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月琴WS@亀戸 2016年11月場所!! »
月琴48号 (終)
G048_05.txt
2015.10~ 月琴48号 海保菊屋 5
STEP5 青いお月さま
えー,今回の修理。
まことの意味で「修理」といえるような作業はまあ,これくらいなもので(w)
地の側板のハガレ再接着一箇所,バチ皮横の裂け割れ補修。
作業時間1時間ほど,一晩固定乾燥ののち整形にて以下完了。
ドリドリもグリグリもイングリモングリもさせてもらえなんだ。(w)
ううむ,運の良い楽器じゃ。
それでもほかの部分には,
それなりたっぷり
時間がかかっております。
前にも書きましたが,切った貼ったより
塗った染めた
のほうが,何倍も手間と時間がかかりますのでねえ。
胴体の小補修にフレットが出来てしまえば,
楽器としては修理完了,
お飾りの類なんか何もなくても,音を出すのに不便はありません,が。
まあ,
装飾
というものもたしかにこの道具の一部であり,けっこう大切な要素でもあります。しかも庵主,こういう小物づくりが大好きなので始末が悪い。(w)
今回は,
本体にかからなかった手間と時間を,
たっぷりそちらに注がせてもらいますわよぉ,
へっへっへカクゴしろ。
とはいえまあ,神田鍛冶町・海保菊屋吉之助。名工の作に余計な飾りを付ける気もその腕もございませんから,まずまず,
オリジナルの再現
をどこまでできるか,そのあたりが主眼ですね。
実家で彫りあげた蓮頭と左右のお飾りを,スオウで染めます。
スオウの煮汁はオレンジ色ですが,間に乾燥をはさみながら,これを3度ほど塗布----
小物の染めにはラップ
を使いましょう。塗布したあとそのまま放置すると,
染め液が滲みこまないうちに乾燥
してしまいます。染め液を塗ってすぐラップでくるんでおくと,無駄なくキレイに染まります。
全体が茶色っぽくなったところで,お湯に生ミョウバンを溶かしたものにどぷんと潜らせ,一次媒染。
シャアザク色に染め上げましょう。
真っ赤になったお飾りを,よく乾燥させて二次媒染。
オハグロをかけます。
オハグロ液は
ヤシャ液と酢とベンガラ
を煮立てて発酵させて作り,年月がたつほど深みを増してゆくものなのですが,去年,5年物のオハグロ液を枯らしてしまったため,今使ってるのは夏前に作ったものです。
蓮頭のコウモリさんのオリジナルを見ながら色味を加減します。
ちょっと赤っぽいですが,
スオウは褪色する
ものなので,だいたいこのくらいにしておけば,2年ほどでちょうどよくなるでしょう。
胴左右のお飾りはオリジナルでは凍石製ですが,木にしちゃったので,こちらもあんまり目立たないよう,薄目に,ちょっと色ムラがつくように染めて,古色味を出しましょう。
胴中央のお飾りは二つともオリジナルですが,扇飾りは少し褪色が進んでいるので,スオウで
染め直し。
中央の円飾りは保護と艶出しのため,ラックニスを軽く刷いておきます。
小物がすべて仕上がったところで組み立てます。
48号のオリジナルのフレットの目印は,棹の上のものも胴体のものも,他ではまず見たことのない形式になっています。
棹のものはひっかき傷のように
細かい筋を何本も引いたもの,
胴上のはフレットの端あたりに
斜めの線
を引いてあります----ふつうはまあ,
横線
ですね。
フレット底部の上縁か下縁の中央
に沿って,短く一本,って感じですね。
フレット自体の痕跡と目印の位置との関係から見て,48号の場合,棹上のこれも胴上のものも,上縁下縁というよりは,
フレットの頭の中心線
を示しているようです。
なるほど…
上縁下縁のラインだと,フレット自体の加工(厚さ薄さや表裏のバランス)や取付けにより誤差が生じる可能性がありますが,中央位置で合わせるなら,ある意味間違いはありませんわな。
フレットをオリジナル位置に置いた時の音階は以下---
開放
1
2
3
4
5
6
7
8
4C
4D
+4
4E
b
4F
+5
4G
-6
4B
b-43
5C
+1
5E
b-48
5F
#-35
4G
4A
4B
b+34
5C
-1
5D
-13
5E
+16
5G
-23
5A
+18
6C
+43
多少第3音が低めですが,だいたい正確に清楽音階になっているかと。
フレットを西洋音階に並べ直して接着,ほかのお飾りもへっつけ,
半月も
亜麻仁油とワックスで,てらってらに磨き上げました。
買い入れてからほぼ一年,待たせてごめんね-----
2016年9月26日,月琴48号,修理完了!!
