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月琴WS@亀戸 9月場所!!

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斗酒庵 WS告知 の巻2016.9.11 月琴WS@亀戸 9月場所!!


*こくちというもの*

 月琴WS@亀戸 9月場所,のお知らせ。

 月一回,酒飲みおししょ~と愉快な仲間たちで,なんとな~く暢気に開催されております,月琴WS。
 昨年の秋口に深川のそら庵さんから,亀戸のEAT CAFE ANZUさん に会場を移してこのかた月一ペースもかわりなく。

 あいかわらず,のんべんだらりん~とやっております。(w)

 8月はお休みさせていただきます。
 9月の開催日は,11日(にちようび)の予定。

 会費ナシのオーダー制。
 お店のほうに飲物なりお料理なりご注文ください。
 美味しいランチに,もちろんお酒もありますよ~。

 お昼過ぎからだらだらと。
 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面か余計に持っていきますので,手ブラでもOK。

 中国月琴,ギター他,他流楽器での乱入も可です。
 予約は要りませんが,何かあったら中止なので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。

 やりたい清楽曲などありますれば,あらかじめリクエストしてください。楽譜など用意しておきましょう。

 まあ,絶滅楽器ですので,清楽月琴おぼえたところで大した自慢にはなりませんが。(w)
 月琴という楽器に興味のある方,一度触ってペロペロしてみたい方,弾いてみたい方はお気軽にどうぞ!

 家の蔵から血のついた古い月琴が出てきちゃったヒト,あるいは呪いの月琴に憑りつかれて離れなくなっちゃったヒト(……は,探偵さんかお近くの霊媒師にご相談ください),何かの気の迷いで買っちゃったけど弾きかたの分からない方,修理したいけど方法の分からない方なども,お気軽にどぞ。

 ワタシで良ければ相談に乗りますよ~。

山形屋雄蔵3(4)

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斗酒庵 山形屋と再会 の巻2016.6~ 山形屋雄蔵 3 (4)

STEP4 最終回の一回前くらいで死亡フラグ

  ああ,悩ましきはこの修理。(w)
  依頼修理の山形屋雄蔵,とうとうこの段階まできてしまいました。

  響き線の調整をします。
  前に修理した2面もそうだったんですが,山形屋の響き線は深い弧を描いた曲線タイプ。
  線が長いので,先端が上桁に刺さったり,途中が面板のどこかに触れて,ほとんど効かなくなってたりすることがあります。

  月琴の響き線は,演奏姿勢に立てたときに,線が胴体内部のどこにも触れてない,完全な片持ちフロート状態になっているのが理想です。その状態で揺れているところに,弦を弾いた音が入ってきて,効果がかかる。「共鳴弦」ではなく金属的な余韻を得るための「エフェクター」の一種なんですね。
  直線タイプに比べると,曲線タイプのほうがより長い線を入れられるので,振動に対する反応が良いし,揺れも大きく複雑になるので,より趣のある効果が得られるのですが,線が長いぶんその取付時の調整が難しくなります。
  また,線の弧が浅ければ,その調整も直線に近いのでラクですが,これが深くなればなるほど,根元や先端のほんのわずかな変化が,線全体の位置や形に大きな影響を与えてしまうようになるので,なおのこと調整が難しくなります。

  いくら素晴らしい効果が得られるカタチに線を作っても,きちんとその取付位置や角度が調整されていなければ,いざ弾こうとしたとたんに「胴鳴り」が起こったり,演奏姿勢に立てても,線の一部が胴内のどこかに触れてて,響き線の効果が無くなったりしてしまいます。

  今回の楽器も,線自体の健康状態には問題なさそうなのですが,揺らせど鳴らず,揺すれどためいきのようにカシャカシャあふんと嘆くのみ----さらに悪いことに,この楽器の内桁には棹のウケ孔以外アナがないので,外から響き線にアクセスする方法がまったくありません。

