合歓堂 (6)
![]() STEP6 アウト・オブ・タイム 合歓堂・田島真斎の月琴。 裏板の左右周縁を整形したら,あとは組み立てて完成ですねえ。 ![]() ![]() ![]() 今回のフレットはオリジナルと同じ牛骨。 仔細あって,今回のみは半音きざみ完全2オクターブの配列といたします。(つぎに依頼あってもやらんからなww) ![]() 前修理者は牛骨と象牙の区別もつけられんで(今回のはまた材質的に見え見えでしたのに…),象牙でフレットこさえて高い料金ふんだくったそうです。まあひでえもんだ。 だいたいコレの材料,どう見ても修理か引き取りで出たお三味の牙撥かなにかのぶッかれ,きざんだヤツでしょ? 工作も雑,しかも半音きざみにするのに,ちゃんと音も測らず,フレットとフレットの中間にぺっとへっつけただけ。高さの調整もきちんとやってませんねえ----こンなんでお江戸の「職人」名乗る気か,コラ恥を知れ。(怒) 清楽月琴のフレットは8本,出せる音は13コしかありません。 これを半音きざみにすれば出せる音が増える,対応できる曲も増えるだろう----と,いうことは,誰でもすぐに考えつくことですが,庵主はオリジナルの8本でも,じつはあまり困ったことがありません。初見・初聞の曲で即応が難しいこともありますが,基本的には調弦とチョーキングでだいたいなんとかできるからですね。 まあもともと「伴奏楽器」なので,出ない音はトバしちゃってかまわないんですよ。 出ないんだから(w)。 ![]() 何度も書いてますが,清楽月琴という楽器では,フレットの高さと広い間隔というものも,その独特な音色を醸し出す大切な要素のひとつになっているのです。フレットを増やせば音数は増えますが,間隔がせまくなるぶん,弦の振幅がおさえられてしまい,余韻が伸びなくなりますし,せまくなったところは押さえにくく,弾きにくくなります。 背が高く間隔の広いフレットによる弦の余分な振幅と,演奏時の身体の揺れによる響き線の自由運動。これが合わさった時,はじめて国産月琴の「鳴り胴」という構造は意味を持ちます,そのどれかを失ったなら,月琴は「月琴らしい音」を失ってしまうんですよ。 そもそも 「音が少ないからフレット足しちゃえー!」 的発想は,文化大革命のころに山ほど生み出された中国の新楽器みたいじゃないですか。 あまりにも思考が短絡すぎて,庵主,気に入らないですねえ----真に美しい人智というものは,必ず工夫と研鑽の先にあるものです。庵主は単純にフレットを増やすのよりは,「増やさなくても済む工夫」 のほうを学びたいと思いますね。(そのほうが修理の手間も少ないしw) 現実に,うちのWSでは清楽曲のほか,ポップスでもクラッシックでも,できそうな曲は何でも教えてますが,フレット8本,オリジナル・スタイルの月琴でもパッヘルベルのカノンとか,バッハのG線上のアリアくらいは,チョーキング覚えちゃえば小学生でも弾けちゃうもんですよ。(がんばれ,みんなww) ![]() ま,とういうわけでこさえたフレットがこちら。 清楽月琴本来のフレット8本を白く,余計なアレを黒く----牛骨と唐木の二種類で白黒にしました。 ぜんぶ同じにしなかったのが,せめてもの抵抗(w),それにこうしておけば,あとでとッ払うときに分かりやすい。(ww) あとはフレット間がせまくなるぶん,運指に対する反応が悪くなりますので,フレット頭の厚みをなるべくせまくし,ちょっと切り立った三角形に近い形でまとめました。 フレット頭が尖ってるほうが,力を入れなくても音が出やすい,軽く触ったくらいでもキレイに音が出るんですが,逆にちょっとでも余計な力が入ったり,バチを当てるタイミングをわずかでもはずしたりすると,音程がズレちゃったり,全然音が出ない----この楽器にある程度慣れてない人だと弾くのが少々難しい。(ちなみにマジ尖らせると糸が切れますw) 厚めのフレットのほうが,運指のバラつきが多少あっても,誰でもある程度安定した音が出せるんですが,それでフレットの間隔がせまくなると,どうしても強めにおさえなきゃならなくなってくるんで,指に力が入るぶん,音が濁るし,演奏しにくい楽器になっちゃうんですね。 前修理者が考えなしに作ったフレットだと太すぎて,指先にかなり力入れないとちゃんと発音できませんし,音程も狂います,しかもフレット間のせまいところでは,ツメでも立てないとそもそも押さえられないしまつ。 こいつはまあ間違いなく,自分では弾いてみもしてないですね。 ![]() ![]() ![]() 田島真斎や石田不識の月琴はもともと,ほかの作家の楽器と比べるとフレットが低めなんですが,それをさらに半音きざみにしたもンですから,高音域はとくに地獄の精密作業となりました。 低い低い低いーッ!フレットが低くて加工しにくいですーッ!! その上に高さの調整がちょー微妙っ!! 最終フレット…これ何ミリあるのかな? なんかもう「月琴のフレット」というより,バロックギターとかの象牙フレット削ってる気分です。 なんとかできあがったフレットの,白はふつうのラックニス。黒はダークレッドのニスに漬け込んで仕上げます。 ピックガードは,これまた今回のみ節を曲げて(よく曲がる節だw)オリジナルのヘビ皮を。 いつも書いてますように,ここにこういうナマ皮を貼るなんて行為は,楽器を傷めるだけの悪趣味ですので,庵主はたいてい錦布か裂地に換えてしまっています。 ![]() ![]() なものでこれを一晩水でふやかし,裏を削って極限まで薄くし,さらに重曹や柿渋を使って簡易的に「なめし」てしまいます。これにヘビの生皮が使われているのは,そもそもほかの楽器に使った余りを貼っただけのことで,装飾的な意味しかありません。それでも皮じゃなきゃイヤと言うならば,せめてその収縮で面板を傷めないよう,最善を尽くすしかないでしょう。 最後に和紙で丁寧に裏打ち。 これをへっつけて,完成! ![]() 楽器の特徴や工作から見て,ほぼ間違いないとは思うのですが,「合歓堂」がほんとに「田島真斎」なのか,については今もまだ調査中。いまのところ有力な文献上の手掛かりはありませんが,なんとか見つけたいところですねえ。 余計なアレをへっつける前の,オリジナルのフレット位置における音階は以下のとおり----
低音のEが低くないあたりは西洋音階に近いですが,高音のEがちょうど清楽音階の「工」あたりの設定になってますので,低音のフレット位置はあとで改修されたものかもしれません。 最後の3フレットがやや高めですが,これは楽器を人の耳で調律していった場合によくある傾向ですので,全体としてはだいたい正確な清楽音階になっていたと思われます。 よく鳴る素晴らしい楽器です。 やや大ぶりなのですが,ふりまわしもバランスも悪くありません。 石田不識の楽器と,やはり音の出かた,といいますか響き方が似てますね。空気砲みたいに前に出て空間に広がっていくタイプです。明るく,くっきりとした音色ですが,響き線の効きもよく,伸びやかな余韻がつーっときれいに消えてゆきます。 この何というか「いさぎよさ」みたいな音が,やっぱり関東の楽器の特徴なんだと思いますねえ。 大事にしてやってください。 (おわり)
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