少し前に修理した山形屋なみに保存状態は良かったのですが,
そもそも新品同様
だったあちらさんと違い,こちらの楽器はけっこう
使い込まれております
----なので,きちんとそういう楽器の 「こなれた音」 がしますね。 板も部材も,木自体が「音の出しかた」に慣れてる感じ。 とくに 「激鳴り楽器」 とかいうわけではありませんが,
楽器全体が自然に鳴って
くれます。
操作性にも現状,さしたる問題はありません。楽器自体のバランスもよく,例によって横に倒して立てても自立します。 使い込まれているせいで,
糸巻の先が少し痩せて深入り
しており,しっかり挿すと糸孔が糸倉に隠れてしまうため,オリジナルの孔をふさいで,他の箇所にあけ直してあります。
その時気づいたのですが,この孔の位置……
吉之助~え,小僧にやらせたな?(w)
もともと使い込まれた部品なので,イカれるとしたらここらあたりからではありますが,まあ
通常の使用ですぐにどうにかなる
ものでもありません。実際に,割れるなり折れるなりしてから考えましょう。
あと,同じ菊屋の福島芳之助や石田不識あたりの楽器に比べると,響き線が若干柔らかいらしく,
ヘンに崩れた姿勢で弾くと線鳴りが起きやすくなります。
以下の動画では,座イスにぐでーっとすわってやったもんで,けっこう鳴り鳴りですね。(w)
ちゃんと背筋を伸ばし,楽器を立てて弾いた場合にはもちろんまったく起きませんし,その
線鳴りの起こらない姿勢
がこの楽器のパフォーマンスを100%発揮できる
ベスト・ポジション
だっていうことですね。
あえて挙げ連ねるとしてもこんなくらいで,ほかには文句のつけようもない出来です。
試奏(1)音階
試奏(2)紫竹調
試奏(3)散花楽
フレット丈を上げ,頭の位置を弦ギリギリにしてあります。フレットの形状が頭の丸い,中心線の幅のやや広いタイプなので,よりシャープなフレットに比べると,
音の正確さや運指への反応
はやや劣りますが,指を下ろす位置が多少ズレても,悪くない音・余韻が得られます。頭を尖らせると,より正確な発音が望めますが,それだけに楽器としてはピーキーで,フレット間のスウィート・スポットにキビしく,指の位置がちょっとズレただけで音高・音色に大きな影響が出るし,押さえかたがマズいと,カンタンに余韻が死んでしまいます。
まあ一長一短
ですが,さすが老舗の海保菊屋,より万人向けのツボをおさえてらっしゃる。
温かな音色の楽器です。
変な個性はなく,激しい主張もありませんが,しっとりとあたりを包み込むような響きをしています。それでいて音のシッポにはしっかりと響き線の効果が乗り,
ふッと冷えた余韻
を残して消えてゆく。
日本人の考える「月琴の音」を再現しつくしてますね----このへんも老舗の実力でしょう。
この楽器を,この良い状態でここまで継いでくれた先人に感謝し,次の世代のその先まで,つつがなく継がれてゆきますように祈って----今回の
(ノミは不得手ですのでww)
ヤスリを置くことといたしましょう。
(おわり)
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