  しかしながら----ほぼキズ一つないこの完品の胴体。
  今しばらく前に工房から届けられたかのようにピュアな木肌。よくある面板の浮きも,ハガすのに好都合なバッキリ逝った割れ目も,「つけこむスキマ」が何もありません!!
  これを…これに…キズをつけるとゆーことが,骨董趣味の古物屋の元小僧にとって,どんだけココロの負担になるか。分かってんのか,おいそこの山形屋ッ!!!(T滂^沱T)

  ともあれ,前回も書いたように楽器は音楽の道具です。
  道具は使われてナンボのシロモノ,使えねー道具には大した価値はありません。
  そのうえ悪いこと(?)に,前2面の経験から,ここを直した時,彼の楽器がどのくらい鳴るようになるのか,庵主は知っておるのです。では,うっうっ…泣きながらこの裏板の一部を剥がします。

  線も長く弧も深いので,ほんとうは裏板全面引っぺがしてしまったぐらいのほうがラクいいのですが。今回の場合,そこまでしたら庵主のノミの心臓が停止しかねません。線の基部部分を露出させ,ここからペンチなどを入れて調整してゆきたいと思います。この場合,線のほとんどの部分は見えないので,文字通りの「盲作業」となってしまいますが,この保存状態の良い胴体に,作業上必要最小限以外の被害をなるべく与えたくないのでこれで何とかがんばりましょう。

  線をわずかに動かしては,楽器を演奏状態に立てて具合を見ます。前回の29号では,この作業に手間取って線をいじりすぎ,基部のとこからモいじゃったことがあります。今回の楽器の線は29号のより状態がはるかに良く,サビも浮いてないくらいの状態ですが,作業は慎重に,かつなるべく少ない動作で終わらせなければなりません。

  作業範囲が狭く,線全体をいじれませんので,最適な状態でいられる範囲が少しせばまってしまいましたが,しょうがありません。演奏姿勢で片持ちフロート状態を維持できるよう調整するのに,3~4時間ほどもかかりました。次の調整は,いづれこの楽器が使い込まれて,どっかぶッ壊れた時にでも,心置きなくいたしましょう。(w) 

  さあ,あとはもう早いぞ。

  まずは響き線調整の作業で剥がしたところに,少し大きめの新しい板を当てて再接着。クランピングして,一晩固定したら表面と周縁を整形。

  表面板の虫食いやヒビ割れ部分は,埋め木やパテを均してキレイに整形。
  側板・棹・糸巻は軽く掃除をしておきます。山形屋の楽器はほとんど染めオンリーのナチュラル仕上げ。棹や側板は軽くスオウで染めてあるだけで「塗装」というほどのものは施されていません。その染めも,初期のころはかなり濃いめだったんですが,このころになるとうっすらあっさり。
  仕上げに少しだけ油を染ませましたが,それだけで白茶けていた木地がもとの美しい色をとりもどしました----ほんと奇跡のような保存状態です!

  組み立ててフレットを立てます。
  オリジナルの位置での音階は次のとおり----

開放
4C4D+64E-424F+84G+234A-355C+125D-185F+11
4G4A-14Bb+425C+65D+115E-415G-55A-256C-16

  第3音が少しだけ低めかなとは思いますが,かなり正確な清楽音階だったかと思いますね。
  いつも庵主が言ってる「理想とゲンジツの乖離」なんてのは,この人の楽器の場合ありません。今回はすべてオリジナルのフレットを使用。ほぼまったくの無加工で,フレットの頭と弦との間隔もギリギリ,弦を押し込まなくても,フェザータッチで音が出るように作られています。
  棹同様,フレットにも細かな調整をした痕跡はないので,この人の場合,作りっぱでこの精度が出せるのだということです----ほんとこれだけの腕前を持ちながら,どうしてヘンなとこで手を抜くのやら(怒)

  あとははずれてた蓮頭と,作業のためにはがした中央の飾り。そしてヘビ皮の代わりに裂地のバチ布を貼って。
  2016年7月はじめ,依頼修理の山形屋雄蔵,修理完了です!!



