,これはこれで,なんか寄木細工の模様みたいで,見た目,意外と悪くないですねえ。柔らかいカツラの材質・構造上いちばん弱いところに,比較的丈夫な素材が繊維を交差させて組み込まれたわけなので,それこそかえっていい補強になったかもしれません。

  いささかのハプニングはあったものの,なんとか棹は完成。

  こちらもスオウで染めてミョウバン発色。オハグロかけて黒っぽい棹に仕上げてゆきます。ベンガラまでかけたら,糸倉の補修箇所ももうほとんどわかりませんね。ニカワ接着の場合と違って,こういう染めや塗りの作業なんかが,心置きなく出来るあたりも現代カガクのエポキならでは,ってところでしょうか。

(つづく)


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