« 合歓堂 (6) | トップページ | 琴華斎2 (7) »

琴華斎2 (6)

NEMU_07.txt
斗酒庵 依頼修理の続く2016.10~ 琴華斎2 (6)

STEP6  ライフス・リッチ・ページェント

 さて,信州の人の作った中国製月琴のコピー。
 倣製月琴・琴華斎2もラストスパート。
 胴側部接合部の補強もうまくゆき,棹角度の調整もなんとか,内桁も表板にバッチリへっつけなおしました。
 あとは裏板をとじるだけなんですが,ここでちょっと問題発生!

 何度も書いてますが,弦楽器というものはいくらガワがこぎれいに出来ていても,内部構造----たとえばバスパーが一本はずれていれば,魂柱がわずかにずれていただけでも,まともには鳴らなくなっちゃうものです。月琴にはギターのようにあとから胴内部にアクセスできる穴がありませんので,内部構造の接着,というのは本来けっこうな大事。国産月琴の場合は手を抜かれてしまうことも多いのですが,唐物月琴などではこれでもか,というくらい丈夫頑丈に接着されてたりします。
 内桁を表裏の板にきちんと密着させるため,多くの作家は板左右端の角をすこしだけ斜めに削り落とす,という工作をします。
 内桁と側板との間にわずかな空間を作ることで,平面の場合より板が沈み込み,各部がより密着する,という工夫ですね。

 対して,この楽器の内桁は一見完全に四角なただの板のようですが,よく調べてみますと,真ん中が幅広,左右端に行くほどわずかにすぼまっています。
 これも時々見る工夫----表面に細かな凸凹のある平面に布をかけて周縁のすそをひっぱっても,布はあんまり密着してくれませんよね。けれどもし,平面の真ん中が,丘のようにわずかに盛り上がっている状態で同じことをしたら,たんなる平面の場合より布は密着してくれるのでは----という発想からの工作ですね。
 これもまた,おそらくは日本人の楽器作家が,月琴の胴体を密閉された「箱」ではなく,三味線の胴のような「太鼓」として見ているところからきたものだと思われますが,いくら薄いとはいっても木の板は,布や猫の皮とは少々勝手が違うので,デメリットとしては周縁の接着がマズいと板がハガれやすい,とか板中央部への負担があるので割れやすいといったことが考えられます。

 あ,構造は似てますが,工作から見てこれは間違いなく音質追求的な目的ではなく,「工作の簡便化」「歩留まり回避」を狙った小技の一手法で,バイオリンなど西洋楽器のアーチトップとは別もンですからね~。

 ----ま,それはいいンですが本題。
 表板をばっちりへっつけたら,内桁の左右端が少し沈んで,接合部のところにくぼみが出来てしまいました。
 先の 「内桁の真ん中を盛り上げて板を密着させる」 工作は,端の部分が胴と面一であるのが絶対条件で,このままだとこのあたりで板との間にスキマができちゃうだけの間抜けな工作になってしまいます。「わずか」くらいならいいンですが,最大で1ミリくらい沈んでますもんね。
 もともとの加工でやりすぎたのか,あるいは板が収縮したのか……とまれ少々修正しておきましょう。

 内桁の左右端に薄い桐板を貼りつけます。

 ついたところで削って,接合部との段差を解消。中央にむいてるがわは薄くなだらかにして,アーチの設定はなるべくそのままに。
 これで裏板もばっちり密着してくれるはずです!

 月琴という楽器の胴体内部には,楽器の縦方向への支えというものがまったくないので,弦を張った状態で長い間放置されていると,縦方向に縮み,横幅がわずかに広がります。

 ですので古物の月琴では大抵の場合,表裏にもともとついていた板を一度剥がしてしまうと,横方向に誤差が生じて元通りにはなりませんので,庵主は板を割ってスペーサの板をはさみこみ,この誤差に対処しています。
 しかしながら今回の場合は,板を当ててみますと,そのままで横はわずかに余るのですが,縦方向がいくぶん足りません。(泣)


 多少工作のユルユルだった胴材や内部構造を,ガッチリ密着させちゃったせいもありましょうが,この裏板はよく見るとフシがあちこちにあり,いかにも暴れそうな小板で構成されてます。もともと3枚くらいにパッキリ分離しちゃってましたし,縦方向にも派手に縮んじゃったのかもしれません。

 こういう場合は板か胴体かを秤にかけ,なるべく両方の被害が最小限で済むような方策をとります。今回は楽器のお尻,地の側板を少し削って対処しようと思います。

 裏板がついたら周縁を整形。上で書いたように地の側板を少し削っちゃいましたし,そのほかにも作業で削れちゃったとこもありますから,ちょっと 「補彩」 程度じゃ誤魔化せませんねえ。
 んでは,全面染め直しとまいりましょうかあ!

 まずはスオウを3度ほど塗布。
 楽器ですので濡らしすぎは禁物,手早く刷いてきちんと乾かしながらの作業です。

 そのあとミョウバンと交互に2度ほど刷いて赤く発色。
 そこにクメゾー(茶ベンガラ)と黒ベンガラを混ぜたものを,薄目で,わざとムラムラに塗ってゆきます。ベンガラは隠蔽性の高い塗料なんで,べったり塗ると下地が見えなくなっちゃいますし,全体にフラットないかにも「塗った」的な見栄えになっちゃいます。

 今回の塗装の目的は「唐木に似せる」こと。
 木の色ってのは均一じゃなく,薄いとことか濃いとこが混じってるでしょ? あんなふうに見えるよう,わざとムラムラに塗るんです。
 左画像はスオウの初塗りから完成まで----ま,こんな具合でさあ。


 「塗り」と違って「染め」というものは,後からも色が大きく変化してゆきます。
 なのでやりすぎは禁物。良さげなところで止めて,ベンガラの固着のため柿渋を数度,全体に塗りまわし,亜麻仁油を塗ります。油が乾いたところでロウ仕上げ。

 うん----今回は実にイイ感じの「紫檀色」ですねえ。

(つづく)


« 合歓堂 (6) | トップページ | 琴華斎2 (7) »