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山形屋雄蔵3(2)

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斗酒庵 山形屋と再会 の巻2016.6~ 山形屋雄蔵 3 (2)

STEP2 クールなガイと呼んでくれ

  調査の結果,要修理個所が5つほど見つかりました。
  まずは蓮頭,これはハガれてるだけですので問題なし。フレットも何枚かはずれてますが,こちらはもともと,修理時にはぜんぶはずしてつけなおすのでこれも問題なし。

  問題なのは,バチ皮下の虫食いと,棹の取付け,あとは響き線ですね。

  この楽器には,やや大きめのヘビ皮がピックガードとして貼りつけてありました。ヘビ皮自体は4~5箇所穴が開いてるくらいで,これはこれ,まあ悪くない保存状態ですが,それに隠れていた部分が,けっこう縦横無尽に虫に食われてしまっています。
  半月の左上端あたりにも虫孔があります。もしかすると半月裏の接着面にも被害が及んでるかもしれません。ちょっと心配ですが,現状浮きもないしひっぱってみても大丈夫そうなので手は出せません。もし虫害が酷いようなら,修理後の耐久テストあたりで暴露るでしょうから,その結果を待ちます。
  そのほか,胴左側面に2箇所,お尻のあたりに1箇所,面板との接合部に虫孔が見つかりました。

  修理作業は,まずこれら虫食いの処置からはじめましょう。
  表板の虫食いは,ケガキの尻やマチ針などで触診して溝や穴の方向を確かめ,薄皮一枚になってしまっているような部分は,あらかじめほじくってしまいます。

  虫食いの補修と言いますと,やっぱりコレですね。
  ちゅーしゃき,です。これでヤバいアレをソレするわけですな(w)家で使ってるのは骨董市で買った古いガラス製のやつです。庵主,身体が弱かったものですから,むかしよくこういうのをおシリにぶっすーッ!と刺されましたな。いまはまず見かけませんが,かつては診察室の傍らで,こういうのを入れた銀色の煮沸器がしゅんしゅん言ってたのを思い出します。
  表板の虫食いのうち,内桁にまで達していると思われる2箇所と側面の3箇所は,木粉粘土をヤシャ液ですこしユルめに練って,これで充填します。薄い板と違って,固い木部に達している部分は,触診だけだとその被害の全体像が分かりません。かといって板と木部の接着はカンペキなので,なるべくハガしたくない。もし食害がひどいようなら,この充填作業をやっているうちに,薄皮一枚になっている部分がシワシワになってきます。結局は剥がすことになるにしてもそれからやったほうが,要補修範囲を確定できるぶん,オリジナルへの被害が少なくて済みますし。

  こうやって虫には食われちゃってはいますが,オリジナルの工作が素晴らしくその保存状態も良いので,今回はそのへんをなるべく残していってあげたいんですね。

  ほじくった結果,表板の虫食い溝の何本かは胴体の中央あたりまで広がっていました。左がわの何本かが横方向にも若干広がっていましたが,特に深い部分は,だいたいバチ皮に隠れていた範囲内に収まっています。

  バチ皮の部分には後で布を貼りつけたりしますので,ここの補修材には耐水性のある木粉&エポキのパテを使おうと思いますが,バチ皮から出てる部分は,溝も浅いですし,あとでなるべく目立たない木粉粘土&ヤシャ液のパテで軽く埋めておきます。

  パテが乾くまでの間に,半月左がわのヒビ割れを処置しておきましょう。
  これはバチ皮にひっぱられて出来たヒビです。
  大陸には,月琴の表板にこのようなものを貼りつける習慣はありません。この楽器のバチは小さなものですし,琵琶や三味線ほど表板を引っ掻くような奏法もないのでピックガードは必要ないからです。前に記事で書きましたが,このヘビのバチ皮を含めて,日本の清楽月琴にある表板のお飾りの類を庵主は,輸出用としての装飾として,特別につけられたものであったと考えています。
  桐の板は柔らかく,生皮の収縮はけっこう激しいものです。
  見栄えは高級に見えるかもしれませんが,楽器の材質や構造から考えると,害こそあれ益はなにもありません。これと同様の,バチ皮に由来する表板の損傷は,古物の月琴では定番と言ってよいほど良く見かけますね。

  今回のヒビ割れはごく薄いものなので,まずは修理しやすいようにこれを広げます。
  はじめにカッターで,つぎに断ち切りをつっこんで………うむ。


  「うぐッ!!ヤ…ヤスぅ…てめえェ!!」

  「兄ぃ…かにんして…かにんしてくだっせぇッ!!」

  とかいう感じ。(w)

  広げた割れ目に,埋め木をします。
  まずは薄く削いだ桐板を,両面テープで作業板に貼り付け,当て木に貼りつけた紙ヤスリで擦って薄くしてゆきましょう。両面テープってのはほんとに,いろいろな使い道があるもんです。

  何度も書いてますが,薄い埋め木のほうに接着剤を塗ると,ふにゃふにゃになってちゃんとおさまってくれないので,接着剤は割れ目のほうにつけます。クリアファイルなどを切った極薄のヘラにニカワをつけ,ヒビ割れにさしこんでは引き抜き,薄く溶いたニカワをまんべんなく割れ目の端々まで行き渡らせましょう。
  ぺらっぺらの埋め木を押し込み,上から木粉をまぶしておきます。

  続いて虫食いの処置パート2。バチ皮に隠れていた部分のぐにゃぐにゃ溝を埋めます。

  こちらは先に書いたとおり,あとあと濡らすことも考え,木粉をエポキで練ったパテを使います。骨材となる木粉は,先ほどヒビ割れの補修で埋め木を作るときに出た桐板の粉です。
  2液式のエポキで木粉を練ります。エポキは「つなぎ」ていど,木粉かなり多めで「ボサボサ」のちょっと手前くらいの感じですね。
  エポキのパテは硬いんで,あんまりどばーっと盛っちゃうと,あとで削るときに表板を傷つけてしまいます----なのでなるべく少なく,溝の上にだけ盛り上げるような感じにします。あ,あと作業後,上から木粉をふり撒いて,固まっちゃう前のパテを,指の腹で溝の中に軽く押し込んでやるようにすると,埋め込みがより確実になります。

(つづく)


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