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合歓堂/琴華斎 (3)

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斗酒庵 依頼修理の続く2016.10~ 合歓堂/琴華斎 (3)

STEP3  マーマー(Murmur)

 今回もまずは田島真斎の月琴から。
 この楽器には,ふつうの作家の月琴にはないアナがふたつあります。

 まずひとつめはここ。
 指板部分のさきっぽ,山口の乗っかってるところにひとつ。
 山口の裏がわにも穴があいてますので,もとはここに棒のようなものを通して補強としていたんでしょうね。

 ここは糸巻から出た糸が乗るところで,弦の圧力がかかる大事な場所で,接着固定は強固であるに越したことはありません。
 孔をあけてホゾを通すというやりかたは,固定の補強という意味では誰でも考えそうな工作ですが,実際に見たのはこれがハジメテです。まあ発想も加工もごく単純なものではありますが,木工の場合,たとえどんなにきちんと測ってやったとしても,この両面に正確にはまる孔をあける,ってのはけっこう大変な工作なのですよ。(ウソだと思うならやってみぃww)
 名古屋方面の楽器などでは,指板をこの山口の前で切って,段になったところに山口をはめ込むように接着する,という方法が採られています。もっとも,段になってるとはいえ,指板はたいてい厚1ミリあるかないかなので,実際にはたいした補強になってるとは思えませんが,むしろ接着の悪い唐木の上に乗っけるよりは,ホオやカツラの棹本体の材に直接つけたほうが頑丈だという考え方だったのかもしれません。


 もうひとつのほうはふつうだとまず見つからなかったでしょうが,ここです。(w)
 ここは表板の裏,ちょうど半月(テールピース)の裏がわあたり。
 前回紹介した表板の墨書の,3行目の最後の字がうにょーんとのびてる一角ですね。
 同じくらいの大きさで上下にふたつあいてますが,上の孔は琵琶の陰月もどきの空気孔,マルで囲まれてるのが問題のアナです。
 短い棒状のものがささってますのが分かりますかね?

 これも山口のと同じく,接着固定の補強として挿されたポッチでしょう。
 材は竹か骨のようです。板裏にとびでてる部分を触った感じでは,先も丁寧に丸めてあるようですね。
 この楽器のいちばん大切な中心線上の二箇所,弦の力のもっともかかる場所に,ちょっとした気配り,ちょっとした工夫-----こういうのがまさに 「名人」 のワザというものですねえ。

 もとは同じ材質のポッチが山口のほうにもついてたと思われますが,前修理者が山口さんの底に厚さ3ミリほどの黒檀の板を接着しよるために,ポッチをとっぱらってしまったようです。
 ああ,材質とか加工とか確かめたかったんだけどなあ(泣)

 月琴の棹は背がわに傾いているのがデフォなのですが,前修理者にはそれが理解できなかったようで,怒りにまかせて取っ払う前の山口から第4フレットまでに,棹の傾きのぶんの厚さの板が噛まされておりました。
 おそらくは棹の傾きを「不具合」と勘違いして,弦の高さが山口から半月まで,一定になるようにしたかったんでしょうが----たいへんに精密で,正確なお仕事ではございましたものの,これをこれ 「余計な仕事」 と申します。(ちなみに前修理者は「ちゃんとした楽器屋」の方です。怒)
 はがすのに余計な労力が要りました……せめて修理する前にうちの記事でも読んで,基礎的な構造とかちゃんと勉強しとけ! ばーかばーかばーか!(泣)

 …しつれい。

 修理はまずここから。
 表板の剥離個所を再接着します。
 この楽器の胴体は,円形中空の胴体構造を表裏の板でサンドイッチすることによって成り立っています。胴側と板が剥離しているという状況は,骨がふにゃふにゃになってるのと同じなので,なにはともあれこういうところを接着して構造を固めておかないと,先の作業にいろいろと支し障りが出ますもので。

 下桁のヘンなとこに四角い孔があいてますんで,ここもついでに埋めときましょう。
 カツラの端材を削って,ニカワを塗ってブチこみます。
 こんな孔のあるところに表裏板の接着のため圧をかけたせいでしょう,桁自体に割レも入っちゃってますので,ニカワを流し込み,上下からも当て木してクランプで固定,割れどめもしておきましょう。
 あとで埋め木をぶッた切ってここは完成。


 内部構造の修正,補強は四方の接合部から。
 表面がわはよく言う「カミソリも入らない」くらいにきっちり組まれていて,スキマひとつありませんが,さすがにすこし接着がトビ,裏がわに少しミゾもありますんで,まずはここにニカワを垂らしこみ,周縁にゴムをかけて密着させます。つぎに木粉粘土をスキマに押し込み,埋めてしまいましょう。
 ここは乾いてから軽く整形,上から恒例の和紙を重ね貼り。
 柿渋で補強,最後にラックニスをかるく刷いて仕上げます。


