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月琴WS@亀戸 2016年11月場所!!

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斗酒庵 WS告知 の巻2016.11.20 月琴WS@亀戸 11月場所!!!


*こくちというもの*


 月琴WS@亀戸 11月場所,のお知らせ。

 11月の清楽月琴ワークショップは20日,にちようびの開催です!  会場は亀戸の EAT CAFE ANZU さん。

 会費ナシのオーダー制。
 お店のほうに飲物なりお料理なりご注文ください。
 多彩で美味しいランチメニューに,もちろんお酒もありますよ~。

 お昼過ぎから,ポロポロゆるゆるとやっておりま~す。
 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面か余計に持っていきますので,手ブラでもOK。

 初心者大歓迎。1曲弾けるようになってってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可です。

 音楽は合わせてなんぼ。
 やりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の取扱から楽譜の読み方まで,ご要望ござれば何でもお教えしますよ。

 予約は要りませんが,何かあったら中止なので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 清楽月琴の楽譜等は mixi 「月琴コミュ」の「楽譜」のトピック,あとは FB で庵主がやってる「月琴」のページにも転がっています。
 画像が 工尺原譜=近世譜=数字譜 対照の楽譜になってます。右クリックで保存して,ご自宅でプリントするなり,USBメモリにぶッこんでコンビニで印刷するなり,ご自由にどうぞ。


 秋の日のゲッキンのためいきの…と,いうほど高雅高尚なモノではございません(w)音数13コしか出ない,俗っぽい野良楽器ですのでどうぞみなさんお気軽に。
 10月開催もまだ暑かったからな~,次こそは涼しいよ,ね,ねっ?(^_^;)


月琴48号 (終)

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斗酒庵 壊れ月琴の飽和攻撃その後 の巻2015.10~ 月琴48号 海保菊屋 5

STEP5  青いお月さま

 えー,今回の修理。
 まことの意味で「修理」といえるような作業はまあ,これくらいなもので(w)
 地の側板のハガレ再接着一箇所,バチ皮横の裂け割れ補修。
 作業時間1時間ほど,一晩固定乾燥ののち整形にて以下完了。
 ドリドリもグリグリもイングリモングリもさせてもらえなんだ。(w)
 ううむ,運の良い楽器じゃ。

 それでもほかの部分には,それなりたっぷり時間がかかっております。
 前にも書きましたが,切った貼ったより塗った染めたのほうが,何倍も手間と時間がかかりますのでねえ。

 胴体の小補修にフレットが出来てしまえば,楽器としては修理完了,お飾りの類なんか何もなくても,音を出すのに不便はありません,が。
 まあ,装飾というものもたしかにこの道具の一部であり,けっこう大切な要素でもあります。しかも庵主,こういう小物づくりが大好きなので始末が悪い。(w)
 今回は,本体にかからなかった手間と時間を,たっぷりそちらに注がせてもらいますわよぉ,へっへっへカクゴしろ。

 とはいえまあ,神田鍛冶町・海保菊屋吉之助。名工の作に余計な飾りを付ける気もその腕もございませんから,まずまず,オリジナルの再現をどこまでできるか,そのあたりが主眼ですね。

 実家で彫りあげた蓮頭と左右のお飾りを,スオウで染めます。

 スオウの煮汁はオレンジ色ですが,間に乾燥をはさみながら,これを3度ほど塗布----小物の染めにはラップを使いましょう。塗布したあとそのまま放置すると,染め液が滲みこまないうちに乾燥してしまいます。染め液を塗ってすぐラップでくるんでおくと,無駄なくキレイに染まります。
 全体が茶色っぽくなったところで,お湯に生ミョウバンを溶かしたものにどぷんと潜らせ,一次媒染。
 シャアザク色に染め上げましょう。

 真っ赤になったお飾りを,よく乾燥させて二次媒染。
 オハグロをかけます。
 オハグロ液はヤシャ液と酢とベンガラを煮立てて発酵させて作り,年月がたつほど深みを増してゆくものなのですが,去年,5年物のオハグロ液を枯らしてしまったため,今使ってるのは夏前に作ったものです。
 蓮頭のコウモリさんのオリジナルを見ながら色味を加減します。
 ちょっと赤っぽいですが,スオウは褪色するものなので,だいたいこのくらいにしておけば,2年ほどでちょうどよくなるでしょう。
 胴左右のお飾りはオリジナルでは凍石製ですが,木にしちゃったので,こちらもあんまり目立たないよう,薄目に,ちょっと色ムラがつくように染めて,古色味を出しましょう。
 胴中央のお飾りは二つともオリジナルですが,扇飾りは少し褪色が進んでいるので,スオウで染め直し。中央の円飾りは保護と艶出しのため,ラックニスを軽く刷いておきます。