  修理後の耐久テスト中に,糸倉と間木の接着が片方トんで,ちょいビビりましたが大事なく,ニカワを流し込んで再接着。その後はF/Cくらいにキンキンで張り続けてほぼ一週間,各部ビクともせず問題なし----工作の精度はそのまま楽器の耐久性につながります。山形屋はお店の規模から言っても,生産数はそれほど多くないはずなんですが,その楽器はけっこう生き残って伝えられています。その理由の一つが,この工作の確かさなんですね。

  いかにもお江戸の作家らしい----切子ガラスのような澄んだ響きの楽器です。
  響き線もきちんと本来の効果を発揮していますが,なんせ上記のとおりガバッとはヤりきれなかったもんで,響き線が最適な状態でいられる姿勢範囲がわずかにせまく,多少演奏ポジションに制限のある楽器になってしまったかもしれません。


  山口の糸溝も半月もほぼオリジナルのままですが,高低それぞれのコースの弦の間隔がかなりせまいですね。そのため糸の押さえ方に,若干クセが要ります。たとえば低音3フレットや高音域,フレット間隔の狭いとこだと,指の腹をまっすぐおろすより,少し角度をつけて指の先っぽのほうで押さえたほうが,より確実に発音が得られるかもしれません。

  まあ東の楽器は,西の楽器に比べると,石田義雄を筆頭に,もともとクセのある楽器を作る人のが多いですんで,このあたり,これはこれでこの楽器の味だとも思います。

  百年以上昔に作られたとはいえ,ほとんど弾かれたことのない,新品同様の状態の楽器ですので,まだまだ音にカタさがありますが,これがこのあとどのように育ち,化けてゆくのか----新品だけにすべてはこれから,その変化が分かりやすいかとも思いますね。

  いい子に育つよう,ガンガン弾いてやってください。
(おわり)


山形屋雄蔵3(3)

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斗酒庵 山形屋と再会 の巻2016.6~ 山形屋雄蔵 3 (3)

STEP3 狙撃が得意だったり武器が槍だったり

  ここまでの作業はまあ,「壊れてたところを直す」----ふつうに「修理」といえる作業ですね。

  「修理」というのはほんらい「原状復帰」を第一とします。すなわち「元々そうであった状態に戻す」ということを,主目的とするのです。そういう意味からすると,ここからの作業は「修理」とは言えません。

  言うなれば「原作者の尻ぬぐい」。

  「修理」だけで考えるなら,この楽器の修理は虫食い穴をふさいで,はずれてしまった部品をくっつけなおす,それだけで終わってしまいます。何度も書いてきたように山形屋雄蔵,部品を組み合わせる,くっつける,といった木の仕事は完璧です。しかも保存状態が奇跡的なまでに良好ですので,「古物」として考えるなら,ほぼオリジナルのままという状態まで戻すことが出来たのなら,それ以上やることはないし,やるべきではありません。

  しかしながら,楽器は音楽の「道具」でもあります。
  これを置物としてではなく,あくまでも使用されるべき「楽器」として見た場合,その「オリジナル」の状態に問題があった時にはどうすべきか?
  修理者であると同時に,古物屋の小僧経験者でもある庵主としましては,いつも悩ましく,胸を焦がすような選択を迫られること度々,なのですね。

  悩みその1は棹の取付の調整。

  前回書いたように,この楽器の棹は,楽器のお尻のほうから見た時,右にわずかに傾いたカタチで取り付けられ,原作者はその補正のため,山口(トップナット)の上辺を逆に傾けて削っています。

  これがたとえば石田不識の楽器の様に,棹が一木造りであって,その部材の素材的な狂いから生じたようなものならば,原作者の処置は正しいし,実際それ以外に大した方法はありません。
  しかしながら山形屋のコレは,そういうものではなく,単なる仕上げ工程における調整不足であり,山口を削ったのも辻褄合わせ的な作業に過ぎません。ほんらいならば,棹の取付け部を整形し直し,棹の指板面と表板が段差なく面一な状態に仕上げるのが本筋。
  しかも,その作業は時間こそかかりますが,それほど大した才能を必要とするものではありません。

