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山形屋雄蔵3(4)

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斗酒庵 山形屋と再会 の巻2016.6~ 山形屋雄蔵 3 (4)

STEP4 最終回の一回前くらいで死亡フラグ

  ああ,悩ましきはこの修理。(w)
  依頼修理の山形屋雄蔵,とうとうこの段階まできてしまいました。

  響き線の調整をします。
  前に修理した2面もそうだったんですが,山形屋の響き線は深い弧を描いた曲線タイプ。
  線が長いので,先端が上桁に刺さったり,途中が面板のどこかに触れて,ほとんど効かなくなってたりすることがあります。

  月琴の響き線は,演奏姿勢に立てたときに,線が胴体内部のどこにも触れてない,完全な片持ちフロート状態になっているのが理想です。その状態で揺れているところに,弦を弾いた音が入ってきて,効果がかかる。「共鳴弦」ではなく金属的な余韻を得るための「エフェクター」の一種なんですね。
  直線タイプに比べると,曲線タイプのほうがより長い線を入れられるので,振動に対する反応が良いし,揺れも大きく複雑になるので,より趣のある効果が得られるのですが,線が長いぶんその取付時の調整が難しくなります。
  また,線の弧が浅ければ,その調整も直線に近いのでラクですが,これが深くなればなるほど,根元や先端のほんのわずかな変化が,線全体の位置や形に大きな影響を与えてしまうようになるので,なおのこと調整が難しくなります。

  いくら素晴らしい効果が得られるカタチに線を作っても,きちんとその取付位置や角度が調整されていなければ,いざ弾こうとしたとたんに「胴鳴り」が起こったり,演奏姿勢に立てても,線の一部が胴内のどこかに触れてて,響き線の効果が無くなったりしてしまいます。

  今回の楽器も,線自体の健康状態には問題なさそうなのですが,揺らせど鳴らず,揺すれどためいきのようにカシャカシャあふんと嘆くのみ----さらに悪いことに,この楽器の内桁には棹のウケ孔以外アナがないので,外から響き線にアクセスする方法がまったくありません。

  しかしながら----ほぼキズ一つないこの完品の胴体。
  今しばらく前に工房から届けられたかのようにピュアな木肌。よくある面板の浮きも,ハガすのに好都合なバッキリ逝った割れ目も,「つけこむスキマ」が何もありません!!
  これを…これに…キズをつけるとゆーことが,骨董趣味の古物屋の元小僧にとって,どんだけココロの負担になるか。分かってんのか,おいそこの山形屋ッ!!!(T滂^沱T)

  ともあれ,前回も書いたように楽器は音楽の道具です。
  道具は使われてナンボのシロモノ,使えねー道具には大した価値はありません。
  そのうえ悪いこと(?)に,前2面の経験から,ここを直した時,彼の楽器がどのくらい鳴るようになるのか,庵主は知っておるのです。では,うっうっ…泣きながらこの裏板の一部を剥がします。

  線も長く弧も深いので,ほんとうは裏板全面引っぺがしてしまったぐらいのほうがラクいいのですが。今回の場合,そこまでしたら庵主のノミの心臓が停止しかねません。線の基部部分を露出させ,ここからペンチなどを入れて調整してゆきたいと思います。この場合,線のほとんどの部分は見えないので,文字通りの「盲作業」となってしまいますが,この保存状態の良い胴体に,作業上必要最小限以外の被害をなるべく与えたくないのでこれで何とかがんばりましょう。

  線をわずかに動かしては,楽器を演奏状態に立てて具合を見ます。前回の29号では,この作業に手間取って線をいじりすぎ,基部のとこからモいじゃったことがあります。今回の楽器の線は29号のより状態がはるかに良く,サビも浮いてないくらいの状態ですが,作業は慎重に,かつなるべく少ない動作で終わらせなければなりません。