 小物がすべて仕上がったところで組み立てます。
 48号のオリジナルのフレットの目印は,棹の上のものも胴体のものも,他ではまず見たことのない形式になっています。
 棹のものはひっかき傷のように細かい筋を何本も引いたもの,胴上のはフレットの端あたりに斜めの線を引いてあります----ふつうはまあ,横線ですね。フレット底部の上縁か下縁の中央に沿って,短く一本,って感じですね。
 フレット自体の痕跡と目印の位置との関係から見て,48号の場合,棹上のこれも胴上のものも,上縁下縁というよりは,フレットの頭の中心線を示しているようです。
 なるほど…上縁下縁のラインだと,フレット自体の加工(厚さ薄さや表裏のバランス)や取付けにより誤差が生じる可能性がありますが,中央位置で合わせるなら,ある意味間違いはありませんわな。
 フレットをオリジナル位置に置いた時の音階は以下---

開放
4C4D+44Eb4F+54G-64Bb-435C+15Eb-485F#-35
4G4A4Bb+345C-15D-135E+165G-235A+186C+43

 多少第3音が低めですが,だいたい正確に清楽音階になっているかと。

 フレットを西洋音階に並べ直して接着,ほかのお飾りもへっつけ,半月も亜麻仁油とワックスで,てらってらに磨き上げました。買い入れてからほぼ一年,待たせてごめんね-----

 2016年9月26日,月琴48号,修理完了!!

 少し前に修理した山形屋なみに保存状態は良かったのですが,そもそも新品同様だったあちらさんと違い,こちらの楽器はけっこう使い込まれております----なので,きちんとそういう楽器の 「こなれた音」 がしますね。 板も部材も,木自体が「音の出しかた」に慣れてる感じ。 とくに 「激鳴り楽器」 とかいうわけではありませんが,楽器全体が自然に鳴ってくれます。

 操作性にも現状,さしたる問題はありません。楽器自体のバランスもよく,例によって横に倒して立てても自立します。 使い込まれているせいで,糸巻の先が少し痩せて深入りしており,しっかり挿すと糸孔が糸倉に隠れてしまうため,オリジナルの孔をふさいで,他の箇所にあけ直してあります。
 その時気づいたのですが,この孔の位置……吉之助~え,小僧にやらせたな?(w)
 もともと使い込まれた部品なので,イカれるとしたらここらあたりからではありますが,まあ通常の使用ですぐにどうにかなるものでもありません。実際に,割れるなり折れるなりしてから考えましょう。

 あと,同じ菊屋の福島芳之助や石田不識あたりの楽器に比べると,響き線が若干柔らかいらしく,ヘンに崩れた姿勢で弾くと線鳴りが起きやすくなります。以下の動画では,座イスにぐでーっとすわってやったもんで,けっこう鳴り鳴りですね。(w)
 ちゃんと背筋を伸ばし,楽器を立てて弾いた場合にはもちろんまったく起きませんし,その線鳴りの起こらない姿勢がこの楽器のパフォーマンスを100%発揮できるベスト・ポジションだっていうことですね。

 あえて挙げ連ねるとしてもこんなくらいで,ほかには文句のつけようもない出来です。


 フレット丈を上げ,頭の位置を弦ギリギリにしてあります。フレットの形状が頭の丸い,中心線の幅のやや広いタイプなので,よりシャープなフレットに比べると,音の正確さや運指への反応はやや劣りますが,指を下ろす位置が多少ズレても,悪くない音・余韻が得られます。頭を尖らせると,より正確な発音が望めますが,それだけに楽器としてはピーキーで,フレット間のスウィート・スポットにキビしく,指の位置がちょっとズレただけで音高・音色に大きな影響が出るし,押さえかたがマズいと,カンタンに余韻が死んでしまいます。まあ一長一短ですが,さすが老舗の海保菊屋,より万人向けのツボをおさえてらっしゃる。

 温かな音色の楽器です。
 変な個性はなく,激しい主張もありませんが,しっとりとあたりを包み込むような響きをしています。それでいて音のシッポにはしっかりと響き線の効果が乗り,ふッと冷えた余韻を残して消えてゆく。
 日本人の考える「月琴の音」を再現しつくしてますね----このへんも老舗の実力でしょう。

 この楽器を,この良い状態でここまで継いでくれた先人に感謝し,次の世代のその先まで,つつがなく継がれてゆきますように祈って----今回の(ノミは不得手ですのでww)ヤスリを置くことといたしましょう。

(おわり)


月琴48号 (4)

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斗酒庵 壊れ月琴の飽和攻撃その後 の巻2015.10~ 月琴48号 海保菊屋 4

STEP4  わたしのこころは夏もよう

 暦の上ではとっくに秋なのに,まだまだ暑いきょうこのごろ。 いかがお過ごしでしょうか。

 北の大地より帰京して,まずは夏前に使い切ったスオウ液やら,ヤシャブシ汁やらを作り,浅草の藍熊さんへ行って,柿渋等不足物資も補充。さて…48号修理作業再開です!

