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合歓堂/琴華斎 (5)

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斗酒庵 依頼修理の続く2016.10~ 合歓堂/琴華斎 (5)

STEP5  レコニング

 さて合歓堂は胴内部構造の再接合と補強も終わったので,裏板をとじましょう。
 裏板はいちどバラバラになったのを,左右と真ん中の3分割に矧ぎなおしました。

 いつもなら,ど真ん中からズバっとぶった切ってスペーサ埋め込むところですが,今回は真ん中のいちばん上にオリジナルラベルの痕跡があります。日焼け痕と紙の端っこのほうのカケラ以外ほとんど何も残ってませんが,何としてもこれを残しておきたかったんですね。
 まずは剥がすときについた周縁のキズや,板を作るときにできた竹釘の痕の溝や穴を丁寧に埋めておきます。

 裏がわに埋め込んだパテや補修材を平らに整形したら,まずは真ん中。そのあとにスペーサのぶん少しづつ離して,左右を貼りつけます。
 さいごに古い桐板で作った埋め板をはめこみ,整形したらできあがり。
 胴体が箱に戻りました。

 事前の調査で,棹の取付に異常がないことは分かってましたので,あとは一気に組上げです。
 原作者の工作で,胴体表板を水平面としたとき,棹の指板面が山口のところでだいたい3ミリほど背がわに沈み込んでいました----ほぼこの楽器の「理想的」といえる設定を実現してますね。前回も少し触れましたが,棹が胴体面と面一でなく,すこし背がわに傾いているのは,月琴という楽器のデフォルト。唐物月琴では5ミリ傾いていたような例もあります。こうするとフレットの背は低音域が高く高音域で急激に低く----カンタンに言うと「弾きやすい楽器」となります(じっさいに弾いてみれば分かりますw)。
 棹角度の調整とかがほとんどないと,時間がかからなくっていいですねえ。(だいたいヒドいときは2日,ふつうでも3時間くらいはかかります 泣)
 半月の接着にも問題はないので,棹に山口を取付け,糸を張ってしまいましょう。
 前々回に紹介したように,この山口の底と棹のほうの取付け部には,固定補強のホゾを通す小さな穴が開いてます。オリジナルの材質が何だったのかは分からないのですが,とりあえず竹で作ってみましょう。

 竹棒を削って挿しこんでは,双方の穴の深さを確かめ,ぴったりきっかりに切って埋め込み,ニカワをしっかり塗って,貼りつけます。
 誰でもが思いつくような単純な補強法ですが,ただ接着しただけのに比べると,やっぱりなんか安定感というか安心感がありますよね。
 この山口の形状も,石田義雄の楽器とほぼ同じですね。やっぱ師弟だわ。



 糸巻4本のうち1本は後補でした。
 おそらくほかの作家の楽器についていたものを削ったのだとは思いますが,その工作がなんとも雑で,カッコが悪い。
 ほかの3本のカタチに合わせて削り直しましょう。
 オリジナルの3本より少し長くて大きかったんですね----オリジナルの糸巻はホオかカツラだと思うんですが,この後補の一本はたぶんカヤ材,関西のほうの作家さんの楽器についてたものだと思われます。けっこう高級品です(w)
 津軽三味線の音締めみたいになっていたのを,側面削ってなだらかに。

 このくらい,たいした手間でもなかったとは思うんですが,なぜにこれほど雑な仕事したもんですかね,ほんま。

 せっかくのカヤ材ですので,ほか3本と少し色合いが違っちゃいますが,染めずに磨いて油拭きで上品に仕上げました。




 琴華斎は棹取付けの修正。
 修理前の状態では画像のように,楽器前面にかなり傾いた状態になっていました。

 例のべったり接着のせいかな,とも考えていたんですが,棹基部と棹孔周辺にへばりついた接着剤をおおかた除去した後で挿しこんでみても,やっぱり少しお辞儀してます。

 調べてみますと棹基部の調整工作がちゃんとしてないのと,延長材がすこし反っちゃってますねえ。
 まだ少し生っぽい木を使っちゃったんじゃないかな,コレ。

 まずまず延長材をはずしてみましょう。
 一晩たってもはずれないので,もしやここにも木瞬がしみこんでたか! とか,いやいッそこれも木瞬で再接着されてたかも!とか,頭をよぎったんですが,時間は少しかかりましたが,サイワイなことにふつうにはずれてくださいました。
 噛合せが精密だったので,けっこう頑丈についてたんですね。はずすときに先っちょの真ん中のあたりがちょっと,モロっともげてしまいました。