 おつぎに内桁の再接着。
 左右端と面板への接着,どっちもハガれてます。
 型枠で両面をはさみ,側面の構造もしっかり固定したうえで,浮いてしまった面板との間に筆で薄めたニカワを流し込みます。
 さらに型枠にゴムをかけ,両面に当て木を噛ませ,面板と桁をばっちり密着させましょう。

 最後に下桁の左端に少しスキマがありますんで,桐板を削って埋め込み。
 これで胴体はあっちもこっちもガチで固まりました。




 かわって琴華斎。
 前回も書いたようにこの楽器,なぜだか棹が抜けません。
 月琴の棹は基本的に三味線と同じで,ひっぱれば抜けるように出来てるんですが,中級~低級品の楽器では,棹をホゾ止めにしてあったりもしますし,古物屋が分からないようにクギをぶッこんじゃったりしてることもあるので,確認のため板をひっぺがしてみましたが………
 思いがけず,作者の手掛かりとなりそうな墨書が出てきてわーい,となったものの----あらためて見ますとふつうの構造ですねえ。
 詳しく観察してみましたが,棹をとめるようなホゾやらクギやらも見えません。
 そのかわり,棹口裏やら棹の基部やらに不穏なシミがベットリと………くそぉッ!エセ古物屋めぇ,接着しやがったな!!

 唐物月琴などは棹孔がユルユルで,糸を張ってない状態だとスルリと抜けちゃったりするもんですが(糸を張れば正位置でピンとなるようになってるので問題ナイ),唐物月琴の模倣である琴華斎も同じだったんでしょうか。吊るすのにも飾るのにもフベンなんでへっつけちゃったんでしょうねえ。(マトモな古物屋ならやりません,怒)

 問題はその接着剤です。
 まずは水を含ませた脱脂綿で囲み,棹口を表裏から濡らしてみました。
 ニカワならば少しはユルみますし,酢酸ビニルの木工ボンドなら,白くなってハズれるはずですが……一晩たってもビクともしません。色も変わらず,濡らしても水を含まずカリカリしたこの感じ,そしてこの強固な接着力……最低だ……「木瞬」ですね。
 木工用瞬間接着剤は強力で,しかも楽器の修理で用いるような通常の方法では絶対にハガれません。
 庵主としましては全世界的に全種類販売禁止にしてもらいたいくらいのシロモノです。
 そもそも百年以上を経た楽器に使用してよいようなものではありません,ダメ,ぜったい。

 瞬間接着剤はアセトンで剥がすことができます。
 まあみんな知ってるとこで言うなら,マニキュアの除去液ですね。
 ただし,木の場合,木目にはいりこんだり滲みこんだものは完全に除去できません。
 除去できなかった部分は,水含みが悪くなってニカワでの再接着ができなくなったり,不必要に硬くなって粘りをうしない,割レや歪みの原因となったりもします。
 大切なことなので,何度も言いますよ。
 木の楽器に木瞬,使っちゃ,ダメ,ぜったい!!

 「瞬間接着剤のはがし液」はメーカーさん純正のものでも¥100均のものでも,成分はだいたいいっしょ。アセトンの量が多いか少ないかくらいの違いですね。
 このクソ野郎はおそらく棹の基部,胴体接着面と棹孔の周辺にベットリと塗りたくりやがったものと想像いたします。おまけにこの楽器,工作が良いほうなので,そこらにスキマがほとんどない----アセトンは揮発性なのでふつうに塗っただけでは,こんなちょっとしたスキマからだと,中まで入っていってはくれません。
 てことで,水でふやかす時と同様。
 ¥100均で買ったはがし液(液状タイプ)を,さらにエタノで薄めて脱脂綿にこれでもかと滲ませ,はがし液(ユルいタイプ)でヌルヌルにした棹孔周辺を囲んで,ラップでくるみ揮発しにくくします。


 漬け込むこと3時間。途中なんどか液を追加して,ようやくはずれました。
 ----うわああああ,棹口もなかごもゴベゴベだあ。
 うおぉのれ,古物屋ぁツ!……ふんぐるいむぐるうなふくとぅるうるるいえうがふなぐるふたぐん……

 と…とりあえず今回はここまで。
 日本という国はどうなっちゃったんでしょうねえ(泣),一昔前と違って,楽器屋も古物屋もマトモじゃなくなってきてるようですわ,ハイぃ。
 庵主,シツコイようですが何度も言っときます。
 木の楽器に木瞬なんか使っちゃダメ,ぜったい!!

(つづく)


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