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長崎よりの月琴4(2)

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斗酒庵 依頼修理の続く2016.12~ 長崎よりの月琴4 (2)

STEP2  この録音は自動的に…

 表裏の板や,胴のあちこちにポツリポツリと見える小さな黒い穴。板と側板の間にベットリはみ出た接着剤………
 過去の虫と現代の悪い虫(古物屋)の,それはもう見事なコラボを予想しつつ,にたちまち気の退ける庵主でありましたが。

 長崎よりの依頼修理,調査は続きます。

 まずは棹を引っこ抜いてみましょうか。
 なかごは短めで厚め。
 ここにはスギとかヒノキといった針葉樹材が使われていることが多いのですが,木取した部位は違うものの,延長材には棹本体と同じ木材が使われているようです。

 月琴の棹にはここまで一木作りのものと,こうして延長材を継いだ2つのタイプがありますが,その違いあたりについては,42号の修理記とかどうぞ。

 基部の裏板がわに,経木のスペーサが貼りつけてありますが,現状こいつのために,棹の指板面が表面板のふちからこのぶん上って段ができちゃってます。新しいものなのか古いものなのかはちょっと分かりませんが,この楽器の設定・調整としてはおかしなことなので,あとで削っちゃいましょう。
 あと延長材との接合部,裏板がわの面の接着が割れちゃってるようです。ちょっとしならせると少しカクカク動いてスキマができますね。ここの接着不良は,古物の月琴ではよくある故障。これがあると,糸をしめるたびに棹が浮き上がって,いつまでたっても調弦がうまくいきませんし,音がすぐ狂います。これは要修理。

 さて…内部を。
 うぷ,なんか棹孔の周り,ずいぶんキタないっすね。
 灰色のホコリにまみれてます。ここはふだん棹の接合面で蓋されてるところなので,外からはあんまりホコリが入らないハズなんですが………んでは電球つっこんでっと。

 ----そこは一面,灰色の世界。

 うわああああっ!古物屋めえぇッ!!掃除もしないでフタしやがったなあっ!!

 虫食いがかなりあったんで,いちおうカクゴはしてたんですが……いや,ふつうヘンテコ飾りとか板へっつけるとかする前に,かるく払うとか,掃除機つっこんで吸い込むとかするでしょ,いくらなんでも!

 興奮して揺らしてしまったもので,粉塵爆発でも起こりそうなホコリが内部に舞って,イマイチ視界が悪いのですが。
 内桁はおそらく二枚。
 棹孔からだと,下桁の様子はよく分かりませんが,上桁は棹なかごのウケ孔をはさんで,左右に音孔が一つづつ。


 響き線の基部は,楽器に向かって右がわの孔と中央のウケ孔の間にあり,線はそこから真横にのびて,右の音孔の中に入ってってます。

 中国月琴で似たタイプの基部のあるものを見たことがありますが,ここからでは線形が半円の曲線なのかうずうず線なのか,また響き線がこれ一本だけなのか,ちょっと分かりませんねえ。

 ----げほっ,ごほっ!
 うう…なんか見てるだけで咳が出そうな光景です。


 まあどうせ板は古物屋の再接着。
 ハガれてる箇所もあるので,内部構造の確認も兼ね,さっさとやっちめぇますか!

 えい! バリバリバ…り?
 …えいッ!………えい?
 なんじゃこりゃ。ずいぶんカタいな。
 んじゃ,お湯を垂らしてふやかして……そやっ!
 あぃ? ぜんぜんユルまんぞ。
 (一瞬沈黙ののち,接着部を確認)


 こ~ぶ~つ~やああああああああああっ!!
 きさん!なんちゅうごつせやるうううぅッ!!

 こないだこのブログで書きましたよね!?
 庵主,書きましたよね!(涙目)

 楽器に木瞬,絶対ダメ!!!

 ----って!
 桐板の再接着に木工用瞬間接着剤……しかも虫食いだらけの周縁部にべったりごってり………信じられん!


 うわああん!この野郎おおおおおっ!
   手ェ出す前にちッとは勉強しろおおおおおっ!


 貴様の血は何色だあああッ!!

 うわあああ……木瞬が虫食いの溝に入り込んで,虫が食ったカスといっしょに固まってます。胴体の,ほぼ全周で。
 こ…これを修理するのか……誰が? え,オレ?