  おそらくこの楽器の流行期には一刻も惜しんで 「とにかく作れ,やれ売り払え」 だったんでしょうね。山形屋は腕がいいので,それで作ってもそこそこ水準以上の楽器になってます。でも,彼があと少し余裕を持って仕事をしていてくれれば,その「水準以上の楽器」はことごとく,西の松音斎なみに素敵な「名器」になってくれてたと思いますよ。

  このままでも使えますしちゃんと音は出せます。しかし,傾きのない状態に比べると,どうしても運指や操作性にヘンなクセや支障が出てしまうことも明白。また左右の弦の高低差は,音のバランスにも微妙に影響を与えましょう。

  とりあえず,向こうに逝ったら 「このクソ手抜き野郎!!」 と,山形屋のドタマをゲンノウで叩きのめしてやりたいと思いますが,とりあえず不肖・斗酒庵,現世において,過去の名匠たちの尻拭いに従事することといたします。

  上に書いたとおり,作業自体はかんたん。

  棹が胴体にまっすぐ挿さって,指板と面板の間に段差もなくなるよう,棹の根元や延長材を調整します。今回は延長材と内桁の噛合せには問題がなく,胴体の棹口に挿さっている,棹基部の調整だけでなんとかなりそうです。

  まずはヤスリで削って角度と沈み込みの調整。
  何度も書いている通り,もとの工作が厭になるくらいカンペキ(w)ですので,もともとスルピタきっちりおさまっていた棹は,この作業で削ったぶん,ガタがついてしまいます。

  こんどはその補正のため,ツキ板のスペーサーを貼りつけます。
  さらにそのスペーサーを削ったり切り取って,もとどおりのスルピタで,さらにきっちり理想通りの…というか「本来あるべき」カタチに仕上げます。

  ううう…この作業のために棹基部裏の作者のサインを削ってしまいました。
   ごめんなさいごめんなさい古物の神様ごめんなさい (泣)

  やってることは削ってへっつけるだけの,ごく地味で単純な作業なんですが,これまでも何度か書いてる通り,この作業,じつはやたらと時間がかかります。棹の傾きは3Dで考えなくちゃならないし,削りすぎるわけにもいかないので,あちらをちッと削っては棹を挿して確認,こちらをまたちッと削っては確認のくりかえし----まさに「微調整」という名にふさわしい精密作業です。

  傾きはゼロてん何度というレベル,段差も爪の先がひっかかる程度でしたが,なんとか修正完了。

  根本的なところで不具合を解消してしまったので,もう一箇所,原作者がやらかした「辻褄合わせ」のほうも直しとかなきゃなりません。高音弦がわを高く傾けてある山口の上辺を,今度は指板面ときっちり平行に削り直します。
  修正のためとはいえせっかくのオリジナル部品,これもまた削りすぎるわけにはいかないので。精密作業。

  なんやかんやであしかけ三日。(汗)

  まあ確かにこりゃ,せっかちな江戸ッ子向けの作業ではありませんな,薬研堀の旦那。(w)
(つづく)


「臨時フレット」という考え方(1)

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斗酒庵 月琴の未来を探る の巻「臨時フレット」という考え方 (1)

  清楽月琴は4弦2コース,8フレット。
  C/Gのときで4Cから6Cまでの2オクターブ,間2音歯ぬけの13コしか音が出せません。

  そういうことを言うとよく,「だったらフレット増やせばいいじゃん!」とか「いっそ三味線みたいにフレットレスにしちゃえww」みたいなことを言うヒトがいますね。
  たしかにフレットを増やすかなくしてしまえば,出せる音数はいくらでも増やせますが,じつは,清楽月琴の音の大事な要素のなかには,「フレットの高さ」と「フレット間隔の広さ」というものも含まれているのです。