  作業範囲が狭く,線全体をいじれませんので,最適な状態でいられる範囲が少しせばまってしまいましたが,しょうがありません。演奏姿勢で片持ちフロート状態を維持できるよう調整するのに,3~4時間ほどもかかりました。次の調整は,いづれこの楽器が使い込まれて,どっかぶッ壊れた時にでも,心置きなくいたしましょう。(w) 

  さあ,あとはもう早いぞ。

  まずは響き線調整の作業で剥がしたところに,少し大きめの新しい板を当てて再接着。クランピングして,一晩固定したら表面と周縁を整形。

  表面板の虫食いやヒビ割れ部分は,埋め木やパテを均してキレイに整形。
  側板・棹・糸巻は軽く掃除をしておきます。山形屋の楽器はほとんど染めオンリーのナチュラル仕上げ。棹や側板は軽くスオウで染めてあるだけで「塗装」というほどのものは施されていません。その染めも,初期のころはかなり濃いめだったんですが,このころになるとうっすらあっさり。
  仕上げに少しだけ油を染ませましたが,それだけで白茶けていた木地がもとの美しい色をとりもどしました----ほんと奇跡のような保存状態です!

  組み立ててフレットを立てます。
  オリジナルの位置での音階は次のとおり----

開放
4C4D+64E-424F+84G+234A-355C+125D-185F+11
4G4A-14Bb+425C+65D+115E-415G-55A-256C-16

  第3音が少しだけ低めかなとは思いますが,かなり正確な清楽音階だったかと思いますね。
  いつも庵主が言ってる「理想とゲンジツの乖離」なんてのは,この人の楽器の場合ありません。今回はすべてオリジナルのフレットを使用。ほぼまったくの無加工で,フレットの頭と弦との間隔もギリギリ,弦を押し込まなくても,フェザータッチで音が出るように作られています。
  棹同様,フレットにも細かな調整をした痕跡はないので,この人の場合,作りっぱでこの精度が出せるのだということです----ほんとこれだけの腕前を持ちながら,どうしてヘンなとこで手を抜くのやら(怒)

  あとははずれてた蓮頭と,作業のためにはがした中央の飾り。そしてヘビ皮の代わりに裂地のバチ布を貼って。
  2016年7月はじめ,依頼修理の山形屋雄蔵,修理完了です!!



  修理後の耐久テスト中に,糸倉と間木の接着が片方トんで,ちょいビビりましたが大事なく,ニカワを流し込んで再接着。その後はF/Cくらいにキンキンで張り続けてほぼ一週間,各部ビクともせず問題なし----工作の精度はそのまま楽器の耐久性につながります。山形屋はお店の規模から言っても,生産数はそれほど多くないはずなんですが,その楽器はけっこう生き残って伝えられています。その理由の一つが,この工作の確かさなんですね。

  いかにもお江戸の作家らしい----切子ガラスのような澄んだ響きの楽器です。
  響き線もきちんと本来の効果を発揮していますが,なんせ上記のとおりガバッとはヤりきれなかったもんで,響き線が最適な状態でいられる姿勢範囲がわずかにせまく,多少演奏ポジションに制限のある楽器になってしまったかもしれません。


  山口の糸溝も半月もほぼオリジナルのままですが,高低それぞれのコースの弦の間隔がかなりせまいですね。そのため糸の押さえ方に,若干クセが要ります。たとえば低音3フレットや高音域,フレット間隔の狭いとこだと,指の腹をまっすぐおろすより,少し角度をつけて指の先っぽのほうで押さえたほうが,より確実に発音が得られるかもしれません。

  まあ東の楽器は,西の楽器に比べると,石田義雄を筆頭に,もともとクセのある楽器を作る人のが多いですんで,このあたり,これはこれでこの楽器の味だとも思います。

  百年以上昔に作られたとはいえ,ほとんど弾かれたことのない,新品同様の状態の楽器ですので,まだまだ音にカタさがありますが,これがこのあとどのように育ち,化けてゆくのか----新品だけにすべてはこれから,その変化が分かりやすいかとも思いますね。

  いい子に育つよう,ガンガン弾いてやってください。
(おわり)


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