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山形屋雄蔵3(1)
T01_01.txt
2016.6~ 山形屋雄蔵 3 (1)
STEP1 戦隊ものでいうとブルー
ひさしぶりの依頼修理です!
お話がきたのが6月なかばのこと。楽器の状態によっては,完成が秋になっちゃいますがいいですか,とお尋ねしたところ構わないと快諾していただいたので,お引き受けさせていただきました。
なんせわが住居兼工房,築ン十年のアパート二階中部屋の四畳半一間,冷暖房ナシですからねえ。
夏場は灼熱ジゴク,
カンカン照りだと外でも作業は出来ないし,ニカワとかもたちまち腐っちゃう。例年,7月に入ると,とても作業ができる環境じゃなくなるもんで,基本お断りしております(実際,何回かやって死にかけたことがありますからねえww)。
数日たって届いた楽器を見たところ,これがまあ「ほぼ新品」と言って良いような,キセキ的な保存状態の一品で----虫食いは多少あるようですが,欠損部品はなく,木部の色合いと言い表裏板の白さと言い,いま作者の工房から出て来たような感じです。
ちょっと見から言えば,はずれてる部品をヘっつけ直せば,それだけで弾けるようになる,みたいな感じです。これならまあ,
本格的に暑くなる前までになんとかなりそう!
ではありますが。(^_^;)……さてさて……庵主の経験から言って,こういう外面のおキレイな楽器は,かならずどこかに
けっこうな悪魔
が潜んでいるもの。油断はなりませぬ。
まずはキアイ入れて,調査にとりかかりましょう!!
今回の楽器の作者は「山形屋雄蔵」。
自出し月琴20号,29号と同じ作者で,住所は日本橋区薬研堀47番地,屋号は丸に石の文字で,「石村勇蔵」「石村勇造」とも名乗っていました。
関東の楽器らしい,首の細くスマートな月琴を作る,腕のいい作家さんです。
胴体がほか2面より1センチくらい大きいですが,有効弦長:418,指板部分の長さ:148は前2面とぴったり同じ。
え,同じ作者で同じ楽器なんだからあたりまえだろ?
----って,それがそうでもないんだなあ,月琴の場合。明治の月琴職人さんたちは,みんなけっこうテキトウ,てんでにバラバラでやってたようで,同じ作者で製作時期も同じくらいの楽器なのに,
最大3センチ
くらいも寸法が違ってたなんてことが,前にありました。
29号よりは工作が手熟れていますので,
20号と同時期かそのちょっと後
くらいの楽器じゃないかと思います。
表板は9枚継ぎ,裏板は8枚継ぎ。
保存状態にもまして,原作者の木部の加工や接着の技術も高いので,板の浮きや側板接合部のハガレなんてものはまるでありません。
それこそ
カミソリの刃も入らない,
みたいなその加工や工作のワザは,まさしくさすがの一言なのですが----山形屋雄蔵の玉に瑕は
「仕上げと調整の粗さ」
にあります。
たとえばこの棹の取付け。
棹と胴体の接合部はピッタリでスキマもなく,山口のところで面板表面から3ミリ背側に傾いているという,まさに理想的な工作!……なのに,微妙に
ねじ曲がってる
んですねえ。(泣) 楽器のお尻から棹のほうを見た時,右に少し傾いてる感じになっちゃってます。石田不識の楽器などであるような,棹自体の材質からくる狂いではありません。棹全体が傾いてますから。
こんなもん棹基部をきちんと調整すりゃ,いくらでも直るのに!----なのに彼はやらないンですよねえ。この楽器では
山口の上辺を傾けて削って誤魔化して
ます。
たとえばこの響き線
……うーむ,楽器を振ってもガシャガシャ言うだけで,ちゃんと機能しとらんぞ。内桁に穴がないんで詳しくは分からないんですが,下の画像の20号の場合と同じく,たぶん先端がどっかに引っかかってますね,コレ。
山形屋の響き線は,ちょっと
特殊な曲げ方
をしていて,ふつうよりもかなり長めです。ちゃんと機能していれば効果は高く,響きも素晴らしい。ただし,長くすれば調整も難しくなります。どんなに線が長くても,最高の状態で機能する一点がかならずあるはずなので,
時間をかけてきちんと調整しておけば
問題ありませんが,彼はなぜだかやろうとしません。線やその取付の工作なんかはカンペキなんですけどね。
菊芳(福島芳之助)の楽器なんかにも,仕上げや工作の粗さはありますが,彼の場合それはむしろ「余裕」であって。そこを調整したり加工したりすることによって,よりよい結果になる,楽器の
「のりしろ」とか「伸びしろ」
みたいな感じで。書き残しまではしてませんが「あとヨロシク~(あ,オレ飲んで来るから)」と気軽に後世に宿題を出してるようなもの(それはそれで怒)なんですが。 山形屋の場合は単に「やらない」「断固としてやらない」----聞けばたぶん
「あ,オレそこいじるの好きじゃないから。」
「月琴でそこまでする義理ないから」って感じなんですねえ。「最後の詰めが甘い」じゃなくて
「最後までちゃんと詰めない」
んです,確信犯的に。
まあ,いちおうもにおうも「石村」の名を持つ作家さんですからね。売れるんで,たまたま流行り物の月琴にも手を出しはしましたが,「俺ァべつにもともとの月琴屋じゃねえぞ」みたいなところがあったのかもしれません。基本的なところはきっちりやる,ちゃんと音も出せるようにする。でも
ベストやトップを目指す気はない,
みたいな。
これはこれで職人気質というかひねくれものというか,そういう感じ。
そいだからですかねえ。
彼の楽器はだいたい,本体加工の見事さにくらべると,お飾りなんかかあまりにも貧弱,彫りもテキトウ過ぎるくらいです----
別に「ヘタ」じゃないんです
。単に
「やる気がない」だけ。
こういう部分には手間すらかけたくない,って感じなんですね。
まあでも,今回の楽器,蓮頭や真ん中のお飾りなんかはかなりアレなものの,左右の仏手柑と,半月のコウモリさんは,そこそこがんばってるほうだと思います。
うん,このコウモリさんは悪くないぞ。
まずは調査結果のフィールドノートをどうぞ。
本格修理は次回から。
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(つづく)
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