  フレットが高いので,運指に対する反応がリッチーブラックモア用のスキャロップギターなみにいいのですし,フレットが高いので弦が上下左右に振れる幅が広く,音色に深みを増しているのです。

  フレット間隔が広いので,それほど指に力をかけなくても確実に音が出るのですし,その広さがまた弦の振れ幅に一役買ってるわけです。

  個人的には半音含めたフルフレットだったりフレットレスだったりする一本は作ってみたいところですが,自作のウサカメみたいのはともかく,100年以上前の貴重な古楽器に余計なフレットをへっつけて,「時代への対応だ!」 とか 「だって必要じゃん!」 みたいなことをドヤ顔でいうのはどうかと思えなくもない。

  まあ,だいたいの半音はチョーキングでどうにかできますし,いざとなったら出ない音は飛ばして,出る音だけ合わせてれば(w)たいがいは済むことでありますが。それでも清楽以外の音楽をやる場合や,もっと音数の多い楽器と合奏する場合。また演奏する曲によっては,「どうしても必要な1~2音」が出て来ることがあります。

  そういうときに使うのがコレ。

  決まった名前はないので庵主は「臨時フレット」と呼んでます。
  修理や製作で出たフレットの失敗作をてきとうに削って,両面テープで貼りつけただけのシロモノですが,これならそんなに大したものではないので誰でも簡単に自作できましょう。
  フレットの丈がちょー高い楽器でないかぎり,材料はコンビニ弁当についてくる竹か木の割り箸でじゅうぶん。

  作るときは,あらかじめ貼りつけ場所をチューナ-で探り,高さの目安を見てから削ると(比較的)失敗が少ないですよ。断面を三角形にしたら,削るのはフレットの頭でなく底のほう。最初はカッターとかでざっくりと,後は紙やすりで少しづつ削って,平らでちょうどいいくらいを目指してください。

  写真はカメ琴に装着した場合(5F#)とコウモリさんにつけてみた場合(5F)。

  ポイントは3つ。

1)少し低めに作る。
  底になんにもつけないで置いた時に,次のフレットでちょっとビビるくらいが理想です。高さの調整は両面テープの重ね貼りで行います。

2)終わったらかならずハズす。
  両面テープの接着剤は,古楽器にとってあまりうれしいシロモノではありません。(修理屋としましては,どちらかといえば「怒」。)
  あくまでも「臨時」のモノと心得て,使い終わったらすぐにハズし,接着部分を布でぬぐっておきましょう。

3)演奏中にハガれても人を恨まない。(w)
  これ,大事です(w) あくまで自己責任でお願いしまーす。ということで。

  庵主は,作ったフレットの裏に「F」とか「Bb」みたいなことを書いて,ピックといっしょに持ち歩いています。
  ギグなんかのときは,底にあらかじめ両面テープを貼っておき,口で裏紙をペッ,とハガし,ちゃッ,とへっつけてみせたりもしますねえ----お客の前でドヤ顔でコレやると 「なんだなんだ?」 みたいにちょっとザワつくので面白い。(ただし退ける時にゴミ拾って帰らならんので,ちょとカッコ悪いですww)

  けっこうベンリですので作ってみてください。
  まあ,消耗品みたいなものなんですが(よく失くすしww),ちょと凝ってみたいかたは,フレットの作り方,以下のページなぞもご参照アレ。

(つづく)


山形屋雄蔵3(2)

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斗酒庵 山形屋と再会 の巻2016.6~ 山形屋雄蔵 3 (2)

STEP2 クールなガイと呼んでくれ

  調査の結果,要修理個所が5つほど見つかりました。
  まずは蓮頭,これはハガれてるだけですので問題なし。フレットも何枚かはずれてますが,こちらはもともと,修理時にはぜんぶはずしてつけなおすのでこれも問題なし。