 ゆ…ゆ る さ ん!
 これやらかした奴,九族まですべてに,一生お尻からムラサキ色のケムリがぷぅぷぅ出る呪いをかけてやるうううっ!!!ぷすぷすぷす(呪いの粘土人形に,古クギや錆びたピンとささくれさせた竹クギを刺している音)

 うううう……ひっく。(滂沱)

 虫食いのせいでもともと弱ってる部分に,さらにこの仕打ち。こないだ買ったアセトンの残りもぜんぶ使い,かなり手こずりはしましたが,なんとか板をハガし,楽器内部を露出できました。

 虫の食いカスが灰色の綿ぼこりのようになって,楽器のあちこちにヘバりついてます。
 外に出てホコリをはらい,板の周縁と側板の接着面にアセトンを塗り,固まって層になった木瞬を溶かしては削って,少しづつ除去していきます。ハガすとき,薄く板の表面持って行かれたようなとこは,そのままアセトンを塗っても,板がカバーのようになって効果がないので,ペーパーで板の薄片をこそいでから作業をくりかえします。多くの部分で,木瞬が虫の食べカスをからめて硬いパテ状になっているため,虫食い溝の中まで完全に除去できない個所もありました。なんていう作業だ………楽器にすることじゃないよ,こりゃ。

 前も書きましたが,木瞬が残ってますと,部材に厄介な変質が生じたり,ニカワなどを使う本来の修理に支障が出たりします。細かな溝や柔らかなところに滲みこんでしまったぶんはもうしょうがないとして,こちらの修理作業がなんとか可能な状態にするまで,片面だけで三日はかかりました。

 これやらかした奴ら,おまえらもう,
    一生お尻からムラサキ色のケムリをぷぅぷぅ出す
                  ヘンな病気にかかっちまええええええっ!!!





 さて,内部構造はだいたい,棹孔からの観察から予想されたどおりでしたが。
 まず,響き線は渦巻線でしたね。そこまでは予想の範囲内でしたが,この下桁にぶッささってる和釘はなんでしょう? 通常,この手のクギは響き線の固定に使われるものですが,この位置でそれはないですよねえ。
 これに似た構造を,庵主,少し前にほかの楽器で見ています。 首ナシだった47号の内部構造ですね。あちらでは渦巻線が側板から生えてましたが,その線の両がわに,線基部の固定とは関係のないクギが2本刺されていました。(下左画像)

 おそらくこれは 「響き線をカランカラン鳴らすための構造」 だと思われます。

 長崎のほうでは今も,演奏の前後などに月琴を振って響き線を故意に鳴らす,ということをしています。
 まあ外部からはコントロール不能で,べつに鳴って欲しくない時や,ふつうに持ち歩いてるときでも鳴っちゃうものなのではありますが,庵主としては,擬甲の先で胴をつっついてタップ音を出すのと同じく,構造によっては大事な響き線が傷むこともあり(とくに線の長い唐物月琴では!)大してカッコのいいものでもないんで,是非やめてほしい悪習慣です。
 これらはたぶん,向こうの人がこの楽器を教える際に 「ほ~らほら,揺らすと鳴るんだよお。」 とか 「たっりーなもう,はやく弾けよお,てめえら(つんつんたんたん)」 てな感じでやったのを,日本人,マジメなもンですから 「こういう演奏があるんだ!(キラキラ)」 とか思い込んじゃった手合いでしょうねえ。
 月琴の響き線,というものは,材質的にも構造的にも,多くはそういうようなことをする工作になっていませんし,大陸にはそんな演奏ごじゃりません。

 しかしながら,月琴大流行,売れば捌けるの明治の御代,この「響き線」というものが「何のために」入っているのかもちゃんと知らんで分からんで,見様見真似や聞きかじりの知識で作っていた職人さんも,数多くおったものと思われます。
 振ると鳴っちゃうハリガネを 「鳴らすためのハリガネ」 と勘違いしたくらいは,可愛いもンじゃアありませんか。
 この楽器に47号,そしておそらくは工芸家・小野東谷の手作り月琴(39号)にあったフシギ構造や,西久保石村作13号の内部構造も,おそらくは同様の勘違いから生まれたものなのではと,庵主は考えております。

 いやでもね----これハッキリ言って,鳴っちゃうと響き線の効果がかからなくなるから,この手の工作,この楽器としては蛇足,メイワクなだけなんですけどね。(w)


 全面を覆っていたホコリをはらって,あらためて見ますと,内部の作りは比較的丁寧ですね。
 内桁の孔もきちんと四角に貫いてありますし,四方接合部の裏には補強の当て木がガッチリへっついてます。これのおかげで側板にはスキマ一つなかったんでしょう。

 ただこの内桁が……ああ,またユルユルですね。
 あ,はずれた。(遠い目)

 国産月琴では時折このように,内部構造や内桁の接合・接着がかなりおざなりにされていることがあります。ちょっと前に琴華斎の修理の中でも書いたばかりですので,その理由については深く触れませんが,まあ月琴の胴体を「箱」と考えるか「太鼓」と考えるかの違いですね。ギター職人が月琴を作ると,どうしても大きな穴,胴体にブチあけたがるのと似たようなもので,三味線屋さんが月琴を作ると,どうも内桁を板にへっつけたがらないようなんですわ。

 四方の接合部が必要以上にガッチリしてるので,今のところこれがハズれてても,胴体構造に大した影響は出ないようですが,とりあえずここらも要補強ですね。

(つづく)


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