 この延長材,パッと見はよくあるヒノキとかスギみたいにも見えたんですが,どうも違うようで。

 濡らした感じ,かなり鮮やかな黄色味のある木材です----ううむ,なんだろうなあ。
 いろんな木を思い浮かべたなか,最後まで残ったのはカヤとムク。
 どっちか選べ! と言われたなら,腹を召すまではイケませんが 「ムク」に50カノッサ。
 ムクの心材,ですかね。それにカヤならもう少し重いかなあ。また針葉樹の中ではニオイが薄いほうですが,これだけ濡れてればそれなりにテレピン系のニオイが少しはするはずだ,と。
 ムクノキの実は食用にもなり,果皮はサポニンを含んでいるため,乾燥させて石鹸のように使われます----落語でご隠居が茶道の真似ごとをして,緑きなこを泡立てようとしたときに使ったやつですね。(w)

 農具や工具の柄,天秤棒などにも使われるそうで,三味線の棹を作ることもあったそうです。関東では楽器用の木材としてさほど一般的なものではありませんが,生活植物の民家の付近によく植えられますし,信州あたりならまあふつうに手に入る雑木材のひとつだったと思います。

 そういえば,前に修理した琴華斎(左画像)は胴側部がクワで出来てました。
 高級な琵琶や三味線の胴などに使われる材ですので,まあ月琴に使われてたとしてもおかしくはないのですが,この楽器に使われていた「クワ」には,木材の種類としてではなく,材木の質として少し違和感がありました。 木目から見て,そんなに大きくない木から採った板だったみたいなんですね----ふつう,楽器には使われないような。
 考えてみますと,琴華斎の住む信州は養蚕製糸でも有名。
 そういう間伐材的なクワが比較的手に入りやすい状況だったのかもしれません。


 さて修理に戻りましょう。

 少し反ってしまっているこの延長材は,オモテウラひっくりかえして付け直します。
 延長材がふたたび棹基部のVホゾとぴったり噛み合うように,先端を削って微調整。はめこんでみては具合を見ます----取付たとき,棹本体が背がわに傾くような角度になっていれば成功。基本的に延長材の表板がわは面板と平行,ということは指板面を水平とした場合には,延長材の先端が裏板がわにやや傾いているのが正しい角度なわけですね。

 うむ,考えなきゃならないことが3Dになりますと,数学赤点マンの庵主はたちまちパフォーマンスが落ちます(w)ので,ちょっと作業するたびに脳内がフリーズるので,多少てこずりましたがなんとか成功。
 もともと傾きが少し足りなかったようなので,棹のと胴体の接合面も削って再調整しました。


 真正の唐物月琴ですと,なかご部分の基部は棹本体と幅が同じで,接合面ももっと単純なカタチになっているため,こういう調整も非常にラクなんですが,さすがはこだわる日本の職人さん----外見はここまで唐物に似せてるのに,棹の胴との接合面は,よくある国産月琴と同様の形状になってます。
 左右にこのせまーい段差があるぶん,調整が面倒なんですがねえ。
 なんといいますか,これも内桁を2枚にしちゃったのと同じで「見かけの安定感」といいますか「安心感」といいますか…そういうものをつい求めちゃうんでしょうね。
 大陸の工作はごく単純で,一見粗雑にも見えますが,用足るればそれでよし,無用の手間は蛇足がごとし----構造的にはべつだん,この横の段差はなくても,棹はきちんと安定しますし左右に傾くこともありません。
 まあ日本人てやっぱり,ちょっと心配性なんでしょうねえ。

 最後の調整では,この面がぴったり胴に密着するよう,棹口にペーパーを貼って擦り,ちょっとづつ削って仕上げました。


 けっきょく最終的には,オバちゃんのバンソウコよろしくスペーサを何枚も貼りつけるハメとなりましたが,苦心苦戦の甲斐あって,これで棹は取付けも傾きも,ほぼこの楽器の「理想的」といえるような状態となりました----やれやれ。

 棹の調整が終われば,ようやく裏板をとじられます。
 胴が箱になってしまえば修理も山場越え,あとはもう仕上げ一直線です!!

 うむ,とりあえずはめでたや。

(つづく)


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