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月琴48号 (3)

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斗酒庵 壊れ月琴の飽和攻撃その後 の巻2015.10~ 月琴48号 海保菊屋(?改名) 3

STEP3  8月もくれなのに(w)

  さて,今回は「修理」と言いましても,本体の損傷はごくごく軽微。
  内部にも問題はなさそうなので,作業も欠損・損傷部品を作り直してあげる程度ですねえ。

  まずは,ほとんどハガれかけてるバチ皮をはじめ,フレットや蓮頭などの部品を除去しましょう。
  フィールドノートなどにも書いたように,第6フレットは近年の再接着,たぶん木工用瞬間接着剤でガッデム。接着痕右端にフレットがメリ込んだようなヘコミがありますが,これはおそらくは楽器前面,このあたりをちょっと強めにぶつけちゃったことがあるんでしょうね。このフレットがはずれやすくなっちゃったのも,左右のお飾りの損傷,右側板上下接合部のヒビなんかもこれと同じ衝撃が原因かもしれません。
  6~8フレット接着痕の右端には,それぞれ斜めに引いた目印が刻まれています。フレット接着位置を指示したものなんでしょうが,ふつうは中央あたりに短い横線が使われます。こういうのはちょっと珍しい----これでよく正確な位置分かるなあ。

  山口と蓮頭が最後まで残りましたが,濡らしたティッシュで補水しながら2時間ほどで,なんとか無事にはずせました。
  原作者のニカワづけは,やや盛りが厚めながらも的確です。そもそもこれらの上部構造物は,こういうメンテの時にははがさなきゃなりませんから,接合部や面板の接着などと同じく「薄くまんべんなく」でガッチリつけちゃうと,後がタイヘン。接着剤を少し盛り気味にして点付けするのが基本です。こうすると普段の使用ではそう外れない上に,適度に濡らせばかんたんにハガれてきますからね。

  帰省先の実家では,工具もないのであんまり細かい作業ができませんから,ヒビ埋め等の本体関連作業は置いといて,とりあえず,蓮頭あたりから作ってゆきましょうか。
  とりはずした蓮頭の残片----メインであるコウモリさんの部分は,ほぼカンペキに残ってます。この部分に関しては参考資料もあり,似たようなの彫っくりかえすのにもシンパイはありませんが,分からないところもあります。

  たとえば,コウモリさんの口の先には,いったい何があったのか?

  何度も書いてますが,月琴の装飾にコウモリが付けられるのは 「月>夜>コウモリ」 という連想だけではなく,月琴の円形胴を「お金」に見立てて 「眼銭蝙蝠(がんぜんへんふく=眼前遍福)」 というお目出度い洒落を完成させるのが本意。「眼銭」はむかしの貨幣,穴あき銭ですね。本来の「眼銭蝙蝠」の意匠では,コウモリさんはこの「穴あき銭」を口に咥えてます。吉祥意匠をそのまま踏襲して,お金やお金の一部と見られる二重線半丸を咥えさせてる例もないではありませんが,国産月琴の場合は「花」を食べさせてることが多いですね。
  上右画像は関西の名工・松音斎の蓮頭。このコウモリさんがくわえてるのは花----菊でしょうかね?
  48号と同じタイプのコウモリさんの資料が,先にも紹介した菊芳の楽器の1例しかなく,どちらもともにその部分が欠けてしまっているのでイノチは賭けられませんが(w),同じお江戸の職人さんたちの作例から考えても,「花」だった可能性が高いです。


  オリジナルの意匠の全体は分かりませんが,48号や菊芳の蓮頭が,同じような壊れかたをしている理由は,容易に想像がつきます。
  上画像を見れば,おおよそ分かるとは思うんですが…彼らのコウモリさんは,羽根の部分がまったく外枠の部分とくっついてないのですね。たとえば,右の不識のコウモリさんだと,片方だけで5箇所,外枠との接点がありますが,48号と菊芳のコウモリさんはたった1箇所,細い外枠の横部分には何の支えもない----これじゃまあ,ちょっとした衝撃で下半分くらいはふッとびますわな(w)
 デザインはいいと思うんですが,耐久性に難アリ,といったところでしょうか。これもまた明治くらいの日本の職人さんに,よくあった傾向だと思います。