  問題なのは,バチ皮下の虫食いと,棹の取付け,あとは響き線ですね。

  この楽器には,やや大きめのヘビ皮がピックガードとして貼りつけてありました。ヘビ皮自体は4~5箇所穴が開いてるくらいで,これはこれ,まあ悪くない保存状態ですが,それに隠れていた部分が,けっこう縦横無尽に虫に食われてしまっています。
  半月の左上端あたりにも虫孔があります。もしかすると半月裏の接着面にも被害が及んでるかもしれません。ちょっと心配ですが,現状浮きもないしひっぱってみても大丈夫そうなので手は出せません。もし虫害が酷いようなら,修理後の耐久テストあたりで暴露るでしょうから,その結果を待ちます。
  そのほか,胴左側面に2箇所,お尻のあたりに1箇所,面板との接合部に虫孔が見つかりました。

  修理作業は,まずこれら虫食いの処置からはじめましょう。
  表板の虫食いは,ケガキの尻やマチ針などで触診して溝や穴の方向を確かめ,薄皮一枚になってしまっているような部分は,あらかじめほじくってしまいます。

  虫食いの補修と言いますと,やっぱりコレですね。
  ちゅーしゃき,です。これでヤバいアレをソレするわけですな(w)家で使ってるのは骨董市で買った古いガラス製のやつです。庵主,身体が弱かったものですから,むかしよくこういうのをおシリにぶっすーッ!と刺されましたな。いまはまず見かけませんが,かつては診察室の傍らで,こういうのを入れた銀色の煮沸器がしゅんしゅん言ってたのを思い出します。
  表板の虫食いのうち,内桁にまで達していると思われる2箇所と側面の3箇所は,木粉粘土をヤシャ液ですこしユルめに練って,これで充填します。薄い板と違って,固い木部に達している部分は,触診だけだとその被害の全体像が分かりません。かといって板と木部の接着はカンペキなので,なるべくハガしたくない。もし食害がひどいようなら,この充填作業をやっているうちに,薄皮一枚になっている部分がシワシワになってきます。結局は剥がすことになるにしてもそれからやったほうが,要補修範囲を確定できるぶん,オリジナルへの被害が少なくて済みますし。

  こうやって虫には食われちゃってはいますが,オリジナルの工作が素晴らしくその保存状態も良いので,今回はそのへんをなるべく残していってあげたいんですね。

  ほじくった結果,表板の虫食い溝の何本かは胴体の中央あたりまで広がっていました。左がわの何本かが横方向にも若干広がっていましたが,特に深い部分は,だいたいバチ皮に隠れていた範囲内に収まっています。

  バチ皮の部分には後で布を貼りつけたりしますので,ここの補修材には耐水性のある木粉&エポキのパテを使おうと思いますが,バチ皮から出てる部分は,溝も浅いですし,あとでなるべく目立たない木粉粘土&ヤシャ液のパテで軽く埋めておきます。

  パテが乾くまでの間に,半月左がわのヒビ割れを処置しておきましょう。
  これはバチ皮にひっぱられて出来たヒビです。
  大陸には,月琴の表板にこのようなものを貼りつける習慣はありません。この楽器のバチは小さなものですし,琵琶や三味線ほど表板を引っ掻くような奏法もないのでピックガードは必要ないからです。前に記事で書きましたが,このヘビのバチ皮を含めて,日本の清楽月琴にある表板のお飾りの類を庵主は,輸出用としての装飾として,特別につけられたものであったと考えています。
  桐の板は柔らかく,生皮の収縮はけっこう激しいものです。
  見栄えは高級に見えるかもしれませんが,楽器の材質や構造から考えると,害こそあれ益はなにもありません。これと同様の,バチ皮に由来する表板の損傷は,古物の月琴では定番と言ってよいほど良く見かけますね。

  今回のヒビ割れはごく薄いものなので,まずは修理しやすいようにこれを広げます。
  はじめにカッターで,つぎに断ち切りをつっこんで………うむ。


  「うぐッ!!ヤ…ヤスぅ…てめえェ!!」

  「兄ぃ…かにんして…かにんしてくだっせぇッ!!」

  とかいう感じ。(w)

