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山形屋雄蔵3(3)

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斗酒庵 山形屋と再会 の巻2016.6~ 山形屋雄蔵 3 (3)

STEP3 狙撃が得意だったり武器が槍だったり

  ここまでの作業はまあ,「壊れてたところを直す」----ふつうに「修理」といえる作業ですね。

  「修理」というのはほんらい「原状復帰」を第一とします。すなわち「元々そうであった状態に戻す」ということを,主目的とするのです。そういう意味からすると,ここからの作業は「修理」とは言えません。

  言うなれば「原作者の尻ぬぐい」。

  「修理」だけで考えるなら,この楽器の修理は虫食い穴をふさいで,はずれてしまった部品をくっつけなおす,それだけで終わってしまいます。何度も書いてきたように山形屋雄蔵,部品を組み合わせる,くっつける,といった木の仕事は完璧です。しかも保存状態が奇跡的なまでに良好ですので,「古物」として考えるなら,ほぼオリジナルのままという状態まで戻すことが出来たのなら,それ以上やることはないし,やるべきではありません。

  しかしながら,楽器は音楽の「道具」でもあります。
  これを置物としてではなく,あくまでも使用されるべき「楽器」として見た場合,その「オリジナル」の状態に問題があった時にはどうすべきか?
  修理者であると同時に,古物屋の小僧経験者でもある庵主としましては,いつも悩ましく,胸を焦がすような選択を迫られること度々,なのですね。

  悩みその1は棹の取付の調整。

  前回書いたように,この楽器の棹は,楽器のお尻のほうから見た時,右にわずかに傾いたカタチで取り付けられ,原作者はその補正のため,山口(トップナット)の上辺を逆に傾けて削っています。

  これがたとえば石田不識の楽器の様に,棹が一木造りであって,その部材の素材的な狂いから生じたようなものならば,原作者の処置は正しいし,実際それ以外に大した方法はありません。
  しかしながら山形屋のコレは,そういうものではなく,単なる仕上げ工程における調整不足であり,山口を削ったのも辻褄合わせ的な作業に過ぎません。ほんらいならば,棹の取付け部を整形し直し,棹の指板面と表板が段差なく面一な状態に仕上げるのが本筋。
  しかも,その作業は時間こそかかりますが,それほど大した才能を必要とするものではありません。

  おそらくこの楽器の流行期には一刻も惜しんで 「とにかく作れ,やれ売り払え」 だったんでしょうね。山形屋は腕がいいので,それで作ってもそこそこ水準以上の楽器になってます。でも,彼があと少し余裕を持って仕事をしていてくれれば,その「水準以上の楽器」はことごとく,西の松音斎なみに素敵な「名器」になってくれてたと思いますよ。

  このままでも使えますしちゃんと音は出せます。しかし,傾きのない状態に比べると,どうしても運指や操作性にヘンなクセや支障が出てしまうことも明白。また左右の弦の高低差は,音のバランスにも微妙に影響を与えましょう。

  とりあえず,向こうに逝ったら 「このクソ手抜き野郎!!」 と,山形屋のドタマをゲンノウで叩きのめしてやりたいと思いますが,とりあえず不肖・斗酒庵,現世において,過去の名匠たちの尻拭いに従事することといたします。

  上に書いたとおり,作業自体はかんたん。

  棹が胴体にまっすぐ挿さって,指板と面板の間に段差もなくなるよう,棹の根元や延長材を調整します。今回は延長材と内桁の噛合せには問題がなく,胴体の棹口に挿さっている,棹基部の調整だけでなんとかなりそうです。

  まずはヤスリで削って角度と沈み込みの調整。
  何度も書いている通り,もとの工作が厭になるくらいカンペキ(w)ですので,もともとスルピタきっちりおさまっていた棹は,この作業で削ったぶん,ガタがついてしまいます。

  こんどはその補正のため,ツキ板のスペーサーを貼りつけます。
  さらにそのスペーサーを削ったり切り取って,もとどおりのスルピタで,さらにきっちり理想通りの…というか「本来あるべき」カタチに仕上げます。

  ううう…この作業のために棹基部裏の作者のサインを削ってしまいました。
   ごめんなさいごめんなさい古物の神様ごめんなさい (泣)

  やってることは削ってへっつけるだけの,ごく地味で単純な作業なんですが,これまでも何度か書いてる通り,この作業,じつはやたらと時間がかかります。棹の傾きは3Dで考えなくちゃならないし,削りすぎるわけにもいかないので,あちらをちッと削っては棹を挿して確認,こちらをまたちッと削っては確認のくりかえし----まさに「微調整」という名にふさわしい精密作業です。

  傾きはゼロてん何度というレベル,段差も爪の先がひっかかる程度でしたが,なんとか修正完了。

  根本的なところで不具合を解消してしまったので,もう一箇所,原作者がやらかした「辻褄合わせ」のほうも直しとかなきゃなりません。高音弦がわを高く傾けてある山口の上辺を,今度は指板面ときっちり平行に削り直します。
  修正のためとはいえせっかくのオリジナル部品,これもまた削りすぎるわけにはいかないので。精密作業。

  なんやかんやであしかけ三日。(汗)

  まあ確かにこりゃ,せっかちな江戸ッ子向けの作業ではありませんな,薬研堀の旦那。(w)
(つづく)


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