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琴華斎2 (7)

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斗酒庵 依頼修理の続く2016.10~ 琴華斎2 (7)

STEP7  グリーン

 今回はここまでやってから板を清掃----表裏の板はやや濃いめに染められてました。

 この楽器では,板の染めにつかうヤシャ液に砥粉が混ぜられています。
 日本では,桐板の表面処理としてごくふつうの工作なのですが,実はこの,桐板の染めにおける大量の「砥粉」の使用というのも,国産と唐物を見分ける時の要点の一つなんですね。
 唐物の楽器の板はほぼ染液をかけただけ,だからこすってもあんまり濁った汁が出ないんですね。また黄色染の液も,ヤシャブシより変色しにくい阿仙薬,カテキューなどが使われてる場合もあります。この場合は重曹水で清掃しても,ほとんど色が変わりません。

 胴左右のお飾りは花籃。

 意匠は唐物のそれをよく真似てますね。
 右のしっぽ,といいますか花瓶の底の部分と,左の葉っぱの一部が欠けてますので補修して,全体を染め直しておきましょう。

 あと,凍石のお飾りが4つほどなくなってますんで作っておきます。
 例の桃だか仏手柑だか花だか分からない植物の手合いですね。
 左下のオリジナルと,だいたいの記憶にあるパターンを思い出しながら----こンなもん,そこらの凍石のカケラで,えいえいえい。
 ----でけました。(w)

 フレットは煤竹。
 これも何度か書いてますが,唐物月琴だと肉の厚い大陸の竹が使われますので,竹の皮面が糸のがわに向いて,前後は平面になっています。
 日本ではそこまでの肉厚な竹がないので,竹の皮面を片がわにそのまま残したタイプのフレットが,国産月琴では多く付けられています。
 庵主はその皮面も平らに削って,カタチだけは大陸のフレットに似せたりしてますが,この楽器のはそれと国産の中間ですね。
 片がわが皮面になってるのは同じですが,そこを削ってガラス層の下の部分を少し出してます。庵主のようにまっ平らにまではしてない,ってくらい。うむ,こういうのもアリか。
 棹上のフレットは全損ですので,工作を似せて3枚削り,胴上のフレットはオリジナルのものをそのまま使いました。
 ほぼ無加工。棹角度をたんねんに調整しましたので,この高さでバッチリ合います! ただし最終第8フレットのみ,左右に少し傾きがあったので,最終フレットですんでビビリとかは出ないし,高さ的にもまあ問題はなかったんですが,弾きこむと操作性に難が出ないでもないので,最終的には交換しました。

 山口はオリジナルのものをそのまま。
 ただし糸溝はちゃんと切っておきます。使い込まれてない楽器の山口にはついてないことが多いですね。ちょっと弾けるようにならないと,ないと不便なのにも気が付かないんでしょうね。
 この山口,形や背のアールの具合,またその色合いから考えて,三味線の棹の端材じゃないかなあ。裏板の墨書でも「楽器舗」とか書いてましたし,やっぱり「琴華斎」の本職は三味線屋さんかな?

 糸巻もオリジナルのをそのまま使用。

 溝が深く丸っこいこのカタチも,天華斎や老天華など唐物の楽器のもののデザインをきちんと踏襲してますね。国産月琴のは同じ六角断面でももっと角ばってますが,あれはおそらく三味線の糸巻の影響です。日本の奏者は糸巻に角がないと,操作上ちょっとしっくりこなかったりしたんでしょうね。現在の中国月琴の糸巻はほぼ丸軸,日本だと琵琶の糸巻のほうに近いのです。
 1本に少しネズミの齧った痕があったので,唐木の粉をエポキで練ったパテで,ちょちょいと埋め,あとは染め直しておきました。

 棹も胴体同様,色の薄れてたところを,スオウやベンガラで染め直してあります。あらためて測ってみますと,接着剤やら延長材の反りやらで,苦労して修正した棹の傾きは,山口のところでおよそ3ミリ----この楽器として,ほぼ理想的な設定ですね。

 仕上がった部品を組み付け,貼りつけ。
 信州松代住・琴華斎作の月琴,修理完了です!


 ----音がいいです。
 素晴らしい。

 修理しながらその材質や工作を見て想像していたのより,ずっといい音で鳴ります----いやじつは「倣製月琴」てのは,ガワだけを真似た玩具みたいなモノも少なくないんで,あまり期待はしてなかったんですがね。
 まあ,前に修理した琴華斎も音はかなり良かったほうでしたから,不思議はないか。



 コロコロと転がるガラスのような音の楽器です。
 音のほうは唐物に近くない----これはむしろ日本人が「月琴」て楽器に対して抱いたイメージを,そのまま楽器の音にしたような感じですね。

 唐物に比べると,余韻が少し力不足かもしれません。
 これは胴の材質の違いもあるかもしれませんが,この月琴の響き線は,形状タイプこそ唐物月琴と同じなものの,オリジナルにくらべると,線自体がかなり繊細で,やや短い,その違いも出てるかと。
 唐物月琴に仕込まれている響き線は太くて長く,そこからはじき出される音色は,たぶんその名前や,丸っこく優しげな外見から想像されるより,ずっと力強く明るいのですが,日本人には「月琴」なんて雅な名前の楽器が,そんな 「ドヤ顔な響き(Ryoさん-14号玉華斎オーナー-談w)」 をしてる,というのが理解できなかったようで。楽器の外見や工作の変遷から見て,国産月琴の作者には「名前どおり」,琴の音のように,月の光のように,ガラスのように冴え冴えとした音の出る楽器を作り出そうとしてた気配があります。この工作の違いも,よりそうしたイメージに近づけようと,琴華斎があえてした工夫の一つだったかもしれません。

 ともあれ,小ぶりですがそこそこ音量もあり,ステージ用としては少し物足りない場面もあるかもしれませんが,ふだん弾きには余ってお釣りがくるくらい。
 誰かに聞かせたい感じになる,キレイな愛らしい音の楽器ですね。

 どうぞ大切に----でもガンガン使ってやってください。

(おわり)


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