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月琴46号 (2)

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斗酒庵 壊れ月琴の飽和攻撃に会う の巻2015.10~ 月琴46号 (2)

STEP2  修理,と言えるほどのこともナけれども(W)

  さて,先年,父が他界した影響で,庵主,今年から冬は北海道の実家に雪かき帰省に行くこととなりました。とはいえ北の冬は家にとじこもることも多く,無聊をかこつのは目に見えておりますので,帰省先でも修理の出来そうな壊れ月琴を一本持ってゆくことに。
  そこでうーんと部屋をみわたし,この夏から秋にかけて何本も買い込んだなかで,お飾りやフレットがとれているのを除けば,要修理個所も少なく,さしたる手間のかかりそうもない(w)46号に白羽の矢がぶすりと立ちまする。

  月琴46号,仮名称「青汁1号」----いかにもそういうものが入っていそうな某テレビショッピングの段ボールに入ってきたところから命名。 作者は不明ですが,棹と半月,残ってたオリジナルの糸巻も紫檀。カリンのツキ板を貼りまわした,超重量級の大型月琴です。


  胴材にツキ板を貼りまわす工作自体は,高級な楽器ではよく見られるのですが,表裏面板の周縁にツキ板の木端口を見せている形式(右画像②)は,大陸の楽器ではたまに見られますが,国産の清楽月琴では珍しい。ふつうは胴にツキ板を巻いた上で,表裏面板をかぶせているパターン(右画像①)になりますね。ちなみに,ツキ板に覆われて見えない胴の構成材はサクラのようです。

  胴体の継ぎ目を隠すために,また装飾としてツキ板を巻く工作は,誰でもが考えることですが,きちんとこなすのは意外と難しく,たいていはどこかがハガれたりしているものなのですが,この作者,唐木の扱いはかなりのものらしく,どこを探しても浮いてるようなところがありません。唐木部分だけでなく表裏の板も,かなり目の詰まった上等な桐板が使われています。

  大ぶりな姿や棹背の曲線からは,名古屋の鶴寿堂あたりが思い浮かびますが,棹と延長材の接合方法や山口の取付けなどが異なります。あとは東京の海保菊屋とか静岡の曾根田好音斎あたりが思い浮かびますが,いづれも細部の作風や特徴に一致しないところがあり,いまいちはっきりしません。
  ラベル痕や刻印・署名の類も見つからず,手掛かりになりそうなのはこの棹基部に書かれた流暢な「壱」の字ぐらいなものですが,いまのところ該当者見つからず----このへんは将来の宿題ですねえ。

  各部寸法などはフィールドノートをどうぞ。(画像クリックで別窓拡大)


  楽器としての本体部分にはほとんど異常なく,内部構造も確認できる範囲においては何も問題がなさそうです。まあ楽器として再生するだけなら「修理」,といえるほどのことをするまでもないくらいですが,まずまず,足りなくなってるものを足したり,見栄えやら考えて一部の部品を交換しときましょう。

  まず糸巻。
  オリジナルでは細身の紫檀製のが2本と,カヤあたりで作られた3本溝の黄色いのが2本ついていました。楽器の品質と工作から考えて,紫檀製の2本がオリジナルと考えてよいでしょう。

  紫檀で作り直すのが本筋なれど…まあお金もかかりますので,いつもの¥100均麺棒で(W)。そのかし,カタチはオリジナルに似せて作ります----このオリジナルの糸巻,ちょっと普通の月琴に付いているものとはスタイルが違ってますからね。側面のラッパ反りは浅く,というか,ほとんど直線。六角の各面は握り部分の先で切れています。溝は1本,浅めで細い。

  だいたい似せたところでスオウとオハグロで染めます。

  このスオウ液は一昨年こっちで「ぼたんちゃん(唐木屋)」を修理した時に抽出したものですが,さすがに寒冷低温の北海道,まだぜんぜん大丈夫ですね。オハグロはなかったので,ベンガラとお酢と,これまた一昨年作ったヤシャ液で製作。実家は換気扇があるんで大して被害は…(「なんじゃあこのニオイわぁ!!」と親に叱られました)
  近い色まで染まったら,ニス塗って仕上げ。
  遠目には分かりませんて。(W)

  つづいて表裏の板と全体を清掃。
  さほどのヨゴレもなくほぼ一度でキレイになりましたが,それでも重曹溶かしたお湯がまっくろになりました。

  さて,あとは山口とフレット。
  オリジナルのフレットも2本ばかり残ってましたが,この楽器,棹の指板面と胴表板の水平面がほぼ面一となっています。経験の浅い楽器職や,この月琴と言う楽器のことをよく分からないで作ってる他分野の職人さんなんかがよくヤラかす設定ですね。