  広げた割れ目に,埋め木をします。
  まずは薄く削いだ桐板を,両面テープで作業板に貼り付け,当て木に貼りつけた紙ヤスリで擦って薄くしてゆきましょう。両面テープってのはほんとに,いろいろな使い道があるもんです。

  何度も書いてますが,薄い埋め木のほうに接着剤を塗ると,ふにゃふにゃになってちゃんとおさまってくれないので,接着剤は割れ目のほうにつけます。クリアファイルなどを切った極薄のヘラにニカワをつけ,ヒビ割れにさしこんでは引き抜き,薄く溶いたニカワをまんべんなく割れ目の端々まで行き渡らせましょう。
  ぺらっぺらの埋め木を押し込み,上から木粉をまぶしておきます。

  続いて虫食いの処置パート2。バチ皮に隠れていた部分のぐにゃぐにゃ溝を埋めます。

  こちらは先に書いたとおり,あとあと濡らすことも考え,木粉をエポキで練ったパテを使います。骨材となる木粉は,先ほどヒビ割れの補修で埋め木を作るときに出た桐板の粉です。
  2液式のエポキで木粉を練ります。エポキは「つなぎ」ていど,木粉かなり多めで「ボサボサ」のちょっと手前くらいの感じですね。
  エポキのパテは硬いんで,あんまりどばーっと盛っちゃうと,あとで削るときに表板を傷つけてしまいます----なのでなるべく少なく,溝の上にだけ盛り上げるような感じにします。あ,あと作業後,上から木粉をふり撒いて,固まっちゃう前のパテを,指の腹で溝の中に軽く押し込んでやるようにすると,埋め込みがより確実になります。

(つづく)


山形屋雄蔵3(1)

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斗酒庵 山形屋と再会 の巻2016.6~ 山形屋雄蔵 3 (1)

STEP1 戦隊ものでいうとブルー

  ひさしぶりの依頼修理です!
  お話がきたのが6月なかばのこと。楽器の状態によっては,完成が秋になっちゃいますがいいですか,とお尋ねしたところ構わないと快諾していただいたので,お引き受けさせていただきました。

  なんせわが住居兼工房,築ン十年のアパート二階中部屋の四畳半一間,冷暖房ナシですからねえ。夏場は灼熱ジゴク,カンカン照りだと外でも作業は出来ないし,ニカワとかもたちまち腐っちゃう。例年,7月に入ると,とても作業ができる環境じゃなくなるもんで,基本お断りしております(実際,何回かやって死にかけたことがありますからねえww)。

  数日たって届いた楽器を見たところ,これがまあ「ほぼ新品」と言って良いような,キセキ的な保存状態の一品で----虫食いは多少あるようですが,欠損部品はなく,木部の色合いと言い表裏板の白さと言い,いま作者の工房から出て来たような感じです。
  ちょっと見から言えば,はずれてる部品をヘっつけ直せば,それだけで弾けるようになる,みたいな感じです。これならまあ,本格的に暑くなる前までになんとかなりそう! ではありますが。(^_^;)……さてさて……庵主の経験から言って,こういう外面のおキレイな楽器は,かならずどこかにけっこうな悪魔が潜んでいるもの。油断はなりませぬ。

  まずはキアイ入れて,調査にとりかかりましょう!!

  今回の楽器の作者は「山形屋雄蔵」。
  自出し月琴20号,29号と同じ作者で,住所は日本橋区薬研堀47番地,屋号は丸に石の文字で,「石村勇蔵」「石村勇造」とも名乗っていました。
  関東の楽器らしい,首の細くスマートな月琴を作る,腕のいい作家さんです。


  胴体がほか2面より1センチくらい大きいですが,有効弦長:418,指板部分の長さ:148は前2面とぴったり同じ。
  え,同じ作者で同じ楽器なんだからあたりまえだろ?----って,それがそうでもないんだなあ,月琴の場合。明治の月琴職人さんたちは,みんなけっこうテキトウ,てんでにバラバラでやってたようで,同じ作者で製作時期も同じくらいの楽器なのに,最大3センチくらいも寸法が違ってたなんてことが,前にありました。
  29号よりは工作が手熟れていますので,20号と同時期かそのちょっと後くらいの楽器じゃないかと思います。

