月琴47号 首なし1(5)
2015.9~ 月琴47号 首なし1(4)
STEP4 板付き姫の冒険 胴体主構造の補強が終わりました。 さあて,表板をはりつけましょう。なんせこのホネホネな物体,さっさと板に貼って固定してまわないと,せっかく補強したとこがまたバラバラになっちゃいそうですものねえ。 この楽器の表板には,右がわの板の矧ぎ目に沿って貫通した割れがありました。 この割れは単純に接着がはがれたものではなく,虫食いが原因。 食害は矧ぎ目をトンネルにしてほぼ上下に貫通したうえ,一部で少し横方向にも広がっています。 例によって,月琴の胴体に板を貼り直すときには,経年の変形によって横にふくれたぶん,左右にわずかに幅を足すためのスペーサーを入れなきゃならないのですが,今回はこの虫食い部分をうまく使ってやりましょう。 食害の広がりも考慮して,矧ぎ目を中心に左右5ミリづつ,1センチの範囲を切り取り,そこにいくぶん太目に切り出した小板をはさみこみます。 左のお飾りの下にも虫食いがありましたので,こちらも処理しておきます。 こちらの虫食いはやや浅く,範囲もせまいのですが,その狭い範囲の中でけっこう縦横無尽に食い荒らされてしまっていますねえ。とりあえずほじくれるだけほじくり,いちばん大きな部分は,縦方向に埋め木をしておきます。 そのほか,板表裏の凸凹やエグレ・欠け,また下縁部にいくつか打たれていた竹クギの孔などを,木粉のパテで埋め込みました。 板の補修が終わったところで矧ぎなおします。 今回のスペーサーは,寸法的にも色合い的にもちょうどいい古板が手に入りましたので,あんまり目立たないで済みそうです。 ついで表板を胴体構造に接着。 まずまずこれで一安心。 板さえついちゃえば構造も安定して,まずそうはバラバラになりません。 裏板をとじる前に,棹とのフィッティングを済ませておきましょう。 自作補作の棹の基部にV字の切れ込みを入れ,延長材を挿します。今回の延長材はヒノキですね。 オリジナルはなにやらよく分からない,特殊な接合をしていたようですが,もとの棹の全体像もよく分からないので,補作の棹ではそこまで真似なくてもよいでしょう。 月琴でもっとも一般的な接合方法にします。 実際に何度も挿しこんで,角度などを調整し,接着。 さらに調整して,角度や傾きを合わせます。まあ一発でスルピタなんてのは無理なので(w)結局スペーサーを何枚か貼り付けて完成。山口のところで胴体の水平面より背がわに3ミリほど傾いています。かなり理想的な設定におさまりました。 構造の補強,響き線の手入れ,棹のフィッティング----これで楽器の内部への用事はほぼなくなりました。 裏板を戻しましょう。 裏板は表板と違ってたいした虫食いや損傷もなかったため,一枚まんまの状態だったのですが,貼り直しのため,これをあえて2つにぶッた切ります。 後ではめこむスペーサーのぶんをあけて接着。胴体が丸い木箱になったところで,表裏の補修箇所や板の胴の周縁にとびだした部分,接合部の段差などをまとめて整形します。 表裏の板を清掃します。 43号と違って,こっちは意外とけっこう汚れており,染めもかなり濃いめでした。 (つづく)
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2015.9~ 月琴43号 大崎さん(4)
STEP4 大崎村に半分の月のぼる 糸倉の補修,胴体構造の補強----はじめのほうで書いたように,この楽器は欠損部品が少ないので,ここまでやってしまえばもう直ったようなモンですわい,わははははは。(w) 構造を強化した胴体に,裏板を貼りつけます。 裏板は5枚に分かれていますので,まずはこれを組み合わせて3枚にしようと思います。何か所か矧ぎ目に沿って木端口が虫に食われているところがありますので,矧ぎなおしの前にそうした虫食いや,エグレの個所は木粉パテで埋めておきましょう。 この3枚の状態で楽器に貼り付けて,真ん中のあたりにスペーサーを埋め込むスキマを作っておきます。部材の経年変化,修理作業による変形,そうした誤差がありますんで,木製の円形楽器に,もとついてた円形の板をそのままもどそうったって不可能です。板より長く----縦方向にふくれてしまったような場合には板自体を取り替えるよりどうしようもありませんが,月琴という楽器の胴体は,その構造上,弦の力によって縦方向につぶれる傾向があります。ですので,たいていは横幅を変形による誤差のぶんわずかに広げれば,最小限の損失で板をもどすことができるわけです。 最後に,胴体から飛び出た周縁を削り取って側板との段差をなくします。 さて,これにて胴体はぶじ「箱」の状態に戻ったわけですね~。 表裏の板の始末がついたところで清掃。 裏板上には,この楽器の名前の由来となった墨書もありますから慎重に。いつものように Shinex#400 を重曹を溶いたぬるま湯につけながらコシコシコシ。 ヨゴレとともに浮いてきた汁は,最終的にはぜんぶぬぐい去ってしまうのですが,このとき,スペーサーを入れた個所や修理によって色が薄くなったところに,板から出たヨゴレ汁をちょっと集めるようにしながらこすりつけておきますと,修理痕が目立たなくなります。 全体に薄汚れてはいましたが,さほどのこともなくだいたい一度で清掃完了。画像では濡れてまっ黄色になっちゃってますが,この楽器としては染めが薄いほうです。 一日二日,板を乾燥させて,半月の接着に入ります。 いつものことながら,ここまで来ますと,ああ,もう少しだなあ,という気になってきますねえ。 オリジナルは,おそらくホオかカツラで作ったもので,糸擦れで縁に近いほうの糸孔が切れてしまったものと思われます。もとの所有者は,切れてしまった孔の奥に孔を開けなおし,前縁部を削って下げて,それでも使おうとしたご様子----うう,その努力にナミダがちょちょぎれます~。 ここまで使われてこれはこれで本望でしょうが,さすがに庵主でもこれをどうにかしてまた使うのはちょっと難しい。 オリジナルを参考に,新しいのを一枚作りました。 今度は糸擦れごときで切れたりしないよう,素材は唐木のカリン。 もとの半月の素材からも分かりますが,この楽器は普及品の数打ちモノですので,これだけでも実質かなりのグレードアップ(w)です。 オリジナルの半月を見ながら,大きさや高さ,糸孔の間隔などをそろえ,スオウとオハグロで染めて紫檀っぽくしてあります。 ではこれを置いて棹を挿し,糸を張って,最適な位置を探ります。 月琴の工作はときおりテキトウなことがあるので,もとの位置にそのままもどすのはちょと危険。有効弦長は記録してありますので,上縁の位置取りは決まってますが,左右の微妙な調整で,弦のコースが大きく変わってしまいますので,けっこう慎重に,何度も確かめながら位置決めをしてゆきます。 決まったところでシルシをつけ,ニカワを塗って接着します。 (つづく)
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