  何度も書いてますが,弦楽器としてはあたりまえだし,それはそれで見事な腕前なのではありますが,月琴の棹は,実際には背側にわずかに傾いているのが,唐物以来の伝統的かつ理想的なカタチなのです。指板面と胴表板が面一だと,山口と半月の高低差がわずかなため,弦高きっちりに合わせようとするとフレットが全体に高くなり,かつフレット間の高さの差が微妙になります。それで多くの作者は,弦高を無視して,フレットの高さにてきとうな差をつけ(たいていは余計に低く作って)これを回避するのですが,そうすると発音のため弦を余計におしこまなければならなくなり,運指上にも支障が出ますし,音程も安定しない,扱いにくい楽器になってしまいます。


  これを解決するもっとも根本的な策は,延長材をはずして棹基部を削り直し,棹を適度に傾いた状態に組み直すことなのですが,この楽器の場合,上画像のように棹と延長材の接合方法が通常と違っているため,その方法が使えません。

  そこでこうします。

  まずは半月にゲタを。
  煤竹を細く削って内側に接着し,半月での弦高を下げます----かなりギリギリ,これ以上下げたらピックが板を引っ掻いちゃうというくらいまで下がりました。糸の交換時の不便さを考えても,これ以上はちょっとムリですかねえ。


  今回は山口も牛骨で作りました。今回の材料もペットショップで「パイプボーン」として売っている牛の大腿骨(ワンコのおやつwww)。そういえばこのスリムなカタチ……45号松音斎の山口がちょうどこんなカタチだったんですが,なるほど,牛骨だとかなり太いもので作っても,こんなふうにちょっとスリムなカタチにしかならないんですね,材料的に。
  フレットもすべて牛骨で再製作。象牙に比べると多孔質なので,ヤシャ液にしろ油にしろ,染まりは素晴らしくいいんですが,割れやすくヒビも入りやすいので,整形したらまずニスを2度ほど塗ってから磨きます。

  ゲタを噛ましても,まだ若干高め,ではありますが,まあまずまずの高さでまとまりました。フレットの頭と糸との間のスキマがせまいので,運指への反応もいいし,音も安定しています。
  オリジナルのフレット位置での音階は以下----

開放
4C4D+304E-254F+164G+164A+245C+255D+405F+33
4G4A+244B-355C5D+75E+185G+245A+396C+28

  全体に多少高めですが,もともと清楽の音階よりは西洋音階のほうに若干近かったのだと思います。
  計測の終わったところで,フレット配置をチューナーできっちり西洋音階に合わせて接着したんですが,いくつかのフレットではほとんど位置が動きませんでした。

  胴には左右のお飾りに扇飾りくらいはついてたようですが,かなり前にはずれたらしく,痕跡もほとんど残っていません。まあ唐木が贅沢に使われており,表裏板の景色もなかなか。このままのほうが実用楽器っぽくてなんだかカッコいいので,今回は余計なお飾りはつけないことにします。

  とはいえ,まあ棹先端の蓮頭くらいはないと,カッコがつきませんな。
  駅前のビバホームへ行ってホオの板を買ってきました。これも木目をそのまま活かして,飾りのないただの雲形板にします。

  最後に恒例のバチ布選びで少々悩みまくりましたが,なんとか完成。


  けっきょく緑色の桐唐草にしましたが,さて庵主,色彩的な感性が乏しいので,これでちゃんと似合ってるかどうか(^_^;)。
  うすヨゴれてた紫檀の棹や胴回りのカリン板は,中性洗剤を落としたぬるま湯を布に染ませて硬く絞り,乾いてから亜麻仁油で磨きました。おおぅ…ピッカピカのつるっつる,さすがに唐木,木地の色の深さだけでもスゴいボリュームです。
  表裏の桐板はどちらも3~4枚矧ぎ,目の詰まった厚めの桐板をかなり贅沢に使って,木目のあわせも巧いので,ほとんど一枚板にしか見えません。

  この楽器の作者は,月琴や清楽器の専門家,ではないように思います。

  ですが,楽器としてはちゃんと成立しており,まったくの門外漢が作ったにしては,各部のデザインや設定に,さして「突飛」とまで言えるようなところはありません。そして唐木の扱いが巧い----これは月琴以外の楽器----たとえば琵琶とか三味線とか----が本職の人か,楽器に相当通じている唐木細工の職人さん,ってとこでしょうか。
  重たい唐木を多用し胴材も厚めなところから,月琴としてはかなりドスの効いた,低音の響く楽器です。響き線の効きも良ろしい。直線なので響きにそれほどうねりはかかりませんが,2本入っているため,余韻は太く華やかです。フレットの設定を変更したので,運指への反応も上々,ちょっと重たいので,正座して弾くのには難もありましょうが(それでも琵琶よりはぜんぜん軽いww),操作性はまずまずです。


  音を追求する人向きかな?

  音量もあるだけに,弾きこめばかなり楽器としてのポテンシャルのある一面でしょう。

  嫁ぎ先募集中です。(追記:ようやと嫁きましたw2016.0710)

(おわり)


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