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月琴48号 (終)

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斗酒庵 壊れ月琴の飽和攻撃その後 の巻2015.10~ 月琴48号 海保菊屋 5

STEP5  青いお月さま

 えー,今回の修理。
 まことの意味で「修理」といえるような作業はまあ,これくらいなもので(w)
 地の側板のハガレ再接着一箇所,バチ皮横の裂け割れ補修。
 作業時間1時間ほど,一晩固定乾燥ののち整形にて以下完了。
 ドリドリもグリグリもイングリモングリもさせてもらえなんだ。(w)
 ううむ,運の良い楽器じゃ。

 それでもほかの部分には,それなりたっぷり時間がかかっております。
 前にも書きましたが,切った貼ったより塗った染めたのほうが,何倍も手間と時間がかかりますのでねえ。

 胴体の小補修にフレットが出来てしまえば,楽器としては修理完了,お飾りの類なんか何もなくても,音を出すのに不便はありません,が。
 まあ,装飾というものもたしかにこの道具の一部であり,けっこう大切な要素でもあります。しかも庵主,こういう小物づくりが大好きなので始末が悪い。(w)
 今回は,本体にかからなかった手間と時間を,たっぷりそちらに注がせてもらいますわよぉ,へっへっへカクゴしろ。

 とはいえまあ,神田鍛冶町・海保菊屋吉之助。名工の作に余計な飾りを付ける気もその腕もございませんから,まずまず,オリジナルの再現をどこまでできるか,そのあたりが主眼ですね。

 実家で彫りあげた蓮頭と左右のお飾りを,スオウで染めます。

 スオウの煮汁はオレンジ色ですが,間に乾燥をはさみながら,これを3度ほど塗布----小物の染めにはラップを使いましょう。塗布したあとそのまま放置すると,染め液が滲みこまないうちに乾燥してしまいます。染め液を塗ってすぐラップでくるんでおくと,無駄なくキレイに染まります。
 全体が茶色っぽくなったところで,お湯に生ミョウバンを溶かしたものにどぷんと潜らせ,一次媒染。
 シャアザク色に染め上げましょう。

 真っ赤になったお飾りを,よく乾燥させて二次媒染。
 オハグロをかけます。
 オハグロ液はヤシャ液と酢とベンガラを煮立てて発酵させて作り,年月がたつほど深みを増してゆくものなのですが,去年,5年物のオハグロ液を枯らしてしまったため,今使ってるのは夏前に作ったものです。
 蓮頭のコウモリさんのオリジナルを見ながら色味を加減します。
 ちょっと赤っぽいですが,スオウは褪色するものなので,だいたいこのくらいにしておけば,2年ほどでちょうどよくなるでしょう。
 胴左右のお飾りはオリジナルでは凍石製ですが,木にしちゃったので,こちらもあんまり目立たないよう,薄目に,ちょっと色ムラがつくように染めて,古色味を出しましょう。
 胴中央のお飾りは二つともオリジナルですが,扇飾りは少し褪色が進んでいるので,スオウで染め直し。中央の円飾りは保護と艶出しのため,ラックニスを軽く刷いておきます。

 小物がすべて仕上がったところで組み立てます。
 48号のオリジナルのフレットの目印は,棹の上のものも胴体のものも,他ではまず見たことのない形式になっています。
 棹のものはひっかき傷のように細かい筋を何本も引いたもの,胴上のはフレットの端あたりに斜めの線を引いてあります----ふつうはまあ,横線ですね。フレット底部の上縁か下縁の中央に沿って,短く一本,って感じですね。
 フレット自体の痕跡と目印の位置との関係から見て,48号の場合,棹上のこれも胴上のものも,上縁下縁というよりは,フレットの頭の中心線を示しているようです。
 なるほど…上縁下縁のラインだと,フレット自体の加工(厚さ薄さや表裏のバランス)や取付けにより誤差が生じる可能性がありますが,中央位置で合わせるなら,ある意味間違いはありませんわな。
 フレットをオリジナル位置に置いた時の音階は以下---

開放
4C4D+44Eb4F+54G-64Bb-435C+15Eb-485F#-35
4G4A4Bb+345C-15D-135E+165G-235A+186C+43

 多少第3音が低めですが,だいたい正確に清楽音階になっているかと。

 フレットを西洋音階に並べ直して接着,ほかのお飾りもへっつけ,半月も亜麻仁油とワックスで,てらってらに磨き上げました。買い入れてからほぼ一年,待たせてごめんね-----

 2016年9月26日,月琴48号,修理完了!!

 少し前に修理した山形屋なみに保存状態は良かったのですが,そもそも新品同様だったあちらさんと違い,こちらの楽器はけっこう使い込まれております----なので,きちんとそういう楽器の 「こなれた音」 がしますね。 板も部材も,木自体が「音の出しかた」に慣れてる感じ。 とくに 「激鳴り楽器」 とかいうわけではありませんが,楽器全体が自然に鳴ってくれます。

 操作性にも現状,さしたる問題はありません。楽器自体のバランスもよく,例によって横に倒して立てても自立します。 使い込まれているせいで,糸巻の先が少し痩せて深入りしており,しっかり挿すと糸孔が糸倉に隠れてしまうため,オリジナルの孔をふさいで,他の箇所にあけ直してあります。
 その時気づいたのですが,この孔の位置……吉之助~え,小僧にやらせたな?(w)
 もともと使い込まれた部品なので,イカれるとしたらここらあたりからではありますが,まあ通常の使用ですぐにどうにかなるものでもありません。実際に,割れるなり折れるなりしてから考えましょう。

 あと,同じ菊屋の福島芳之助や石田不識あたりの楽器に比べると,響き線が若干柔らかいらしく,ヘンに崩れた姿勢で弾くと線鳴りが起きやすくなります。以下の動画では,座イスにぐでーっとすわってやったもんで,けっこう鳴り鳴りですね。(w)
 ちゃんと背筋を伸ばし,楽器を立てて弾いた場合にはもちろんまったく起きませんし,その線鳴りの起こらない姿勢がこの楽器のパフォーマンスを100%発揮できるベスト・ポジションだっていうことですね。

 あえて挙げ連ねるとしてもこんなくらいで,ほかには文句のつけようもない出来です。


 フレット丈を上げ,頭の位置を弦ギリギリにしてあります。フレットの形状が頭の丸い,中心線の幅のやや広いタイプなので,よりシャープなフレットに比べると,音の正確さや運指への反応はやや劣りますが,指を下ろす位置が多少ズレても,悪くない音・余韻が得られます。頭を尖らせると,より正確な発音が望めますが,それだけに楽器としてはピーキーで,フレット間のスウィート・スポットにキビしく,指の位置がちょっとズレただけで音高・音色に大きな影響が出るし,押さえかたがマズいと,カンタンに余韻が死んでしまいます。まあ一長一短ですが,さすが老舗の海保菊屋,より万人向けのツボをおさえてらっしゃる。

 温かな音色の楽器です。
 変な個性はなく,激しい主張もありませんが,しっとりとあたりを包み込むような響きをしています。それでいて音のシッポにはしっかりと響き線の効果が乗り,ふッと冷えた余韻を残して消えてゆく。
 日本人の考える「月琴の音」を再現しつくしてますね----このへんも老舗の実力でしょう。

 この楽器を,この良い状態でここまで継いでくれた先人に感謝し,次の世代のその先まで,つつがなく継がれてゆきますように祈って----今回の(ノミは不得手ですのでww)ヤスリを置くことといたしましょう。

(おわり)


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