  表板は9枚継ぎ,裏板は8枚継ぎ。
  保存状態にもまして,原作者の木部の加工や接着の技術も高いので,板の浮きや側板接合部のハガレなんてものはまるでありません。
  それこそカミソリの刃も入らない,みたいなその加工や工作のワザは,まさしくさすがの一言なのですが----山形屋雄蔵の玉に瑕は 「仕上げと調整の粗さ」 にあります。


  たとえばこの棹の取付け。 棹と胴体の接合部はピッタリでスキマもなく,山口のところで面板表面から3ミリ背側に傾いているという,まさに理想的な工作!……なのに,微妙にねじ曲がってるんですねえ。(泣) 楽器のお尻から棹のほうを見た時,右に少し傾いてる感じになっちゃってます。石田不識の楽器などであるような,棹自体の材質からくる狂いではありません。棹全体が傾いてますから。
  こんなもん棹基部をきちんと調整すりゃ,いくらでも直るのに!----なのに彼はやらないンですよねえ。この楽器では山口の上辺を傾けて削って誤魔化してます。

  たとえばこの響き線……うーむ,楽器を振ってもガシャガシャ言うだけで,ちゃんと機能しとらんぞ。内桁に穴がないんで詳しくは分からないんですが,下の画像の20号の場合と同じく,たぶん先端がどっかに引っかかってますね,コレ。

  山形屋の響き線は,ちょっと特殊な曲げ方をしていて,ふつうよりもかなり長めです。ちゃんと機能していれば効果は高く,響きも素晴らしい。ただし,長くすれば調整も難しくなります。どんなに線が長くても,最高の状態で機能する一点がかならずあるはずなので,時間をかけてきちんと調整しておけば問題ありませんが,彼はなぜだかやろうとしません。線やその取付の工作なんかはカンペキなんですけどね。

  菊芳(福島芳之助)の楽器なんかにも,仕上げや工作の粗さはありますが,彼の場合それはむしろ「余裕」であって。そこを調整したり加工したりすることによって,よりよい結果になる,楽器の「のりしろ」とか「伸びしろ」みたいな感じで。書き残しまではしてませんが「あとヨロシク~(あ,オレ飲んで来るから)」と気軽に後世に宿題を出してるようなもの(それはそれで怒)なんですが。 山形屋の場合は単に「やらない」「断固としてやらない」----聞けばたぶん 「あ,オレそこいじるの好きじゃないから。」「月琴でそこまでする義理ないから」って感じなんですねえ。「最後の詰めが甘い」じゃなくて「最後までちゃんと詰めない」んです,確信犯的に。
  まあ,いちおうもにおうも「石村」の名を持つ作家さんですからね。売れるんで,たまたま流行り物の月琴にも手を出しはしましたが,「俺ァべつにもともとの月琴屋じゃねえぞ」みたいなところがあったのかもしれません。基本的なところはきっちりやる,ちゃんと音も出せるようにする。でもベストやトップを目指す気はない,みたいな。
  これはこれで職人気質というかひねくれものというか,そういう感じ。


  そいだからですかねえ。彼の楽器はだいたい,本体加工の見事さにくらべると,お飾りなんかかあまりにも貧弱,彫りもテキトウ過ぎるくらいです----別に「ヘタ」じゃないんです。単に「やる気がない」だけ。こういう部分には手間すらかけたくない,って感じなんですね。
  まあでも,今回の楽器,蓮頭や真ん中のお飾りなんかはかなりアレなものの,左右の仏手柑と,半月のコウモリさんは,そこそこがんばってるほうだと思います。
  うん,このコウモリさんは悪くないぞ。

  まずは調査結果のフィールドノートをどうぞ。
  本格修理は次回から。

  **以下画像クリックで別窓拡大**

(つづく)


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