 今回の楽器は,本体部分の保存状態しごくよろしく,こちらとしては,壊れたりなくなくなってる部品をいくつか足してあげるくらいのことしかできません。 表板のちょっとしたヒビ割れの補修以外は,楽器の音に直接影響のあるような作業もなく,ある意味平和でございます。


 まずはフレット作り。

 山口(トップナット)はオリジナルをそのまま再接着。なくなってる棹上の4枚を牛骨で作りましょう----あいかわらず硬いなあ(汗)
 棒状の骨のカタマリから1センチ幅くらいの小板を切出し,両面を削って平らな板にするわけですが,切るのも削るのも一苦労です。
 切るのは糸鋸,平らに整形するのは80~100くらいの空砥ぎペーパーを貼った擦り板を使います。
 はじめ,やや大きめ高めに作り,糸を張った楽器に実際当てながら,高さや幅を調整してゆきます。
 この作業においては,硬いのが逆に幸いして,かなり精密な微調整が可能ですね。

 調整が終わった板は,左右端をやや斜めに落とし,横から見て頭の丸い二等辺三角形になるよう,表裏を削り,フレットの形にしあげます。ついで240~400くらいまでで表裏を磨き上げて,まずは軽く二度ほど,アルコールニスを塗っておきましょう。
 このニス塗りは「塗装」というよりは「目止め」「滲みこみどめ」の意味合いが高いですね。牛骨は象牙に比べると多孔質なので,染液や油を余計に吸ってしまいがちなのです。このあと表面処理にヤシャ液やら油やらを使うのですが,それらが余計に滲みこみすぎないようにするための加工だと思ってください。 数日してまだ表面がベトつくようなら,アルコールでさっと拭ってしまってもいいです。

 ニス塗りして数日乾かしたフレットを,ふたたび600~1000くらいで軽く研磨。30~1時間ほどヤシャ液に漬けこみ,黄色っぽく古色を付けます。染めないとまさしく「白骨」って感じに真っ白なので,安っぽくなっちゃうんですが,目止めしとかないと10分も漬け込まないうちにまっ黄色になっちゃうんですよ! あらかじめニスで目止めをしておくと,多少漬けすぎても,ちょうどいいぐらいのほのかな「象牙色」で落ち着いてくれます。

 ヤシャ液に漬けたフレットを一晩二晩乾かしたら,最後の仕上げ。Shinex の目の細かいやつに,亜麻仁油とヤシャ液を数滴たらし,白棒の削ったのをふりかけて,そこで磨き上げます。
 この作業も,あらかじめニスで染み止めしておかないと,フレットにたちまち油じみが出来てしまいますからね。

 こういう加工されちゃうと,もうニワカ目利きでは象牙と区別がつけられませんね。手に持てれば密度と重量感で,刃物を当ててられれば粘りのあるなしで,一発判定も可能ではありますが,目視だけだとかなり難しいでしょう。ただし,こういう板状のものだと片面に,黒く細かな筋模様がいっぱい見えるので,そのあたりで判断するしかないかなあ。これは骨髄のがわ,骨の表面がわに比べると密度がいくぶん低いからですね。
 …ふむしかし,このくらいの高さの板なら,馬や牛の大腿骨あたりの骨だと縦割りでも作れます,そうなるとまあ,ほとんど判別ムリかなあ。(元古物屋の小僧談)

 はじめ,再製作は棹上の4枚のみで,胴上の4枚はオリジナルをそのまま使うつもりだったんですが,棹上のをいつものように弦高に合わせてギリギリで作ったら,第4と第5フレットの落差がスゴすぎて,音が出るところまで押さえると,糸が余計なところにひっかかり,響きが死んでしまうようになっちゃいました。

 山口はいじっていないし,棹の角度も直していないので,おそらくオリジナルでは,フレットの丈が全体に低く,フレット頭と糸との間がかなり空いていたのだと思います。
 もちろんその設定でも音は出せますし,フレットの位置をちゃんと加味すれば,音階もある程度は揃えられます。しかし,糸を余計に押し込まなければならないぶん,音高は不安定になりますので,多少扱いにくい楽器だったかもしれません。「ミ」を出したくても,その前後の音が微分音で混じってしまうわけですね。
 まあ,当時の清楽の演奏ではこれでよかったんでしょう。音程の不安定さに対する感性も「そんなもの」って感じだったのだと思いますが,現代ではみんなむかしより音階に敏感ですから,このあたりは調整しておかなければなりません。

 けっきょく,棹上の新作に合わせて,胴上のフレットもあと3枚削ることにしました。最終第8フレットのみ,オリジナルの第5フレットを流用します。第5と第8はほとんど幅がいっしょ,たまたま当ててみたら高さ的にもバッチリでしたんで。

 出来上がったフレットセットは,総じてオリジナルより1ミリほど背が高くなりました。
 それでも,清楽月琴としてはふつうなくらいですので,さして問題はございません。運指に対する反応のより良い,フェザータッチな楽器を目指しましょう。

 後で削った3枚も,ニス塗り>ヤシャ染>油磨き の作業をして,はんなり象牙色のとぅるっとぅるに。

 今回は上手くゆきました。

(つづく)


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