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合歓堂/琴華斎 (4)

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斗酒庵 依頼修理の続く2016.10~ 合歓堂/琴華斎 (4)

STEP4  ドキュメント

 さて,合歓堂は前修理者の余計な仕事,怒りのとっぱらいから即修理に入り,琴華斎もようやく棹が抜けて,全体の構造や要修理個所が明らかになってきました。
 ----というところで,調査計測結果のまとめ,恒例のフィールドノートをどうぞ。
 *** フィールドノートはクリックで別窓拡大しまーす。***



 まずは合歓堂。
 いつものフィールドノートですと,修理前の状況が描かれますが,今回のものはちょっと違って,前修理者のへっつけた余計なもの,そして前修理者がやらかしよったテキトウな「仕事」を全部取っ払った状態,この楽器が前修理者のところへ持ち込まれた時の状態を,楽器に残った痕跡から推測したもの。より楽器のオリジナルに近い状態を,再現・記録したものとなっております。
 前修理者の「仕事」は,あまりのあまりにも恥ずかしすぎて書き留めるのも腹立たしいこと(詳しく聞くな,また腹が立つ・噴怒)ばかりだったのと,こちらとしては修理を「やり直す」必要がありましたので,楽器の現状よりも,よりオリジナルに近い状態(原状)を整理して把握する必要があったためですね。
 全長:668,有効弦長:416。指板部の長さ:148,第4フレットは棹上にアリ。
 すらりとした長い棹と糸倉,目の詰んだ柾目板でやや大きく薄い胴体。石田義雄の楽器と同じく,おそらく東京の渓派を中心に使われた,国産の大型月琴の典型的な姿となっています。
 基本的に部品は揃っていて,蓮頭に破損があるのと扇飾りが欠損,あとは地の側板を中心に,板の表裏周縁にやや広い範囲におよぶ板のハガレが数箇所あったものと思われます。
 ほか,バチ皮の下に虫食いが2箇所ほどあった以外は,全体に保存もよくキレイな状態でした。
 ほとんど弾かれたことがなかったんじゃないかな?
 原作者の仕事は精密かつ丁寧ですが,やはり日本の作家さんの傾向なんでしょうねえ----内部構造の接合・接着の工作がやや雑。内桁と表裏板の間にかなりの剥離が見られます。楽器としてちゃんと「鳴る」ものにするために,このへんの補修・補強が修理作業の中心となってゆくことでしょう。

 ----ほんと,これでいッそ前修理者が何もしないでいてくれてれば,もっとラクだったハズなんですが。

 今回の作業。
 オーナーさんの都合で,ナイロン弦を張ったりすることがあるらしいので,ちょっとだけ内部の補強をしておきます。

 まあ鉄弦ならまだしも,ナイロン弦くらいならそうそう壊れることもないとは思いますが,この楽器の内桁は柔らかい桐板なので用心のため。棹なかごの受け口のところにカツラの板を一枚貼りつけます。

 つぎは響き線。
 比較的キレイな状態ではありましたが,サビを落とし,磨いて防錆加工をしておきましょう。

 この作業をしている時に気づいたのですが。
 響き線の上下になんか黒っぽい穴がひとつづつありますよね?
 内部補強の作業のついでに,表板の内がわにあった板をつくるときの穴やら溝やらを,ヤシャ液で練った木粉パテで埋め込んだんですが。いくつかの穴で,埋め込んだパテが,こんなふうに黒く変色しました。
 ヤシャ液は鉄と反応すると黒くなります。おそらくはここにもと鉄釘がささってたんだと思いますねえ。
 たぶん砥粉をニカワで練ったものでも埋め込んであるのか,穴の痕跡は表がわからだと分かりません。
 また修理か何かのためとしてはおかしな位置関係ですし,前修理者とか古物屋の仕業というわけでもなさそうです。
 おそらくこの楽器の板は,桐屋から買った既製品ではなく,原作者が自分で矧いで作ったものだと思われます----初期の作家さんはみなそうだったようです。当時,桐板はいまの段ボールなみの一般的な梱包用品。流行の初期だと生産数も知れていたでしょうし,桐屋から出来合いの板を買うよりは,何かほかのものの梱包材として使われていたのを,こうして穴埋めしたり継ぎ合せたりして,ワンオフで作ったほうが,手早く安くあがったからでしょう。まあ百年以上前のリサイクル活動,というわけですな。
 いやしかし,桐板に鉄釘ってのはあんまり打たねえなあ(柔らかいのであまり効果がない)。何の箱だったんだろ?




 琴華斎は棹が木瞬べったりで固定されて抜けなかったため,当初そのあたりが描けませんでした。
 前回報告したとおり,棹と胴体のスキマに,けっこうな量のアセトンブチ込んだ結果,ようやくハズれ,ぜんぶ描けるようになった次第。

 基本的に寸法や構造は唐物月琴と同じですが,胴体や棹はホオ,内桁にヒノキかスギ,と国産月琴の標準的な材料が用いられています。「信陽松城(=長野県松代市)」の墨書について再度述べるまでもなく,そもそも大陸でこの楽器をこういう材料で作るヤツぁいねえ(w)のです。
 いくら上手に外見真似たところで,こういう材質や工作だけで,真正の唐物か倣製品だか分かっちゃいますのよ。
 工作は丁寧で,部材の加工も比較的精確ですが,合歓堂と同じく,内部構造の接合接着が雑で,内桁は板にほとんどついておらず,ひっぱればカンタンにはずれてしまうくらいになっちゃってます。

 胴四方の接合は,部材の木口を擦り合せただけの単純な形式。
 表面上はぴったりとくっついてるようでしたが,3箇所まで接着がトンで割れていました。
 擦り合せの工作など見る限り,部材の加工技術はかなり精密なようなので,胴材と内桁をばっちり接着・接合すれば,こちらもそこそこ鳴る楽器になりそうです。

 というわけで,まずは胴四方接合部の再接着と補強から。

 薄めにといたニカワを,四方の接合部の表裏から垂らしてゆきわたらせたら周縁にゴムがけ。ギチッとしめて密着させます。
 その状態で接合部の小さなズレや歪みを調整したら,いつもの手----接合部を渡るよう,裏がわに和紙を重ね貼りします。
 ごく薄い紙なので2~3枚貼ったところでたかがの厚みですが,繊維を交差させて貼った上質の和紙は,ちょっとやそっとのことでは破れません。
 画像では内桁がついてますが,これは胴の型崩れをふせぐためはめこんでるだけで,まだ接着はしてません。

 表板周縁の右肩と下の方に比較的大きなネズ齧があります。
 ちょっと目立っちゃうかもなのですが,端っこでよくぶつかりそうな場所ですし,あとで表板洗ったりしなきゃですので,ここはまずまずエポキ&木粉のパテで埋めておきましょう。

 木粉とかを混ぜると硬化時間は遅くなりますから,作業後1日は置いて,じっくり乾いて固まってから整形しましょう。

(つづく)


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