  そいじゃあ,いっちょう彫ってみましょう。
  ビバホームで買ってきたホオの木の板,幅6センチ厚1センチ。
  冬に46号の修理で,やっぱり蓮頭作るために買ったやつですね。

  作家さんによっては最大厚1.5センチくらいある板で作ってることもあるんですが,48号のは薄めなので,これでほぼオリジナルと同じ厚さになってます。
  オリジナルの残片を板にあてて,だいたいの輪郭を写しとり,足りない部分を推測し,孔をあけて糸鋸で切り出します。
  作っててもやっぱり,この真横の部分,何も支えのないとこには不安がありますね。ちょっと彫刻刀が斜めに入ったら,パッキンと割れてしまいそうな感じです。
  まあ,羽根の細かな筋彫りなんかからも感じられますが,リアルなコウモリに,浮遊感みたいなものを出したかったんだと思います。こういうのを彫る本職の大工さんとかだったら,もう2箇所くらい,表からは分かんないよう,支えになる部分を残しとくと思うんですが(完全に彫り貫かなきゃ済むだけの話なんで),やはりこのあたりは専門外の仕事,って感じですね。
  2枚めでなんとか納得のゆく出来になりました。茶色いほうが1枚目,少し大きくなっちゃいました。いちおう下染めまでやってみたんですが,どうしても気に入らず…まあこの手のものはほかの楽器の修理でも流用できますので,余分に作っちゃったからといってどうということはないとほほ。(w) 白いほうがキアイ入れ直して彫った2枚目。さすがに羽根の筋彫りなど,細かいところまで見られると少々違ってますが,染めちゃえばそんなに分かりますまい。
  欠点も分かっていながらオリジナルとほとんど同じ構造にした(w)ので,同じようにおもくそ壊れやすいです。オーナーになる方は,ここ,ぶッけないように注意してくださいね。ぶッ欠けたときはカケラをなくさないようにしといてください。カケラが残っていれば,いくらでも継いであげられます----庵主,そういうのは得意です----から。

  胴左右の装飾は,意匠が「仏手柑」であることは間違いないものの,真ん中の部分しか残っていませんので,両端部分は似たようなデザインのものを参考に推測するしかありません。 また,オリジナルは凍石ですが,柱間の小さなお飾りと違い,さすがにこのサイズの石を切り出して削るのもタイヘンなので,木の板で作らせてもらいましょう。

  ふだんは蓮頭と同じホオの板を使うのですが,実家作業のためホオの薄板が手に入りませなんで,どこのホームセンターでも手に入るアガチスを使います。石に似せた感じに仕上げようと思ってますので,木理の密なアガチスのほうが,かえって良かったかもしれません。
  両端を推測して描き出したデザイン画を清書して紙に転写し,それをそのまま板に糊付けします。板に直接転写してもいいんですが,縁日のカタヌキさもなんという薄板での細工は,割れちゃったらアウト,最初からやり直しなので,表面に薄い紙を貼って補強してからのほうがやりやすいですしね。板は裏面に両面テープを貼り,2枚重ねにしておきます。そのまんま切り出して,外がわの輪郭を整形したら,真ん中から割って2枚にしましょう。内がわの穴開けとかは,そのあとのほうが,板が薄いのでラクですわな。

  凍石のオリジナルを見ながら,細かいとこを彫り込んでいきます。石と木では陰翳の出し方も若干異なるので,そのあたりも留意しつつ,見た感じ,より似て見えるように。
  いちばんてっぺんの三又に分かれてる葉っぱのところ,いつもの 「 ) ( 」 という取付け向きですと,真ん中の葉っぱをもうすこし立てるとこなんですが,今回は取付けが 「( )」 なので全体が弓なり三日月型に見えるよう,いくぶん寝かせてあります。

(つづく)


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